表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case16 _ 奇跡の創造
193/443

第1話「満たされし天使の器よ」






「……それで、なんで?」



「しつこいなぁ!シャミア!お前見た目の美しさに賢さもついてこいや!何回同じ話せなアカンねん!」


サラ、オヤブン、シャミア。ダンがアイデアを現実のものにするための準備を進めている横で話をしていた。


「真を説得するのは失敗や。あいつがどんだけ苦しんだのかをサラは短い時間で追体験したんや。今のお前みたいに何回も何回も、」


「だから、なんで?」


「お、おぉ、お前…ワイの肉球で幸せにしたろか?おぉん?」


「シャミア。何が聞きたいのか教えてください」



「本当に戻ってきてほしいのに、1回聞いて断られたから諦めるの?」



「だからな、シャミア」


「………」


「んお?サラ、どしたんや」


「シャミアはダンを見てます」




もう少しで夜明け。旅館に戻ってからも休むことなく動き続けるダン。今は創造の書を並べて、別の紙に何かをメモしているが…



「男の嘘は、わかりやすい」



「な、なんやて…い、いや?なんのことや」


「オヤブンの反応が…」


「別に嘘なんてついてないやろ?サラもィァムグゥルもワイが話してる内容に変なとこなんて、なぁ?せやろ?」


「ダンも嘘をついてるんですか?」


「ご主人様は嘘をつきません。必要な場合は別ですが」


「にゃが!?急に入ってくんなや!ビックリし…、してへんけどもやな!!」


お茶を運んできたジュリア。真後ろに立たれたこともあってオヤブンは軽く飛び跳ねて驚いてしまった。


「ここまで分かりやすいと、今後敵に情報をバラしてしまう可能性もありますね」


「ジュリア。とりあえずオヤブンが何の嘘をついているのか」



「すぐに帰ってきた理由はもう1つある。違う?」



オヤブンは顎が外れそうなくらい口を大きく開けて反応。シャミアの勘の鋭さに、サラとジュリアが小さく拍手した。



「い、言われへん」


「なんでですか。教えてください」


「無理や」


「では代わりにお話します」


「ジュリア!?あぁそうか、ダンが見たことはジュリアにも…」


サラとシャミアが答えを待つ。お茶のついでに菓子を並べながら、ジュリアはダンから共有されたことを話した。



「柊木様が家の中に戻ろうとドアを開けた時のことです」


「やめたれ…」


「奥の階段のところに人影が」


「あかんて。なぁ」


「パジャマを着た女性でした。とても胸が豊かなのが印象的で」


「もうええやろ、なぁて」


「こちらを強く睨みながら包丁をチラつかせていました」


「うぎゃぁぁぁぁああああ!!」



「オヤブン!?」


「…それは、誰?」



まるで怪談話のクライマックスを聞いたように悲鳴をあげ、サラに飛びつくオヤブン。少しも表情を変えないシャミアは思ったまんまの疑問をぶつける。



「…真が創造した使者や。凪咲の嬢ちゃんの代わりなんか知らんけどな」


「ん。………」


シャミアが考える。目を閉じて答えを求めるその姿に、サラとジュリアは期待を寄せて…




「…このィァムグゥルが思うに、代行と使者の立場が入れ替わったんだと思うよ」


待ちきれずにィァムグゥルが口を挟む。それをチッチッと人差し指を振りながら否定するシャミア。



「辛くて辛くて、本気で辛くて、彼女のことを忘れられないのに別の使者を創造した。それって、逃げたってこと。その彼は、逃げた。でも、逃げたら逃げたで使者が優しくしてくれた…」




「そもそも。サラ、真の記憶を覗いたのならその会話が丸ごと無駄話だと分かるだろう。直接見ていない私でも分かる。真は最悪な状況で偶然手に入った"安心"を大事にしたいだけだ。そして、彼の使者もそれに賛成して戦う力が皆無でもああして威嚇してみせた。もうこの話は終わりだ」



「…ふぅ、助かった」


「ご主人様。準備が終わったのですね」


「さて。ダン。その手に持っている紙が、君が考える方法だね?」



割り込み、さっさと話を変えるダン。全員が注目すると、彼はテーブルの上に紙を置いた。それを全員が見る。



「どれどれ……、ダン。お前長い時間かけて落書きしてたわけちゃうよな?」


「……難しい」



オヤブンとシャミアが理解に苦しむ。そんな中。



「なるほど。面白いね。とっても良い考えだ。…やるじゃないか」



ィァムグゥルが笑う。ダンに拍手をして、ダンが何をしようとしているのかをシャミア達にも伝える。



「"偶然手に入った"、覗きの指輪を使ってシャミアの創造の書に触れる。そうすればミーシャの容姿や性格、話し方…大体の創造の癖が分かる。次に、複数の代行で創造を繋げてミーシャを創造する。これが成功すれば全盛期の彼女を使者として復活させられる。…裏切りも気まぐれもない、従順な仲間の出来上がりというわけだね」


「…都合のいい話、やな」


「代行を創造して使者にする?…それが出来るなら」


「シャミア。もちろん、不可だよ」


食い気味に答える。


「もしそれが可能なら、とっくにこの世界は終わっていただろうね。代行が代行を創造するなんて。そもそも、死んだ者を創造すること自体…タブーなんだからね」


「分からない。ならダンのやり方も上手くいかない。なのになんで」


「ルールが存在するわけじゃないんだけどね。数々の代行が体感して残してきた情報を元に考えれば、出来る出来ないやってはいけない…そういうことはある程度分かるようになる。そして、そんな曖昧な状態でルールの穴を突いたような創造をすることも…ふふ」


「まず私が覗きの指輪を使用し、ミーシャの情報を得る」


「ダンがミーシャの情報を全員に話す。そうすることでダン以外…少なくともサラにとってミーシャは物語の登場人物のような架空の存在になる。子供に読み聞かせる絵本の主人公のような、ね」


「ィァムグゥルの補助を受けてサラがミーシャを創造する。この方法であれば、死者でも代行でもない…ああ、おかしいが…代行ではない代行のミーシャを創造できる」


「代行ではないのに代行の能力を所有している。全くおかしな話だよ。だけど、それ以上にこのィァムグゥルは…ダン。君が面白い。真という代行の重要性を話しておきながら、実はこの覗きの指輪を手に入れることばかり考えていたんだからね」


「…創造どうこうについてはもうええ。なんか回り道してずるいことするってことやろ?それよりもや。ダン、どういうことや」


「真と共に戦えれば。それは真実だ。彼は武装して単独で戦うことも可能だ…戦力として、友として。頼りたい気持ちはあった。ただ」


「ただ?」


「ミーシャを復活させ、仲間にする。方法を考え、思いついた時に」


「最悪、説得に失敗してもいいと思った。その時に…諦めるからせめて覗きの指輪を譲ってくれと頼むつもりだったんだろうね。まあ、彼の方から要らないと押しつけられたわけだけど」


「私達と来てくれた場合でも、協力は頼めた。何にせよ、指輪を手に入れなければミーシャの復活は現状ありえないと…」


「ほーん」


「…私を嫌うか、オヤブン」


「別に。ワイもどっちでもよかったと思ってたんや」


「…そうか」


「ただし。それは真が傷つくのを見てられへんからっていう理由や。そもそもあいつは単独じゃそこまで強くないしやな…体を鍛えてるわけでもない。言っちゃあ悪いけど普通の人間なんや。一緒に戦ったこともあるからこそ、真がもう戦いたくないって言うたらそれでもええって」


「…オヤブン」


「なんや」


「分かっている。今の私は、友情を大切にしていないと。人間として醜くなりつつあると」


「…」


「それでも。優先しなければならない。終の解放者は、六島は放っておけない」


「なあ。気づいとるか、ダン」


「……?」


「今のお前、死亡フラグ立ててるんやで」


「…それは…何だ」


「まあ。有名なのはもっと分かりやすいんやけどな。それはネットで調べとけってことで。そういう後悔の前フリはな、後で死にそうになった時に"あの時こうしておけば…ぐふ"ってなるんや。分かるか?」


「すまない。あまりよく分からないが…気をつけ」





「ご、ご主人さまぁっ!!」





部屋に駆け込んできたのはユキ。しっかり者の彼女が本気で慌てている。何も無いところで転びながら、パニック真っ最中の顔で



「今すぐこれを見てください!絶対、変です!!」



タブレットを差し出した。画面には再生待ちの動画が表示されていた。


「再生します!!」






画面いっぱいの夜空。雲の隙間からいくつか星が見え隠れしている。そして撮影者達の声が入る。


「見て…ほらあれだよあれ」


「ん?」


「いやほら。あそこだけ明るくない?夜だよ?」


「花火…じゃないよね」


「も、もしかしてUFO?」


「だったら小さい点みたいな光が動くんじゃない?あの辺全体が明るいし」


カメラに映り込む手が、異変を指し示す。夜空の一部がやや明るく、


「なんか怖いね」


見ている者に得体の知れない恐怖を与える。


「え、ねえねえ。これ見てるのウチらだけじゃないっぽいよ。ネットでバズってるんだけど」


「やば」


瞬間。爆発が起きたように夜空に光が炸裂し、雲が一斉に動き出して怪しい空に集まっていく。目で見て分かるほど高速化した雲の動き。


「やだやだやだやだキモい!え!」


「雲が動いてる!はやい!」




そしてカメラがブレて、映像は止まった。

見終えたことを確認してユキは



「こんなのどう考えても創造ですよね!?」



ダンに聞く。さすがにこれを違うとは思えず、ダンは黙って頷く。


「でも場所が分からなければ動きたくても動けない。…とはいえ動かないわけにもいかない。今見たものは確かに創造だけど、普通の創造とは規模が違うからね。戦うために行うものではないよ」


「ィァムグゥル。どんなものか想像できるか」


「空に創り出すくらい大きいもの。例えばそれだけ巨大な使者か…天候を操るか…どうなっても、大勢の生命を巻き込む」


「代行の本来の仕事…という意味合いか?」


「そう考えることもできるね。ただ…日本なら津波を起こした方が簡単なんじゃないかな。結局は創造した本人に聞かないと」



「ご主人様、この動画のことが起きたのはついさっきなんです。現在進行形なんです!」



「……ユキ。アイマを起こせ。"探す力"が役に立つはずだ」



「はい!!」







………………………………next…→……







僕を説得しにきた彼らは、あっさり帰っていった。視線も感じなくなったしこれで安心して生活できるだろう。だから、



「芽衣さん。もういいから。大丈夫だから」


「本当に?」


「もう包丁は、ね?僕に渡して。危ないから」



芽衣を安心させなければ。彼女なりに僕を守ろうとしてくれたのだろうが、やはり怖かったのだろう。許されない目的で無理やり包丁を握って、すぐに来れる距離で待機していたなんて。



「…ごめんね。真っちゃんにもしものことがあったら…そう思って」


「大丈夫大丈夫。水飲む?少しテレビでも見る?」


「知花ちゃんにしてるみたいに、頭ポンポンしてほしい…かな」


「あ、あれは知花がしろってうるさいから…でも、それでいいなら」



落ち着かせるのに時間がかかった。もうすぐ朝のニュース番組が始まる頃だ。


芽衣の頭を撫でて、テレビをつけた。小さめの音でも垂れ流しておけば無音より落ち着けると思う。



「もう朝の4時…」


「別に昼頃まで寝てたって平気………」




準備していた朝のニュース。それが大急ぎで別のものに差し替えられる。雲の大移動…一体何が!?という字幕と共に、スマホか何かで撮影された映像が流れて。



「不思議だね」


「……」



空の異変。見れば分かる。創造だ。気圧がどうのと…天気の問題なのではという解説が入るが、大間違いだ。

内容はともかく。創造で間違いない。



「真っちゃん?」


「何ですか?」


「……みんな、死んじゃうの?」


「………そうかも。うん」



知花がするみたいに、僕を抱きしめてきた。芽衣もまた…僕の思考を読むことができる。それが分かったところで、彼女が心配している通りに……きっと、世界は終わる。










………………………to be continued…→…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ