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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case3 _ 1番はだあれ?
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第5話「蛇女」




「滋養強壮…なんか色々入ってるけど…」



違う。配合物や成分表ではなく、マムシに気づいてほしい。



「1本飲み干さなきゃいけないんだって。飲める?多分美味しくはないだろうけど」


本気か。箱から取り出したその小瓶から僕の口に液体を流し込めば、間違いなく死ねる。

飲み込めずに窒息…栄養ドリンクで溺死することになる。


凪咲さんが僕のすぐ隣に来て、小瓶の蓋を開けた。


「ちょっとずつだと長い時間苦しむことになるから、一気に行くよ?」


それは一気に死に近づくことになる。


……!


右手の近くに箱がある。

どうにか箱を示すしかない。


こんな形で伝えることになるとは。

でも、体の自由が奪われた今、これしかない。


弱々しい呼吸の中に、必死に舌を動かして"形"を混ぜる。

"声"にはならないものの、ゆっくりと、ゆっくりと、吐息に言葉が乗る。


て……い。


て……い。



「て…かい」


頼む。


「てんかい」



胸ポケットの中で例の物が蠢く。

ビリビリと服を突き破りノートほどの大きさに鉄のカードが広がる。


「っ!?なに!?真!?」


凪咲さんが咄嗟に離れる。

驚いた勢いで手に持っていた栄養ドリンクを床に落としてしまった。

いや、落としてくれた。助かった。


凪咲さんは今僕に注目している。

目を合わせ、再び栄養ドリンクの箱へと視線を誘導する。


「…ごめん、落とした…」


違う。マムシに気づいてほしい。


「……急いで同じの買って…もしかしたら、他の部屋にもあるかな」


前にテレビで見たやり取りを思い出した。


なぜ男性は女性の気持ちに気づかないのか。

どうして言わなければ分からないのか。


そんな一方的な女性出演者の不満を、男性出演者が女性ごと完全に否定した。

"性別など関係ない。言わなければ分からないのは当然のこと。今俺が何を考えているか分かるか?当ててみろ。当ててみろよ。分からないだろ?教えてやる。ちゃんと言って分からせてやる。だからお前は40超えてもずっと結婚出来ないんだ。"


深夜に放送されたとはいえ、男性出演者は炎上した。

批判的な意見が多かったが、中には賛同する人も少なくなかった。


察してほしいとは思わない。

こんなにも伝えたいのにそれが出来ないこの状況が嫌なのだ。

これに比べれば、勢いで愛してるとだけ言ってしまって気まずかったあの時の雰囲気の方がよっぽどマシだ。



「……待って。真、もしかして…こっち?」


ふと凪咲さんが思いついたように箱に描かれたマムシを指さした。

出来ることなら首がもぎ取れるほど何度も頷きたいところ。

でも、僕が返事をする必要はない。

彼女は確認したはずだ。自分の中で僕の行動を振り返って。


「マムシって…蛇?あ、毒があるんだっ…。真…!」


答えにたどり着いた。


「毒を飲まされた…体が動かないのは毒のせい。麻痺してるんだよね?相当強い麻痺なら、多分苦しくなっても分からない…急がなきゃ…」


近くにあった電話機からフロントへ救急車を呼ぶように伝えると、凪咲さんは僕の体を触り始めた。


「噛まれた?毒はどうやって?キャバクラでお酒に混ぜられたとか?」


そう言って僕の上体を無理やり起こす。


「直接飲まされたとしたら、とりあえず吐かせるしかないよね。…反応してくれるといいけど…ごめんね」


先に謝るということは、大体とんでもないことをする時だ。

吐かせる。腹を殴るつもりか。

…口を開かれ、


「我慢しなくていいから。遠慮なく吐いて」


思いっきり奥まで手を入れてきた。

感触としては効果が薄い。

だが、口に手を突っ込むという行為を目で見て頭で認識すると、面白いくらいに気持ち悪く、一瞬体の中が熱くなった。


ビチャビチャと音を立てるやる気の無いマーライオンが完成した。


「いいよ。その調子。もっと出して」


数秒の感覚で何度も垂れ流す。

自然と涙が出て視界が潤む。


「…うわ、毒ってこれ?」


凪咲さんの手は僕のせいで汚れている。

汚物に塗れた右手には、真っ青な液体が付着していた。

…どう考えてもこれを人間が吐いて正常とはならない。


「少しピリッとする。…真、もう少し吐かせるね」



救急車に乗せられる寸前まで、僕は体の中の液体を吐き出し続けた。





………………………………next…→……







「………」



目が覚めた。

ここは…病室だ。色んなものが白くて、清潔感がある。

他にも人がいる気配がするが、僕のベッドの周りに仕切りのカーテンがあって確認はできない。


…助かった。


右手、左手。動く。

瞬きをして、舌を出してみたり、足の指をパタパタと動かしてみたり。

深く呼吸をして腹を膨らませたりへこませたり。


体が動かせることの喜びを味わう。

………というより、"また"生き延びることが出来たことの喜び、か。


落ち着いてくると、極度の空腹が襲ってきた。

腹が減って気分が悪い。吐き出すものはもう体の中に残っていないだろうに、吐き気がこみ上げてくる。


ナースコールを…と思ったところで、仕切りのカーテンが開いた。



「おはよう」


「…凪咲さん」


カーテンを閉めて、椅子を探すが見つからず、彼女はベッドに腰掛けた。


「大丈夫?」


「はい…でも今はすごくお腹が空いてます」


「そっか。後で買ってくるよ」


優しく笑って、僕の頬を撫でている。


「ごめんね。守るって決めたのに」


「こうしてちゃんと助かってます」


「何があったか、聞かせて。会話は聞いてた。でも何をしてたかは知らないから」


「…リカさんは、多分、使者です。それか、キングレオのように代行自身が戦うタイプかもしれません。彼女の舌は蛇みたいに細長くて先が二股になっていました。キャバクラに行った時に気づけなかったのは若干の薄暗さや内装、雰囲気などが原因でしょうか…」


何かを話そうとする凪咲さんに手を向けて続けて話す。

今はとにかく話がしたくて仕方がない。


「リカさんは、相手を見て自分に有益だと判断すると昨夜のように店の外で会おうと誘っていたんじゃないでしょうか。キスをして、自身の唾液を相手に飲ませることで、飲まされた側は体が麻痺する。その程度は飲ませる唾液の量で変わる。少量なら酔っ払ったようにふらつき、大量なら僕のように体が全く動かせなくなる」


「蛇女…」


「ですね」


「言いなり…とかも言ってた。毒を調節すれば人を操ることも出来るってことだよね」


「毒で酔わせて警戒心をなくしたところで"おねだり"していたんじゃないでしょうか」


「真があの時教えてくれなかったら」


「口で伝えられたらどれだけ楽だったか…でも、最後には凪咲さんが気づいてくれました」


「…そうだ、あの鉄の板は?あれも」


「いえ、あれは僕のです」


「え?」


「…あった。これです」


近くに畳まれて置いてあった僕の服から取り出す。

展開した記憶はあるが、圧縮した記憶はない。いつの間に。


「それ、なに?」


「決意の盾、別名アイアン・カードです。僕専用の物で、僕の考えた大きさにすることが出来ます。例えば、展開」


縦に細長く展開すれば、盾の名を持ちながら武器にもなりうる。

どう使う場合にも、持ち手がないのが少しだけ問題だが。


「次は…展開」


今度は丸く膨らませる。しかし手元はそのまま。

これで不格好なうちわのように。


「圧縮。これで元のカードに戻ります」


「…すごい。それなら持ち運びも簡単だし、相手の意表を突くことも出来る」


「まだ耐久性や広げられる限界が不明なんですけどね」


「でもいつの間に創造してたの?」


「その…洗濯してた時に」


「あ、突然大声出してた時?」


「はい」


「……」


ピクっと凪咲さんの眉が持ち上がった。

その後、軽く唇を噛むと


「ごめん、お腹空いてるんだったよね。すぐ戻るから」


「はい。お願いします」



凪咲さんを待つ間に、スマホを取り出した。

あまり病院内で使用するのはよくないかもしれないが…


マミさんに伝えなければならない。

リカさんは僕が売り上げ金盗難について詳しく聞いた時点で勘づいただろうから。


危険が迫っているからリカさんには会わないように、そしてホテルの部屋から1歩も出ないようにとメッセージを送信。


1分も経たずに返信が届く。

声に出して読み上げる。


「…なんで?これからリカと会うよ。謝りたいことがあるんだって…てかもう来た」


最悪だ。

今度は電話をかける。……出ない。

メッセージの返信速度を考えれば電話にすぐ出ないのは…


「おにぎりとサンドイッチ…チョコレートのお菓子もあったよ」


「凪咲さん!丁度いいところに」


「静かに。病室なんだから」


「…すみません。大変なんです」


「どうしたの?」


「マミさんが電話に出ません。もしかしたらリカさんが」


「え…」


「どうしたら」


「ここから近いし私行ってくる。真はこれ食べてしっかり休んでて」


「でも」


「大丈夫だから」





………………………………next…→……






「あぐ…おごっ…がっあ…ぐ…」




コンコン。ノックの音。


「ちーっす。ルームサービスでーす。ご注文の…いいや、よいしょお!!」


ドアが蹴破られる。

破損したドアの部品が床を転がる。



「ごあっ…ぐ…あぐ…」



「やっば。なんだお前。人間が人間を丸呑みって聞いたことねーんだけど。でも、タイミング悪かったなー。お前そんなんじゃ動けないだろ?」



ホテルの一室。

部屋の中央、床の上に座る女。

顎を外し、口の周りの皮膚を引き伸ばし、腹が妊婦以上に膨らんでも"食事"を続ける。

話しかけられた時点で、頭から食われて腰の辺りまで到達していた。


「気持ちわりー…。それ、生きてる?答えらんないか。困ったなー、生きてたらちょっと。あー。いいや、」




「マミ!……っ…」


そこに凪咲が到着。

彼女の目の前には約3人の人間。

…この場合、人間は1人…かもしれない。



「ん?お前か。よく会うなー俺たち」


ゴキッ。

挨拶混じりに首をへし折る。


「赤髪…!」


「おう。もうそんな呼び方されてんのか」


人間を丸呑みにしようとしていた人間の首が折られた。

ぶっくらと膨らんだ首は途端に青紫色になり、その"中"からも異音がする。


「……マミ!」


「マミ?どっち?」


「早く助けないと!抜いて!」


「ああ!食われてる方!?生きてっかなー。いくぞ?」


赤髪の女がマミとされる方の足を持つ。

凪咲はそれを食らおうとしていた人間の体を持った。


「せーので綱引きみたいに引っ張るぞ?せーのだからな、いっせーのじゃないからな。よし、いくぞ?」


「いいからはやく!!」


「せーの!」


無理矢理に引き抜く。

ズルズルと少しずつ上半身が見えてくるが、途中で止まる。


「ダメだな。引っかかってる」


「そんな…」


「でも生きてるか分かんないだろ」


「…どいて」


「おいおい。双剣かー?こんなとこで?大胆なやつだな…」


(気に入った)



凪咲は中でマミの体が引っかかっていると考え、…"リカであろう"肉体に刃を突き立てる。

最も膨らんでいる腹を切り開く…と。


「っかは!!…はぁ…はぁ…ぁ?」


逆さの向きでマミが顔を出した。


「すげーな…生きてやがったのか。新手の帝王切開みたいで面白いな」


「…は?ここどこ?どうなってんの?」


「マミ。聞いて。今あなたはリカに食べられてた」


「は?は?」


「とにかく助けるから慌てないでね…もう大丈夫だから」


「大丈夫?本気で言ってんの?」


「…なんで」


「腹捌いたのは使者だろ?で、代行は?」


「え?」


「ソ、イ、ツ♡」


赤髪の女はマミを指さした。





………………………to be continued…→…


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