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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case15 _ 心の穴の埋め方
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第9話「サラvs」







破壊、崩壊、爆破、圧縮、巨大化…




超威力の創造の連打。そのどれもが、人間達が恐怖し後世に存在を伝えようとする大災害の類で。

見ていただけのサラは、考えを丸ごと改めた。


ィァムグゥルのレベルが高いのではない。自分達が低すぎた。


これまでの自分達の戦いは、確かに生命のやり取りを伴っていた。しかし今見ているものと比べれば子供の遊びのような生温さがあった。真剣に向き合っていたはずなのに、こんなものを見せられてしまったら、




((READ))



((EXECUTION))




再び創造が激突する。使者や武器を創るのが"おままごと"に思えてしまうような直接攻撃の応酬。



((READ))



「早い…」



空気にヒビ割れが生じて、近くにあった建物がねじ曲がる。道路が波打って、電柱が爆弾に変わる。ガードレールが爆発し散弾のように死を巻き散らせば、どこからともなく大量の海水が出現し10mの高さの津波を引き起こす。


1分もかからず発生した異常に対して、ィァムグゥルは全てに反応しどれを対処するべきか判断する。

何が起こるか…それを知るのは創造した本人のみ。だから、目の前で起きた変化を無視して別の創造の警戒をするという考えは自殺行為に等しい。


「攻撃をして創造を遅らせようか」



まずは飛んでくるガードレールの破片を緑光によるバリアで防御。爆発寸前の電柱をわざと爆発させ、迫る津波と相殺。津波が爆ぜたことによる一時的な海水の雨を自身の創造で操り、無限とも思える数の弾丸にして反撃する。



((READ))



しかし女の代行は防御を行わない。

道路をさらに波打たせ、空気中のヒビ割れを増やす。すると、その場の全てが捻れる。


目の錯覚を疑うような異常は、ィァムグゥルの反撃を全て方向転換させ、真上に…空に向かったかと思えば



「やってくれるね…」



それらが全てィァムグゥルの方向へ。

先の建物がねじ曲がる現象の範囲が拡大した結果こうなった…のであれば道路の変化と空気中のヒビ割れは2つで1つの創造。

答え合わせを瞬時に終えたィァムグゥルは創造を行う。



「特別扱いにより生まれた代行には弱点がある。それは、高みに届いた感情が消え失せてしまうと代行の能力も失ってしまうということ。まあ、これはひとつの例でしかないけどね」



パチン!!



指を鳴らすと女の代行の目の前に見知らぬ男が出現する。



「さっきの口喧嘩の相手だよ。面白い髪型だね。とってもトゲトゲしい」



創造で創り出されたホストの男は、その場で膝から崩れ落ち…



「さあ。謝罪を」



((READ))



「やれやれ。守ってやらなくちゃいけないのか。君が原因だというのに」



((EXECUTION))



ホストの男の頭を直接爆発させようとする代行。空気中にヒビ割れが連続で発生し、それが男の方へと近づく。対してィァムグゥルは女が行った創造の応用で返す。



「空気を叩き割るのが好きみたいだから。こちらも空気に干渉することにしたよ。掛け布団を素早く浮かせて整えるように、割れた空気を波打たせて元通りに…ね。もっと人間らしい創造なら楽でよかったのに」




「俺が…俺が!悪かったぁぁ!!」




そしてついに。創造した男が土下座と共に声を上げる。




「…っ、」




女は静止。つい男の方を見てしまう。すると体から溢れる光が力を無くして消えていく。



「彼女は謝られたことで落ち着きはじめている。彼が普段まともに謝罪をしてこなかったから…効果が大きかったんだろうね。まあ、"創り物"だからこそ謝罪が実現したんだけど」



「…もらった」



((EXECUTION))




隙を狙った一撃。何かが直撃した女は体をくの字に折り曲げ、軽く後方へ吹っ飛び仰向けに倒れる。口を開け、泡を吹き、全身から水分が抜けていく。



「このィァムグゥルが生きていた頃は、生命は水のようなものだと考えていた者がいた。大量の血を失うと死んでしまうように、体から"生命の水"が抜けていくことでも死に至るのだと…この創造はその者の考えを実現したもの。その者の名前ももらって、創造の名は【ヴィリジウテ】と呼んだ。形はどうあれ、触れずに死を与えるだけの創造だよ。現代の代行達に比べたらどうしようもなくつまらない…」




代行が死を迎えると、破壊された物を除いて全てが元に戻る。



「さて。現代にはどこにでも目がある。監視カメラとやらに怪しまれないようにすぐに立ち去ろうか」


死体を放置し歩き出すィァムグゥル。サラは止めようとするが


「あれに関わっているとなれば君は自由を失うよ。まだ、誰が死んだのか調べることができるだけいいと思うけどね…」


そう言い残したィァムグゥルは今度こそ場を離れた。









………………………………next…→……







「…こっち…ん、あっち?」




サラにとって、基本的に地名は無いものとしている。道や行き方を知っているかどうか…それだけが大事で。

今は美味しそうな匂いに釣られて歩いている。その目的地まではあと少しのはずなのに。



「んー…」



サラはとにかく空腹だった。恐らく戦闘による影響なのだと考えているが、それだけが理由ではない。

安心したいのだ。美味しいものを食べてホッとするあの瞬間を求めている。現実的に見れば"1人"になってしまった彼女を精神的に癒せるのは、食事だけなのだ。



「あ、あそこです!」



細い道に入って、路地裏へ。そこからさらに深くへ迷い込んでようやく見つけた美味しそうな匂いの源。



「たこ焼き…タコ太郎、タコ次郎、タコ三郎…?」


「へい!らっしゃぁい!」


「…あ、あの」


「お。日本来たばかりかな?たこ焼き。知ってる?」


「はい…」


「お姉さん!ヨダレ!出ちゃってるよ!お腹すいてんのかな?うちのたこ焼きがそんなに美味そうに見えてるなら、男見せないとなぁ。よし、サービスだ!これ持ってきな!お金要らないから!」


「え。いいんですか?」


「いいのいいの!そっちの方歩いてくとベンチあるから。そこで座って食べてな。まいど!」


「ありがとうございます…!!」



看板を見れば10個入り500円。サラがもらったものは12個入り。店主の男前な優しさにとびきりの笑顔で返したサラは。匂いを嗅ぎながら歩き、歩きながら匂いを嗅ぐ。早く食べたくて仕方ないのに移動でモタつく。



「あ。ベンチ。あった…!!」



2人で座れるベンチの左半分に座り、右側にたこ焼きを置いて展開する。ぶわっと広がる匂いに目を見開いて、サラは



「絶対美味しい。もう、美味しい」



少し気が狂いかけていた。さっそく付属の竹串を手に取り、たこ焼きのひとつに突き刺す。



「おぉ…っ!!」



ごくり。喉を鳴らして。



「いただきま…」「ミャ"ー」



食べようとしたその時。

茶トラの猫がやってきて、鳴いた。



「……」「ミャ"ー」



サラは別に猫の言葉が分かるわけではない。それでも、この状況を考えれば何を言いたいのかは十分に分かって。



「ぁ…でも猫にたこ焼きって食べさせて…」「ミャー」


「上のかつお節だけ…」



これがオヤブン相手なら、そのまま差し出したのに。そう考えて少し寂しい気持ちになりつつ、サラは熱々のたこ焼きの上で踊っているかつお節だけを取り、それを猫に与えた。



「ミャ、ミャ、………」


「わたしもいただきます。…わふっ!?」



熱さに驚く。ふーふーするのを忘れていた!と後悔しつつ、火傷覚悟で咀嚼を続ける。はふはふと口から熱を逃がしながら、どうにかその美味さを堪能して。



「くはっ…お、おいひい…」



そして足下でかつお節を食べている猫を見て、自分と同じくらい食欲があると感じ。



「かつお節、全部あげます。はいどうぞ」


「ミャ"ー」


「ふぅ。………」



がっつく姿を見て、ふと手が止まる。



「猫さん猫さん。黒くて強い猫を知りませんか?名前はオヤブンって言います」


「………」



無視。当たり前ではあるのだが。



「んん。ん、ん。サラ。こういう時こそ、このィァムグゥルの力で」


軽い咳払いをして表に出てきたィァムグゥルは指を鳴らした。光を伴わない創造。そしてその内容は聞くまでもない。


「それでも本来は異語だから共存が出来ているということを忘れないようにね。全ての生き物が同じ言葉を扱ってしまえば、それこそこの世界は壊れてしまうよ」


「……はい。ありがとう。ィァムグゥル。………猫さん、オヤブンって猫を知りませんか?」


サラは自信を持って話しかける。それが通じるのは分かっているから。




「んおお、クソうめえ。ジジイになったらこれ食って死にてえ。ああ、どんだけうめえんだよこれ」



「………」



「この人間、山盛りくれたぞ。ああたまんねえ。なにこれどうなってんの。うめえ。うめえんだよマジで。死ぬ。うめえから死ぬ」



「……」



「あ?何見てんのお前。あ、またくれんのか!?まだくれんのか!?このクソうめえやつ!?いいぞ!くれ!」



「ィァムグゥル。思ったのと違います。とっても違います」



「なあ!くれよ人間!このうめえやつ!!クソ食いてえ!頼むよ!いや頼まねえ!お前がくれたんだからお前が寄越せ!な!?こっちは美味そうなもん食ってんなって言っただけなんだから!そしたらいきなり寄越したんだから!な!?くれ!くれえええ!」



知らない人からしたらどう聞こえているのだろう。やたら猫にニャーニャー鳴かれているだけなのだろうか。

そして、ィァムグゥルがサラの勘違いを訂正する。


この創造は、猫が何を考えているのか聞こえるようになるだけ…ということだ。



「さっきの言い方だと会話できるようになるって思ってしまいます…!!」



「なあくれよおお!生まれて初めてあんなクソ食ったよ!うめえクソくれよ!」



「それに、言葉が変っていうか…」



「ああ…これじゃまた痩せちゃうじゃねえか。また何日も食えなくなる…」



「…猫さん?」



「前は優しいシワくちゃの人間が食い物くれたのに…」



「……」



「ん、はっ!!こ、この臭い!やべえええ!!」



「猫さ、う…わ」




何事か。猫がふと左の方を向いたので同じように見てみれば。4匹の猫がダッシュで向かってくる。




「おいゴラァ!!」

「なにしとんじゃお"お"!?」

「ここが誰のナワバリか分かっとんのか」

「ワレェ!!!」



可愛さは皆無。それは容姿にも反映されていて。



「どの猫も傷だらけ…あ!」



そして茶トラの猫は一瞬で囲まれる。



「ゴラァ…」

「なんのつもりじゃ」

「人間がくれたもんは」

「誰のモンじゃあ"あ"?」



「ひぃぃっ!!サーセンしたあああああ!!」




「………」


猫にこんな世界観があったなんて。

サラは開いた口が塞がらない。




「こ、この人間が!たまたま通りかかったら呼び止められてええ!!向こうから渡されて!!それで、」



「それでえ!」

「な"ん"や"な"ん"や"っ」

「そしたらすぐに持ってきたらいいんと」

「ちゃうんかゴラァ」




「………なんや、ちゃうんか…?」



偶然か。それとも、都合良く脳内変換されてそう聞こえているのか。




「おう人間」

「お前そこにある食い物」

「全部寄越せやゴラァ」

「あ"あ"ぁん!?」



「…話しかけられて、る?」


なんとなく。竹串でたこ焼きを1個持ち上げてみると…



「オラァ寄越せええ!」

「そんな美味そうな匂いさせよってお"お"お"お"ん!?」

「あかん…ヨダレ垂れそうや」

「まだ大量にある。おこぼれもある!あるぞ!!」



「ィァムグゥル。どうしても会話できるようにはしてくれませんか?……だめ?……ふぅ」



1歩ずつジリジリと距離を詰めてくる4匹の猫達。ベンチに置かれたたこ焼きが狙われているのは分かっている。なのでサラは



「食べ物の恨みは恐ろしいんですよ?……秘技!猫舌封印!!」



独自に編み出したらしい技?を使用する。その内容とは。



「あむっ!あむあむあむ!はむっ!うまぁう…」



「うわあああ」

「この人間!!」

「全部食いやがったああ」

「あ"あ"あ"あ"ぁん!?」



熱々のたこ焼きを全て口の中へ。熱と物量のせいでまともに咀嚼出来ないはずだが、サラはそれを可能にする。

猫達に咀嚼する口元を見せつけて挑発。そして



「ああ美味しい。美味しいなぁたこ焼きぃ…んもんもんも」


あっという間に口の中のものを飲み込んでいく。



「んな馬鹿なぁ"ぁ"…」


1匹が耐えられずひっくり返る。仰向けでピクピクと痙攣するのを見た仲間の猫達は。


「ちきしょう!コブン!!」

「アニキ!どうする!」

「シャテイ!パシリ!戻るぞゴラァ」



「お、追い返した…!!人間が、助けた…!?」


「ふぅ。ごちそうさまでした」




猫達が逃げていく。倒れた猫も首を咥えられて引きずられていく。

彼らが見えなくなるまで見送った茶トラの猫とサラ。両者はふと目を合わせて。




「…人間。ありがとな」


「どういたしまして」



この時ばかりは通じた。とサラは思った。



「ついてくるか?家族に紹介したい。あのクソうめえのもほしい」


「……いいですよ」



サラは茶トラの猫に手を伸ばす。軽く撫でさせてもらってから、素早く抱き上げて。



「うおっ、おお……お…あ。楽」



サラは茶トラの猫と共に行動することにした。


「名前は…トラさんで」


「え、なんか言った?」











………………………to be continued…→…



僕あた豆知識。

サラが編み出した"食技"は全部で5つ。

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