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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case15 _ 心の穴の埋め方
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第7話「強さを求めている」







「出てこい。ィァムグゥル」




目を覚ますサラ。気づかない内に眠っていたらしい。布団に寝かされ、すぐ隣では正座しているシャミアが覗き込んでいる。


少し距離を置いて立っているダンとジュリア。それは警戒の証で。

ダンと数秒目を合わせてから、ィァムグゥルは口を開いた。



「真っ先にこのィァムグゥルを呼ぶのだから、相当大変だったようだね」


「サラに何が起きたのか分かるか?」


「まず、サラが何をしようとしたのか…を聞きたいね」


「言うほどのことではない。力任せに暴れただけだ。ただ…目の充血と、両手両足の爪の内側の出血、それと鼻血…他にも体の異常が多く確認できた。"再構築"で取り除けたようだが…」


「そうか…。手がかりがあるとしたら、夜の出来事だろうね」


「シャミアから少し聞いた」


「面白い使者と代行に会ってね。カメレオンの使者だったよ。とはいってもサラの記憶にあるのと比べてとても大きかったし、髪の毛も生えていた。…そうだね。言ってみれば人の大きさ、くらいかな」


「……」


「長い舌はとても強力な武器になっていたよ。直撃していれば死んでもおかしくなかった。ダン、君は使者には興味がないようだね」


「多くの代行にとって使者は殺しの道具でしかない。私達のようにパートナーとして扱うのは稀だ」


「よく分かっているね。……代行は顔を隠していたよ。大きな体に似合わない女の子の顔だった。あにめ?とかいうものが参考になるんじゃないかな」


「……他に特徴は」


「容姿かい?気にしてももうこの世にはいないさ。あれは血管を伸ばして攻撃した。使者だけでなく自身も戦えるように創造したんだね。とても欲張りだ。でも、何かを伸ばして攻撃するという決まり事があったおかげで器に見合うだけの創造が可能になった」


「……」


「分かっているとも。その代行を殺す時に頭を破裂させたんだけど、大量に血を浴びてしまったんだ。サラに何か影響を与えることがあったとしたら、その血だろうね」


「…汚れた服は洗わずに保管してある」


「おお…賢いね。まあ…サラはあの服が気に入っていたから使い物にならなくなるのは少し困るところだけど」


「ジュリア」


「はい。同じものを探して購入しておきます」


「ああ!そうだ」


「まだあるのか」


「ダルダ」


「……」


「前に君達の資料を少し見てしまったんだ。ほら、」


「"あの日"か」


「確か資料の中にダルダという単語があったはずだよね?」


「名前だ。終の解放者の…幹部クラスだ」


「昨日殺したのはそのダルダだよ。自分でそう言ったからね。ダルダの使者を殺したから許さないと」


「頭を破裂させた程度では終わらない」


「……そうか。現代の代行は面白いね。個人の能力を上回る創造を容易に行うなんて」


「ダルダか。目撃例は少ない…。使者は人の大きさだと言ったな。それは人間を使者に変えたからだ。終の解放者は精神的に弱っている人間を狙っている」


「ふうん?それまたどうして」


「全て話さなければならないほど、お前は考えが回らないわけではないだろう」


「そうだね。君達は、彼らを必死に探しては殺しているんだ。そして彼らは邪魔されないように兵を創造している。なかなか終わらない戦いで苦労しているんじゃないかな?」


「……」


「サラがそうしたいと言うのなら、このィァムグゥルも力を貸すよ。殺すだけなら簡単だからね」


「私達にはお前の創造が分からない」


「知る必要があるのかな」


「力の扱い方を誤るわけにはいかない」


「……驚いた。そうだよ。ダン。創造は正しく使われなければ。殺し合いのために神が寄越したものじゃないんだからね。完全でなくても、創造神の考えを理解しているわけだ。その言葉が聞けて嬉しいよ」


「っ、」



サラの体は少しも動いていない。しかし、空中に彼女の創造の書が出現し今にも光を生み出そうとしている。あまりにも突然で早すぎる展開にダン達は何も出来ない。



「ダン。君は使者を強くする術を知っているみたいだけど、代行自身も強くなれることを知っているかな?」


「…何を」


「例えば。創造の書に触れずとも創造を行う。例えば。今やってみせたように創造の書を自由に出現させる。例えば…後ろ」


「っ!!」「ふっ」


ダンが反応するのと同時にジュリアが彼の背後を守る。そこに立っていたのは


「…これは?」


「幻だよ。分身ではなくて、ただの幻」



大鎌を構えたサラがそこにいた。しかし、動く気配はない。



「分かるかい?創造は殺し合いの道具じゃない。生命の数を管理するためのものなんだ。時には何かにとっての天敵を見せて追い込む必要もある。危険を知った生物は生存するために必死になるんだ。昔はそれで絶滅種を救ったりもしたよ。それとは別に、時を選ばず悪は生まれる。ほとんどは創造でどうにでもなるんだけど、相手が代行となると話は難しくなる」


サラの幻が形を変える。膝まで伸びた黒の長髪、胸元まで伸びた髭、黄金と呼べる明るい目、長身で体に肉はあまり付いていない…やせ細った、やけに優しい顔をした男。


「これは死ぬ1週間前のィァムグゥルの姿だ」


「く……」


「ご主人様」


「ああ。ただの幻…」


「幻だよ。でも君達は恐れている。それだけその姿に対して感じるものがあるということだ」


「……」


「創造の力は限界がない。人が勝手に限界を作ってしまうんだよ…それを取り払った時…人間は神に近づく」


「神だと?」


「そう信じられていたよ。生きていた頃はね」


「……神か。全てを生み出し、生命を管理するなら…そう思ってもおかしくない」


「ダン」


「何だ」


「生きることを恐れなさい。自分という存在に恐怖しなさい。もう君は生きるべき存在ではなくなったんだよ。創造の力を持ったその瞬間からね。自分を大切にしてはいけない。代わりに、何を大切にするか…それが分かったら君も…このィァムグゥルに近づくよ。必要なんだろう?力が。ジュリアを見れば分かるよ。君達は異常なまでに強さを求めている」


「ィァムグゥル。お前はどこまで見えている?」


「さて、何の話かな?」


「…ふ」


「サラの体のことは感謝するよ」


「お前の創造によるサラへの負担は」


「少しも。1度の創造で失うものは、買い物で使う1円玉のような軽いものだよ。無に等しい」


「…ジュリア。行くぞ」


「はい。ご主人様」





「彼らはとても好みだ」









………………………………next…→……







「あらぁ…いらっしゃい。あなたも、あなたも。いらっしゃい。そう。こっちよ…」



半里台総合病院。


病院の前にはバスが停まっていた。中からは大量の人間が降りてくる。


「これで9往復。先生の患者さんがいっぱい来てくれたわねぇ。元住人。その血を継ぐ人間。素質のある人間。うふふふふ…皆、とてもいい顔してるじゃなあい…!」



影が人々を案内する。病院の入り口で1人1人の手首に"タグ"を付けて。



「ほら、オガル。先生の大切な患者さんなんだから」


「……チッ」



看護師の格好をしたオガル。"患者"の手首にタグを巻き付けるのが面倒な様子。


「すっかり戦闘特化になったあなたには拷問かしら?」


「フリーカ。お前も殺してあげる。オガルちゃん、その気になればこいつら全員殺したって構わないんだから」


「うふふふ。頼もしいわねぇ。蘇生の要らないあなたって、どうすれば滅ぶのかしら」




「これで全てだ」




バスから最後に降りてきた男。彼を見たフリーカは影の肉体を折り曲げて忠誠を示す。


六島悠悟。終の解放者の代表である彼は、今。




「先生。全部で300人近いわ。半分以上が血の者。部外者からの信頼はどうなのかしら」


「問題ない。高齢者を集めておけ。すぐに始める」


「あら、急ぐのね…」


「"死魂"が変化を知らせた。恐らく赤髪が姿を見せなくなったのと関係がある」


「分かったわ。ねえ先生。オガルがイライラしているの。もし良かったら彼女に任せてみない?あの2人のこと」


「代行ダンとその使者ジュリアか」


「あの子達、とっても強いけどそのせいで"解放者"を大勢殺してしまったの。超常の書は無限に創れるけれど、適合者は無限じゃないわ」


「…好きにしろ。オガルなら問題ないだろう。…だが」


「ん?」


「行かせる前にもっと刺激しろ。今のオガルには怒りがよく似合う」


「ええ、そうね。任せて」




フリーカとの会話を終え、病院の中へと向かう六島。入り口でオガルとすれ違う瞬間、



「………」


「ふ」



オガルに向けられた強烈な敵意。それに微笑んで応えると、



グゥッ。



オガルから黒い液体が溢れ、一瞬で六島の腕を掴んで固まる。



「全部、壊したい」


「お前は強くなった。だが…"永遠"に従ってもらう。少なくとも、この力の差が無くなるまでは」


「あ?………は」



簡単に六島の体を壊せる。そう脅したオガルだったが、かなり遅れて気づく。



「なにこれ」



自身の体に浮かび上がるいくつもの顔。手のひら、手の甲、指先、手首、腕…首…ならば、布で隠れて見えない所も。

浮かぶ顔はどれも苦しそうに、恨めしそうに、口をパクパクさせ、皮膚を侵食して。



「フリーカの指示に従え」



驚き汗をかくオガルを見て、六島はそう言い残す。彼が離れていくと浮かんだ顔達は薄くなっていき、自然消滅した。被害はないように思えたが



「うう?…っぐろぉぉろぉぉ…!!!」


オガルは下を向いて盛大に吐き出した。真っ赤なオガルの血。真っ黒なオガルの血。どちらも大切な彼女の生命力そのもの。地面に落ちたそれは意思を持ち、オガルの体へと戻ろうとする…が、


「あぁ、だめ…受け付けない!?」


オガルの創造を、オガル自身が拒否してしまう。



振り返り、六島がさらに強くなったと考えたオガル。この件の復讐は必ず。そう心に誓う。




「勘違いしちゃだめよ。先生はずっと前からあれなの」


そこにフリーカがやってくる。


「強くなるのはこれからよ。もうすぐ。もうすぐで、世界は変わるの」


「……」


「分かったらあなたも先生に協力しなさい。じゃないとあなたの生命、"死者"に食べられちゃうわよ?…うふふふ」









………………………………next…→……







「いただきます…っ!!」



旅館。体が回復し元気になったサラは空腹を満たすことにした。



ひたすらに白飯を口に入れ、数回甘く咀嚼してから熱い味噌汁で流し込む。漬け物は1度で全て口に含み、メインのとんかつはソースを大量にかけてから次々に口へと放り込む。



「……んぐっ、う。…シャミア」


「なに?」


「オヤブンが見つかりません」


「…言われても困る」


「ダン達は」


「あなたを治して出て行った」


「わたしは、どうするべきですか?」


「…それも、言われて困る」


「ィァムグゥルは言ってます。代行を知るといいって」


「そう…」



シャミアは刺繍の真っ最中だった。ふかふかの新品のタオルには、だいぶ可愛らしくデフォルメされた女の子の顔。今は顔のすぐ下にローマ字でユキと入れている途中。



「なんですか?それ」


「従業員の私物が無くなることがあるからって。こうして個人のものだと分かる目印があれば、盗まれてもすぐ分かる」


「…シャミア」


「うん」


「Yukeになってます。それだとユキじゃなくてユケに」


「……なら話しかけないで。間違えたのは集中を邪魔するから」


「あ、ごめんなさい」


「……今のサラには、ィァムグゥルが付いてる。あなたはとても強いから…欲張ってみたらいいと思う」


「え?」


「オヤブンのこと、大切な友達のこと、他にも思いつくこと全部。全部やってみたらいいと思う。きっと、物事は繋がっていつか全部解決できるから」


「……ありがとうございます」


「ふぅ。…あと、ィァムグゥルに伝えて。戦うならなるべく無傷でって。ダン達もそこまで暇じゃないから」


「分かりました。よく言っておきます…わたしも気をつけます」


「行ってらっしゃい」


「はい!行ってきます…の前に、ごちそうさまでした!よし、行ってきます!!」



部屋を飛び出すサラ。…しかし、数秒後。



「シャミア!!」




「っ!?もう!!」



戻ってきていきなり大声を出され、手元が狂う。シャミアは苛立ちながらサラの方へと目を向ける。



「シャミア。ミーシャのことも、わたしに任せてください!」


「…早く行って」



今度こそサラが出て行く。深いため息をついて、シャミアは作業を再開しようとタオルを見ると…



「あ、」



頑張って可愛く描いたユキの顔のど真ん中に名前を描くための糸が。



「…サ、サラ…!!」



今度こそ本当に怒ったシャミア。彼女は静かになり、サラが楽しみにしている"おやつ"を食べ始めた。












………………………to be continued…→…



僕あた豆知識。

終の解放者のメンバー、オガルの大好物はおでん。しかし強化後の彼女は食事が不要になった。残念。

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