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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case15 _ 心の穴の埋め方
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第4話「だめですか?」






「……真さん?」


「は、話せる…声が戻って…」


「ほへぇ」


「え?」


自分に驚くのに忙しい。なのに目の前にいる彼女は顔がとろけている。こういう顔は気持ちいい温泉に入った時や相当美味しいものを食べた時でなければ…なぜ今?


「なんか、ホッとする…」


「……」


「はっ。お話の途中でしたね!?…なんでしたっけ?」


「……僕が君を創造した理由。それと、理由を知っても全く嫌がらない君」


「そうでしたそうでした!んぅ、でも!胸のとこがキュンキュンするような…」


「だからそれはありえない」


「そんなことないですって」


「…なら、今すぐ着ているものを全部脱げと言われたら?裸になって何でも言う通りにしろと命令されたら?元々そのつもりで創造したのだから。……」


「はっ恥ずかしいですっ!た、ただ…」


「は?」


「きょ、きょ、拒否は…しない…かも」


顔を赤くしてまた人差し指を突き合わせている。若干手が震えているようで、時々空振りして…いや、そうじゃなくて。


「……」


「じゃ…ぁの…ぬ、脱ぎます!!」


なぜか覚悟を決めて立ち上がろうとする。これは手を掴んで無理やり止めた。

頭の中では"なぜ?"が大量生産されている。使者としての自覚の早さだとかレベル2への到達の早さだとか。創造された理由に対して悪く思わないどころか従う気ですらいて。この人が、分からない。



「一旦。何もせずここに座って待ってて…と言ったら」


「はい!待ちます!」


「……」



テレビのリモコンを黙って渡し、彼女から離れる。寝室に戻りウロウロしながら…考え、考えて、思いついた。





買ってこよう。この子が出てくる作品を。








………………………………next…→……








生まれたて?…の使者に留守番をさせるのはなんとなく不安だったが。




「ふぅ…」



「あ、おかえりなさい!」


「ニャア」



留守にしている間にソープと仲良くなっていた。膝の上に乗せて背中を撫でて、時々頭を撫でて耳にも触れる。多少図々しい触り方をしてもソープは全く嫌がらない。



「可愛いですね、この猫ちゃん」


「…ソープです。名前は」


「ソープ?…確かにちょっとせっけんの匂いがするような…そっかぁ、ソープちゃんって名前なんだねー、よしよし…」


「ニャ」



さっきと同じように向かい合って座り、買ってきた漫画を袋から取り出した。



「漫画ですか?青春パンツとパンチラり…陸上部っぽい格好の子と制服着た子が表紙で」


「その青春パンツは君が高校生の頃の話。パンチラりはその後の話」


「え。あたし?」



青春パンツは全10巻。パンチラりはまだ2巻までしか出ていない。

それぞれの表紙には主要なキャラクターが描かれている。登場回数が多いのはもちろん、主人公の知花だ。



「……」


青春パンツ、第1巻。手に取り読んでみる…





17歳の主人公。部屋にはトロフィーや表彰状が大量に飾られていて、この日も日課の早朝ランニングに出かけるところだった。朝の5時。早起きのお婆ちゃんに挨拶をしていつも通りに元気に家を飛び出す。自分で考えた1周8kmのランニングコースを走る…整った道やそうでない道、上り下りの坂、カーブのきつい道…どんな道に対しても一定の速度をキープして…半分を超えたその時だった。彼女の後方から迫るのは、飲酒運転をする大学生の若者達。朝まで飲んだ帰りに、ランニング中の知花を見つけた彼らは…"つい"、彼女にぶつかってしまった。

大事な足を大怪我した知花は、数ヶ月後に元気な顔で再び学校へ通うようになるが、部活には顔を出さなくなる。事故にあったということは誰もが知っていたが、完治したとも聞いていたので友人達は知花が


「あの」


「…?」


「気になるのであたしこっち読んでもいいですか!」


「どうぞ」


「ありがとうございますっ。…」



走らなくなったのを不思議に思う。それから、知花は少しずつ異変を露わにした。体育の授業は見学が多くなり激しい運動をしなくなった。以前より勉強を頑張るようになった。以前と違って、コケやすくなった。

何より目立つのが、コケやすくなった点。何も無い廊下で派手に転んでしまったり、階段では手すりを掴んで一段ずつゆっくりでなければ足を引っ掛けてしまう。教室でもそれは同じで、派手に転んではスカートがめくれて下着が見えてしまうという描写が多い…が、周りはそれを"ドジっ子"な一面だと笑って受け取る。

そんな中、親友の美由紀が知花を怪しむようになり…




なるほど。事故の後遺症で走れなくなったのか。…なら本人の明るい性格や態度は、嘘かもしれない。辛く見えないように頑張っているのかもしれない。



「…知花、」


「あ、はい!」


「本当は」


「辛くないです」


「……」


僕が漫画を読んだから即答できたのか?


「いいえ。考えてることが分かります。なんでかは…分からないんですけどね?…辛くなかったです。当時も今も。怖かったのはありますよ?皆が前と接し方を変えてきたらどうしようって。大事な青春の半分。ずっと気を使われて過ごすのは嫌だなって。笑って泣いて怒って、楽しく過ごして思い出にしたかったので!」


「…」


「あ。真さんが気になってる事は多分あたしが読んでる方で分かるかもしれませんよ?はい、どうぞ」


「……」


まだ1巻も読み終えていないのにすぐに続編に手を出すのは…スッキリしない。でも、彼女は分かっている。ならば読もう。





高校を卒業した後の話。

中高の実績のせいで大学生になっても有名な知花は陸上関係で引っ張りだこ。走れなくなったことを知らないせいで、やんわりと誘いを断る知花にキツく当たる者もいた。そんな彼女を周りから守ってみせたのが、幸太。コウと呼ばれる彼はずっと前から知花のファンだった。



「…事情を知る前と後で関係が変わったりして、」


「でも結ばれることはなかったり…てへ」


「……2巻でもそこまでは描かれていない…」


「すいません。ネタバレでしたね!でも、あたしが惚れっぽいっていうのは否定できましたよね!」


「…」


「そういう性癖とかでもないですからね!?」


「じゃあどうして」


「え」


「なんで少しも嫌がらない!?僕がどんな理由で君を創造したのか分かって、なんで!」


「うーん」


「醜いと、思わないのは!?怖いと、思わないのは!?」


「…んー、」


「……なぜ…、」


「考えてみました。でも分からないものは分かりません」


「はぁ…?」


「どうしても理由が必要なら、真さんだから…っていうのはどうですか?」


「そんなのじゃ理由に」


「一目惚れって、実在するんですよ?」


「だからって」


「あたしが言うのは変ですけど、違う世界に召喚されていきなりチューしちゃうって、漫画っぽくて良いですよね。そんなラブストーリーもあっていいのかなって」


「…お、おかしい」


「怖がって逃げ出すのが当たり前って考え方を否定するつもりはないですけど、それにこだわるのは違うと思いますよ?こうしてあたしがここにいるんですし」


「……」


「…ごめんなさい」


「……」


「あなたが望むことは、出来ません」


「…っ」


「嫌われて、怖がられて、ひとりぼっちになりたいって。そんな悲しいこと望まれても、あたしは協力できません」


「…そんなぁっ、」


「あなたがどうなりたいかを知っているから、ではないです。あたしが最初からあなたを良く思っているからなんです」


「………」


「だめですか?」


「…」




「最初から好きじゃ、だめですか?」




「っ、っ、…ぅうう、」




よく分からない。よく分からないが、負けた。それなりに隠せていたはずのものも知られて、計画を潰された。




「真さん…泣き顔、可愛い」



「や、やめ…いやだ、いやだ!」



「抱きしめさせてください」



「ぼくは!!ぼくはぁっ、」



「あったかい…いいんですよ。顔を擦りつけても。涙や鼻水で汚してくれても構いません」



「ひとりにぃっ!!し、し、」



「よしよーし…」



「しにたいっ!!いますぐ!!しにたいっ…しにたぃのにぃ…」



「ふー…少しずつ落ち着いてきました?」



「…なんで…しっぱい…」



「大失敗ですね。あたし、真さんのこと嫌いになれそうにありません」



「ぃやだ…きらって…どなって…ころして…にげて…」



「いーやーでーすっ。このままずっと抱きしめちゃいます」






時間の流れが、分からない。

早くて、遅い。永遠で一瞬。









つけっぱなしだったテレビが夜を賑やかにする。場を盛り上げる芸人達とたくさんの笑い声。椅子に座ったまま抱かれっぱなしの僕と、立ったまま抱きしめっぱなしの彼女。



ふと、




ぎゅるるるるるるるる…!!




「あ。…すみません、あたし朝から何も食べてなくて」



「ふ…ふふ…」



「ん?今笑いました?お腹くすぐったい…あはは、」



「ふふっ、ふふふ…」



「真さん」



「…」



「…今日から。よろしくお願いします」





……………黙って、頷いた。
















………………………………next…→……







カァー!カァー!アァッ!





深夜。カラスの鳴き声。



「凪咲。こっち」


「……」



暗闇の中、歩く2人。その先には特別なカーテンで覆われた大きなテント。中からは僅かに光が溢れていて。赤青黄…様々な色の光が点滅を繰り返し、中で何かを巻き起こしている。



「創造。結子が終わるまで、守る」


「……」


「終わったら、ナギ、ヒカリ、皆に会える」


「…」




そこに、別の光が現れた。




「おお?ここで正解みたいだな。よくやった」


「ウオオオウ…!」




懐中電灯を持った男と、半獣の化け物。鼻が利くらしい化け物は鋭い爪で地面を抉り男からの指示を待っている。



「創造の書、いただきだな。よーし、」


((READ))



創造。化け物の体を守る鎧が創られ、攻守共に仕上がった化け物が吠える。



「行け!殺せ殺せえ!!」





「…凪咲」


「っ………」




「キャウウン!!」




犬のように鳴いて打ち上げられる化け物。空中で暴れるその体は、下から伸びる金属に貫かれて。




「な、なにぃ!?」



即死。続けて男の足を



「くそっ!暗くて見えてなかったってのか!!まずい!!これは…き、金!?」


黄金が固める。慌てて男は創造の書を開き



「考えろ、考えろ…よし!」


((READ))



「ギャオオオウ!!」



再び同じ化け物を創造する…が、すぐに化け物の体が発火する。



「味方に都合の悪い創造物を燃やす力を持ってる!これなら」「無駄」


「…あ、が、」


「凪咲の魔法。創造じゃない。無駄」



男は首に違和感を覚え、実際に手で触れる。体温とは別の生温いものが流れるのを感じて、指に触れた。


「…?」


首に触れていて、指に触れた。喉仏があるくらいの位置で、指に触れた。固くて柔らかい、冷たい指に、触れた。



「死ん…」


自覚した瞬間、男の首が千切れた。頭の重さに耐えられなくなって地面に落ちてしまった。



直後、生まれたばかりの化け物は虹色の獄炎により存在ごと焼き消され…残ったのは男の創造の書のみとなった。




「結子」


創造の書を拾った桃髪の使者がテントの前にそれを置く…と。



「おー、やるじゃん。血が一滴もついてない。状態良いねぇ」



中から聞き慣れた声がして、テントの外に水色の蛇が出てくる。

蛇は創造の書に頭を押しつけて噛みつく…と、蛇は長い"手"に変わった。



「サンキューなー」



創造の書を手にしたそれはテントの中へゆるゆると戻っていく。



「へへっ。順調順調!」












………………………to be continued…→…


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