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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case3 _ 1番はだあれ?
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第4話「気持ちいいこと」




頭の中が真っ白だ。

雲の上にふわふわ浮かんで、思考が停止して、たった今刻まれた感触に心を奪われている。

柔らかさ、滑り、温もり、香り。



「そんなに気持ちよかった?ほら、歩いて歩いて!」


現実に引き戻される。

夜道を歩かされている。

彼女が僕の手を引いて、笑顔で先導する。


どこへ?


「んーと、ど、れ、に、し、よ、う、か、な…はい!あれ!」



エンジェルヒルズ。

ふらつきながら歩いて見えた看板にはそう書いてある。

…どうしてまっすぐ歩けないのだろうか。


「任せてよ、リードしてあげるから」


建物の中へ入って、エレベーターの前で立たされ、彼女が戻るとエレベーターに乗った。


エレベーターの扉が閉まると


「効果バツグンだねー。そんなに好きならもう一回する?」


これは質問ではない。宣言だ。

語尾を上げて聞いてきたくせに、返事を待つことなく唇を塞がれる。


…満たされていく。何かが。



「ん〜っ…あ、この階だよ。ほら…おいで!」












…………………ガチャンッ!!!



「っ……、?」


ドアが強く閉まる音。

同時に施錠もされたのだろうか。

なんというか、今の音で我に返った。


「えいっ!」


「おわっ…」


背中を強く押されてベッドに倒れる。

衝撃は吸収され軽く体が弾む。

向き直るとそこにはリカさんがいた。


「リカさん?」


「はーい」


「あの、ここは…」


「ん?ラブホだけど」


「……」


想定外の状況。

確か駅前で合流してすぐに話を…いや、それでリカさんが来たと思ったら…あれ?何があったんだ…?


…思い出せない。


「ね!これ見て」


「…ちょっ!?わっ!?」


短時間の記憶を必死に振り返っている間に、リカさんは服を脱いでいた。


「この白シャツ脱いだら…下着だけだよ?」


「いや、あの…」


「大丈夫大丈夫。ぜーんぶ、教えてあげるし!それとも、ぜーんぶ任せちゃう?」


「ちょ、ちょま、まま、あのぉっ!」


「うん?」


「いきなりだと、そそその緊張しちゃうので」


「じゃあリラックスさせてあげる」


「…ぜひ!リカさんの話術で!」


「…わじゅつ?」


どうにか思考のエンジンがかかってくれた。

隣に座ってもらい、ベッドに腰掛けた状態で話をすることにした。



「話して落ち着く?見たり触ったりして慣らした方がよくない?」


「話した方が、全然…」


「そっか。でも何話したい?やり方とか?」


「いや…あ、そうだ。お店で言ってましたよね!お金が盗まれたって」


「うん」


「1000万円でしたっけ!」


「そうだね」


「その話、もっと聞きたいな…ダメですか?」


「うーん…ま、いいよ?お金がなくなったのって、マミがNo.1じゃなくなった日の次の日くらいなんだよね」


頷いて話を促す。


「マミ、ずっと不機嫌でさ。自分の常連客にも態度悪くて客とケンカもしちゃって。確か…控え室戻っててってスタッフに連れてかれて。マミが怖くて他の女の子誰も休憩で控え室に戻れなくてさー」


「ということはその隙に…」


「ううん。その時マミずっとドア叩いたり蹴ったりしてたみたいだから」


「あぁ…」


「ずっと"リカはズルしてるんだ"って騒いでた」


「ズルですか?」


「店入って1ヵ月かかんなかったからねー…マミは誰でも態度変えないで良い意味でも悪い意味でも素直なんだけど、」


「リカさんはどう…あ」


万人受けしないマミさん。

万人受けを狙ったリカさん。

詳しくは分からないが、2人の差は考え方だけでなく接客の経験でも大きく優劣があったのかもしれない。


「お店が終わる頃にマミは早退して、その後お金がなくなってたのが分かったんだよね」


「……そうなると疑惑の目は自然とマミさんに」


「で、女の子とかスタッフ皆で電話したりしてマミに聞いたの。最初は私じゃない!って言ってたけど、突然"リカが盗んだ"とか言い出して皆怒ってさ。そしたら今度は全部無視。家にも帰らないで逃げちゃったみたい」


「………」


そしてそのまま僕の家の前で酔いつぶれていたあの夜に繋がる。


「リカさんも犯人はその…マミさんだと思いますか?」


「お。名探偵ごっこ?」


「いや…そういうつもりは…」


「じゃあ逆に、あなたはどう思う?誰が盗んだの?マミ?それとも他の誰かがマミのせいにして盗んだの?」


「…もしかしたら」


「あ、今"リカ"って言おうとしたでしょー!」


「え?い、いや、そんな」


「ひどーい!」


「言ってません!言ってないです!」


「ひどいよー!」


嘘泣きをしながら僕の胸を軽く叩いてくる。

これは、彼女自身も冗談っぽくやっている。


「あの…」


「えいっ!」


そのまま押し倒された。


「もういいでしょ?十分話したし、しようよ」


「……!」


「こんだけ待ったんだからもう緊張するとか言わないでね。誰だって初めてはドキドキするんだし!」


「え、あ、」


「はいはい!脱がしちゃうよー!」


「ま、待って…!」


僕のベルトにリカさんが手をかける。

それを阻止しようとすると、手首に痛みが走った。


「いっ…」


その時、リカさんと目が合った…笑顔で、舌なめずりを……、っ!?

今までどうして気づかなかったのか。

彼女の舌の先が普通じゃない事に。

細長くて、二つに分かれていて…なんというか…そう、そうだ。



あれは、蛇の舌だ。



「大人しくしててほしいなー」


「うっ…」


手首に更に強い痛み。

見れば、リカさんが僕の手首を掴んでいる。

僕の手を押さえつけながら、彼女の顔が僕に近づいてくる。


「お口開けて」


「……」


怖くて小刻みに首を横に振った。


「気持ちいいよ?」


もう一度。


「なら無理やり」


え?


押し潰すように唇を重ねられた。

直後、唇の隙間に滑り込むように彼女の細い舌が入ってくる。


「…っ!!!っ!!」


彼女は楽しそうに鼻歌を奏でて、強制的に続ける。


僕の口の中では、彼女の舌が僕の舌を撫でている。

このままでは…何か嫌な予感がしたのと同時に、とてつもない苦味を感じた。


「ん〜っ。どう?気持ちいい?」


……理性が、溶かされていく。

いつの間にか手は解放された。当然だ。僕が抵抗するのをやめてしまったから。

全身に力が入らない。

…蛇の舌…まさか蛇繋がりで毒でも流し込まれたのか。

ただ、悲しいことに嫌な気持ちではない。

少し熱い風呂に慣れて、浴槽にぷかぷか浮いているような心地良さ。


「おーい。おーい…もう少しで天国に行けるからね…?」


リカさんは嬉しそうに僕の顔を舐め回している。

細長い舌がくすぐったい。

もう…どうでもいい。

このまま…。このままでいい。



「…ね。名探偵に事件の答え、教えてあげよっか」



「大体マミの言った通りだよ」



「私がお金を盗んだ。だってレジの下にそのまま札束が積んであったんだもん」



「No.1になるのも簡単。誰だってキスして唾液飲ませれば、言いなりなんだから」



「今じゃあなたもそう。言いなり。でも、店で使ったお金は自分のじゃないでしょ?…本当はマミに頼まれて来たんじゃない?」



「お金は持ってない。高級品もない。あ、いや、その、えと…って、男らしさもない。そうなると、言いなりでもあまり使えないんだよねー」



「だから、このまま"食べちゃう"ね」




ーーーーードォォン!!



…衝撃音で意識がわずかに回復した。



ーーーーードォォン!!



音はドアから。


「誰?もしかして、マミ?もしそうだったら2人で仲良く天国に行ってね」


彼女は舌を口の中にしまってドアへ向かう。


僕はかろうじて首を傾けてその様子を見続ける。



リカさんはドアを開けるのとほぼ同時に吹っ飛んだ。



「真!」


…凪咲さんだ。

助けに来てくれた。

待ち合わせまでの間に、念のためずっとスマホを通話状態にしておこうと話していた。

そうすることで会話の内容は常に凪咲さんに伝わるし、こういう万が一の時にすぐに助けに来られるから…。



「…いったぁい…だれ?」


「私の彼を返してもらうから」


「…彼女いたんだ?」


「悪いけど、あなたみたいなのに汚されたくないから」


「あっハハハハハ!バッカじゃないの!?」


リカさんは慌てて服を着ている。


「真。真。大丈夫?」


その間に凪咲さんは僕の隣へ。

頬を軽く叩いて反応を見ている。



「大丈夫なわけない!お前の彼氏はもうすぐイッちゃう。2度と目覚めないよー!?"天国"に行くんだから!」


「…は?どういうこと」


逃げるように部屋を出ていくリカさん。

それを追いかけようと凪咲さんが動くも、閉められたドアに阻まれ遅れる。

その後部屋の外へ飛び出していくも、すぐに戻ってきた。


「真!ねぇ!何されたの!」


…話せない。考えることは出来るが、口で伝えられない。

麻痺しているのか。苦しくない麻痺毒…。

もどかしい。今、凪咲さんに伝えたいことがたくさんあるのに。



「真。真、よく聞いて。きっと今話せないんだよね?例えば、これは痛い?」


…何をされているのかも分からない。


「今手を抓った。これは?指を正しく曲げてる。次は少しだけダメな方に曲げてる」


…何も感じない。


「何でもいいから、何か反応出来ない?指先が動くとか…何でも」


焦っているけど冷静を装っている。

凪咲さんに応えたくて、精一杯首を動かした。

きっと通常時なら勢いが強くて首を痛めるほどの首振りだ。


「…!少しだけ首が動いたよ!真!頑張って!」


もっと。もっと動かさなければ。

意思だけが先行して体はついてこない。

凪咲さんには何にも伝わらないだろうが、必死に体を動かそうともがく…すると偶然、部屋に備え付けられていた冷蔵庫に目が留まった。

その冷蔵庫の上には…恐らく栄養ドリンクのようなものが置いてある。そのパッケージの箱には…マムシ…マムシが描かれている。

マムシって…確か有毒の蛇…!


今度は頑張って目を動かす。


「目が、目が動いた。その調子!」


凪咲さんが反応したら、その栄養ドリンクの箱を見つめる…。



「…ん?どこ見てるの?」


僕の意図に気づいた。

目線の先を辿り、冷蔵庫の方へ歩いていく。


「この辺に何かあるの?…あ、これ…!」


そうだ。それだ。マムシから毒を連想してくれれば…!


「そっか…!精力剤で元気になれば体が動かせるかも!」



………違う。そうじゃない。






………………………to be continued…→…


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