表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case15 _ 心の穴の埋め方
178/443

第1話「1週間」


すみませんでした!お待たせしました!…待ってて、くれました?

とりあえず、多分、きっと、大丈夫だといいな!くらいにはネタが溜まったので再開します!







「シートベルトお願いしますね…どちらまで?」



「………」



「お客様?」




運転手に自宅の住所を書いた紙を手渡す。

わざわざタクシーなんか使わなくても、歩いて帰れる距離だというのに。




意識を失って。通行人に発見されて。病院に運び込まれて。退院。…今日までで、1週間。

1週間も。1週間しか。どの表現も正しくて間違っている。

あれから1週間も経ってしまったことは大きな大きなタイムロスだ。探し始めるタイミングが遅くなりすぎて手がかりも何も無くなる…どうしてあの後も何もできずにいたんだ。

それでいて、完全回復まで1週間…どう考えても早すぎる。両手の指は全て折れていたし、それだけでも数ヶ月は必要なはずなのに。


……どこか、期待していた。


目覚めた時。病院にいて、看護師や医者に回復の早さについて聞かされて。期待していた。

"誰か"が体を治してくれたと。そして、代わりに立ち上がってくれたと。…見つけ出して連れ戻してくれると。


……1週間。それだけの長い時間が過ぎていたことを知った時は、呼吸を忘れた。1週間もあれば何もかもが終わっていてもいい…目覚めた時、隣にいたっておかしくなかった。でも、1人で目覚めた。


どうして、どうしたら。




「…さま。お客様」



「……」



「指定された住所は…ここで、すよね?」



家に帰って…きた。

汚い財布を取り出し、奇跡的に汚れていない金で支払いを済ませ…車の外へ。


外の空気が嘘みたいだ。

作り物のよう。当たり前に吸ってきたものと違って…必要なものを吸えている気がしない。


午前。11時。


………。




鍵を差し込み、回す。いつもなら…と考えた今になって、世話をしていなかったことに気づく。…もしかしたら、もう遅いかもしれない。…1週間だから。




ガチャ。




中に入って、ドアを閉めて、鍵を…、やっぱり。誰もいない。

"おかえり"が聞きたかった。



無意識の大きなため息。汚れた靴を適当に脱ぎ捨てて階段へと向かう。



……テレビ、消してなかったみたいだ。



あの日、あの時、慌てて家を出たのだろうか。

何かを察した…?とか?




………………でも、もう、





「マコト!」



「へ、」



呼ばれて、心臓が痛くなった。もしかして…そう、期待して。でも違う。期待していたのとは、全然、違う。



「………」



「すみません、勝手に入ってて」



「………」



「合鍵を預かっていたんです。それで…2人ともいなくて、ソープが残されていたので…お世話をしながら帰りを待ってました…マコト?」



「……」


知らない、のか。何があったのか。



「マコト、ナギサはまだ帰らないですか?」



「………」



「そ、その……もしかして、喧嘩とかですか?……テーブルの上にナギサの電話が置いたままで」



「………」



「い、家出だったら!探すの手伝います!経験者なので!」



言わなくても分かってくれ。…とは思わない。


でも、でも、………でも



「ナギサならきっと、」



「………放っておいて」



「あ、」



「………き、……消えて」



「マコト…」



「…出ていけ……」



名前を、出さないでほしい。それを聞く度に、存在しないはずの傷が開いて痛む。



「…ぁ、…はい…」



素直に従うその後ろ姿を見て、何か物足りなさを感じた。




ドアの閉まる音がするまで耳をすまして立っていた。足下に白猫が寄ってきて、可愛く鳴いても反応せずに…。




自分以外に人間がいなくなった。家中を見てそれを確認すると、ようやく…ようやく。



「っ…ぅ…っ、…はぁぁ…」



心のフタが外れて、感情が溢れる。静かに涙を流し…テーブルの上に置いてあるスマホに触れる。画面が明るくなって表示されるいくつかの着信の通知。それを指で左へ流してやると、ロック画面にはつい最近2人で撮った画像が設定されていた。

……体をくっつけて、笑顔で、ピースをして。とても幸せそうな2人だ。



ロック解除の番号は…9875。左手でスマホを持って右手を添えて右の親指で操作する実質両手持ちの彼女が、すぐに解除できるからと設定した…セキュリティの意味がない数字の並び。



……ロックを解除して、どうなる?





「ぁぁあっ!!!」



なぜいない?


彼女は、なぜ





「ひぐっ、……」




ふと見れば部屋のあちこちに彼女の物がある。…逃げ場が、無い。どこにいても、どこを見ても、意識してしまう。




「う、うわ…ああああああああああああ!!!」




正気じゃない。当然だ。平気なわけがない。狂って当たり前だ。暴れて、物を壊して、投げ飛ばして、散らかして、踏みつけて、蹴飛ばして、ひたすら叫んで…それでも………足りなくて。



どうにか自分を埋める空間だけ確保して、そこに入った。体をなるべく小さくして丸くなって、目を閉じて、受け入れられないから…



目を閉じた。




「悪い夢、悪い夢、悪い夢、悪い夢、悪い夢、悪い夢、悪い夢、悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢悪い夢…悪い」




目覚めることができない。そんな夢があるのか。




「いやだああ!!!なんでだよおお!!」




力のまま叫んで喉が痛くなる。その痛みが懐かしく思えて。




いつの間にか、静かになっていた。





………………………………next…→……





三剣猫。旅館。



玄関付近で掃き掃除をしていたモノが、暗い表情で戻ってきたサラを出迎える。



「…あ、……おかえりなさい」


「……ダンに連絡してください。すぐに…何をしていてもどれだけ忙しくてもここに来るように…」


「…黒猫さん、見つかりました…?」


「いいえ…。でも、マコトのあの顔はよくないです。あんな顔してたら、放っておけないです」


「…」



モノは表情の変化が極端に少ない。創造された日から最近まで、感情を顔に出した回数は10を超えない。そんな彼女が最近は毎日"残念"を顔に出している。というのも、とある日にオヤブンがサラを置いてどこかへ消えてしまったからだった。理由を詳しくは知らない。ただ、大喧嘩をしたとサラから聞かされただけで。

オヤブンを探しに出かけたサラが旅館に帰ってくる度に見つかったかを聞いて、毎回同じ結果を聞いては表情を暗くしていた。

モノはモノなりに、オヤブンを可愛がっていた。言葉を話してよく動いてご飯も食べるぬいぐるみ…という間違った認識をしているが、それでも。

だから、戻ってきたサラがオヤブン以外の理由でダンを頼ろうとするのが…これもまた、モノにとっては"残念"だった。



「…ユキにお願い、してきます」


「ありがとうございます。わたしは……部屋で待ってます」



この数日、サラは旅館と真の家を行ったり来たりしていた。朝はオヤブンを探し、昼前から夜まで真の家で彼らの帰りを待ちながら留守を守るソープの世話をして、それから旅館に戻ってきて…食事をして眠る。そんな繰り返しにやっと変化があった。真が帰宅したのだ。なのに、なのに。彼もまた問題を抱えていて、目が死んでいた。

少し見ない間に、彼らに何が起きたのか。何も話してもらえず、出ていけと言われた。頼ってくれなかった。オヤブンが一緒にいなかったせいなのか。ダン達になら話しただろうか。サラは心のモヤモヤが深まるのをあえて見逃し、ダンに許可をもらって与えられた自室に戻った。



「サラ。…何が?」


「シャミア…」


「見れば分かる。それにこの時間に帰ってくるのもいつもと違う」



部屋にはシャミアがいた。…が、彼女はここにいて当たり前。ダンはシャミアの保護を決め、旅館で寝泊まりできるようにした。外は危険だと彼女も分かっているので、"その日"以降シャミアは1歩も外に出ることなくこの旅館の中で暮らしている。

そんなシャミアはテーブルの上に並ぶビーズや小石や紐といった素材を組み合わせて親に教えてもらったというブレスレット型のお守りを作っていた。テーブルの端に完成品が大量に並べられている。



「マコトが…わたしの大切な友達が…ピンチなんです。わたしと同じで、パートナーがいなくなったみたいで…すごく、すごく…」


「使者と仲良くなるということは、失った時の悲しみも大きくなるということ……ん」


使者を創造しないシャミアは1つ学んだ。そして、悲しむサラに言ってやれることが何もないと考え、完成したばかりのお守りを差し出した。


「……」


「教えてもらった。物の素材を大事にするのではなく、物に込められた想いを大事にしろと。これにも想いを込めた。受け取って」


「…ありがとう、ございます」



サラはすぐに右手を通してみる。手首を飾るお守りは緑と黒のビーズの印象が強い。それを見てシャミアが最初から自分に贈るためにこれを作っていたのだと気づいて。



「わたしとオヤブン…」


「そう。それを着けていても外していても、たとえ壊れてしまっても。もうサラの心に想いが刻まれている。だから、きっと大丈夫」


「シャミア…うぅ」



「……失礼…します。ご主人様は1時間以内に戻ると言ってました…大丈夫です、か?」



ダンと連絡を終えて報告にやってきたモノ。シャミアの優しさに泣きそうになるサラを見て無表情で心配する。



「あ、あぁ…!はい…大丈夫です…ただ」


「……?」



落ち着いてダンと話をするため、サラは一旦…食べることにした。




それからしばらくして。





「……」


「…あむ。…んっ、んぐ」


「…ふぅ」


「ん?」「ん」



内職感覚でお守りを作り続けるシャミアと余り物を胃袋にぶち込むサラ。2人は同じタイミングで作業を止める。




「わざわざ呼び出したということは、オヤブンを発見したのか」


「強敵との戦闘であればご主人様に休憩を。話をゆっくり聞いてから向かいます」




部屋に入ってきたダンとジュリア。2人が旅館に戻るのは久しぶりらしく、部屋の入口付近にユキ達がちょくちょく顔を出す。しかし仕事をサボるわけにもいかず、拭き掃除をしながら…物を運びながら…など"ついで"をアピールしていた。


注目されていることを知らないダンは両手を汚す血を拭き取っていた。



「気にするな。仕方なく殴っただけだ」



戦闘を終えたばかりなのが分かり、少し申し訳なさを感じるサラ。食事は中断し、改めて話を始める。






「マコトがピンチです」






「なに?」



ダンが目を見開いて反応する。一方でジュリアは驚いて止まったダンの代わりに彼の手を綺麗に拭く。しかし落ち着いているように見えてジュリアは隠れて唇を噛んでいた。


ピンチとだけ聞いて、2人が強く反応するのには理由がある。…心当たりがあったからだ。それとなく、心配していた。何かあったのではないか…と。


それはジュリアがスマートフォンを取り出したことで明らかになる。



「ご主人様」


「いつだ」


「1週間です」


「同じ日か。オヤブンが暴走したのと」


「な、何の話ですか…」


「凪咲様は頻繁にメッセージを送っていました。サラ様も同じように受け取っていたのでは?」


「それは…友達だったら」


「サラ。そうではない。メッセージのやり取りをするきっかけ…最初の1通目は必ず、彼女から始まっていたはずだ」


「…え?」


言われて思い出せば。

元気にしているか、ちゃんとご飯を食べているか、そっちはどんな感じか…日本を離れている間にもらったメッセージは確かに…凪咲から始まるやり取りが多かった。



「凪咲様はご主人様にもよくメッセージを」


「あまり無理をしないようにと心配をしたり、分かったことがあれば情報を交換したり」


「それはほぼ毎日のように」


「送受信の対応はジュリアに任せていたが…」


「それが珍しく途絶えたのが、」


「オヤブンがィァムグゥルに激怒したあの日だ」




時間が止まったように部屋が静まる。




「……」


「………敗北した、ということか」


「ぇ、」



口を開いたダンにサラが小さく悲しみを吐き出す。

敗北。サラはそんなことを少しも考えていなかった。てっきり喧嘩して家出したのだと…決めつけていた。



「で、でも可能性…ですよね?わたしは2人が喧嘩して」



「いや。それなら彼女が連絡を断つことの理由にはならない」



「どうしてですか!たまたま!たまたま忘れて出ていったのかもしれない…じゃないですか」



「それはありえない」



「あり…えない?」



「そうだろう?彼女が私やサラと頻繁に連絡を取って必要以上に仲を深めるのはなぜか。そんなこと分かりきっている」



「……」



「真が何らかの理由で1人になった時に力を貸す仲間が必要だからだ」



「…ぅ」



「自分が真を守れなくなった時に、私達にその代わりをしてもらうためだ」



「………」



「もちろん。私達を利用するために、という意味ではない。友として、仲間として信じているからこそ。毎日のようにメッセージを送ることで、それが途絶えた時に異常が起きたと相手に伝わる。…だが、タイミングが悪かった」



それを聞いて、サラは納得した。真があんな顔をしていたのは…。しかし、その事実を認めることはできない。それをしてしまったら、大切な友達が1人…いなくなってしまったということになる。



「真に会ったのなら、様子はどうだった?敗北したのなら真も怪我を」


「いいえ…でも、怪我をしなかっただけ…なのかもしれませんよね…ナギサだけが、傷ついて…」


「サラ」


下を向くサラをシャミアが抱きしめる。その腕に弱々しく縋ってサラは泣いた。想像してしまった。真の精神がどれだけ危うい状態なのか。彼が見た光景がどれだけ悲しいものだったのか。思えば思うほど涙は流れる。




ジリリリリリリリ!!




空気を読まないベルの音。それはどうやらダンの方から鳴っていて。


「…すまない。アイマの力を参考にして創造した"呼び鈴"だ。終の解放者が量産した赤黒い創造の書に反応する。…どうやら近くにいるらしい。私達を追ってきたか」


「ご主人様」


「ああ。……サラ、」



泣くのに忙しくて返事ができないサラに、ダンは一方的に言い渡す。



「真のことは、サラ…お前に任せる」



「…」


思わず顔を上げるサラ。



「真に必要なのは、寄り添ってくれる誰かだ。だが今はお前と同じように悲しみたいだろう…1人の時間を与え、それでいて時々様子を見に行け。必要とされたら…その時は引っ張ってでもここに連れてきて私達を呼び戻せ」



「…で、も」



「私達はまたしばらくここを離れる。終の解放者との争いでこの地を失いたくない。犠牲など、あってはならない」


「急ぎましょう。ご主人様」


「任せたぞ。サラ」



サラに近づき彼女の肩に手を置く。そしてダンは彼女の目を見つめてグッと力を込め肩を握る。目を閉じ、顔をクシャクシャにしてどうにか頷いたサラはダン達が部屋を飛び出していくと途端に力が抜けて倒れてしまった。







終の解放者達との争い。


行方不明になったオヤブンの捜索と真のサポート。


失った悲しみ。



それぞれの、新たな戦いの日々が始まる。









………………………to be continued…→…



僕あた豆知識。

シャミアが作っているお守りは1個500円で旅館のお土産として販売されている。ちなみに、あらゆる衝撃を1度だけ無効にする創造が付与されている。(タンスの角に指をぶつける〜車に激突される…までが対象)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ