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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
創造神戦争
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第50話「黒血の花嫁」







「はぁっ、父さん…!待って」





ふわふわしている。夢を見ているような、現実と幻の境目を懸命に走っている。

夕方、もう空は暗くなって、怪人の姿は見えない。唯一は彼の背中だけ。どんなに走っても追いつけない…でも置いていかれることもない…僕は




「はぁ…ぁぁっ……あ?」



彼が止まった。振り返り僕を見て




真。




口がそう動いた。名前を呼んで、それで



「……消えた、」



彼が立っていた場所まで駆け寄り周囲を見回すが最初からそんな人はいなかったみたいに…



「いや。それだけじゃない。人がいない。誰も。まだそこまで時間は遅くないのに」



形はどうあれ、父さんは僕をここに連れて来た。怪人を追わせたのか、他に何かあるのか…偶然にもここは



「凪咲さんを創造した日に来た公園」



遠回りにも程がある。さっきの場所からなら、ほとんどまっすぐ走れば数分で到着したはずの距離をわざわざ



「ぅ?」



ビリビリと右脳が痺れた。手で触れて外傷が無いことだけは確認し、この公園に来たことに関係しているのだと予想して。



「中に」



公園の敷地内に踏み込んだ。……瞬間。



「う"あ"」



今度は脳全体が痺れて、揺さぶられている。そんなことありえないと分かっていても、中身がこぼれ落ちてしまわないようにと必死に頭を手で押さえて耐える。ツンとして、土の上にポタポタと…血が垂れて、唇を湿らせる感触からして鼻血…!

目が回る。気持ち悪い。立ってられない。



……拒否反応。



僕の、ではない。拒否されているのだ。僕が。来るなと何かに圧されている。本能的に逃げ出したくなるこの意識がその証拠だ。ならば、だからこそ、行くべきだ。無謀でも危険でもなんでも。だって。




「父さんが、」




彼がここに僕を連れて来たのだから。

ふらつくな。しっかりと、立て。これくらいなんだ。もっと危ない状況ならいくらでもあったじゃないか。

1歩が、重い。小さな歩幅の1歩のためにどれだけ自分を励まさなくてはいけないのか…公園の中の目的地に着くまでに…どれだけ…



ゴゴゴゴ…!!



「ァあ…っ、地震」



にしては揺れが細かい気がする。この振動は、もしかして。怪人によるもの?何かを破壊しているのか、誰かを襲っているのか、偶然にも何者かと戦っているのか…急ぎたい。少しでも早く、たどり着きたい。


あまりにも情報を得たくて遠くを見て歩く。自分の体調を無視して、少しでも先の景色を視界に入れておきたい。



「ふ、ふ…!」



鼻血を拭く元気はない。それに、両手は頭を押さえるのに忙しい。短く強く息を吐いて唇に付着する血を吹き散らした。

気づけばもう空は赤っぽさを失って、夜だ。遅すぎる。もっと早く歩かなくては。

たたっ、たたっ…怪我をしているわけでもないのに左足を庇うように歩く…これが現状で最も安定している。

…いくらか脳の痺れに慣れてきた。余裕こそ無いが、これでもう嘔吐する心配はいらないだろう。



「……?…ん、っ」



何か。見えた。


植えられた木が並ぶその先、何も無い広いスペースがある。最近では珍しいサッカーや野球などの遊びを勧めるための場所だ。他所はほとんど禁止しているから、あ、いや、それはもういい。それより。


あれは、なんだ。



黒い塊…跳ねてる、大きく跳ねて、落下して




ゴゴゴゴ…!!



揺れた。さっきのと同じ、ならあれが原因……あ、




あ。







「グゲェッ!!」



「はーい…捕まえた。飛んで逃げるのは卑怯だよ?ほら」


ブチィ!!


「これで飛べない」


ブチィ!!


「そぉーれ」


ブシュッ!!


「さっさと死ね。趣味悪いんだよ、天狗なんか創造しやがって」





追いかけていた、怪人が、死んだ。





「汚い…茶色い血でせっかくのドレスが……あ、平気だった。もう。うっかりさんなんだから、」





じゃあ、あの、黒い塊は、なに?





「…あれれ?………ニンゲン?」





見つかっ「あっれえ!?」





「君って!?」ああ、「どこかで見たかな!?」そんな、「会ったことあるよね!?」なんで、「どこだっけ!」やだ、「どこどこ!?」なんで目の前「あー!」顔が、目の前に「思い出した…」こわい、よ「色んなとこで会ったことあるよね」




「……おがる」




「はーい。オガルちゃんだ、よ?」




占い師や超能力者でもなんでもない僕でも、異物が見える。黒い塊だと思っていたのは、熱い液体…でも、煙みたいにモヤモヤしながら空に向かって上がる、変な液体、黒くて黒くて、でもよく見たら少し赤い気もして、嫌な臭いがして、直接舐めてないのに口の中が鉄っぽくて、でもそれらがどうでもよくなるくらい、目が、僕を見る大きな目が、カクカク震える目がこわくて、目が合ったまま、動けなくて、なにも、できない、ころされる、あ、




「似合う?ウェディングドレス」






【黒血の花嫁】反射的に名が浮かぶ。この力が、怪人を殺したのか。この力が、僕をこうさせたのか。この力が、父さんを





「あのメイドの仲間だよね。じゃあ、」「ぶっ!!」




ああぁ。熱い。



おなかすいた。




「君の死体を見せびらかしながら探せば、見つかるかな!?」




僕の体に起きていること全てがオガルによるものなのだとしたら、よかった…色々ありすぎて、もう痛いとは思わない。




「へぇ。穏やかな顔。もう逝くの?」




黒のドレスから、ドロドロした液体が僕の体に…あが、が、が、




「どうせ死ぬなら色々させてよ!オガルちゃんの実験に…」






「オーバー・ドライヴ」







黒血の花嫁に飛来する炎の矢。オガルはそれをドレスの一部を縦に引き伸ばして盾にすることで防ぐ。続けて足下から金の棘が体を貫こうとするが



「あはっ。なーんだ、弱っちいね」



突出した棘はドレスを貫くことができずに溶けてしまう。そこでようやくオガルは"邪魔者"の姿を見ようと頭の向きを変えて…



「オールドワン、ハリケーン・エンド」


「わぁぉ」



横向きに突っ込んできた竜巻に吹っ飛ばされた。


オガルが飛んだことにより解放された真の体を受け止め、着地せずに地面の上を転がる。すぐに真を仰向けにして呼吸を確認するが



「だめ…死なないで真っ!!」



"弱い"という表現すら強すぎるほど…ほぼ、呼吸をしていない。腹に穴があり、中を黒い液体で焼かれている真はまだ死んでいないのが奇跡的で。



「何でもする。真のためなら、何でも…力を貸して…お母さん」



右手に魔力を集め、真の腹に注ぐ。その間も左手はゆらりと立ち上がるオガルへと向けられており、



「時をも凍らせる、氷結よ…我が名において……っ、ロスト・エレメント・エンド!!」



追撃。極大の魔法陣がオガルの頭上に展開され、白と青の氷で形成された巨大な手が伸びる。今にも動き出しそうなオガルを上から押し潰し、握り潰し、血液の一滴も残さず凍りつかせようとする。


「へぇ、大きいね」


しかし、オガルは鼻で笑って対応する。足下にドレスと同じ黒の液体が大量に生まれ、オガルごと巻き込み巨大な塊へ…そして、塊は氷結の手と同等の大きさの手に変わった。


手と手は重なり、力比べが始まる。指を絡め、黒を凍結させる氷と氷を焼き砕く黒がぶつかり合う。バキバキと荒々しい音を立てて氷の手が少しずつ小さくなるのを見れば、優劣はハッキリ分かってしまうが



「命を育む、大地よ…我が名においてその力を具現化せよ。ロスト・エレメント・エンド」



今度は真横から土で形成された巨大な手が伸びる。黒の手首を掴み強く握りしめると、今度は土の手が黒の標的になり黒の指が槍に変化し土を撃ち貫く。




「神の怒りを体現する、雷よ…我が名において命ずる。…咲け、"マグノリア"…!!」




更なる追撃。詠唱の直後、氷と土の両手が爆発。それにより




「オガルちゃんのドレスが…」



黒が剥がれ、裸になったオガルがその場に残された。


そして、天に神々しい白の花が咲く。




「………きれい」




空を見上げたオガルに向かっていくつもの白雷が降り注ぐ。撃ち抜くと同時に爆音が鳴り響き、一撃一撃がオガルの命を奪う。




「真…」


「…………」





なんとなく。生きていたから助けられたのだと分かっていた。でも本当に生きているのか自信がなくて、しっかり目を開けて彼女の顔を見て…



「凪咲さん…っ」


「ごめんね、回復魔法…あんまり効果が無いみたいで」


「……ふへ?」


寒い。


「お腹、丸ごと凍らせたの。"あれ"を片付けたらダンに治してもらおうね」


「………」



ドッカーン、バリバリィ、いや、ッバァァァーーーン!!!だろう。

何度も何度も何度も同じ場所に落雷。それを見て聞いて色々失いそうになる。

ならば直接雷を浴びているあれはどうなる?



「死んでくれたら嬉しいけど。時間稼ぎにしかならないかも。…パワーアップしてる」


「…オガル」


「絶対許さない。真にこんなことして…」


「あれでも死なない?」



僕なんて1回お腹に腕を突っ込まれて体を貫通しただけなのに、死にそうだった。それがなんだ?雷を何発も浴びているのに時間稼ぎにしかならない?



「……」



凪咲さん…僕のせいで本気になれないのか。守るための戦い方をしているから、オガルに決定打を与えられない…そうだとしたら



「だ、大丈夫です…だから」


「嘘にもなってない」


「なら創造で、なんとかしますから」


「元気な時に言ってくれたら賛成したけど、今の真に創造させるのはちょっと」


「なら、なら、」


「私を信じて」


「…」


「真に触れさせない。少しだけ戦うために離れるけど、絶対に守るから」


「……はい」


「ふふっ。ビニール袋のおかげでお肉助かったね」


「ぁ」



立ち上がった凪咲さんは双剣を取り出した。なんだかいつもと違う……目の色…薄黄色の目…



「ちょっとだけ、待っててね」



向かっていく。オガルに近づく度に彼女の周りに魔法陣が咲いていく。今まであんなの…見たことがない。

凪咲さんを囲う魔法陣は10を超えて、それぞれが違う色に光っている。おそらく属性もバラバラで、どれも強力な魔法が、これ…これが凪咲さんの本気?





「ッッッ!!ケーキ、入刀!!」




叫び。オガルがただ雷を浴びていたわけではないことが分かった。空に咲く大きな花に向かって伸びる細い黒の物体が、縦に振られて花びらを切り裂いた。




「オガル。あなたは今日、ここで死ぬ」



凪咲さんが歩いて接近する。まだ花を攻撃しているオガルは



「ハネムーンに連れてってあげる…!」



ニッコリ笑って凪咲さんを見た。…よく見れば……無傷だ。雷に撃たれて、無傷だなんて。おかしい。



「花は散ったよ?次はぁ…!?」



「私は負けない」




錬金術。オガルを包もうとするけど黒いのが金に触れるとすぐに溶かしてしまう。今までのオガルはあんなものは身に纏っていなかった…強化された…?



「オガルちゃん…キレイ?」



「血…趣味悪い」



「お前の血もドレスの一部にしてあげる」



「そんなのお断り!!」





総力戦だ。オガルの格闘に対して凪咲さんは双剣で応じて、2人の頭上では黒いのと魔法が激しくぶつかっていて。誰にも邪魔できない。近づけば何者でも巻き込まれて即死してしまいそうな


「ふーん。さすがにやばいよなー」


「…え」


「よっ」




声を聞いて、振り返って、ゾッとした。見覚えのある顔がそこにあった。あっていい顔じゃ、




「オガルvs凪咲かー。熱いな。めちゃくちゃじゃんか」


「ゆ、ゆ、ゆ、」


「おーい、ゴダイ!」


「…?」



声をかけられ姿を見せたのは…子供…男の子?



「こいつ戦闘には何の役にも立たないから普段は連れて歩いたりしないんだ。でもこういう時はさすがになー」


「ぷす!」


「オガルを調べろ。ついでに凪咲もな」


「はいぷす!」



男の子の頭上に、白い輪っかが出現した。



「すげえだろ?天使の使者なんだぜ」


「てんし…」


目が白く光って、取り出した"じゆうちょう"に何かを書き込んでいく。


「何が起きているのか、を見ることができる。天使の眼で」


「…」


「代行、使者、創造物…全ての対象の創造の効果を知ることができる」


「…」


「ゴダイ」



「ブラッディウェディング。黒血を自由に操作することができるぷす!全身の血が黒血になったことで元々のオガルの創造が強化されて、傷つくことなく怪力が常時最大で使えるぷす!それと…」



「なんだ?」


「し、死なない…ぷす」


「はあ?死なないだぁ?不死ってそんなのありかよ…」


「あの黒血が強いぷす…」


「じゃあ凪咲は?」


「……」


「おい、」


「み、見えないぷす」


「見えないぃ!?」


「めちゃくちゃぷす…創造を魔法が…あわわ、」


「落ち着け。見えてはいるんだろ?」


「とっても、とっても強いぷす!でも…」


「……凪咲じゃ勝てない。か?まあ敵が死なねえって創造したんなら厳しいとこはあるよな」



「2人とも…何を」



「じゃあしょうがないよなー。…凪咲を強化できれば変わるか?」


「はいぷす!」


「なら。やるか」



「やる?え?ゆう」




パチン、




指を鳴らす、おと、と、と、と、と、と、と、と、と、と、と、…と………と………………………………












………………………to be continued…→…



僕あた豆知識。

結子の使者、ゴダイは人間でいう小学1年生の見た目。いつも結子にくまやペンギンなど動物の絵がプリントされた子供向けの服を着させられるが、本人は特撮ヒーローがプリントされたものを着たがっている。

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