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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
創造神戦争
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第49話「青い心臓」







鼓膜を突き破ってもおかしくない黒獅子の怒りの感情がこもった泣き声。鋭い爪を、牙を、大切な人であるはずのサラに見せびらかして自身の危険度を教える…。






「遅かったか。大人しくしてもらうぞ、オヤブン」


「四肢を粉砕し動きを封じます」




「グルルロァ!!」



サラに集中しているオヤブンは視野が狭くなっているはずだと分析したジュリアは、後ろに回りこみまずは右足で床を踏み鳴らす。若干右方向からの音でそちらに意識を向けさせ、空いた左半身を攻める…つもりだった。


「っ、異常地帯…!」


獅子の姿になった時点である程度感じていたものが、踏み込みの瞬間に強まる。隙をつくはずだったジュリアの1歩は遅れてしまい、



「グラァァウ!!!」



黒獅子は振り返りながら右の前足でジュリアの上半身を狙う。引っ掻く…ではなく、殴る…でもなく、なぎ倒す…という選択で。



「くっ、…力が、」


短時間ながらジュリアは受け止めた。ラリアットのような形での攻撃は黒獅子が内に秘める怪力と体が大きくなったことによる体重の増加が原因で計り知れない威力になっていた。簡単に床に倒されたジュリアは両腕を前に持ってきて胸と頭を守る。防御反応の速度は素晴らしいものだったが、それを見たダンが動く。



「立て!主導権を渡すな!」



((READ))



創造の光が黒獅子を挑発。囮として創り出したボディーガードは



「グロロロゥ!!」



簡単に噛み砕かれる。これではあってもなくても大して変わらない。時間稼ぎに失敗したダンは自身の身の危険を覚悟してジュリアの前に立ち、彼女に強要する。



「処刑モード、起動!!っづァ!?」


「フルルル…!!」



今こそ切り札を。しかし宣言したのと同時にダンの左肩からみぞおちまでが生暖かさと鋭い痛みに包まれていた。頭の向きを変える必要はない。ただ、少し左の方を見ればそこには大きな獅子の頭があって。

息を乱す両者は視線を交え、この一撃の重みを互いに理解する。



「ご主人様っ!!…処刑モード…起動しました。直ちに障害を排除します」



ダンのピンチにジュリアが応える。通常のそれとは違う速度で黒獅子の撃破に動く。



「ガッ」「ロォ」「ガァ」



秒で打たれた3発の攻撃でも黒獅子はダンの体から牙を抜かない。むしろ強く打てば歯を食いしばって耐えてしまうため、ダンの体に牙がより深く刺さってしまい…



「…っ……、」



"再構築"での抵抗を考えていたダンは言葉を発する余裕がなくなる。

ならばとジュリアは黒獅子の口に手をかける。力で無理やり開かせダンから引き離すしかないと考えたからだった。



「ふ、」



ジュリアの両手が上下別々の方向へと力を加える。腰を落として踏ん張り、全力で口を開かせにかかるが…鮮やかなピンク色の歯茎と深く突き刺さる牙の一部が見える…だけ。瞬間、ジュリアはィァムグゥルがサラの代行の能力について絶賛していたことを思い出した。この獅子はその彼女が創造した使者で、通常時にはよく天才を自称していた。それが"怒り"の言いなりになって才能を発揮している。今、この使者は少しも手加減をしていないのだ。遠慮なく、殺しにきている。自分が同じように殺す気で挑んでも戦況に変化がないのは…当然なのだ。



間違いなく、この使者は自分よりも強い。



その事実がジュリアを迷わせ、危険な選択をした。



「申し訳ありません」


黒獅子の口から手を離し、1歩後退。ダンは驚く余裕もなくゆっくりと息を吐いていた…それはそのまま残り少なくなった生命を吐き出しているようにも見えて。





「…諦めるのかな?」



ジュリアの後ろからィァムグゥルが声をかける。それはあまりにも冷たく、腹立たしい言葉で。



「いいえ。ただ、ご主人様を信じているだけです」



それから死が迫るダンを無言で見つめるジュリアは、右の拳を強く握って覚悟を決めると…



「ご主人様ならば、出来ると。信じています」



「…上手いね」




ーーーーーーッ、強打の音が床を揺らす。


床に赤が爆散し黒獅子がバランスを崩して壁に身を預けてしまう。それは綱引きの途中で手を離されたのと同じ理由で。


今の強打でダンの上半身の約4割が失われていた。


黒獅子が肉を骨ごと噛み砕き、引き裂こうとしていたのをジュリアが手伝ってやった。たったそれだけの簡単なこと。


残酷に齧り取られた体は綺麗な血の噴水を作り出し、外の空気に晒された中身は致命傷を知らずに活動を続けようとする。



即死寸前。力なく床に横たわり自由になったダンは、




「………」



口を動かさない。創造ができないのであれば、助かる術はない。見ていたィァムグゥルは残念に思った。黒獅子の口が開かないのならば、より柔く簡単に壊せるダンの体を攻撃しようと考え、即死しないギリギリのラインを攻めたジュリアの危険で勇敢な賢さが…これでは無駄になってしまう。




「さて。言うことを聞かない獣には躾をしようか」



サラの体を操り手のひらの照準を黒獅子に合わせるィァムグゥル。口に含んだダンの一部を吐き捨てて短く吠えた怒る獣は血で汚れた牙を今度こそサラに向ける。



「グゥルル…ロォァァァウウ!!」



「サラを傷つけることを望むなら、こちらも相応の力で」



((EXECU……






青紫の光。そして床を打ち、神秘的な鈴の音を響かせ、



「そこまで」



金の王笏を持ったシャミアがその場を鎮める。

鈴の音を聞いた黒獅子は目を閉じ床に伏せる…数秒で変化を開始しその体は縮小。元の黒猫に戻った。


攻撃寸前だったィァムグゥルはシャミアの創造に眉を上げて驚いた。



「そう、そうだね。ミーシャも同じことを…ああ、面白い。このィァムグゥルの記憶さえ騙してしまうのか、君の考える神とやらは」



「ふぅぅ…っ、」



金の王笏が霧散する。力を使ったシャミアはその場で崩れ落ち、深呼吸をして体を休ませる。


戦闘が強制終了し、ィァムグゥルの興味は再びダンへ。代行と使者の繋がりの強さはなかなかで、特にジュリアの能力の高さは今失われるのは惜しいほどで、だからこそ今死んでしまう彼が…



「おや?」



目撃した。見間違えたかもしれない。目の錯覚かもしれない。今、ジュリアが彼に覆いかぶさる直前に…むき出しになった彼の体の中で動く…



「青い、心臓…?」




瞬間。青い創造の光が部屋を染め上げる。深い青は遠い遠い世界の何処かの海を思わせ、体感する温度はとても冷たく、徐々に息苦しさをも感じさせて。



「……ご主人様」


「心配させたようだな。すまない」



死が確定したはずのダンを蘇生させた。



「体も元通り…これは一体……ん、」



自分が考えつかなかった創造。驚きと嫉妬を浮かべるが、サラが主導権を取り戻しィァムグゥルは"中"へ押し戻される。





「……ごめんなさいっ!!!」





サラの謝罪の声が部屋に響き、問題は解決しないまま

















1週間が経過した。













………………………………next…→……







「今日はかなり贅沢な牛肉を買っちゃいました…!!」




スーパーイナズマではなく、都心の方まで行って超有名な老舗の精肉店で購入した肉。今日は特別な日でもなんでもないが、これですき焼きを作って凪咲さんと豪華な夜ご飯を楽しみたい。


これまでも時々、それなりに楽しい時間を過ごしてきた。でも代行を休んでからは凪咲さんが最高に可愛くて…毎日寝ても覚めてもドキドキしている。恋人との甘い甘い同棲生活。言葉では簡単にまとめることが出来るが、こんな幸せは簡単には味わえない。



「早く帰らなきゃ」



浮かれすぎて、思わずスキップしそうになる。どうにか我慢して若干早歩きで駅から自宅までの帰り道を急ぐ。



「凪咲さん…!」



喜ぶ顔が見たい。理由もなく突然嬉しくなって抱き合ったりキスをする時間が恋しい。早く。早く。帰りたい。





「……真」





「、え?」





夢中で歩いていた。でも足を止めた。


声を、かけられた、気がした。


聞いたことがあるような…どこか懐かしいような声…



それは。





「………お、お、とうさん…」





柊木 章。その人だ。自分の記憶を全て使っても顔を思い出すことすら難しいくらい…薄れていた存在。とっくに死んでしまったはずの彼が、





「……真、おいで」




手招きして僕を呼んでいる。

左右に流れていく人々の中、僕を呼んでいる。

胸が痛い。頭も痛い。懐かしさに屈してしまいそうになるが、分かっているはずだ。いないはずの人間がなぜ目の前にいるのか。そんなこと、簡単に分かるのに。足が動かない。



「……で、電話」



父さんから目を離さずスマホを取り出し凪咲さんに電話をかける。呼び出し音が…うるさい。



「出て、出て…凪咲さん」



いつもならすぐに出てくれるはずなのに。入浴中でも出てくれるのに。まさか、彼女に何かあったのでは…


咄嗟に胸元を確認するが、常にそこにあるはずの輝石は無い。自宅だ。寝室にある。ジョーカー・グローブも。




「おいで、真」




父さんが僕を呼んでいる。でもゾクッとして身震いした。ふと空を見上げればその原因が"飛んでいた"。



「…怪人…!!終の解放者!!」



どこへ行く。目で追えるのは大体の方向だけ。走って追いかけなければすぐに見失う。しかし、戦うのに必要なものは1度家に帰らなければ…それに、目の前には



「……」


「頷いた…?」



父さんが僕に背を向けて走っていく。偶然にも怪人が飛び去っていくのと同じ方向に…だ。


まさか。まさか、まさか?




思考が高速で展開する。可能性、可能性、可能性。

ありえる、ありえない、だからこそ、創造。

ああでもないこうでもない。その先で導き出した都合の良い答えは。





父さんは創造の力で生きていた。周囲に死んだと思わせることで身を隠し、機会を伺っていた。何の機会を?そんなの、今はどうだっていい。


彼は、本物なのだ。




「待って!!父さん!!」











………………………to be continued…→…



僕あた豆知識。

真の父親、章は七三分けがよく似合う。小学生時代は足が速いのが自慢でよくモテていた。

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