第37話「代行の代行」
「最近思うんだよ!不審者ってのは昼じゃなくて真夜中に活動するもんだよなってさ!俺も、お前らも!!」
「グイイイイ!!?」
「あー、やっぱ取り消そっかな。自分を化け物と一緒にすんのは違う気がする。おい、モモ」
「本、消えた」
「だよなー。化け物に変わると創造の書が奪えなくなるってのはもう確定か。つまんねーなー。よし、殺せ」
「分かった」
「ジュリア!撃ち抜け!!」
「かしこまりました。ご主人様」
「うぉい!?」
日付が変わって、1時。
都内で1、2を争うほどの大きな公園…そこに集まった代行達は人目を気にすることなく殺し合いを行う。
終の解放者が生み出す"怪人"を追ってきたダン達は先客の存在を無視して攻撃する。
それは必殺技に必殺技を重ねたような超威力の
「異能の手」
「ぐぃぃぃああああああ……ぁ…」
肥大した筋肉は赤黒く変色。殴れば電柱すらへし折るほどの怪力を発揮する体は今、
「柔いですね。この程度ならこの力を使う必要はなかったかもしれません」
簡単に貫かれた。ジュリアの右腕に。そして彼女の腕を染める青が創造の力を否定し、怪人は7割ほど元の人間の姿を取り戻す…が
「死亡しました」
「隣に戻れ」「はい。ご主人様」
怪人を一撃で撃破。ダンに呼び戻されたジュリアは立ち尽くすだけの2人組へと目を向ける。
「…あ。…よっ…!」
弱々しく右手を振り軽く挨拶をするのは
「赤い髪…終の解放者がやたら口にするのはお前のことか」
「あー、でも俺はお前のこと聞いて…ないよな?」
「聞いてる。メイドの使者」
「聞いてた?そう?そっか、」
「ご主人様」
「分かっている」
「なんだよやる気か?おすすめはしないからな。ヤッたら間違いなく死ぬ。俺が」
「桃髪の子供の使者…ふ…薄れつつある記憶が戻った。空港、か」
「あれ?会ったことあったっけ?人違いじゃねーの?」
「お前のおかげでジュリアの右腕は直った」
「……」
右の拳を赤髪の女に向けて突き出すダン。それに合わせてジュリアも同様に拳を向ける。
「"まだ"私達は戦うわけにはいかない。違うか?」
「敵の敵は味方…ってとこだな。こいつらのボスには会ったことあんのか?」
「六島か…」
「なるほど。良い思い出はないってんだな。あいつはまず顔を出すことがレアなんだよ。次会えたら絶対殺せよ?…今の攻撃なら効くはずだしな」
「終の解放者は皆殺しにするつもりだ」
「取り憑かれてんな。ま、たまには休めよ。………ぅぁ?」
「っ、ジュリア!!」「はっ!」
「男の代行…!!見つけたぞ…ぅぉお"お"お"おおおい!!!」
身構える4人の前に、怒声が着地する。
顔を真っ赤にして見たまんま怒っているその男は赤髪の女に向かって
「消え失せろ!!まだ死にたくねえだろ!?あぁあ"っ!?」
邪魔だと吠える。そして右のつま先で地面を抉るように蹴りつけ、衝撃で浮き上がった土を再び右足で蹴り飛ばす…と
「失せ"ろ"ぉぉっ!!!!!」
ッドオオオオン!!
爆発。夜空を照らすほどの白光…それは失せろと言っておきながら赤髪の女を殺そうとした正真正銘の攻撃で。
「モモ。守る」
「俺には用が無いんじゃなかったのかよー…背中向けてたら一瞬で灰になってたじゃねえか」
「ふ。…行くなら行け。目的は私のようだ。会ったこともないが」
「ん。じゃあこれ、借りな。いつか返すよ」
「…好きにしろ」
赤髪の女の前に立つダンとジュリア。
怒りを身に纏うその男を見つめ、互いへの関心の強さを比べる。
数秒の静けさの後、男がこちらへ1歩踏み出すのを見て赤髪の女が逃げたことを確信した。
「初めて見る顔です。考えられるのは、これまで戦ってきた何者かの関係者…仇討ちということでしょうか」
「ユリカの何なんだお前は…」
「ユリカ?」
「その反応、ムカつく…ムカつくんだよぉおおお!!」
「ご主人様。処刑モードを」
「いや、あれのやり方は予想がつく。異能の手を持続させろ」
「分かりました」
「…我は神の子。怒りの矛先は……邪悪なるもの」
「もう少し早く来ていれば。お前はその生命を無駄にすることはなかった」
「滅びろ」
((READ))
「やれ、ジュリア」「はい、ご主人様」
………………………………next…→……
「む………ん?」
暑くて苦しい。顔が特に。
目が覚めてどうなっているのかをボーッとしながら思い出してみると…恥ずかしい。
そういえば。昨日は初めて自分から凪咲さんにくっついて寝てみたのだ。公園でしてもらったように胸元に顔を預ける形で。
信じられないほどの安心感を得てすぐに寝る寸前まで…気づけば今だ。恥を捨てて得た快眠…今後枕で寝てこれ以上の睡眠は…
「………」
なんだ。すごく視線を感じる。
足音も…重みからしてソープやオヤブンさんではない。サラさんだ。
見られている。ガン見されている。
顔を背けたくなるくらい見られている。
「…喧嘩はしてない…良かった」
小声で漏れた言葉から心配していたのだと分かった。凪咲さんからも話すだろうが、後で僕も一応ちゃんと話して解決したことを伝えておこう。
それより、そろそろ見ないでほしい。
「君の友人はし…っむ!」
…ん、なんだ?
「……ふぅ」
今のもサラさん?慌てて口を塞いだ感じだったが、ひとり言を…?
「ふわぁぁ…ぁかんな…めちゃくちゃ口の中乾いとる…水飲みたい…」
「オヤブン。静かに。まだマコトとナギサが寝ています」
「お、すまんやで」
僕達より先に起きた1人と1匹はなるべく静かにしながら顔を洗ったり水を飲んだりして…それから
「んじゃひとっ走り行こうやないか。キッチリ20kmや」
「はい…行きましょう……鍵、借りますね」
起きてすぐランニング…偉いな。
僕も朝は苦手ではないし見習うべきなのだろうが…早起きした分、運動より家事を優先したくなってしまう。今までの生活で染みついたものだから…恐らく朝のランニングを取り入れることは無いだろう。
サラさん達が出かけて…少ししてから、待っていたように凪咲さんの体がもぞもぞと動いた。
「おはよう真。眠れた?」
僕の髪の間に指が滑り込んでくる。この動き…!!ソープを撫でる時のやつに似ている気がする。優しく指を前後に動かすそれは短調な動作なのに力加減が直接伝わってきて…痛さや重さは一切感じさせないけど適切に頭皮を…マッサージしてくれて…
「私の胸、そんなに寝心地良いのかな…」
「………」
思考の共有で起きていることはバレバレだろうが、ここは沈黙を選ぶ。寝たフリをして…あともう少しだけ…このまま…
「でもね、真。私ちょっとトイレ行きたいかも」
「……ぅ」
「ふふっ。ありがと。っ、」
「はわ、」
「おはよ」
起き上がってトイレに行った凪咲さん。1人布団に残った僕は自分の額を触っていた。
体を離してすぐ、ここに柔らかいものが触れて温もりを感じたのだ。
甘やかされている。それがあまりにも心地よくて…こみ上げてきた。
独りじゃないことへの安心感から、少しだけ、泣いた。
………………………………next…→……
「いただきまーす!」
「よっしゃ飯や飯!」
「いただきます。オヤブン、時々派手に食べ散らかしてるからなるべく綺麗に食べてね」
「わぁっとるわぁっとる!」
「もうこぼしてますけど……、いただきます」
「ニャア」
全員揃っての朝食は朝8時。
会話よりも先に腹を満たしたい…全員がそんな感じで、静かに食事を始める。
そんな中、唯一音を出し続けるのはテレビだ。
朝のニュース番組はどこも同じ話題。俳優、ヨゾラの死。あと2、3日は当たり前のように取り上げるだろう。いや…もう少し長いかも。
「ん。ユリカです」
共演者からのコメントだ。丁寧すぎる内容だと本当に本人が言ったものなのか怪しく思ったりするのだが。
「……とても残念です。彼とはドラマも撮影中で、現場にいる全員が彼の優しさに助けられていたのに」
「サラさん?」
「すみません。つい」
「繰り返して喋って日本語を身につける練習や。アナウンサーの真似すれば綺麗になるんやけど、こいつは普通に話すのが理想なんや。分かるやろ?お前らみたいに普通にや」
「そうなんですね。…じゃあ、今後また少しずつ話し方が変化する可能性もあるってことでしょうか」
「だったらあまり乱暴な話し方をする人を見せないようにしないとね。悪いお手本になっちゃう」
「よし…それならホラー映画はしばらく禁止ですね…!ああいうのは必ず1人は悪いお手本がいますから」
「む…じゃあ見て楽しめるタイプのやつ探すから」
「なんで意地でもホラー映画なんです!?」
「おう、真。この後なんやけどな。ワイとサラは出かけるで」
「そうなんですか?どこに?もしあれだったら僕達もついて行きますよ」
「ええねんええねん。2人は家のことやっといてくれ」
「オヤブン。…昨日ダンにお願いされました。旅館の見回りをしてほしいって。留守にしている間も他の代行に狙われていないか気になっているみたいです」
「そういうことなら僕達も」
「だからええねんて。ワイらで十分足りるんや。万が一何かあれば連絡するやろうけど…ワイがおるんやで?真、お前ならワイという天才がおることの有り難みが分かるやろ?ワイとお前の不完全なゴーストハントでもあのアムグーリをぶっ殺したんやから」
「……」
「っ?……サラ?」
「あ、はい?」
「大丈夫?今固まってたけど」
「はい!元気いっぱいですよ!あ。味噌汁のおかわり、いいですか!」
「うん、持ってきてあげる」
オヤブンさんは隣にいたから気づかなかったかもしれない。
でも今、僕と凪咲さんは間違いなく見た。
"アムグーリ"と聞いた瞬間にサラさんが真顔になった。
話を聞きながら、美味しそうに咀嚼をしていたのに…ピタッと止まって…
「ま、とにかく平気や。お前らはイチャイチャしてたらええねんて」
「や、やめてくださいよオヤブンさん」
「なんや。お前、凪咲の嬢ちゃんのおっぱいに顔を押しつけてムフムフ言いながら寝てたやろ?」
「なっ!?」
「ええねんて。それくらいは見逃したる」
「見逃すってなんですか!!というか、今言っちゃってるじゃないですか!そこは見て見ぬフリ、何も知らないままを貫いてくださいよ!」
「わははは!顔真っ赤やで」
「もう…!!」
テレビに視線を戻すと、ヨゾラの死体が見つかった現場との中継が繋がったところだった。
…警察が大勢…今も調べている最中で、現場を見に来た野次馬達に声をかけて追い払っている。
「………」
黒いTシャツ。骸骨が…あ、あの男はもしかして昨日僕を…
「スキあり!真、お前の目玉焼きの外側のカリカリはもらったで!!…うみゃい」
「………探してる。僕を」
「んあ?」
そんな気がしてならない。
朝食を終えて、サラさん達を見送るとまずは皿洗いをすることにした。
テレビを見ながらできるからだ。
「気になるなーくらいで我慢してね。本当に真を探してるんだったら余計に行っちゃダメって分かるでしょ?」
「…はい」
チャンネルを変えれば中継をしているのが必ず見つかる。
そして現場が画面に映し出される度に…僕を襲った男も映る。
他の野次馬達は皆スマホを片手に構えているというのに、1人だけ野次馬達の顔を見ている。
これを怪しいと思わないのはおかしい。
「ヨゾラを殺したのは代行だろうね」
「え?」
「封鎖してる範囲の外。ほら、手前のビルの2階の窓のとこ。ここ。分かる?壁が一部壊れてる。で…ここ。死体があった場所を中心に…多分、爆発したんだと思う。警察はまだ気づいてないみたいだけど」
「…本当だ」
ならば。
対象を爆発させる?爆弾?創造の系統が絞れてきた。
「もう。忘れてほしいのになんでこんな大事になるんだろ…」
「あ。…いや、そこはあの…分かりました。テレビを消してください」
「いいの?」
「はい。お願いします」
「うん…ふふ。真っ!」
「ちょ、ちょっと!まだ洗ってる途中ですよ!」
「後ろから抱きしめられたらお皿も洗えないの?」
「…洗えないかもしれませんよ?」
「何それ。じゃあ本格的に邪魔しちゃおうかな…こちょこちょ」
「ちょちょちょ!?やめてください!なんでピンポイントで脇腹なんですか!!脇とかにしてくださいよ!」
「誘導が下手。脇腹が苦手だって自分でバラしてるじゃん」
「うふふぁ!?きいいい!?」
「うふふふっ!ねえ、スポンジの泡が飛んじゃうって」
「だって、ぢゃぁぁぁ!?」
「笑いすぎてお腹痛いよ…!!」
これも、イチャイチャに入るのだろうか。
それからはいつも分担して一気に終わらせていた家事を2人でひとつずつやった。
ほとんどがくすぐり合ってたり特に理由もなく抱きしめてみたりと…家事が全然終わらなかった。
………………………………next…→……
昼過ぎ。ダンの隠れ家。
「返信が届きました」
「見せろ…」
Re:確認
多分そう。ごめんね。真を狙ってる連中がまさかダンとジュリアに遭遇するなんて。
もし余裕があったらでいいんだけど…真のためにそいつら全員倒してくれると助かる…かな。
女優の貝殻ユリカに近づけば、多分なにか分かると思うから。
「…連中、か。ユリカに聞き覚えがあると思ったら、」
「はい。あの男は柊木様を痛めつけた犯人の1人だったようです。どうしますか?」
「終の解放者を追っているのが私達以外にもいることは分かっている…1日で片付けるぞ」
「はい。ご主人様。…それと、サラ様からも連絡が」
「何だ?」
「旅館付近に代行の気配なし。とのことです」
「そうか…よかった。ユキに連絡しろ、サラ達をもてなせ…と」
「たった今送信完了しました。ご主人様」
「よし。…行動開始だ」
………………………………next…→……
「くぅぅぅ…っくそ!、」
「カケル!!動かないで…」
「うぅるせえ…別に問題ねえだろ…やられたのはお前じゃなくて俺なんだ…!」
「やられたって…こんなの聞いたことないよ!!」
神の子の拠点、ゴッド。
なんとか生き延びて帰ってきたカケルを迎え入れたカナだったが、"いつもの"殴り合いの喧嘩とは違う何かを察して動揺する。
カケルには左腕が無かった。さらに左足の指も3本無くなっている。
「切り落とされたの?」
「血は出てねえよ…ブチギレそうなくらい痛えけど…」
「覚えてる?敵のこと。もしかして」
「いや、探してるのとは違う。男だったけど…女の使者がいた。その使者がクソ強え」
「じゃあ皆で」
「馬鹿か!?俺でこんな目にあってんのに!カナ!お前が来てどうなる!?他のやつらだって同じだ。あの使者は……意味不明だ」
「…カケル」
「あいつには知らせるな。まだ突っ走るには早すぎる。ユリカを殺すまでは」
「…うん」
「ぢぃっ…!!…痛み止め、」
「え?」
「無いのか!?お前いつも飲んでんだろ薬!寄越せよ!」
「でも…私のは痛み止めじゃなくて精神安定剤だから…」
「はあ!?あんだけリスカしてて痛くねえってのかよ!」
「痛いけど…痛いけど……」
「くそぉっ…」
「分かった!分かったから。今すぐ病院行って痛み止めももらってくる。傷見せれば絶対大丈夫だから」
「…早く、してくれ」
「うん」
個室で1人になったカケルは思い出す。
青に染まったメイドの手…普通の打撃が通用しないメイドの防御力…そして、カケルの全力の攻撃でメイドの体の一部を吹き飛ばしても…
「一瞬で元通り。異次元だ…あんなの」
赤と青のストライプ柄…珍しい表紙の創造の書を開くと、そこにはカケルの創造が書き込まれていた。
「超爆発。病気と言われた俺の短気さを爆発のエネルギーに変えることで…今まで負けることは無かった。誰にも。神の子で誰が1番かって話になれば俺かあいつしかいねえ。…この力でたくさんの人間をぶっ殺して、代行も使者も同じように爆発させて殺して…それが通じなかった。何も。生きることだけ考えて…逃げるしかなかった。あんなに強いやつが代行でもない人間にボコられるわけがねえ。関わっちゃいけないやつに喧嘩を売っちまった…俺は」
「ふーん、カケル。お前がそんなに弱気になるなんてね。いつもの怒り爆発はどうした?」
「…聞いてたなら余計なことはするな。俺より酷い目にあうかもしれない」
「どうでもいいよ。ユリカじゃないなら」
「…なぁ。今ここには俺とお前だけ、だよな」
「そうだね。俺様のために皆頑張ってくれてるから」
「そろそろ教えてくれないか」
「うん?」
「どうして、貝殻ユリカを狙う…?……どんな恨みがあるんだよ。………お前達は、元は家族だったんだろ…!?……なぁ、ユリト…!」
「…名前を呼ぶのは構わない。……でも、俺様とユリカを一緒に…家族って言ったのは…許さない」
「っ、」
「体が欠けても、お前は他人の心の地雷を踏むのはやめられないんだな。キレてんのはお前だけじゃない。カナも、俺様も、お前にキレてんだよ」
ぐわっ。
異音。そしてカケルの眼前に大きく口を開けたそれが…
「ゆ、ユリト!…悪かった」
「………カナが戻る前に行け。色々と片付くまでは戻ってくるなよ」
「…分かった」
ゆらゆらと立ち上がり、歩いて個室を出るカケル。
その背中を睨みつけるユリトは…
「あんなやつと家族?俺様が?ふざけるな」
((READ))
創造した。直後、他に人のいないこの建物全体にカケルの断末魔の叫びが響いた。
………………………to be continued…→…




