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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
創造神戦争
156/443

第31話「幸福を招く猫」






「…。…覚悟だけじゃ、死ぬよ?」





とても早口だった。

まだ慣れていない動作だが、膝蹴りで先制攻撃を狙う。

肩を掴んでいるし大きな失敗はしないはずだ。



「きひひひ!よっわ」



「ぅあ」




意味が分からない。

強く速く持ち上げた右膝は確かにアムグーリの下腹部にめり込んで…なのに攻撃した僕の膝は跳ね返された。初めての痛みと膝の震えからして、入院レベルの怪我をしたことだけは分かって。



「あっ、くく…」


よろけながら後退。右足の踏ん張りが効かない。砂浜だし足への負担が


「おそいよ。よわいよ。だめだよだめ!!」


「っうっう!?」


分かったことがある。

アムグーリは日本語を…現代に合わせた話し方をわずかな時間で完全にマスターした。


ズザザ…!


それと…それと…同じように膝蹴りをされたこと。

恐らく、1度の振り上げで2度も蹴られている。自分から出た声がそう思わせた。


思えば、オヤブンさんと声が重ならない時点でもしかしてと考えるべきだった。

彼がどれだけ強かったのかを。僕じゃない…彼が強かったのだ。



「もうおわり?死ぬよ?」


両手をパーにして親指をこめかみの横に合わせる。そして僕を挑発しながら小刻みに揺れて手を泳がせている。


勝てるとしたら、どんなやり方がいい?



「ぐぅ…左を軸足にして…」



なんとか立つ。

大鎌での攻撃に切り替える。

ソウルブレイクさえ決まれば。それだけを期待して。

転ぶのは前提として、回転切りを当てるつもりでいく。



「アムグーリ…!!!」



「よわむしー!ざこー!ばかー!」



「っ、うおおおおっ!!」


いきなり利き足を入れ替えろというのは無理な話で。

つい右足で踏み切ろうとしてしまう。

足のもつれは攻撃の失敗に繋がる…と思いきや、アムグーリはそんな僕の不格好さに釘付けだった。



「でもあたらない。よわすぎるよ」



「っ!しゃが…」



しゃがまれた。

横の攻撃は縦に回避する。縦の攻撃は横に回避する。凪咲さんに何があっても生き残るためにこれだけは覚えておけと何度も言われていたことだ。

アムグーリは僕の下手くそな鎌の大振りを回避した。

実践で気づくのは、振りのブレ。真横に振ったつもりが少し左上方向に


「それもーらい!」


「わ、」


薙ぎ払うように叩かれて

僕の右手首が


「自分の武器で死ね。だっさいねー!」


取れ、た…?


でも確認する余裕はない。

アムグーリに大鎌を奪われたらゴーストハントは解除されてしまう。

左手で大鎌を


「は…」


微かに感じた寂しさ。その原因は肉眼でしっかりと確認していた。



「びへあ!?重っ!!!」


アムグーリが大鎌を両手で持とうとして失敗。

仰向けで倒れ、大鎌の重みが胸を圧迫している。

元は専用の創造なのだから、対象外の存在の手に渡ると…こうなるのだ。



「今なら」



紙の上に文鎮を置いたように固定されているアムグーリ。これを攻撃チャンスと思えないなら戦闘には向いていないだろう。


ふと右手を確認。よかった。無くなってない。

急いで右手にも手袋を装着し、ジタバタしているアムグーリの両足首を掴んでやった。



「くらえ、アムグーリ」



「よわいくせに!なまい…ひあああああああ!?」



思ったのとは全く違う反応で思わず手を離しそうになった。

僕は今、ジョーカー・グローブに電気を流すよう命じた。

熱しても冷やしても乗り移ったこの肉体にしかまともなダメージを与えられないのではないか。なら電気ならもしかしたら脳とかにもダメージが届いていくらか反応してくれるのではないか?という浅い考えでのことだが…



「もっと!!!」



「んんんんんカラシェトおおおおおおおおお!?」



「うわあああ!!!もっと!!もっと!!」



輝石の効果もあってか、集中すればするほど電力が上がっている気がする。

というか、上がっている。急上昇中だ。手袋がバチバチ鳴っているし、表面上に小さな青白いのが…これ、下手をしたら自分も感電してしまいそうだ。



「このまま…逝け!!アムグーリ!!!」



死ね、とは言い出せず。似たような言葉で自分の中の枷を外す。

まだ感覚は残っている。手加減せず、相手の生命を奪うくらいの攻撃をするなら…しっかりと態度で見せなくてはならない。



「やあああめえええええろおおおおおおおおおおおお!!!!」


「く…!!負けられ…ないのに!!」



アムグーリは大鎌を少し持ち上げて小さく投げ飛ばした。

砂の上に転がった大鎌…ということは、アムグーリを押さえ付けるものが無くなったわけで。





「死ね!!!」



((EXECUTION))




「はう」



ぷつん。糸が切れたみたいに全身から力が抜けて、立っていられず…どうにか左に重心を移動させて横向きに倒れた。

転がって離れようと思ったが、それすらできない。力が入らない。少しも。



「………」



「ふーん。今ので死んだと思ったのに。あー、でも死にそう」



アムグーリの言う通りだ。

力が抜ける瞬間、そのまま死ぬと思った。電源が落ちるみたいに簡単に終わるのかと。

でも生きてる…でも死にそう。

あまりにも力が入らないのだ。つまり、呼吸も……



「おまえ、はやくしねよ。きひひひひひひひ!?」



電気攻撃がよほど効いたらしい。

アムグーリはただでさえ死にそうな僕の口と鼻を手で押さえた。

このままだと、1分も持たない…かもしれない。



輝石も使っているのに、こんなに差があるのか。



悔しいとか仕方ないとか。何も思えない。

強すぎた。アムグーリは、あまりにも。

勝つためには最低でもダンさんとジュリアさんにも来てもらうべきだった。

無理を言ってでも来てもらうべきだった。


弱い…でも速い…心臓が…頑張っているのが分かる。

ラストスパートというやつだ。この頑張りの先で僕が呼吸出来なければ…心臓の活動が止まる。



ニコニコ笑顔のアムグーリを力無く睨みつけて、僕は




「殺すだけなら、簡単なのにね」



「ぶひっ!?」



……アムグーリが…吹っ飛んだ?




「真…」


「………」



塞がれる口。湿りを感じて…口内に押し込まれるのは…息?



「もう少ししたら治ると思うから…ん」


「……」



じ、人工呼吸…!



「自分でも、分かんない、疲れきってる、のに、真が、危ないって、思ったら」



胸の辺りに等しい間隔で衝撃が…苦しい。



「今の私、もしかしてかなり危ない?」


「……」



再び吹き込まれる息。それが終わると僕を見つめながらまた…胸が、あ、苦しい、あ



「待ってね……邪魔」



「えひっ!?」



視界の外でまたアムグーリが吹っ飛んだようだ。

すぐに戻ってこないのは…ただ吹っ飛ばすだけじゃなく何らかの攻撃も



「ん」


「…………んくっ!!」




体が跳ねた。

身近なもので言えば、缶ジュースだ。開けた瞬間のプシュッ!というあれが今僕の体で起こった。

突然可能になった呼吸。酸素を求めて深く速く…



「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」


「ゆっくりでいい。落ち着いて」


首を小さく横に振ってそれは無理だと伝える。



「ゆっくりでいいんだよ。大丈夫だから…」


「はぁ!はむ、ん?ん!!」



これは人工呼吸じゃない。

キスだ。なぜ今?



「落ち着いて…ね?」


「はぁ……はぁ…」


「よしよし。じゃあ交代。覚えてる?アムグーリは肉体を奪い続けると殺せないけど活動は出来にくくなる。つまり、何度も殺せば創造のコスト的に乗り移ることも厳しくなる…私はそう思うよ」


「…な、でも…」


「時間稼ぎは出来るってこと。逃げ帰ってダン達を連れて戻るまでの短い時間でいい。短時間、アムグーリを疲れさせれば」





「生意気言うな。お前らにそんなこと、きょ?」




「ああ…!暑い…」



これは、瞬間移動だ。

簡単にアムグーリの背後に立った彼女の両手には、血塗れの刃が妖しく光っていた。



「ぷぁ、」



すぐにアムグーリの喉と胸から血が噴き出る。

砂浜を汚して、うつ伏せに倒れて。

仕上げに凪咲さんが魔法で背中に着火すると…声もなく大人しくなった。




「なんか寂しいね。良くしてくれた島民も殺さなきゃいけないって思ったら」



「凪咲さん…鍵は、オヤブンさん…です、魂を…」



「もう猫に戻ってる。数日は休ませないと」



「そんな…」



「船が来るまでここで戦う。その後、真とオヤブンを船に預けてもう1回殺して、島を燃やす。一通り命を殺しきってしまえば乗り移る相手もいなくなるしね…」



「だめですよ…」



「いいの。どんなに汚くても、勝てなきゃいけないの。今は」





走ってくる足音が聞こえて、凪咲さんが1発で殺した。

それから少しして、突然魔法で氷柱を空中に生み出したかと思えばそれが高速で飛んでいって…多分また殺した。


向かってきたのは島民なのか。それともアムグーリなのか。


分からないけど…確認することはしない。



満身創痍の4文字で片付かない僕達の状態では、もう余計なことはできない。



だから、







サッ、サッ、サッ…




「にゃーん?」




「…へ?」




猫?

島でのんびり暮らす猫達は明るい時間に何度かチラッと見かけたが…こんな時に自ら近寄ってくるとは。


猫だからか凪咲さんも殺そうとはしない。何かあれば…意見は変わるだろうけど。



甘えるような高めの可愛い声で鳴いて僕の顔の近くに。

体の向きを変えてその猫と見つめあってみると…



「あ、」



眉毛が金色。

白い毛に黒と…限りなく明るい黄色っぽい毛…三毛猫…



「満福ちゃん…?」



「にゃーん、ごろろろ」



幸福を招く満福ちゃん。

凪咲さんのお目当ての猫が。なぜ、今なのか。



「…ありがとう」



「にゃ、にゃ、にゃ、」



犬みたいだ。頬をペロペロと舐めてくる。

次に鼻を擦り付けて嗅がれて…手を近づけても問題ない。

体を撫でてみると、プロの人に手入れをしてもらった後みたいにふわふわでさらさらした毛で…



「…………あれ?」


気づいた。それが本当か確かめるために、


「よいしょっと。あ」



「真?」



「凪咲さん、こっちに来てください」



軽々と立ち上がった僕を見た凪咲さんを呼ぶ。

隣に来た彼女の武器を取り上げ、代わりに



「満福ちゃんを抱いてみてください。正しくは触れさえすればいいんでしょうけど」



「なぁに?…おいでおいで…よしよーし。うふふ。可愛い…ごめんね、私ちょっと手が汚れてるけど抱っこさせてくれる?いい?」


「にゃーん?」


「わぁ…可愛い」



「何か感じませんか?じわーっと」



「…ん。疲労回復…すごい。悪いエネルギーだけ吸い取られてるみたい」


「にゃ、にゃ、」


「あう…可愛いよ…!…おでこ撫で撫でしようねー。うふふふ。きゃぁ…柔らかい…」



敵に塩を送る。そんな行為なのだろうか。

アムグーリが、僕達に万全の状態で来いと言っているような気がして…癒されて嬉しいのに疑ってしまう。



「ねぇ真。世界にはね、言葉が通じなくても協力的な動物っていたりするんだよ?人を襲うかもしれないから危険だって言われる子でも、ほら…どっかの国のお金持ちが虎を飼ったりするでしょ?」



「それとこれ、同じなんでしょうか…」



「少し違うかな。でもこの子の優しさは本物。不思議な力を持ってるって自覚していて、怪我したり疲れたりして休んでる漁師さんとかをこうやって癒して助けてたんだよ。だから幸福を招くってなったんじゃないかな」



「命の恩人…」



「ううん。恩猫。うふふ」



凪咲さんが満福ちゃんを抱っこから解放すると、オヤブンさんの方へトコトコ歩いていった。



「でもオヤブンさん猫に嫌われがちっていう…」



「…でもあの子は違う。絶対助けてくれる」



「あ、」



見てしまった。猫パンチ。

横たわるオヤブンさんの胴体に素早く2発、3発…でも



「ね」



体の毛を舐めている。これならきっとオヤブンさんも復活するだろう。

なぜ最初に殴ったのかは…多分、そういうことだからだろう。

オヤブンさん、苦労してるんだな…。




「アムグーリ…来ませんね」



「待ってるのかも。私達が油断するのを。乗り移る相手が選べるなら帰りの船も危ないもんね。さっきの真みたいに出てこいって呼び出すしかないかな…」





「そうでもないで…!」




「オヤブンさん!!」



「2人とも元気になったんやろ?この猫のおかげで」


「にゃーん!」



「うん」



「膝も元通り。島に来た直後くらい元気です」



「よっしゃ。なら決戦といこうや。こいつが案内してくれるらしいで、あんにゃろうのとこまでな」


「にゃーん!」







………………………………next…→……






邪魔になるので荷物類は崩れたカンパチロウさんの家の影に隠した。

そして満福ちゃんの案内で島を歩く。

西方向…



「晴れの道やろうな。動物でも大事にする場所ってことや」



学校の近くを通ると…歓声がすごい。

スピリチュアル・リンゴ・バンドのライブは上手くいったらしい。



「見て。夜は月の光で照らされて幻想的だよ」



晴れの道。見えてきたその場所はキラキラしていた。

生えている植物の葉や花が蛍光色っぽく光っていて…本当に夢の中にいるみたいに…



「森の中なんですかね」


「また洞窟ちゃうか?」



次に蜂に襲われた時は迷わず凪咲さんになんとかしてもらう。

それだけ心に決めて、晴れの道に踏み込む…と。




「にゃ…にゃ、」



「え、待ってそっちじゃ」


凪咲さんが止めるのも分かる。

満福ちゃんは森の方…東には進まずそのまままっすぐ…最西端から北へ行こうとしていた。



「そっちに何があるんや」




目の前には草のカーテン。

隙間から奥を見れば


「岩と海…だめですよ。止めなきゃ!」



「にゃ」



ガサガサと奥に入っていかれ、人の大きさでは追いつけない。

本格的に止めたいと思った時には姿が見えず…



「そんな…!!凪咲さん!!」


「うん!」



風が背後から吹き抜ける。

数秒間で風量は過剰になり、僕達の髪や服を激しく乱しながら目の前の植物達を荒々しく吹き飛ばした。……ら。



やや下方向に伸びる、石の階段。

階段だ。決して綺麗なものではないが、不揃いな横長の石が明らかな段差を作っている。

階段の先には…



「岩場に…洞窟があります」


「嘘やろ。森の中にあるやつはあれか、偽物っちゅうことか!?」


「潮の満ち引きを考えても多分あの洞窟は常に無事。アムグーリが作ったんだろうね」


「ってことはあの中にアムグーリの何かがあるんちゃうか!」




「にゃーん!」




満福ちゃんが階段を上がって戻ってきた。

しゃがんで迎えると撫でられてくれた。

僕の後は凪咲さんにも近寄り、同じように可愛がられると



「にゃ」



「その…なんや、ありが、びぇっ!!」


オヤブンさんには軽めな猫パンチ。



そしてトコトコと歩いて行ってしまった。




「お礼言うのもアカンのか?どんだけ嫌われとんねんワイは。才能に嫉妬しとんのか?なぁ?」



「はいはい。でも、あの子のおかげで今がある」


「ですね…洞窟の存在に気づけなかったら、きっと誰が挑んでも…」


「きっちりぶっ殺してやろうや。真、今度はヘマしたら許さへんからな」


「ヘマって…僕だって凪咲さんくらい動けたら」


「いいから。準備して。行こうよ」




「お願いします」


「一気にお馴染みになりかけてるな。行くで!!!」


「ゴーストハント!!」




包まれていく。この心強さ…きっと声も重なるし、体を動かすのはオヤブンさんがリードしてくれるだろう。



「「任しとけや。ぶっちぎりで行く!!」」


「ふふ。改めてちゃんと見ると真にゃん可愛い」


「「ま、真にゃん!?」」








………………………………next…→……






島の北西…隠し洞窟。



暗闇の中、すぐそこまで来ている気配を感じ…






「………」



くちゃ、ぐちゃ、…じゅるる




咀嚼を終える。



そして無音のまま内部で生まれた光が内部を一瞬だけ照らす。



そこには、雑に所々を食い荒らされた熊と鳥…12、3歳の子供達。




「喰らって、生きる。喰いつづけて、生きつづける。それが、このアムグーリだけが辿り着ける、答え」




背丈は人間の子供。人間の体をベースにして、足の爪は鳥、手の爪は熊…腹には薄らと熊のものと同じ体毛があり、口がある部分には鋭いクチバシ。


奇形な姿の混人となったアムグーリは、客人を





「きひひひ!」




待っていた。







………………………to be continued…→…


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