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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case3 _ 1番はだあれ?
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第1話「決意」




…………………。



…………………。



ここはどこなんだろう。

見たことのない景色が広がっている。

空は暗い。夜ではないようだが、夕方くらいか。

でも太陽も月も星も見当たらない。都会なら星が見えないのはありがちだが。

…僕はこの空が好きだ。ディープ・ブルーな色のこの空が。

綺麗な海の色をもらったのか、はたまたこの空が海に色を与えたのか。


空に手を伸ばし、ふと足を1歩踏み出すと次は地面に広がる豊かな緑に心を動かされる。

足首の高さまで生えた柔らかな草や花。

どこまでも広がって…おや、ここは丘の上だったのか。

見下ろすと海岸。薄黄色の砂浜が誘ってくる。


困ったな。どれも魅力的だ。

……そうか、草花を集めて枕を作り、砂浜で横になって、波の音を聞きながら、深い青の空を見ていよう。



「はいはい。ちょっと待て」



背後から声がした。

振り返ると、見知らぬ若い男が立っていた。

黒髪…赤黒チェックのシャツ…中にはDevilと書かれた白T…ダメージにも程がある黒のジーンズ…左右で色の違う赤と黒のスニーカー。

…彼と目を合わせると、左目が真っ黒だった。白目が無い。ホラー映画で見るような…。



「もういいか?お前の心の声、筒抜けだからな」



……彼は一体何者なんだろう。



「だよな。そうだよな。じゃあ自己紹介…」


彼は、その場で"空気に文字を書いて"みせた。

空気中にフワフワ浮かぶ炎のように赤い文字は


「だから心の声やめろって。普通に話せるだろ?」


「…ナツノ ナギ」


「そ。凪咲の親父」


「……お父さん」


「お前にお父さんと呼ばれる筋合いは…、お前話を脱線させるの好きなの?」


「いえ…」


「もういいか?説明に移っても」


「説明?」


「ここは精神世界。心の中、頭の中、人によっては"あの世"とか死後の世界とか、走馬灯とか?色んな呼ばれ方してる。まあ間違えのないように表現すると、精神世界が無難だな」


「……それだけ聞くと、僕があなたに会っているこの状況は」


「だろ?もっと焦ったほうがいいって」


「………」


「あー、ごめん。焦れないよな。お前はここに招待された客なんだよ。もちろん呼んだのは俺。で、客をもてなすためにこうやって居心地の良い世界を用意して…聞いてる?感情鈍くない?」


「……すごく落ち着いてます」


「それも俺のせいなんだけどさ…たまーにすんげぇパニック起こすやつとかいるから…無駄話はいっか。座れよ。大事な話だ」


彼と向かい合ったまま草の上に


「分かったから。な。座りました!はい」


「…話というのは」


「俺は凪咲が赤ちゃんだった頃に呪いをかけた。悪いもんじゃなくて、護るためのものなんだけどさ。あいつに何かあった時、あいつに力が必要になった時、あいつが仲間だと思ってる人間の中で1番近い距離にいる1人に俺からこうやって交信することが出来る。この交信の内容は凪咲には知られないし、この世界が存在する間は"外"の時間が止まる。ここまでオッケー?」


「…は、はい」


「お前がここに来たのは、凪咲がお前を信頼してるから。それと、力不足だな」


「っ…!?」


「ん?心当たりある?というかお前誰っていうとこから聞きたいけど」


「僕、僕は…僕は!」


「あー、分かった分かったから。心の声筒抜けにしないから。好きに呟いていいから。ほい」


全て思い出した。

寸前までの記憶を。

僕は凪咲さんをもっと強くしてあげたかったのに、それが出来なかった。

だから、せめて、自分が強くなろうと


「ふーん。良い話じゃん」


「え」


「悪いな。俺に清い心を求めないでくれ。分類的にはダークヒーローだから」


「……力不足には心当たりがあります」


「…お前、誰?」


「あ、…柊木 真です」


「正直者だな。俺だったら偽名使うけど」


「え」


「まあ気にすんな。どうせここで俺とどんだけ仲良くなっても全部ノーカンだから。万が一お前がまたここに来ても俺はまた初めましてで最初の説明からやり直すし」


「それって」


「意識は持ってるけど、それだけだな。記憶を新たに蓄積出来ない。ただ、娘を護るためだけにこの世界を開くだけ」


「……」


「でもな、俺はある意味プロなんだよ。RPGやらせたら右に出るものは嫁以外いない」


「…存じてます」


「だから、この世界が必要になったってことは、俺が相談相手になれるってことでもある」


「……」


「話してみ?全部。お前が普通じゃないと思うことを」


「………あなたや、凪咲さんはネットに投稿された小説の登場人物なんです」


「初手から厳しいなおい。…いいや、続けて」


「僕は…僕の家系は、代々"神の代行"として役目を果たしてきました。代行というのは、世界中の生命の数を調整するっていうか…」


「その気になれば理由もなく大量虐殺しちゃうわけな。ほい、次」


「…代行は他にもいて、その中には力を悪用するのも…あ、力というのは…」




………………………………next…→……





「それで一通り話し終えた感じ?」


「はい」


「なるほどなぁ。凪咲が選ばれたわけか…確かに運命的だよな。絵師がオマケに描いてくれた絵を見てピンときたって」


「……」


「なぁ。ちょっと脱線するけど、それって悪用してナンボじゃないか?」


「え?」


「まだ試してないんだろ?でも絶対好きなだけ金を創造出来るじゃん。小銭でも札でも、金の延べ棒でも。他にも、珍しい動物を創造して売ったり、世界的貢献も出来るよな。絶滅危惧種を創造して保護させれば。富と名声は好きなだけ稼げる」


「あの…」


「しかも。自分の好きな容姿、性格、設定でハーレムも作れるよな。分かるか?その創造の書を使えるってことは、これまで人間が頭抱えて捻り出してきた様々な幸せや願望やチート設定を全部実現出来るんだぞ?」


「……」


「それこそ、小説も漫画もアニメもゲームも映画も、創作物が無に帰る。全部生み出せるんだから。その力を、代行じゃなくて大勢に共有したらどうなる?」


「え、いや、あの」


「お前に足りないのは、考える力。考察力、観察力。そのへん」


「……」


「お前の役割は敵と剣をぶつけてチャンバラすることじゃないんだよ。安全な場所で突っ立って創造の書を使うだけで十分すぎる」


「いや、」


「本だけじゃなくて敵の思考を読め。そして敵の一挙手一投足全てに対して最善の対策を考えて創造しろ」


「……」


「何がクソって、この力はお前だけの物じゃない。敵も同じことが出来るんだ。創造のコストとか成功失敗とかありえないからな。お前がどう思っても、もうお前は戦場に踏み込んだ。今更辞めますは通らない。しかも俺の娘まで巻き込んだんだから」


「……」


「世界中の生命の数を調整する?クソどうでもいい。お前は正義である必要はない。この場合は勝ったやつが正しい」


「……」


「聞いてんのか!代行が役を与えられて軽視してる"生命"ってのは!」


「っ…」


「…クソ。心配になってきた。真。俺を創造しろ」


「え…」


「理論上出来るんだろ?もし先客がいても気にすんな。凪咲を盾にすればどんな俺でも降伏する」


「え?え?」


「いいか。これから、お前の時間で年内ギリギリまで。それまではコストがー非現実的な能力がーとかいう言い訳は許してやる。でもそれ以降は必要な創造は全て成功させろ」


「…あ、あわ…」


「お前さっきからまともに喋れてな…ああもう…頼りない…最後に、1番大切なことだ」


「最後…?」




「俺の、娘を、絶対に、死なせるな!」




「ひゃ…!」


「お前の命より大事にしろ。分かったな」


「…はい」


「声が小さい!」


「はい…」


「てめぇコラ小さいって言ってんだろおうがあ!!」


「っはい!!?」


「……大前提、その過剰読書を凪咲の目を盗んで連発しろ。次に、考察力、観察力な。最終的にジャンケンで相手の手が完全に分かる状態で100連勝しろ。相手は1人じゃなくて道行く別々の人に頼め。分かったか」


「…はい!」


「お前の修行はそれでいい。凪咲は高校の時の体なんだよな。だとしたら…"4人の勇者"を思い出せって伝えろ」


「…分かりました!」


「あと、愛してるって…」


「…必ず」


「もう時間切れだ。…しくじるなよ」


「…はい」



《汝に神をも欺く悪魔の加護があらんことを」



「あ、あ、あ、」


突然の事だった。彼の頭にドス黒い2本の角が生えて、恐ろしく蠢く牙がビッシリと揃う翼が生えて、



《勇敢なる罪人よ、その血を我に捧げよ」



左手には眩しく輝くダイヤモンドで出来た剣、右手には…光を吸収する漆黒で出来た剣…



《死は単なる通過儀礼」



驚いている間に、彼は突っ込んできた。

翼を広げ、低く飛んでの突進。

…僕の、体に、彼の、剣が……



《狂ったっていい。大切なものを守れ」





………………………………next…→……





「ううううわあああああっ!?」



ガバッと起き上がった。

あまりに大きな声で騒いだので、凪咲さんが慌てて飛び起きた。


「真!?」


「……あれ、洗濯中…」


「どうかしたの?ねぇ、何があったの?」


「いや、あの、…あれ?」


…どうやら、"お父さんに会いました。"と言えない。

言おうとすると即座に何を言おうとしたか忘れてしまう。


「襲われた?もしかしてまだ家の中に」


「凪咲さん、凪咲さん!聞いてください」


「うん、聞いてる」


えっと、確か…伝言があったはず。


「……よ、4人の勇者?って分かりますか?」


「4人の勇者?うん。分かるよ。バガ、タロウ、ジミー、シラユキ…私の世界にいた勇者達のこと」


「もしかしたら、凪咲さんが強くなるヒントがあるんじゃないかなって」


「……確かに。私、両親に黙って4人に会いに行ったんだよね。…丁度…高校生の頃に。そっか…ありがとう。やらなきゃいけない事がいっぱいあるよ」


「それは良かったです」


「じゃあ早速…あ、もうご飯作ってたんだね」


「いや、凪咲さんは休んでいてください」


「でももう大丈夫だよ」


「いいんです」


「…ありがとう。じゃあゆっくりしてるね」


「はい。…あ、あと」


「ん?」


もうひとつ彼からの伝言があったのを忘れるところだった。



「愛してる」



「……え?」



「…え。あ、あれ?」


思い出してそのまま声に出してから気づいた。

そのまま伝えたら誤解が生じる。



「そ、その…き、急っていうか…」


「ご、ごめんなさい!つい…」


いや、"つい"も違う。これではフォローにならない。


「いいから。うん。ああ、あ、ありがとう…」


「凪咲さん…」


すみません。凪咲さんのお父さん。

しくじるなよ…とのことですが、早速やってしまいました…。


挙動不審な空気が家中に充満した。



でもこれはいつか、"彼"を創造すれば誤解は解けるはず。


そのために、まずは…



「……ま、まず…は…」



洗濯機の上に置かれている創造の書。

開かれたページの上に、見慣れない金属製の板があった。


「…ま、まさか」


軽く指で叩くとコンコンと軽い音がした。

艶も輝きもない銀色の…。


「じゃあ。下敷きくらいの大きさに…」



「展開!…うぅわ…」



手の中で広がっていく。

ギュルギュルと動いているのを感じる。

3秒ほどで、数倍の…下敷きくらいの大きさに変化した。



「…圧縮!…おぉ…」



ギュルギュルと動く。

すぐに元の大きさまで小さくなった。

魔法の鉄の盾のカード。



「で、で、で、出来たぁっ…!?」






………………………to be continued…→…



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