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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
創造神戦争
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第24話「上陸」





「って、言ってるそばからなにしとんねん!!!」





船に乗るため港に向かい、今は到着寸前。

最寄り駅で降りてから僕は薬局やらコンビニやら100円ショップやら…突然の買い物を始めた。


リュックにはオヤブンさんを隠すスペースも必要になるため、リュックとは別に小さなポーチも買った。


備えあればなんとやら。だ。


僕は絶対と言えるほどに信じていることがある。

それは、"集団移動では必ず誰かが乗り物酔いをする"ということだ。

僕自身がそうだったわけではないが、小学校の頃からバスだの電車だのを使った遠足や社会科見学の際には必ず乗り物酔いでダウンする子がいたのを記憶している。

必ずだ。毎回どこかから…先生、誰々君が気持ち悪いって!と声が上がるのだ。

それがもし自分の近くで起きたら?

すぐ隣で具合を悪くしていたら?

僕は、"伝染"を恐れた。もらって自分もそうなるのを酷く恐れた。

周りからの心配の目のせいで楽しい行事が楽しめなくなるからだ。


だから僕は、備える。


特に今回。船に乗るのは初めてだ。

僕自身がそうなる可能性も考えて。一応。



「真。平気?」


「あ、はい」


「荷物増えたね…」


僕も凪咲さんもそれぞれ背中のリュック1つでどうにかする予定だった。

念のための着替え、タオル、おやつ…それくらいしか持っていくものは無いのだが…。


「満舞島にはコンビニはありませんからね…家から持参できる絆創膏や消毒液の他に、ちゃんとした食料を買っておくのもいいかなって。あと水も」


「酔い止めの薬…エチケット袋…うん。あ、虫除けスプレーは正解だと思う」


「あと凪咲さんには日焼け止めも」


「ふふ。ありがと」


「大荷物で歩くのに邪魔になるのは避けたいですけど、本当はもっと備えておきたいんですよね…」


「猫の餌とか、気を引くおもちゃとか…」


「…ではなくて。やっぱり人間って気にすると止まらないもんなんですよ。この前のお菓子の国問題があってから、影響力の高い創造を色々考えるようになったんです」


「……島ごと変わるかもって心配?」


「それもですけど。単純に、島の飲食物が全て毒入りとかも考えましたし。そういうの以外にもやたら喉が渇く、お腹が空く創造とか。海を荒らして帰れなくするとか」


「島民が半里台の人間だったら、とかね」


「そうです!何が起きても想定内って言えるのが理想です。なので準備を」


「あのなぁ…気に入らんもんは全部ぶっ飛ばしたらええやん。凪咲の嬢ちゃんは魔法が使えるんやで?普通の人間なら突風ひとつで簡単に処理できるしやなぁ」


「んー、僕と凪咲さんで…おにぎりは4…いや、6個あった方が」


「聞けえ!!」





それから10分ほど。


凪咲さんが一緒に考えてくれて整理も手伝ってくれたので荷物はまとまった。


なんだかんだで2人とも両手が空いてるし、オヤブンさんのスペースも問題なし。

島に到着すればオヤブンさんを出せるから更に楽になる。


あとは船に乗るだけだが、




「ーーーーー!」


「オヤブンさん。空気を入れるためにチャックは少しだけ開けておきますけど、大きい声は出さないでくださいね。怪しまれますので」


「あれってスピリチュアル・リンゴ・バンドのファンかな」


「うわ…そうみたいですね」



青と白の横縞模様の壁が目立つ建物。その向こうには海が広がっている。

建物の横には大きな船の姿も。これに乗っていくのだろう。

そして建物の外には若い女性とおじさんの列が。


……うん。何度も確認したが、若い女性とおじさんしかいない。



「凪咲さん?」


「ファン層ってやつだと思いたいけど…曲ちゃんと聞いたことないし。若い女の子達は普通にファンだと思うよ」


「その言い方だと」


「うん。あのおじさん連中の中には…多分ほとんどがファンの女の子目当てだと思う」


だとすれば、基本的にスピリチュアル・リンゴ・バンドは女性に人気ということだろうか。


「ねぇねぇ真」


「なんですか?」


「なんかこの列、船のチケットを買うための列みたいだよ」


「お!ということは」


僕達は並ぶ必要がない。

あのおじさん達に凪咲さんをジロジロ見られたら不快だなと思っていたからこれは朗報だ。

いや、既にいくつかの視線は感じているのだが。




「チケットをお持ちの方はこちらにどうぞー」




列から離れた場所で声をかけてるスタッフ?さんがいる。

建物と同じ青と白の横縞柄のTシャツに英語で多分スタッフと書かれている。


「合ってるよ」


「ありがとうございます。じゃあ僕達はあの人のとこに行けばいいですね」




ん………。



「超楽しみだねー!」「ねー!」




「グッズ買えるかな」「走ったら多分大丈夫だよ」


「おじさんが買ってあげようか?」




「ねえ君。船のチケット代、出してあげるから向こう着いたら一緒に」


「あ、大丈夫でーす」




列の横を抜ける途中、色んな声が聞こえた。

今のとこ、おじさん達の中に純粋なファンはいないみたいだ。

なかなか理解できない。

僕もあれぐらいの年齢になったら若い女性ばかりに目がいって、空気の読めないことをするのだろうか。

……ああはなりたくない。






………………………………next…→……







「おおおお…!!」


「船の中、探検しちゃう?」


「迷惑にならない範囲でぜひ!!」



船に乗り込んだ。

初めてなのもあってつい舞い上がってしまう。

これが船に乗って世界一周…とかのレベルなら、豪華な客室とかもあったのだろうが…この船には個室はない。

あるのは座席と、座席と…


「この階段上がったら遠くまで見渡せると思うよ!こっち!」


「あ、はい!」


どこまで行っても座席だ。

凪咲さんについていくと乗客が利用できる望遠鏡のようなものがいくつか設置されている場所に来れたが、まあ基本は座席ばかりだ。


スタッフの人達も聞こえないように愚痴っていたし…この船は娯楽等についてはあまり考えられておらず、人を運ぶのに特化したものなのだろう。

今日のイベントのためだけに朝から何往復もしているらしいし。



それでもやっぱり、なんか楽しい。

今更になって潮の香りを感じて、どこまでも続く海を見渡して、気づけば両手を広げて風に吹かれて。


「とは言っても、まだ船動いてないんですけどね」


「オヤブン、平気?」


「もう少しだけ開けてくれ…足伸ばしたいんや…ずっとおにぎりに気を使うのは疲れるねん…」


「うふふ。なんか可愛い」


「さすがに出してはあげられませんからね」


凪咲さんが僕のリュックに指を突っ込んでいる。

オヤブンさんをペット感覚で可愛がれるのは多分凪咲さんくらい…いや、あとはサラさんがいた。それでも2人くらいだろう。

それほどまでに声がオジサンなのは魅力的ではない。




「あ。もうそろそろみたいですね」


船と陸を繋ぐ鎖が外された。

乗り込むための橋も…ということはやはり。


「………」


これで、アムグーリがいなければいいのに。



出来ることならただただ楽しみたかった。



そんなことを思っていると、下からいってらっしゃいという見送りの声が聞こえた。


スタッフの人達が手を振ってくれていたので、僕も振り返した。







………………………………next…→……









「おおお…!!おおおお…!!」





船が海の上を滑るように進む。

近い景色を見ている分には全くと言っていいほど変化が無いのだが…それがいい。

船体に沿って生まれる小さな波が僕にはツボなようで。

ずっと見ていられる。


「でも知らない人が見たら、真が海に吐いてるようにも見えるよ?」


「え、そうなんですか!?」


「そんなに下ばかり覗いてたらね」


「だってほら、こんなに綺麗なんです」


「ふふっ。いつか本当に綺麗な海を見に行こうね。そしたら見たことない真が見れる気がする」


本当に綺麗な海。

僕が見ている海は…そこまでなのだろうか。





「キモい。ついて来んな!」




声が上がった。

僕と凪咲さんは互いに目を合わせてから声の方へ移動した。

船内で女性と…おじさんが揉めている。



「マジで警察に通報するから」


「さっきから聞いてれば!人の善意をなんだと思ってる!?優しく声をかけてやったら、キモい?そんな格好してるお前はなんなんだ!親が見たらなんて思う!?男に媚び売ってる売春婦みたいじゃないか!」


「キモいキモいキモい…」



どう見ても絡んできたおじさんの方が悪いように思う。

なぜなら、こうして揉めている最中も女性の足やら胸やらをガン見しているからだ。

なんて分かりやすい視線移動だろうか。



「でも助けに入るなら気をつけないとね。スマホ向けてる人がいる」


「……」


「魔法使えば簡単に解決できるけど、見えていいものじゃないし。話し合いに持っていくにはあのおじさんは理性が足りないし」


「………凪咲さん、もしかしたら、もしかするかもしれません」


「何かアイデアあるの?」


「きっと凪咲さんは僕より視力いいでしょうから…お願いします。あのおじさんの…頭を…頭の上を…」


「え?」



船内とはいえ、外と中を繋ぐ扉が開いている状況では外から風が入ってくる。

その風がおじさんの…髪を…不自然に揺らして抜けていっている気がしてならない。

その不自然さは、頭頂部だけ風に負けずカサカサ揺れるだけ…というもので。

短髪ならまだしも…あのおじさんはそこそこもっさりした髪型だ。

頭頂部以外は風に吹かれて相応の揺れを見せている。

うーん…やっぱり、怪しい。



「真って意外と悪い子かもね」


「当たりですか?」


「うん。この距離なら問題ない。風魔法でイタズラしちゃう?」


「あ、外すくらいにしてくださいね。吹き飛ばして海に落ちたら今度はあのおじさんが可哀想なので」


「はーい。ふふ、」




ヒュッ。




不自然にひとつの風が生まれ、おじさんの背後から頭部を優しく撃つ。


そして僕の予想に対する答え合わせは。




「うわ、」


「うはっ、キモい!ズラ取れた!!」


「ちょ!おおい!しまっ!ああ!」



おじさんの髪の毛が"剥がれた"。

カツラが紙をめくるように外れて、おじさんの頭と分離。…そのまま風に乗って…え?



「凪咲さん」


「私は外しただけだよ。……風吹いてるから?」


「え」


外から吹いてる自然の風がやったというのか。

おじさんは慌ててその黒い塊を追うが、その手は1度も触れることはなく。


「落ちましたね」


「落ちちゃったね…海に落ちたカツラってどうなるんだろう…」





それから船を降りるまで1度も、そのおじさんを見かけることはなかった。


でも僕達は特に罪悪感とかは…感じないまま楽しく"航海"をした。







………………………………next…→……






「船長!着きました!」


「よーし、野郎ども!錨を下ろせー!」


「アイアイサー!」



到着直後の僕達は子供のようにはしゃいでいた。


凪咲さんの周りには、"海賊"をしている女性がいる。

それもあって船上で突然彼女の物真似を始めた凪咲さんはキャプテン・ナギサと呼んでもいいほどの海賊っぷりで。


「うふふ。まだやる?」


「いえ、もう陸に上がったので大丈夫です。帰りの時に覚えてたらまたやりましょう」


「うん」




小さなトラブルもあったが、満舞島に無事到着した。

もし代行が船を沈めようとしてきたらどうしよう、なんて考えてもいたが…よかった。



「出してくれー…吐くでー…もう限界や…」



いや、やっぱりよくない。

弱々しく助けを求めるオヤブンさんを慌ててリュックから取り出すと、ヘロヘロになっていて…すぐ横になった。


「船酔いや…」


「え。本当ですか?」


「ヒゲも元気ないね。しばらく休んでから行こうか。どうせ私達はあれが目的ってわけじゃないし」


「…ですね」



船を降りた女性達は全員が全力疾走。

一方でおじさん達は体力的な問題か小走りだったり…諦めて歩く人もいれば、なぜか走っていく女性達をスマホで撮影してる人もいる。




「実際遠いですけど、なんか遠いとこに来たなって感じしますよね」


「言いたいことはわかるよ。島の9割が自然だもん。人が住んでるって聞いても信じられないくらい。本当にこんな場所で音楽イベントをやるのかな…」



現在地は船着き場。

ここから見て…手前に建物がいくつか。車は走っていない。だからか道路も特にない。

ざっと島の左の方に目を向ければ、恐らくこの島で1番大きい建物がある。

…それくらいしか目立つものはない。


「オヤブン水飲む?」


「頼む…キンキンに冷えてるやつを…」


「冷えてるのがいい?そっか」



パキパキパキッ。


「凪咲さん、何してるんですか?」


「ペットボトルごと魔法で凍らせたの。で、このままだと中の水も凍ってるから…炎魔法でちょうどよくなるまで…はい。できあがり」


ちょうどよくなるまで冷やせばいいのでは?

とは思ったものの、オヤブンさんを見るとこれで正解だったように思う。


「おお…シャリシャリしとる…なぁ、ちょっと体にかけてくれ」


「いいよ。はい」


「んぎにゃあ!?」


「うふふ。オヤブンがお願いしてきたんだからね?」


「ええねん。大丈夫や。助かった。ふぅ!」


ぶるっと体を震わせながら起き上がったオヤブンさん。

元気を取り戻したようだ。



「真。帰る時までには荷物減らしといてくれ。頼むで」


「あ、はい。わかりました」



ふと時刻を確認するためにスマホを取り出した。


もうすぐ14時?


「思ったより時間が経つのが早い…」


「それより。ここ圏外だよ」


「…ですね」


電話も使えないのか。この島は。

まさか電気も?ガスは?

自分にとって当たり前すぎることが、この島では通用しないのか。

心配事が尽きない。



「じゃあ……聞き込みから始める?」


「聞き込みですか?」


「うん。黒神様の時みたいに。ね?」


「ですね。家も少ないですし、1時間もあれば全部回れるかもしれません」


「ほな、出発やな…とと」


「オヤブンさん大丈夫ですか?」


「その手には乗らん!しばらくリュックは嫌や!」


「肩を差し出そうと思ったんですけど」


「…ほんなら乗るわ」


「どうぞ」


右手を出すとオヤブンさんが飛び乗って登ってくる。

まあまあ重いが短時間なら全然許せる。


「なんか2人すごく仲良しに見えるよ。いいなぁ」


「仲良しって…」


「まあワイらは一緒に戦った仲やしな」


「あ。ちなみに凪咲さんとオヤブンさんでゴーストハントって」


「無理やな」


「えっ、即答なの…?」


「ちょっと!凪咲さんが悲しそうな顔してるじゃないですか!」


「事実なんやからしょうがないやろ。ワイは代行に装備される武器になれるんやから。凪咲の嬢ちゃんがワイを装備したいんやったら代行になるしかないで」


「…真、創造の書」


「ダメですよ!」


もし可能だったらめちゃくちゃ強かったんじゃないか。

そんな想像が脳内で盛り上がる。



その時だった。





「おめえ達、よそ者だな」




話しかけてきたのは、この島に住む人だろう。

60手前くらいの細身で小柄な男性だ。

小麦色に焼けた肌…というには焼けすぎだ。焦げ茶色の中でもさらに深い色合いの肌で、腕には細かい傷がいくつもある。

着ている服はTシャツ短パン。数年着回している僕の部屋着よりも劣化が激しい。





「何百人も俺たちが島に乗り込んで来ぃて、どんでしゃ?」



「ど、どん?…あの、すいません。なんて言ったのか…」


「多分何しに来たんだって聞いてるんだよ。突然人がいっぱい来て驚いてるんだと思う」



「そごの女っぴはよが分かってりに」



「…っぴ」


「真。知らない言語だとしても話を聞こうとする意思を持つの。そしたら、少しくらい何か伝わってくるから」


「それは勘と何が違うんです?」



「……」


男性は頬をポリポリと指で掻くと


「おめえ達、名前は」



「これは聞き取れます」


「こっちは私の彼。柊木 真。私はなつ…柊木 凪咲」


「っ、」



「おめえが真、おめえが凪咲か。俺はカンパチロウ。ウイジマノカンパチロウ」



すごい名前だ。まるでオヤブンさんがしりとりで嘘の名前を出してる時みたいな



「カンパチロウさん。私達は島の観光に来ました。今日来た人のほとんどはこのスピリチュアル・リンゴ・バンドってバンドの…催し物を見に来たんです」


凪咲さんが会話をリードする。


「………」


カンパチロウさんは少し黙ってから


「おめえ達に合わせて話すのは大変だ、ゆっくり話せ」


失礼ながら上手に話したなと思った。

そうか、方言というか訛りを取り除くために考えてくれていたのか。

僕達のために。




「……家、来い。茶か酒でも飲め。それで話を聞かせろ」



「行こっか。真」


「あ、はい!お願いします」



いつの間にか笑顔になっていたカンパチロウさん。

意外と歓迎されているのだろうか。

僕達はそのまま彼についていくことにした。








………………………to be continued…→…


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