第21話「終わらない問題」
なに、なぜ、なんで、どうして、秒以下の短い感覚で疑問が浮かんでは掻き消されていく。
全ては僕達の叫び声によって。
「「絶対離したらあかん!離すな!絶対やで!フリちゃうで!!」」
オヤブンさんはとにかく鎌を離さないよう引き寄せる。
…見える範囲は全て空…いや、逆さの向きになれば
「「そんな暇ない!!」」
それでも。
「「この馬鹿ぁぁぁぁ…あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
お菓子の国が崩壊したらしい。
菓子に変わった建物達が元の姿を見せて、チョコレートの道路も元の真っ黒いアスファルトに。
………思ったより自分達が"低い"とこから落ちていると、今気づいた。
「「だから言ったやんけええええあああああああああ!!!」」
心臓がバクバク…地面が近づくほど、頭が真っ白になっていく。
ただ、前回とは違う。
「「何がや!!」」
凪咲さんから着信があったということは、凪咲さんも元通りになったということ。
なら、空を見上げてくれれば僕達に気づくはず。
「「そうであってくれええええ!!」」
………。
………。
「「まだか!」」
……。
あ、
「「もうビルより下やああ!死ぬうううううううううううう!!!」」
あのビルが何階建てなのか分からない。
でも、飛び降り自殺というのは、しない方がいい。
飛び降りてしまったら、やっぱりやめたなんて、言えないのだ。
「「くっそおおおおおおおおおおおおお!!」」
最後の悪あがき。
オヤブンさんが鎌を構えて、タイミングを待っている。
何をするつもりか分からないがこの落下速度では…
「「やるしかないやろおおお!!」」
「ハリケーン・ブラスト」
「「ひぃぇごっ!?」」
苦しい。
呼吸が出来ないほどの風が僕達を襲った。
横から割り込んで、下から上に…風が…ん?
「「わヒィえほおあああ」」
落下速度が…ゆっくりに…あ、
「「フィひえはああ…口が渇いた…あかん…」」
ゆっくり。そーっと、風が通り過ぎて。
僕達は道路の上に無事着地できた。
うつ伏せで、ぜえ…はあ…と息を乱して。
歩いてくる彼女を…ただ見ていた。
「ねぇ…大丈夫?」
「「凪咲の嬢ちゃん…」」
「真?何その格好…」
「「あぁ…あ?そうやな、もうええか…」」
鎌から手を離すと、ピリピリと体から何かが引き剥がされるような感じがした。
ゴーストハントが解除され、着ていた服に戻った。
「ええ!?オヤブン!?どういうこと!?サラのでしょ?今の…え?」
「状況が状況で…喋るのだるいわ…み、みず…くれ…」
「凪咲さん…!うぐっ!?」
急いで立ち上がろうとしたら背中が痛くてバランスを崩した。
あの時の女王の攻撃は防げたはずなのに。
「真…」
立ち上がるために手を借りて、立ち上がる…が、なぜか足もプルプル震えてしまう。
これでは生まれたての小鹿みたいではないか。
「ワイも抱っこしてくれ…疲れた…」
話は後。ということで凪咲さんは僕を支えつつオヤブンさんを抱っこして…なんとかこの場から立ち去った。
元に戻った街も人も…何かが起きたことは分かるが何があったのかは分からず…しばらく落ち着かなかった。
………………………………next…→……
駅前。広場のベンチ。
凪咲さんが自販機で水を買ってきてくれて。
「んががががが…」
「んっ、んっ…んっ、」
僕とオヤブンさんはそれを一気に飲み干した。
僕はともかく、オヤブンさんは器用に前足でペットボトルを支えて傾きを調整している。
舌で掬って飲むのではなく、人間同様のがぶ飲み。…初めて見た。
マンチカンみたいに立っているのもまた…本当に、声がおじさんというのが悔やまれる。
「ごめんね真。私追いかけようとしたんだよ?」
「っ…はぁ…!!……知ってます。覗きの指輪で見ました」
「え?」
「凪咲さんはミナという女の子と…多分、ミスネを目撃したんですよね?」
「うん…」
「細かいことは帰ってから話すのがええんちゃうか?真は今それどころやないねん。なあ?」
「どうかしたの?」
「え、え?」
「そりゃあもう…凪咲の嬢ちゃんが菓子に変わったのを見た時から…なあ?」
「でもあれは防げた。錬金術ですぐに体を覆ったから」
「え!?」「ほんまか!?」
じゃあなんで、と僕達が聞く前に凪咲さんは続けた。
「創造の力に押し負けたって言えばいいのかな。錬金術を解除して出ようって思ったんだけどなんかガチガチに固まっちゃって…それで結局動けなくなっちゃった。でも、多分真が私のとこまで来たのは分かる。声が聞こえた気がする」
「一緒にいたワイの身にもなってくれ。鬼の形相で女王を殺すって真はブチギレとったんやで?連続殺人鬼よりもあかん顔しとったんや…もう、こんなや!ごろす…ごろす…ごろすぅ…って!」
「僕そんなに…いや、話盛ってませんか!?」
「私が動けない間…大変、だったんだね」
「凪咲さん…大変でしたけど、でももう、ほら、終わりましたから」
「そうか?ならミスネはどこ行ったんや。ワイらと戦う感じやったのに気づけばポーンてお空に放り出されてたんやで?」
「それは…」
「終の解放者が関係してたってこと?…でも、外国人の代行は?地震の…」
「それなら…まぁ、多分、死んだやろ」
「曖昧…」
「他にも外国人の代行がおったんや数人が城を目指してなぁ。危険な状態やったな。なあ?」
「はい」
「何人も集まってたってことだよね。大人数になったら…そうだよね。誰がどうなったかなんて」
「お?」
オヤブンさんが遠くを見ている。
何事かと目線の先を追うと…
「…ミスネ…!!」
「こっち見てる。人の群れの中で。隠れてるつもり?」
「手は出してこんやろ。凪咲の嬢ちゃんがおるって分かればこっちの戦力に変化があったと…理解できるよな?あいつ馬鹿ちゃうよな?」
「さ、さぁ…?」
「私、行こうか」
「ダメです!僕のそばにいてください!」
「え?…うん」
「なんや。その告白みたいなんは」
「こっ、告白じゃないですよ!だって僕もオヤブンさんもかなり疲れてますし凪咲さんがいてくれないともしもの時に何も…え?僕変なこと言いました!?」
「ちょいと早口やな。2人して顔赤くなってるで?」
「もう。それどころじゃないでしょ?…真、怪我した?」
「そうそう。お前女王に槍で背中やられたやろ?グサって。言うほど血出てへんな。赤いけど」
「え。血出てますか?」
「見せて。……うん…激しめに擦りむいたって感じ」
「輝石で背中を守ったんですけど…頭と2択だったから結構賭けの要素が」
「ごめんね。私がいなくて」
「だ、大丈夫ですよ!いや…大丈夫じゃなかったんですけど、でも、その、謝ることは」
「困ったな。ミスネのやつ、あんなんストーカーやん。ずっとワイらのこと見てるで」
「……」「……」
ただ、僕達を見ている。直立したまま。
それだけなのに、すごく不快だ。
「移動はあかんな。もう少しここで休んで、あいつを追いかけ回した方がええ。どうやら向こうはチャンスを待ってるみたいやからな」
そんなぁ。もう帰りたいのに。休みたいのに。
なんて言えるわけがない。
これこそ、代行同士の争いなのだ。
いつどこでどう始まるかも分からない殺し合い。
今戦ったばかりだからまた今度にしようなんて意見が通るわけがない。
「…お腹空いてる?私買ってくるよ」
「あかん。真が言った通り離れるな」
「でも空いてはいますよね。しょっぱいものが欲しい気がしますし」
「忘れるんや。腹が減ったことを」
「そんな無茶な」
「じゃあ違う話しよ。ずっと気になってたんだけど…なんでさっき真とオヤブンが…ほら」
「ゴーストハントはサラさんのですよね。確かにそれは僕も思いましたよ」
2人の視線を受けてオヤブンさんは。
「そんな目で見るなや。ワイは天才や。それだけのことやで」
「だからって…ピッタリ似合ってたよ?黒猫姿の真」
「なんか照れ恥ずかしいんですけど。その言い方は」
「まあ正直に言うと成功するかは五分五分やった。ただ、真が相手ならいけると思ったんや」
「どうしてですか?」
「そりゃまあ、サラのヒーローやからな。話によればサラの創造の書を最初に使ったんやろ?」
「…あ、」
あの時も。ミスネが関わっていた。
「だからなんとなくな。お前とならやれるって思ってん」
「…ああ、そうだ。凪咲さん。オヤブンさんとしりとりしてみてくださいよ」
「何急に。しりとり?」
「にゃはーん。ええで?じゃあ最初はしりとりの"り"からや」
2人に会話を振って、僕はミスネに注目した。
目が合ってる気がする。
いつまでああしているつもりなのだろう。
やはり僕達を狙っている…のか。
「じゃあ、ウイジマノカンパチロウ」
「海」
「ミコトノヤマイチクロウ」
「臼」
「す、す、…スリガマチチョウジロウ」
「うさぎ」
「ぎ…?…ぎ、ギクマルシンイチロウ」
「ウミガメ」
「め…め…め…」
あれ?オヤブンさん?
「め、メノウシマサブロウ」
「馬」
「……ま、ま、ま、まいける…あかん、ま…」
なぜ架空の名前を出すだけなのに押されているのか。
「あ!マンダコウイチロウ!!」
「烏骨鶏」
「うこっ!?…い、い、………降参や…」
「なんでですか!!」
「凪咲の嬢ちゃん、さっきから即答してくんねん。少しも考えんとシュバって答えるんやで?ワイに余裕がなくなるわ!」
「でも架空の名前ですよね!?なんちゃらロウって付けとけば永遠に負けずに"う"攻めができるって」
「ズルしてたのは分かったけど、オヤブンもまだまだだね」
「にゃ…くそぉ…」
「あの」
「あ?」「なに?」
突然声をかけられ、威圧的に反応するオヤブンさんと凪咲さん。
…若い男の人が…ちょっと困り顔で立っていた。
「すみません。よく分からないんですけど、なんかこれを渡せって言われて」
「え?」
………ミスネが、いない。
「紙?オヤブン読む?」
「…っ、にゃー?」
今更猫のふりを…はともかく。
凪咲さんが男の人から紙を受け取った。
「お前達はもう許されない。滅びるがいい…ミスネからだね」
「あの、じゃあこれで…!」
男の人が歩いていくのをしばらく全員で見ていた。
まさか変装しているなんてことは…なかった。
「続きがあるよ。今夜からお前達は眠ることも出来ないだろう。常に、見ているぞ。どこに居ても。隠れても。闇から見ているぞ。…ストーカー宣言だね。ねえ見て、意外と字が綺麗」
「凪咲さん、字が綺麗なんてどうでもいいですよ」
………なんとなく。
ミスネが近くにいる気がする。
見られている気がする。
さっきまでずっと離れた場所で立っていたのは、ずっと僕達を見ていたのは。
「意識させた…」
怖い映画に影響されてトイレに行けなくなる感覚に似ている。
もし、出てきたら。その"もし"を強く意識させることで
「だから何?」
「へ、」
「本当に見てるんならこんな紙渡さないでしょ。真みたいにピュアな人には効果あるかもしれないけど」
「こんなんでビビるやつおるんか?…あ、そういや真お前さっきも変な女にビビっとったな?」
「え、いや、……え?」
凪咲さん達が見せる余裕は、一体どこから…?
………………………………next…→……
「情けなぁい。それでそのまま帰ってきちゃったの?」
建築中の高層ビル。人のいない階層の暗闇。
未炎駅を遠くに見つめながらフリーカは呆れていた。
「まだその時ではない。それだけのことだ。種は撒いた。恐怖が芽生え、互いを疑い、自信を失い、美味しく実ったその時こそ」
「怖がるわけないじゃない。彼らはあなたよりよっぽど強いのよ?…ミスネ」
「何をっ!!」
「あぁら。分からないようなら教えてあげましょうか?別にあなたを殺してもそんなに問題にはならないんだから」
「フリーカ。貴様…」
「お遊びは無用よ?自分の力を証明したいのなら、ちゃあんと結果を出しなさい」
ピッ!
苛立つミスネに何かを飛ばす。
「っ!!…なんだこれは」
「とっても迷惑だったけど、悪くない創造だったわ…お菓子の国。だから、今度は何をしても問題ない場所でやりなさい」
特別招待券
スピリチュアル・リンゴ・バンドwithミッチョオfromアルティメットヘルメット
夏は愛ランド!1度きりのバケーションフェス!〜もりもり山盛り〜
19時開演
「………」
「馬鹿ね。それの会場は離島よ。船で行かないといけないの。分かる?逃げられない場所におびき寄せてからとっても刺激的な創造をするの…」
「っく、あいつらが来る保証は!」
「来るわよ……」
「なぜ分かる!」
「なぜ?うふふふふふふ………絶対来る。だってぇ……島には言い伝えがあるんだから」
「アムグーリの、言い伝えが…うふふふふ…!」
………………………to be continued…→…
 




