第18話「女王の間」
「はぁっ…はぁ…っ、まだ…?」
アンバーは今、
「階段多すぎ。これならエレベーターくらい用意…うわ、また階段…」
18→19
階段横の壁には現在と次の階が示されている。
「あぁっ、もう!やってやるよ!!」
今更戻るのも大変。
アンバーは自分に言い聞かせて足を動かす。
「この城、階段が、ほとんどだし、人間も、使者も、いない。しかも、たまに、階段が、違う、場所に、あるし、」
19階に到着。しかし近くに階段は無い。
「外が見えないからずっと同じ光景で…はぁ…はぁ…」
精神的にも肉体的にも疲労が見えてくる。
「喉も乾く…強い酒が飲みたい…」
ダラダラと廊下を進む。
部屋数は多くない。1つの階に2、3あるかどうかだ。
相変わらず内装は豪華なのだが、城に入った直後に比べれば感動は薄い。
「ん。…?」
立ち止まる。
廊下の左側にある部屋。その扉の前でアンバーは
「…金の匂いがする」
カチャ。
鍵はかかっていない。扉を開けて中に入ると、勘に従ってよかったとアンバーは笑顔になった。
「ビンゴ!城の宝物庫ってとこ…?じゃあさっそく」
棚には高級そうな食器が並べられ、引き出しを開ければ指輪などのアクセサリー。
壁には色鮮やかな宝石が大量に使用された剣が飾られている。
「日本人は財産を貯め込んで独り占めするのが多いって聞いたことあるけどまさかここまでとはね。盗み放題…!ハッピーバースデー、アンバー…!!」
正確には誕生日は2ヵ月先だが、アンバーは大喜びで部屋中を漁る。
「よーし。これ全部持って帰れば…ボスの座もいただきかも」
((READ))
黄色い光が部屋をさらに明るくする。
そして現れたのは。
「パーフェクトセーフティ。カルロス達にも見せなかったもうひとつの創造。この金庫の中に物を入れればもう他の誰かに盗られることはない…」
ガチャン、ガチャ、ギイイイ…
創造した金庫のロックを解除し扉を開けると、片っ端から部屋の物を入れていく。
「容量は無限。金庫の中がどうなってるのか知らないけど。言えば欲しいものは出せるし…そうだ!日本に来る前に高そうなワイン盗ったんだった。ねぇ、ワイン出して」
金庫に話しかけて手を入れると
「あったあった。あー、喉乾いてたから助かる…」
開封し、直接口をつけてボトルを傾け…ゴクゴクと喉を鳴らす。
「……っあ"ぁ…!意外といけるじゃん…っ……さっ、残りもぜーんぶ、もらわなきゃね」
………………………………next…→……
ヒュンッ!!
鋭い音。
「速くても、見えなくても、」
避けられる。しゃがむという動作は本当に便利だ。
姿勢を低くしてテーブルの下へ転がり、攻撃を誘う。
これも、凪咲さんに教えてもらった。
大きな武器は扱いが難しい…特に、そこまで広くない室内では。
「ゥイイイ!!」
ガッ!!!
案の定。テーブルの上から鎌を振り下ろしてきた。
鋭くカーブした刃が目の前に…これは少し驚いたが、
「ンッ!取れナイ!!」
深く入りすぎた刃がテーブルに引っかかる。そう簡単には抜けないだろう。
これで、こちらが攻撃する番になった。
テーブルの下から出て、椅子に片足を乗せて今度はテーブルの上に乗る。
足の感覚と体重移動を意識することでこれらの動きを滑らかに…
「ジョーカー・グローブ」
ビリリッ!!
攻撃する前から電気が発生している。
熱くしようと考えていたが、いいだろう。ここは電気で…
「まずは両手」
今後の攻撃を封じる。
ジョーカーが攻撃するために…武器を振り回すのに必要な両手を
「オッ」「奪う」
なかなか抜けない鎌を持つ両手…その手首を掴んだ。
ガタガタとテーブルが揺れる。並べられた食器類も揺れて少々うるさい。
その揺れの原因、ジョーカーは激しく身を震わせて電気を全身で味わっている。
このまま流し続けてもいいのだが、
「もうそろそろ……」
今度は冷やす。一気に。手首ではなく、首を。
両手をジョーカーの首に。
そして雑巾を絞るみたいに両手を内側に回転させる。息が苦しそうだ。
「使者だから?」
不思議と罪悪感は…ない。
遠慮することなく力が入る。
ググッと絞りきった感触が手に返ってきて、このタイミングでグローブが冷たくなる。
「ッ…っ、っ!……ッ!」
「体は麻痺して動けない。息も苦しい。そして一気に冷やして…」
ジョーカーは耐えることが、
「ッ!ッ!…っ…!」
出来ない。
呼吸が出来ず、体も動かせず、体温も失う。
派手な攻撃技が無くてもこうして追い詰めることができて、
「殺せる」
ジョーカーと目が合う。
顔が痙攣して…それでも笑おうとしている。
だからなんだ?怖いとは思わない。
死ぬのは、お前だ。
「ふっ…ん!!」
ゴリッ。そんな感触だった。
ジョーカーの頭が力無く後ろに垂れる。
…手を離すと、そのまま体も倒れた。
「…や、やったんか…?」
「首を絞めていたはずが、折ってしまった…のかな、と」
「ホンマか…!」
オヤブンさんもテーブルの上に乗ってきた。マナーも何もあったもんじゃない。
「息…してへんな…」
ジョーカーの首をふにふにと前足で押して確かめている。
「なんや真、お前いつから力持ちになったんや」
「……オヤブンさん。どいて」
「ん?んにゃぎぃ!?」
足下にジョーカーの草刈り鎌が落ちていた。なので、つい。
グジャ。
「よっと」
グジャ。
「お、おい…」
ジョーカーに恨みがあるわけではないが、死を確実なものにするために。
「凪咲の嬢ちゃんには見せられへん…」
数回胸の深くまで刃を沈めたあと、首を刈った。
…勝った。しかも、大して苦労せずに。
戦えていた。僕は戦って勝った。勝利したのだ。
「こんなものなんだ…」
「…真?大丈夫か?」
ガチャ。
「これで部屋から出られますね。行きましょうか」
「お、おう」
ジョーカーに興味が無くなった瞬間、体が薄くなって消えはじめた。
消えて無くなる…存在ごと。
「もうこの使者に驚かされることもない」
「ほ、ほな…行こか」
ドアはいくつかあるが、音からして開けられるようになったのは1つだけ。
それが少し怪しいが
「とにかく上に行かな……いと」
驚いた。
「これ…あれやんな?えっと…何やったっけ…ほら、あの…」
「エレベーター」
「そう!エレベーターや!…ってなんでやねん!!」
ドアを開けたらエレベーターだった。
無警戒で乗り込むと
「ホンマに乗るんか?罠ちゃう?上に参りますと見せかけて下にひゅーーって」
「いいから乗ってください」
「……」
改めて。
中から見て右側にボタンがある。
1階から…へえ、21階まで。
迷わず21を押してみるが
「ボタンは光ってるやんな。…動かへんで?」
「ドアを閉めれば」
…カチャ。………ガタン!
「おおぁっ!?」
動いた。オヤブンさんはエレベーターが苦手なのか、足にしがみついてきた。
「なんや!喋れ!ワイが乗ったやつは喋るんやで!?上に参りますとか下に参りますとか扉に挟まると危険ですのでなんたらかんたら…とか!」
エレベーターは順調に、上に向かっている。
「ひ、ひぃ!?」
………………………………next…→……
21階。
女王の間。
高い天井。そして高い位置にスペード、ハート、ダイヤそれぞれのマークが描かれた大きな旗が飾られている。
入り口から奥まで緑の絨毯が続いていて、最奥には大きな玉座。
「で?」
一番乗りしたアンバーは自慢の武器"ウォー"を片手に、声をかけた。
「お前がこんな馬鹿なことをした張本人?」
「……あなたは…そう。このお城に招待されたのですね?」
玉座を離れ、アンバーの方へ歩み寄ってくる1人の大人の女性。
深緑色のドレスは女性の体の美しさを自然にアピールしている。
そして、その細い体には似合わない大きな槍を右手に持っていた。
「……」
アンバーは冷静に部屋を見回す。
間違いなく戦闘になる。ならば今のうちに使えそうなものを探しておこうと考えたのだ。
が、見つけたのは隅に置かれた謎の機械が数台のみ。
あの槍とやりあうには
「カルロスがいたら楽勝だったのに…」
最悪、椅子などを投げつけるか。
突きを誘ってその隙に。
雑ながら作戦を立てたアンバーは
「来な。もう宝はもらった。お前を殺したら国に帰ってしばらく遊んで暮らしてやる!」
手招きして挑発。すると
「ええ。そのつもりです」
アンバーの耳元でそう聞こえた。
「、、、え?」
振り絞るように出た短い声。
振り向けば、女性はそこに立っていた。
「クラブの女王、クラブ・ミナ」
「…………女………王」
グリュん。
お腹が、捻じれて、痛い。
そう思っても、アンバーはなかなか確認しようとはしなかった。
もう遅いと、分かっていた。
「ここまでわざわざご苦労様。おかげで体はこんなに成長して、美しくなりました」
「…ぁ…………」
「スペード、ハート、ダイヤ…王子達の死は無駄にはならないのです」
ズルズルと"中"が引っ張られている。
アンバーは、女王と目を合わせながらも視界に入ったそれを見てしまった。ほんの少し、目が潤んだ。
持っていた槍が、血に染まっている。
しかし…悲しく思ったのは、自分の血が思っていたより汚かったことだった。
「安らかな死を。おやすみなさい」
アンバーの死体をその場に放置し、クラブの女王は玉座へと戻った。
「ジョーカーも…」
女王の体が光を放つ。
「これが、力。望んで手に入れた、生きるための力」
ハートの形をした小さな胸当てと、ダイヤの形をした縦に長い盾が出現。
それらを手に取り装備する。
「あなた達の死が、この体を…心を強くしたのです。あなた達の愛が、戦うための力になるのです」
槍の持ち手のスペードのマークをそっと撫でて、持ち直す。
そして、女王の間に踏み込んできた新たな訪問者へと目を向ける。
「…あなたがジョーカーを殺した、招かれざるお客様ですね?」
女王は、若い男に話しかけ…彼の隣でこちらを睨む黒猫に目を向けた。
「…不吉」
それだけ呟いて立ち上がる。
「あなた達に、死を贈ります」
………………………to be continued…→…




