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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case2 _ ヒーローはなるものじゃない
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第5話「僕にだって、出来る」




簡単だった。

人間の腕は、簡単に切り落とせてしまうのだ。

ボトッ…地面に落下した腕に、続けて上から血が降りかかり赤く染める。

脇と肩の血肉が露出しひたすらに血が飛び出る。


凪咲さんがそれを見て僕の隣まで急いで戻ってきた。


動きが止まり、ゆっくりと傷口に目を向けるゴールド・キングレオ。

常に血が垂れ流しになり、時々ビュッと勢いよく飛ぶ。

足下の血溜まりが拡大していくのを見てようやく。


「王の…腕を…」


「へぇ。普段から良いもん食って健康的な生活してたんだなー。良い血じゃん」


「……」


「まだやるか?ならこのまま俺が相手してやるよ。どうせなら"強大な悪"をぶっ倒した方がお前も気分いいだろ?」


「……」


キングレオの動きを見れば分かる。

呼吸が荒い。上半身全体で呼吸している。

右腕を失った衝撃、簡単に失われていく自分の血液を見た衝撃、血が減ったことによる脱力、目の前の赤髪の女性に勝てるかどうか…。


今の彼の心境は、察したくないし今後知りたいとも思わない。

でも、似たものを僕は知っている。


「絶望…」




しばらく無言が続くと、ゴールド・キングレオのアーマーが消滅した。

シュワシュワと粒子になって、アーマーだけが消えてなくなるとそこに残ったのは


「お。本じゃねえか。腹に隠してたんだなー」


「う…く…」


「ギブアップするか?男らしいかは別として受け付けてやるけど」


「……」


「チャンスは好きなだけやるよ。創造したきゃすればいい」


残された左手が創造の書へ。

手が震えている。原因はいくつもあるだろうが、少なくとも迷っているはず。

僕なら。諦めるだろうか。自分の命惜しさに。

それとも。

ふと凪咲さんに目を向けると、彼女は突然その場にへたりこんでしまった。


「ごめん…疲れたみたい」


そもそも彼女は自転車で逃げる食い逃げ強盗を走って追いかけていた。

さらに、ゴールド・キングレオとの戦闘。

むしろここまで体力を保てたのがすごい。


「お疲れ様です…」


僕は背中をさすった。



「決められないなら俺が提案してやる。そーだなー。お前、正義感だけは間違ってないからなー。代行辞めて普通に警察官になれよ。それでもいいじゃん」


「法で裁けない者もいる。それに、何か起きてからようやく動くような組織では…」


「お前にとって警察がそんなもんってことは分かった。でもな、人間が人間を取り締まるってのは簡単じゃねえ。力があるからそれで好きにやるってのは結局わがままなんだよ。代行のお仕事っつーのは、極論言えば警察と同じ…とか誤解してないか?」


「何が違う…」


「全然違うぞ?お前も、あそこの若い2人も、まだ本当の意味で代行のお仕事を分かってねーのよ」


「ほらよ」赤髪の女性は持っていた剣を地面に置いてこちらに蹴った。

返してもらった剣には、血が1滴もついてなかった。


「でもな、答えってのは他人に教えてもらうんじゃなくて自分で気づいてこそ価値がある。だから何にも教えてやらねー」


赤髪の女性は屈んだ。キングレオと会話をしているようだが…聞こえない。

内緒話が終わると、女性はキングレオの創造の書を拾った。


「ま、期待しとけよ。退屈させねーから」


そう言って電話をかけた。

警察を呼んでいるみたいだ。



「お前らは帰っていいぞ。残ってても良い事なんてひとつもないけどな」


なんとか凪咲さんが立ち上がる。

僕の「帰りましょう」という声は無視して、赤髪の女性の方へ歩いていく。


「どした?」


「…言いたいことはいくつかあるけど、ひとつだけ。その創造の書をどうするの?」


「どうって、そりゃ持ち帰って丁寧に処分するけど」


「私達が知らないことをあなたは知ってる。それは、代行の役割の話以外でもそう。違う?」


「さぁなー?」


言葉では濁しているように思うが、彼女を見れば違うとわかる。

分かりやすく、わざとらしく、その通りだと顔に出している。

満面の笑みで。


「今すぐ帰ればこいつとあっちのビビり男のいざこざで片付く。でも残るってんならお前らも捜査の対象になる」


「…真。行こう」


「は、はい」


凪咲さんを支えるように隣に寄り添って歩いた。

工場から出ていく時、一度だけ振り返ってみた。

…何も得られなかった。




「さて、と。へぇ。ゴールドアーマーって言うのかさっきの。武装型なのは見てわかるが…賢いな。"コピー"出来るじゃん」


「常に新しく出来る。戦闘中に破壊されたとしても」


「すぐに再生か。どこまでも自分に自信があるんだなー。…これがお前の切り札か?キングアーマー。こいつだけ"オリジナル"しかねぇな。超硬質の毛で編まれた鎧で…ほうほう。最初からこれ着てれば俺に腕切られずに済んだかもなー」


「文字通り1度きりしか使用出来ない。相手が分かっていなければ使おうとは思わない」


「…空きは270ページ。大漁だな。んじゃあ約束通り…俺を信じろ」


「……やれ」


「ぐっちゃー!」


「ぐああっ!…あっ…」


「明るい未来が待ってるぜ。お巡りさん」




………………………………next…→……





帰宅には時間がかかりそうだったからタクシーを利用した。

家に入るとすぐに2階へ上がり凪咲さんを寝かせた。


「本当にごめん…」


「謝ることなんて何ひとつないです」


「私、もっと強いんだ。本来なら」


「……」


「真のこと責めてないよ。自分の体のこと分かってなかった。…あの人が割り込まなかったら、」


「今日はもう休んでください」


「…ごめんね」


大きな怪我はしていない。

単純に疲労しているだけ。

それでも心配だが、僕は怒っていた。

凪咲さんと同じく、自分自身に怒っていた。


無言で入ってきたソープに凪咲さんを任せ、僕はとりあえずご飯を作ることにした。


米を研いで、冷蔵庫から食材を出して、気を紛らわすために。


「っ、」


ピーマンを切る途中で軽く指を切ってしまった。

普段の僕なら考えられない。ピーマンごときで。



…料理を終えると、次は洗濯。

その合間に自分の部屋から創造の書を持ち出した。

触ろうとするだけで嫌気がするが、無理やりに。

「おぅえっ…っうぇ…」吐き気との一騎打ち。

洗濯機の横で何をしているんだろうか。と客観的になる。

書き込まれているページを開く。

他の代行のもの、自分で書いたもの…


凪咲さんやソープの説明書きを指でなぞり、頭を掻いた。

"追記"がしたい。もっと細かく書いてあげたい。

もっと、もっと、もっと。

彼女のページの下部に目をやると、そこには凪咲さんのために創造した双剣のことが書いてある。

そのすぐ下には、さらに強力な武器として"追記"したものが…


★正 と 気 双


なんだ?


☆ 気 狂 の刃


どう…なって…


★ 気と の


文字が


☆正 狂気 刃


消えたり浮かび上がったり、点滅している。

何が起きているのかわからない。

ただ、どちらにせよこれが創造されることはないだろう。

失敗したのだ。激しく。




決意の盾

"柊木 真 専用"の盾。とても頑丈な金属製だが、薄くて軽い。

必要に応じて大きさを変えられ、使用しない時はシャツの胸ポケットに収まる大きさのカードとなる。

・展開…脳内イメージ通りの大きさ、形にカードが変化し盾になる。

・圧縮…カードに戻す

それぞれの言葉を発した際に効果が発動する。




ヤケになって書き込む。いくつもの小説を読んでいく中で密かに考えていた。

最強とかの類ではないが、現代で目立つことなく、あらゆる状況に対応できて、瞬発力がある。


ただの金属製の板、またはカード。

問題なのは、それが自在に大きさを変えられるということ。

一気に現実味がなくなるが


「僕にだって、出来る。そうだろう?秀爺」


まだ数回だ。その数回だけでも十分すぎた。

他の代行が創造した物や使者は、明らかに非現実的な力を持っていた。

特に【ずんぐりむっくり】なんて、わざわざ言うまでもなく"おかしい"。

…僕だって相当読書をしてきた。なのになぜああいう飛び抜けた創造が出来ないのか。



何もかもが気に入らない。



「絶対に…成功させる…!出来ろぉぉっ!」


なんというか、腹から声が出た。



((READ))






………………………to be continued…→…


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