第9話「また増えた問題」
「ここは、」
僕も行くべきか。
しかしジョーカー・グローブを着ける時間がない。
輝石を使って素早くなるしか…
「大丈夫だから!!」
発光の中、凪咲さんの声がした。
…特に派手な音は聞こえない。大きな攻撃はしてきていないのか?
相手は代行2人。どんな創造をしてくるのか分からない。
いや、1人は地震か…!戻ってきた男がそれなら。
ガン!!
眩しさが失せていく。その途中で金属を打ったような音が…
「ああぅ!?」
「残念でした。次は」
「カモーーーーーーーーーーーン!!」
「甘いよ。警戒して損した」
「ふがっ」
見えた。凪咲さんの錬金術だ。
近代アートみたいな滑らかな曲線…壁か。挟み撃ちで不利になるはずが…見たところどちらの代行も今ので手を痛めたようだ。
「面白いもの見せてあげる」
両手に炎魔法を纏った凪咲さんは錬金術で作った壁に触れる。と。
グンと壁が変形し壁から伸びた突起が代行2人の腹部に直撃。
深く押し込まれてどちらもお辞儀をする形になり、そこへ別の突起が…
「あふ」
確率機に夢中だった男は寸前で額を両手で守った。直撃は避けたものの、大きく仰け反って背後の確率機にぶつかって崩れた。
戻ってきたもう1人については
「べごっ!?」
追撃に対して反応は出来たが、手は動かなかった。
代わりに顔の向きを変えて致命傷を避けようとして、左頬を強打。
凪咲さんは見事防御とカウンター攻撃を両立させた。
「ついでに、確保」
倒れた2人の体を錬金術を使って拘束。
これであとは逃げた女性を
((READ))
「あ」
視界が狂っ…違う。僕が倒れただけだ。
前兆のない強い揺れ。一瞬だけ世界が大きく大きく左にズレた。
咄嗟に手を下敷きにした。頭を守るために。
そのためか…手の甲に小石やらがくい込んで…痛い。
っ、揺れが強くて立ち上がれない。
体を起こすことさえ不可能に思える。
本能的に恐怖している。地震に。
見上げれば近くの建物も揺れている…もし倒れてきたら、なんて不安を加速させる悪い想像がいくつも頭の中に浮かんできて
「………、」
全てを振り払うために輝石を握った。
体のどこを強化すればこの揺れへの答えになるのだろう。
「全身」
簡単なことだった。
どこか、ではない。全部だ。
輝石が応えた。揺れへの恐怖は消えて、手を支えにその場でサッと立ち上がれた。
まだまだ、揺れている。
凪咲さんも倒れてる。
男2人は…ふらつきながら逃げている。
追いかけよう。
「よし」
なるべく地面に接しないように。そう考えて上に跳ぶように意識しながら走り出すと、意外と上手くいく。
着地が怖い気もするが強化された足はしっかりと地面を蹴ってくれる。
逃げた方向は女性が逃げたのと同じだ。
「真!ワイも連れてけ!」
「わっ」
オヤブンさんが横から飛び込んできた。
慌てて両手を前に出してキャッチし、大事に抱く。
「逃がすなよ!特にワイをぶん殴った男だけは!奥歯ガタガタになるまで歯肉削ってから魂喰ったんねん!」
「それ何か違う気がするんですけど!」
どんなだっただろう。お尻の方から手を…いや、今は追うことに集中しよう。
輝石で全身を強化したのだ。無理をした反動が返ってきたら間違いなく行動不能になる。
………………………………next…→……
三剣猫………から少し離れた場所。
広い道路の真ん中、
大きな地割れ、
木っ端微塵になった車達、
「あっれれー?オガルちゃん、やりすぎちゃったかなぁー!?」
それらの原因、オガルは満面の笑みを浮かべて立っていた。
彼女の目的は。
「生きて帰すなって言われてるんだー!だー、かー、らー…死んで!ダン…スメラギ!!」
大きな声で目的を明かしたオガル。
しかし、狙った車がどこにあるのか分からない。
攻撃する直前までは確かに見えていたはずなのに。
「うー。殴る直前にぎゅーんって曲がっちゃうんだもん!ちゃんと攻撃したかったのに!」
「処刑モード、起動します……代行1体を確認。4秒後に抹殺を開始します」
「うん?」
目を見開いて声のした方を見つめるオガル。
しかし、
ブシュッ!!
視界では何も確認できないまま、
「お腹がいたーい。えっへへへへ!」
確認すれば腹には穴が。
続けて髪を掴まれ引きずり倒される。
「あー、ジュリアか。調子乗ってんなよクソメイド、代行もセットでぶっ殺すからな」
返事はない。
オガルの顔を右手で掴んだジュリアは、そのまま地面に後頭部を擦りつけるように押し付けながら…
「なにこれすっごーい!?オガルちゃん、こんなの初めてだよ!」
道路に汚い赤のラインが引かれていく。
その距離約10m。アスファルトですり下ろされたオガルの後頭部は丸みを失い平たくなっていた。
ジュリアはオガルを解放し、直立すると自分の右手を見つめた。
「ん?ん?もうおしまい?オガルちゃんの番かなー!!よーし、…え?」
肘から指先へ流れる青。
カクカクと機械的に曲がりながら皮膚の表面に近いところを走るその青は、やがて指先を…ついには手全体を青く染めた。
「深海に沈みし異形の人。その者の力が私達を更なる高みへ導いた」
オガルの前に現れたのは
「ダン…!!」
ダンと彼に抱きつくアイマ、そしてすぐ後ろには車の運転手。
「私は、私達は覚悟が決まった。オガル。六島に伝えろ…お前も覚悟を決めろ、と」
「え…なに…オガル…、ちゃん、なんか、変だよ?」
「ジュリア」
「極刑:異海の手」
ジュリアの伸ばした手は、オガルの体に…触れない。
触ろうとすると逃げるように体が消失してしまう。
右の二の腕が消えると
「う、うう!?右手が!動かないよおおおぅ!!!」
「目だ」
「や!やだ!いや!いやぁぁ!いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやい、」
「伝言を頼んだのは私だ。今回はまだ殺してやるが、次に戦う時…お前は死ぬことはない」
「は…」
得体の知れない力。痛みすら感じないまま、オガルは
「………見えない」
「フリーカが迎えに来るまで、恐怖の海に溺れるといい」
目を失った。目玉があった部分には、何も、ない。
その奥の肉が露出した状態で、オガルは頭を左右に振り始めた。
「なんで!見えないぃ!!真っ暗だよお!何も、何も見えないっ!?なんでえ!なんっ、」
オガルの声が途切れた。
彼女の首をジュリアが左手で殴り潰して分断したのだ。
そして頭部が体から離れてほんの少し転がる。
「ご主人様ぁ」
「分かっている。ジュリア」
「…強制終了中です」
アイマの呼びかけにダンが応え、ジュリアに状態変化を解除するようにと指示を出す。
それを見た運転手は。
「……人間じゃない…見た目は人間なのに…お話は聞きましたが…こ、ここまでとは…」
「オガルは代行兼使者だ。創造の力を使って自身を強化する。そしてジュリアは使者だ。私が創造し、創造の力で強化することができる」
「あ、えと、アイマさんも一緒に連れてたってことは」
「アイマも使者だ」
「そ、そうですか…もしかして」
「最近旅館で働き始めた他の4人も同じだ」
「夢を見ているわけじゃあ…?」
「すまない。なるべく関わらせないようにと」
「ええ、ええ!分かります!いつも遠くで待機させてたのは…悪いやつと戦っていることもわかってはいましたが…時々、ご主人様の会話の内容でも出てきましたもんね、代行とか使者とかね、ただ、こうして自分の目で見ると」
「私の運転手を続けるのなら、今後も危険はつきまとう。万が一の場合もある。逃げ出すのが当然の答えだ。お前がそうしたければ私はそれに賛成し、これまでのも含めて」
「辞めませんよ!」
「……」
「辞めません。ご主人様には心配をかけてしまうでしょうが、今の生活が気に入ってるんです。皆さんを色んな場所にお連れして、帰ったら車を洗って、そのまま旅館で温泉…美味しいご飯も食べさせてもらって、与えてもらった部屋でゆっくり休む…そんな毎日が気に入ってるんですよ。だから、辞めません」
「…そうか」
運転手に優しい笑顔を向けたダン。
「あの…道路とか壊れた車はどうなるんです?元に」
「戻らない。壊れたものはそのままにする。だが、」
「子供が1人、大人が3人です。ご主人様」
「怪我人は私が元に戻す」
「…ほへ?」
ジュリアがひっくり返った車を正しい向きに直し、ドアをこじ開ける。
気絶している怪我人をダンが
((READ))
再構築で健康体に。
「すごい…!こ、これ、医者要らずじゃないですか!」
「元の体型から変わることはないが、臓器類や骨、筋肉など体内は健康な状態に」「ご主人様、それはもしや…」
「はい。70代までの人間であれば中身だけ若返ることが可能とも言えます」
「今はな。私の能力がさらに高まれば範囲も広がる」
「ほへぇ…」
「ご主人様ぁ…ジュリアさん、そろそろ」
「アイマ。何か感じましたか」
「はぃ…すごい…はやい…」
「フリーカだな。すぐに離れるぞ」
創造の世界を知って口が開きっぱなしの運転手を連れてダン達は走ってその場を離れた。
それからすぐ。
割れた地面の隙間から影が伸びて、フリーカが実体化した。
「うふふふふっ。実は全部見てたの。病院で修行しちゃうなんてね…負傷した使者も一瞬で元通りにしちゃうし、パートナーのジュリアなんてあんな熱い大人のキス…あぁっ、思い出しちゃうわぁ…!」
オガルの頭を拾って、大きなため息。
「愛の力が2人を強くしたのねぇ…さっきの特別な状態が"ずっと"続くなら六島先生を守れる人がいなくなっちゃう……素敵、ね。あなたもそう思うでしょう?オガル」
………………………………next…→……
未炎駅近くのホテル。
「また地震か?勘弁してくれよ。日本は地震が多いと聞いていたがここまで多いのか」
「マーク。この地震は違うぞ?」
「何が違う」
「代行の仕業だ」
「地震が?とんでもないやつだな」
「そうだな」
「ふぅ…カルロス。"クスリ"をくれよ。楽になりたい」
「…次から金取るからな。上物なんだぞ」
「おーっ、これこれ…麻薬カルテルの幹部がお友達だとこういうメリットがあるんだよなぁ」
「人身売買が専門のお前とは格が違うよな」
「うんうん。否定しないよ……ぁあ…?きたきた…」
「全く。ボスもよくこんな作戦思いついたよな。他国の犯罪組織と組んで代行のチームを作るなんて。…ってもう聞いてねえな。…そろそろアンバーが戻る頃か」
ガチャ。
扉が開き、キツいグリーンの長髪の女が入室した。
「ちょっとマーク!またぶっ飛んでんの!?カルロス…甘やかすのはやめて」
「仲間割れして殺し合うよりいいだろ?面倒を増やすのはボスが嫌がる」
「我慢できなくなったらアタシが2人を殺す」
「お前の小さなナイフと俺の大きな銃じゃ話にならないな」
「どこが大きいって?」
「そんなに殺したきゃ早く代行見つけてこい」
「命令するな!…それに、代行は見つけた」
「なんだ、早いな。どんなやつだ?」
「これが面白いんだけど、アタシ達と同じ。男2人と女1人のチームだった。日本に来たばかりでほとんど観光客と変わらないんだけどね」
「弱そうだな。じゃあさっそく」
「そうもでもない。さっき3人の誰かが地震を起こした」
「…おいおい。おいおいおい!まさかさっきのデカい揺れもか!」
「そうだよ。どうする?」
「…………地震は面倒だ。だがな、それでビルやら家やら…なんなら銀行がぶっ潰れてくれたら俺達がやりたい放題だと思わないか?」
「カルロス。あんたってイカれ野郎ね」
「そうだろ?世間を騒がせるテロリストとは違う。本物の悪党なんだよ俺がいるとこはな」
「本物の悪党…いいねそれ」
「だろ?ほら、酒でも飲もう。俺達の成功と輝かしい未来に」
「乾杯」
「乾杯」
………………………to be continued…→…
 




