第8話「未炎駅」
「どうですか?」
「だめ。繋がらない。一応メール送っとく」
朝5時。誰かに電話をかけるには非常識な時間かもしれない。
しかし、"テロリストを探す"となれば話は変わってくるはずだ。まだ仮の話だが。
「真。近所に墓あるか?出発する前に魂喰わんと」
「えっと…」
「まあ墓じゃなくてもウロウロしてるやつはおるからな。ちょっと散歩してくるから…そうやな…2、30分後に戻ってくる。そしたらすぐ出発や」
「分かりました。お気をつけて」
結局寝た。短時間とはいえ、寝た。
凪咲さんもオヤブンさんもすごく落ち着いていて、僕は全然。すぐにでも探しに行った方がいいのではと思って
「居場所が分からない、はそもそも問題じゃないよ」
「え、どうしてですか。行き先が分かるんですか?」
「これ。どこでどれくらいの地震が発生したのか分かるサイト。小さいやつも載ってるし、これで不自然に連発してる場所に向かえばいいってこと」
「……そんな便利なサイトがあったんですね」
「んー、ダン達も色々忙しいのかもね。ジュリアが電話に出られないレベルだと相当だけど」
「メールは何て?」
「空港近くで起きた地震が代行絡みかもしれないから、時間あったら手伝って…みたいな感じ。………」
「凪咲さん?」
「外国人の代行ってだけでも私達には未知数なとこあるのに、地震を起こせるかもしれなくて、テロリスト…かもしれない。代行の考え方次第で強さとか怖さがこんなにも違ってくるのかなって。負けるとは思ってない。私だって強いし。世界をどうこう言う悪いやつとは何度も戦ってるし。ただ、生々しいよね。ものすごく」
「生々しい…言われてみるとそうですね。色んな使者を見てきて、非現実的な力を見てきて…今になって地震って、確かにすごいことですけど」
「ねぇ、あの掲示板また開いてみてよ。意外と役に立つかも」
「はい…えっと」
「履歴からならすぐじゃない?」
掲示板を開いて書き込みを見ていくと…数時間で
「692件の書き込み。増えすぎでは…」
「見るのやめたとこから辿ろうよ」
「えっと…この辺ですかね」
実は同じタイミングで3人組を目撃したという書き込みが増えた。
タクシー乗り場で見たとか、女性がトイレに男の人を連れ込んでたとか、電車に乗るため切符を買ってたとか…
「嘘の書き込みもあるかも」
「お忍びで来日した有名俳優は間違いなく嘘でしょうね」
「……ん、これ。東京への行き方を何度も駅員に聞いてたってやつ。これ本当かも」
「そうですか?じゃあ…電車に乗ったんですかね」
「ポツポツだけど、電車絡みの書き込みがあるし。とりあえず東京行けばいいかみたいな」
「ノリがか、軽い…!」
「でも正しいでしょ。東京でとびきり大きな地震を起こせば被害は想像もできないくらい大きいだろうし」
「ニャア」
「あぁソープ!おはよ。どうしたのー?」
凪咲さんの切り替えの速さにびっくりした。
ソープを抱っこして撫でまくっている。
「お腹すいてる?ご飯食べよっか。ね。おいしいやつ作るからね。にゃあにゃあ」
「ニャァ」
「ふふっ」
くっ…か、可愛い…
ソープの朝食を用意するためキッチンに行ってる間、掲示板の続きを読むことにした。
電車に乗ったかどうかで見え方が全然違う。
とりあえず乗ったと仮定して…
412 名無しさん
なんか知らんけど観光客ってことはないの?
416 名無しさん
荷物少ないなら日帰りとかかもしれん
425 名無しさん
っても観光するなら大阪とか京都のが人気な感じするなあ
東京は飽きられるの早いと思う
428 名無しさん
そうか?東京捨てたもんじゃないぜ
俺が見た外国人は自販機多くね!?って楽しそうに自販機と記念撮影してたし
俺達がつまらないと思うものが案外面白かったりするかもよ
431 名無しさん
で、結局空港で光を見たってやつは何の光を見たんだろうね
442 名無しさん
全然信じてくれなくていいんだ、とにかく聞いてほしい
空港のとは別件なんだがお化け屋敷で強い光を見たことがある
しかもそのお化け屋敷は客が何人も行方不明になったりしてるって噂があって、そういうやり方で集客してるんだって思ってたから光を見た時は本能的にヤバいと思った
443 名無しさん
↑何それ詳しく
444 名無しさん
詳しくも何も…
普通にお化け屋敷入って中歩いてたら最後の方で先に入った客に追いついちゃってさ
すごい騒いでたから無駄に覚えてるんだよね
そしたら光が…マジでビビってしばらく立ち止まってたらスタッフに連れ出された。
外出たら警察来てて誘拐か何かが本当に起きてたんだなって本当に震えた
447 名無しさん
それ、真理子の怨念じゃね?
警察に捕まったのはお化け屋敷に逃げ込んだ別件の犯人で、結局行方不明者については何も解決してないらしいよ
449 名無しさん
調べたらマジだった。
一瞬話逸れてたけど光がどうのってのが同じならその外国人達が行方不明事件の犯人かも?
強い光で気絶させたりしてんじゃないの?
「真?大丈夫?」
「えっ、ど、どうしてですか」
「なんか様子おかしいよ。何か書いてあった?」
「何も!」
「ふーん、じゃあスマホ見せて」
「…」
「えいっ、」
「あ!!」
取り上げられた。
「真理子の怨念…私達の後に入った人ってことかな。あの時の真すごかったもんね」
「ぐぅ…」
「でも今回のはこれとは関係ないね」
「……」
「もしかして思い出してる?お化け屋敷の…」
「だめですよ。それ以上は」
「お風呂に黒い水が」
「その先を言ったら大変なことになりますよ」
「どんな?」
「僕が、大泣き、します」
「ふふっ。分かったもうやめる。水の中から真理子が出てくるって言ったら真もうお風呂入れなくなっちゃうもんね!」
「………うわあああああああああ」
「冗談!冗談だって!」
………………………………next…→……
朝6時。
ぬいぐるみのフリをしているオヤブンさんをギュッと大事に大事に抱き抱えながら、僕達は電車に乗っていた。
とりあえずの目的地、未炎駅は都内の様々な観光地へ行けるバスがたくさん出ている。
そこで手がかりを探してみよう…ということだ。
「ぐぬぅ」
「……」
「真。オヤブンが苦しそう」
「……」
僕はというと、今必死に戦っている。
座席で揺られながら。真理子の怨念と戦っている。
出来ることならこの部分だけ記憶を消し去りたい。
今日からどうやってお風呂に入ればいい。
閉め切った空間でもしものことがあれば、ど、どうしたらいい。
「何も出ないって。家は守られてるんだし」
「お化けは使者じゃありません」
「死者やな」
「シッ。喋っちゃだめ」
「ひっ」
「がぅうっ?」
「首!真、だめだめだめ…オヤブンが死んじゃうから」
「自分が怖くないからって調子に乗らないでください」
「…真?」
「ぎ、ぎぶ…」
「わかった。わかったから。帰ったらいっぱい謝るし、ちゃんと真がお風呂に入れるようにするから」
「……どうやってですか」
「ふぅ…助かった…」
僕からオヤブンさんを取り上げた凪咲さんは少し考えてから
「大きい声で言えないから耳…こっち」
「はい?」
そして耳元で
「真がお風呂に入る時に私が見守るか、一緒に入る。そしたら万が一出てきても私が倒せるでしょ」
「なっ、なにを!?」
「静かに。ね」
「で、で、でででも、それじゃ解決とは言えませんよ。1人でも入れなきゃ」
「半年くらいしたら忘れるよきっと」
「無理です。……ん」
周りの客が少しざわついている。
今電車は駅に停車し客の乗り降りを…あれ、ちょっと揺れてる?
「地震。未炎は次の駅だよ。当たってるかも。待ってね……うん、 ネットニュースになってる。未炎で震度3だって」
………………………………next…→……
1つ前の駅で降りた。
オヤブンさんは力を温存したいとかで歩きたがらず、僕の肩にしがみついている。
「お、思ったより肩に乗るのって難しいんやな…おわ、っとと」
「よく気をつけてね。掲示板のおかげで相手の顔が分かるのは大きい。見つけたら怪しまれないように」
「そんなん言われなくても分かるやろ。というかアイツらや、見てみ」
「え、どこですか」
「向こうのドラッグストアや。店先のトイレットペーパーに夢中になっとるで」
言われるまま探すと、確かにいた。
陳列されているトイレットペーパーを手に取って眺めている男性と、特売価格のポップをがっつり見ている女性と…
「もう1人は店の入り口に置いてある確率機に夢中みたい」
「確率機?なんやそれ」
「高額商品がもしかしたら小銭で簡単に取れちゃうかもってやつ。ゲームみたいなものだけど、実際は設定された金額になるまで全然取れなかったりするんだよね」
「…おい待て」「創造の書です」
オヤブンさんと同時に気づいた。
「その確率機の前で本開いて何するつもりや」
「へ?いやいや、本を出したのは女性じゃ…」
「…違う。全員出してる。3人とも代行だったんだよ」
その時だった。
女性が、隣の男性が出した本に黒い布をかけて隠した。
直後。
「…っ、揺れてる…地震です!」
「思ったより揺れが強い…!」
ギリギリ立っていられるがふらついてしまう。
これだけの揺れはまず起きない。それに本を開いたタイミングも…
「やはり代行が地震を」
「やけくそやな!見てみい!確率機ぶん殴ってガラス割っとるで!」
「中の鍵を取って景品を持ってくつもり!?ただの泥棒だよ!」
「い、行きましょう!」
僕達が向かう間に、他の2人はトイレットペーパーを2セット持って逃走。
1人は確率機の景品を片っ端から取り出している。
「ワイが行く!!」
先行したオヤブンさん。
素早く背後をとって…あ!
「殴られた…!あの代行、弱くないね。真、ここにいて。仲間が戻ってきたら教えて!」
「凪咲さん!」
飛びかかったオヤブンさんを振り返ることなく左手で殴った男性。
凪咲さんはどうするつもりなのだろう。
……早い。仲間の男性が、戻ってきた。トイレットペーパーは女性に任せたのだろう。
((READ))
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「なっ、」
罠かと疑うほど絶妙なタイミング。
男性2人は同時に創造。
光が…周囲を…!!
………………………to be continued…→…




