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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case2 _ ヒーローはなるものじゃない
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第4話「ゴールド・キングレオ」




真っ先に思ったのは、入らなければよかった。ということ。



「遅いじゃねーか。ほら、来いよ」



赤髪の彼女はこちらを向いて立っていた。

今更な後悔となるが、"尾行"するならもっと気をつけるべきだった。

追いかけることに必死すぎて相手にバレることを考えていなかった。


この場所に誘い込まれたのか?

罠か。僕が代行だと知っていて…


となるとやっぱり彼女は



「息上がってんな。お前が俺に気づいた場所からここまで400mくらいだろ?男ならもっと体力つけろよなー。モテねえぞ?」


やれやれ。そんなふうに首を横に振りながら僕を見て彼女がそう言った。

彼女は最初から僕に気づいていた。

違う。……違う。

僕に気づかせた。ここまで誘導するために。


「んぁっはっは!残念だけど、俺は偶然通りかかったんだ。あんま深く考えんなよ」


「な、何も言ってないですけど」


「お前さ、ポーカーフェイスって言葉調べてみ」


「………」


顔に出やすい。わざわざ注意するほどに。


「なあ、仮にも俺は女だぞ?付け回していいのか?ましてや」


「そ、そんなつもりは」


「へぇ。んじゃ、続きはこんな場所じゃなくてお巡りさんがいっぱいいるとこにすっか?」


「え、あ、いや、」


「おぉおぉ、キョドってやがる!」


腹を抱えて笑いはじめた。

時には自分の太ももを手で叩きながら存分に僕を笑っている。


「…はぁ…。おもちゃにされんなよ?」


「…っ」


「ま、これくらいにしといてやるよ。話、戻すからな」


「話…?」


「お前の前を通りかかったのは偶然。でもここまで来たのは必然」


必然。その言葉を聞いた瞬間、彼女から圧を感じた。

思わず体を縮めて震えたくなるような、膝を抱いて隠れていたくなるような。


「俺にビビってんじゃねえよ。同じ人間だろ」


そう言って僕の額に右手人差し指を叩きつけた。


「っ…」


「集中しろ。警戒しろ。24時間。体が寝てても頭は死ぬまで一生動かしてろ」


「ひ…」


「ビビるなって言っただろ。お前、なんで気が付かないんだ」


そのまま人差し指で彼女は工場の方を示した。

……あ。


人がいる。3人。



「あれお前の彼女だろ?残りのは知らねーけどさ。1人は普通の人間。で、あいつは?」


「彼女…いや、」


話は半分聞き流していた。

状況を把握するために見ることに集中していたからだ。



普通の人間…それは僕と凪咲さんが追いかけていた食い逃げ強盗の男。…尻もちをついて怯えているように見える。よく見れば男が奪った自転車はひしゃげていた。


それから、凪咲さん…どういうわけかその男を庇うように立っているように見える。


状況は2対1。…1に属するのが3人目。


黒の作業着を着た体の大きい男。

…っ!


「あれ、創造の書…!」


僕のとは違う、薄黄色の表紙。

でも大きさからして創造の書で間違いない。


「俺は知っててここに来た。で、お前は?」


「あ、あ、…」


「あの男に心当たりは?」


「え、…」


「チッ。しっかりしろよなー」


「うっ」


背中。腰の少し上。そこにズンと奥まで響く衝撃。

彼女が叩いたのか。腹を深く抉るように殴られた気分だ。

背中を叩かれてなぜ腹が痛いと思うのか。


「はいはい。シンキングタイムばっか展開してんなよなー。ここでぼーっと突っ立ってていいのか?彼女のピンチだってのに」


「っ!」


「ほーら、行ってこーい」


言葉のまま背中を押された。

言われてみればその通りだ。

オロオロしている場合ではない。


とにかく凪咲さんの側に。

そう思って走る。

足音に気づいて3人が僕を見た。



「真!」


「凪咲さん!」


聞く必要は無い。彼女は無事だ。見ればわかる。

今はそういう言葉を交わすよりも優先すべきことがある。


「この人は?」


「私がそこの食い逃げ男に追いついたら襲ってきた。仲間かと思ったけど、自転車"ごと"壊そうとしてたから違うみたい」


「自転車ごと?」


「怪力。金属を簡単に殴り潰せるんだから、人間ならもっと簡単に…」



「なるほど。その女性の関係者、かな?」


野太い声だ。


「こちらもその男が悪人であることを認知している。わざわざ犯罪者を庇う理由がなければ、そこを退いてはくれないか」


「僕達が退けば、あなたはこの人をどうしますか」


「その罪を裁く」


「いぃっ!?ひいぇっ!た、た、たた助けてくれぇ!金は返す!食った分の金は今度払う!だから」


「命だけは。か。君たちはどう思う。悪人というのは皆同じ。自分の立場が強いか弱いかで態度がこんなにも変わる。先程までこの世界は自分のものだ、とまで言いそうな態度だったのに、今ではこの有様だ。返せばいいのか。謝ればいいのか。それで被害者の心身は癒されるのか。苦しみ、怒り、悲しみ…負の感情は浄化されるのか」


「ならあなたはこの人を殺すの?何様のつもり?」


「何様。そうだな。通常であれば、法で裁くべきだろう」


男は手に持つ本を開いた。

ページに手を乗せ、こちらを見ている。


「凪咲さん。この人、代行です」


「だろうね。あの本、色が違うだけで創造の書に似てるし」


「知っているのか。なら話は分からなくもないはず。我々は、何様かと聞かれて返答に困る立場ではないのだから」


「少なくとも神様じゃない。あくまで"代行"」


「分かり合えないなら。…お前たちも悪だ」


本が薄く光っている。


「真!食い逃げ男を!」


「は、はい!」


食い逃げ強盗の男は地面を濡らしていた。

失禁…。

男の後ろに回り込み、両脇に腕を通して引っ張る。

とにかく引きずって戦いに巻き込まれないように…


「あぁぁっ…こえぇよぉ…たすけてくれぇっ、なぁ、みのがしてくれぇ…」


男の言葉は無視した。

壁に寄りかからせようかと考えていると、使われていないタイヤが目についた。


「ちょっ、なにすん…」


「死にたくなければ入ってください」


3つ積まれた大きめのタイヤ。

理由はどうあれもう使われることもないただのゴムの塊だ。

積まれたタイヤは男を隠すのに丁度よく、空洞部分に無理やり押し込んでみると体がピッタリはまって


「動けない…」


「それでいいんです」




「今こそ!悪を裁く時!その悪しき魂を喰らう、王となる!」


((READ))


振り向いた時、男は僕達の目の前で創造をした。



「変…身っ!!」


と同時に男の全身が光に包まれていく。

ギラギラと眩しい黄金の輝き…



眩しさに対抗して小走りで凪咲さんの隣へ戻った。


「真は離れててもいいよ」


「…いいえ。僕も一緒に…」


凪咲さんは僕を見て頷くと光の方へ視線を戻した。


僕も同じように頷いて、同じように光を見た。




金色の光が落ち着いてきて、そこに立っていたのは…





「…ゴールド・キングレオ…!」


間違いない。

つい最近見た。ネットの記事で。



「我が名を知っているのか」


「地元のヒーロー。正義の味方」


「ゴールド・キングレオ…?待って、さっきの男は、代行はどこ?」


「この人は、代行でありながら使者でもある…」


「その通り」



その発想はなかった。

使者を創造して、武器を創造して、特撮ヒーローを見て使者の仲間を増やそうとまで考えていたというのに。

代行自身が戦うために、創造する。そんな簡単なことが思いつかなかった。


【ゴールド・キングレオ】は、1人で成立する。

代行でありながら使者でもある。

生身の人間に、創造したアーマーを装備し、"特撮ヒーロー"を真似事ではなく実際にやってのけたわけだ。

変身に必要な道具がベルトではなく創造の書に置き換わっただけ。



「ここは王の縄張り。悪には容赦しない。そして、それを庇うお前たちも。喰らってやるとも」


「うるさいっ。このライオンもどきっ!」


凪咲さんはいつの間にか双剣を手にしてゴールド・キングレオに攻撃を仕掛けた。

突っ込んでいく姿勢は極限に低く、膝を狙って剣が振られる。


ガキィィン!と嫌な金属音が耳に刺さる。

そしてその音で凪咲さんの攻撃の成否が分かってしまう。


「かたっ…!」


「王に刃を向けるとは何たる無礼!…いざ、参る!」


凪咲さんを遠ざけるようにその場で回転した。

彼女は飛び退いて僕とは反対側へ。

これで立ち位置としては挟み撃ちの形になる。




「グルルルオオオオオ!!」



「うわ」と声を漏らした。

突然の咆哮。キングレオの咆哮。

その声はそのままライオンの咆哮だった。

作られた音ではなく、この男が実際に体から放った音。

生々しい恐怖に体が硬直した。


キングレオは僕を見ている。

狙われている。

なのに、動けない。


「はぁっ!!」


凪咲さんが飛びかかり背中に剣を突き立てる。

黄金の毛のマントは双剣を受け止め、その毛で剣を絡めて…


「抜けない…っん!!」


一旦双剣を手放す。体のバネを使って勢いをつけてキングレオの膝裏に蹴りを入れる。

強力な膝カックンだ。


「ギッ」


キングレオの左足が曲がり、姿勢が崩れる。

瞬間、凪咲さんと目が合うと途端に硬直していた足が動いた。

動ける…。


「邪魔なマントね。まさかその毛、本物の金?」


「お前の刃はこの体には届か…何を」


「別に。ただのマッチだけど?」


僕は下がった。本能的に。巻き込まれないように下がった。


彼女はキングレオの目の前でマッチの箱から全てのマッチを取り出し、その場でふわっと下から投げた。


「サプライズ。なんてねっ」


宙を舞う大量のマッチ。そのマッチ目掛けて彼女は回転蹴りを放つ…!



「ブレイズ・キック!!」



ボォォォッ!!蹴りは摩擦を生み、マッチが着火する。

着火は連鎖して一瞬で全てのマッチが燃え、それは続けざまに



ドォォンッ!!



「どう?」


爆発を引き起こした…。


決して小さい爆発ではない。

十分すぎる威力だった。

その証拠にキングレオは数m吹っ飛び、なかなか起き上がれない。


「今の爆発でマントから剣も抜けたみたい。よかった。これ大切なものだから」


地面に落ちている双剣を拾い上げて、凪咲さんはキングレオに接近。


「動かないで。これで終わり」


「なかなかやるな…この王を跪かせるどころか…クハハハハ!」


なぜ笑えるのか。

もう有利不利ではない。決着がつ…



男の…キングレオの創造の書はどこに…?


「凪咲さん!離れてください!」


声をかけると彼女はすぐ後ろに飛んだ。

それとほぼ同時にキングレオの両手から鋭い爪が伸び、引っ掻く。凪咲さんの反応が早かったおかげで空振りに終わるが…。



「よくぞ見抜いたな」


続けて牙も伸びる。より攻撃的な見た目になって、アクション映画に出てくる俳優のように体勢を整えて身構えた。

それを見て凪咲さんは僕の隣に戻ってきた。


「キングレオの創造の書が見当たりません」


「隠し持ってるんでしょ。多分…お腹から胸の辺り。変身前より出っ張ってる気がする」


「…ということは、戦いながら創造が出来る…?」


「そうだね。さっきまでは油断してたみたいだから私の攻撃をまともにくらったけど、次はどうかな…」



「次?次などない」



「…あの硬いのをどうにかしないと」


「双剣が効かないのにどうすれば…刃物ですよ?しかも銃刀法違反間違いなしの立派な武器なのに」


「あの男は、私達より強い。そういうことだよ真」


「……」


「諦める?」


「…い、いいえ…でも」


「考えて。思いつくことは私に何でも指示して。"2人"で戦えばまだ分からないよ」


「考える…あ」


左手に持つ双剣の内の1本を僕の足下に置き捨てて凪咲さんは再びキングレオに突っ込んでいく。

代わりに制服のポケットから取り出したのは…マッチ箱。



「同じ手が通用すると思うのか?」


「同じ手だと思ってるの?可哀想」


キングレオは彼女の接近を許さない。

爪を見せびらかし、激しく腕を振り威嚇している。

対して隙を伺いながら軽快なステップで翻弄するが、実際には睨み合いが続いている。



…僕が考える時間を稼いでいるのか。


凪咲さんの考えが正しければ。

ゴールド・キングレオのアーマーは男の体より少し大きく創造されていて、装備して生まれた隙間に創造の書を隠している。

…アーマーの表面にも隙間があれば。

そこに燃えているマッチを入れられれば…!


だとしたらどこに隙間があるのか。

関節部分?やはり関節部分か。

アーマーの厚みを観察すると、肘や膝は他より薄く感じる。

…でもそれだと腹から胸の辺りには火が届かない。



「喰らわせてもらうぞ!」


ゴールド・キングレオが動いた。

左右交互に大振りな引っ掻き攻撃。

凪咲さんはジリジリと後ろに下がり続けてる。

爪が長くて、攻撃範囲が広いのが原因か。

下手に横へ飛ぶと当たってしまうのかもしれない。


………そうか。


「凪咲さん!こっちへ!」


呼び戻す。作戦を聞かれては困る。



「何か思いついた?」


「相手は全身がアーマーで守られてます。刃物も通らない。防御力がとんでもないです」


「それは分かってる」


「それは、顔も同じです。着ぐるみと同じ」


「着ぐるみ?」


「元の人間がなかなか大きな体です。そこに着ぐるみを着せたら、"酸素"が足らないと思いませんか?相当息苦しいはずです」


「……」


彼女は頷いてくれる。


「攻撃を誘って、息切れを待ちましょう。そしたら、キングレオの顔の近くでマッチをまとめて燃やしてください」


「煙を吸わせようってこと…結構な拷問を思いついたね」


「お、お願いします」


「分かった」



凪咲さんは素早くキングレオに接近、かと思えば攻撃範囲外へ逃げる。

絶妙な移動によりキングレオは滑稽に見えるほど攻撃を誘われ、大振りな引っ掻きを連発する。



「身のこなしだけが取り柄か!その調子ではこの体には傷一つ…」


「偉そうなこと言うのは私に触ってからにして。まだ掠ってもないけど」


「ふんっ!後悔するがいい!」



その時だった。

キングレオの踏み込みが変わった。

さっきまでより素早く、凪咲さんとの間合いを詰めて…


「食物連鎖の頂点、そこに立つこの王の牙を受けてみろ!」


「っ!」


突然の踏み込みには対応しきれず、凪咲さんが1本の剣で防御を試みる。


キングレオは牙を受けろと言ったが、実際には両手も振られている。

三方向からの攻撃だ。剣1本でどうにかなるものじゃ…


「これ、借りるぞー」


「へ?」


僕の横を風が通りすぎた。

いや、違った。赤髪の彼女だ。

僕の足下に転がる凪咲さんの双剣の内の1本を持って、1人だけ時間の流れが違う速さで走っていく。


そしてそのままキングレオの右腕を……




「惜しかったなー今回は。ま、次頑張れ」



軽々と切り落とした。





………………………to be continued…→…


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