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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case13 _ 代行の在り方
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第8話「満腹屋の魅力」







「えええええええっ!!」




朝起きて、ジュリアさんから届いたメールを見て驚いた。

ユキさん達がダンさんの使者になったというのだ。

しかも旅館で住み込みで働いてるなんて…!





朝の準備を始めても何度もメールを読み返してしまう。



「私達、選択肢にも浮かんでなかったよね。ダンの旅館でって…ピッタリだよ。ちゃんと見てる?」


「見てくださいよ。5人揃って撮影した画像…みんな笑顔です…!」


「ふふっ。もう何回も見たよ。そろそろいいんじゃない?」


「だって、あんなに表情が死んでたじゃないですか。…ちゃんと服も着せてもらえて…」


「気持ちはわかる。あの部屋は見た人にしか分からない負の念が渦巻いてたよね。あそこから解き放たれてこんな幸せそうな顔してたらこっちも嬉しいよね」


「はい!」


「ねぇ真」


「なんですか?」


「トースト、焦げてる」


「はい?」


凪咲さんは笑顔でそう言った。

だから一瞬理解が遅れて。



「……うわぁぁっ!?」


僕がネットで見た上手な焼き方を試したいと言ったのに。

焦げてると気づいた途端部屋中に悪臭が広がっていく…!


「凪咲さん!」


「換気扇ね、はいはい」


「あー……。なんで落ち着いてるんですか…!食パン2枚もダメにしちゃったのに…」


「真は食パン2枚は許せなくてもチャラ豆腐は許すの?」


「っ!あ、あの服はだって…!」


「大丈夫だよ。私達はスーパーイナズマで買い物すればいくらでも節約出来るんだから」


「そうですけど…」


僕達の買い物力なら、確かに…。

長期的に見れば食費を1ヶ月1万円…に限りなく近づけられる。

ちょっとした支出の穴埋めは簡単だ。


「ね。こういうハプニングも楽しくていいなって私は思うよ」


「凪咲さん…」


「ん?」


「なんですか?」


「テレビの音量、上げていい?」



朝のニュース番組。

スタジオと中継先のやり取り…あぁ、話題のグルメ的なことか。

僕達はこういうのを見て家で真似したものを作ることもある…凪咲さんは今日のランチメニューの参考にでもするつもりだろう。


「すごいよ。突然人気店にだって!開店前から行列…」


「すごいですね…」


今朝になってネットで話題になったらしい。


満腹屋…うん、聞いたことはない。


「大盛りメニューに若者向けのユニークなメニュー、うわ…なんでもやっちゃうタイプだね。今だと珍しいかも」


「コース料理風おにぎりって何なんでしょうね」


「動画投稿もしてるの?真、見てみようよ!」


「あ、はい…」



さっそくスマホで検索してみると…


「ありました。再生回数1600万回超えてますよ。めちゃくちゃ流行ってるじゃないですか」


「再生再生!」


「はい!」





真っ黒な画面に、標準的な字体で"当店のおすすめ"と出た。



「え〜〜…これは、あ、この、ん?こちらの料理を、違うな、えーっ、この料理が!…」



画面には青色のカレーライスが映し出されている。

ご飯も色を付けるために炒めたようで、砂浜が再現されていて…ヤングコーンを突き刺して上には…画質が悪いから自信はないけど…多分、さやえんどうが乗っている。

ヤシの木を再現しているのか。


料理には遊び心を感じられるが…



「これ…1600万回も再生されたんですか?なんか画面揺れてますけど」


「スマホで撮ったとか?でも編集とかは、うん、そうだね…微妙かも」


「料理の見た目は面白いですよね。キャラ弁みたいに細かい努力が必要な料理ってあんまりしないのでそこはすごいなって思います」


「ねぇ真」


「なんですか?」


「正直な気持ち、言っていい?」


「そんな確認なんて…どうぞ」


「動画はつまんない」


「あ、ですよね」


「でも食べに行きたくて仕方ない」


「…え」



トーストを失敗したこともあって、結局この満腹屋に行くことになった。


それと、もう2度とフライパンでパンを焼かないと決めた。








………………………………next…→……







電車で17分ほど。


満腹屋の最寄り駅に着いてすぐ分かるのは、同じ目的の人達がいっぱい…


「いや、さすがに多すぎませんか」


「この中の何人が満腹屋目当てなんだろうね」


スマホを見ながらぞろぞろと…駅から2〜30人の塊が店に向かう。


「これ…僕達が行っても大丈夫なんでしょうか。永遠に並ぶか断られそうですよね。また違う日に来てくださいみたいな」


「その時は違うお店にしよっか」


でも凪咲さん、行きたそうな顔をしている。

今まであまり流行り物とか意識してるのを見たことはないけど、そういうのも結構好きなのだろうか。



「あれ?なんか集団の動きが遅くなったかも」


「…確かに。え、え?」


「なに?」


「もしかしてですけど、これもう並んでます?」


「うそ?」



駅からゆっくり歩いて3〜4分。

背伸びをして前を見れば、道を人が埋め尽くしているのが分かる。



「大流行なんてもんじゃないですね」


「6時間くらい待てば大丈夫かな…」


「そ、そんなに並ぶんですか!?」


大変だ。このままでは朝昼抜きで夕ご飯になる可能性が高い。


「凪咲さん…違うお店に」


「私は大丈夫だから、心配しないで」


「いや、あの…」


…大変だ。意地でもここで並び続けるつもりらしい。


「どうすれば…」






「すいませーん!完売でーす!もう冷蔵庫も空っぽなんで、また明日来てくださーい!」






「た、助かった…」


と思ったのは僕だけだった。

周りからはブーイングやガッカリした声が聞こえてくる。


「…残念」


「凪咲さんもですか…」


「ごめんね、真。違うお店にする…」


「は、はい。美味しいお店見つけましょう!」


結果、駅前のカフェで少し遅れた朝食を。

注文したダブルチーズベーコントーストはものすごく美味しかった。





………………………………next…→……







夕方5時。



閉店したのは2時。


洗い場には山積みになった汚れた皿。



「すんげえ疲れた。すぐにバイト雇わないと死ぬ。半端ねえ…半端ねえよぉぉ…!この本、願いを叶えるって本当だったんだなぁ!!」


満腹屋 店主、平道 進。

もうすぐ40歳の独身。


「やっと俺の人生が明るくなってきた…!っっしゃあ……」



店主はレジカウンターの棚から赤黒い本を取り出す。



「魔法の本!いやぁ…夢みたいだ」


自分が書き込んだページを開くとそこには。





嘘みたいにうちの店に客が殺到する。




とだけ書いてある。


「本当に願いが叶うって分かれば…」


店主はさらに書き加える。



「店が20店舗ぐらいに増える。それに合わせて、120人くらいは雇って…ぐひひ、そんでそんで!あの美人女子アナが俺の恋人でぇ…あと、あと…」



全部で書き込んだ願いは38。奇しくもそれは店主の年齢と同数であった。


1ページ全てを埋めた願いの数々は



「全部叶えば俺は明日から勝ち組の中でも勝ち組だ!うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



未来への期待が高まり叫ぶ。

それでも足りず、息継ぎをしてから



「俺は人生の勝者だああああああああああああああああああっヴぉぇっ!!」


咳き込む。叫びすぎたのか、喉を痛めたようで店主は厨房へ。


未使用のコップは…無い。

仕方なく、客が使った後のコップを手に取り水道の水を


「ぅぐ…ん…ん…っぐ?」


グビグビ飲むが、違和感。

喉に何かがつっかえているような…


「なんだ…?がふっ!げほっ!」


消えない、取れない。

もう1度水を飲むが、結果は同じ。


「…あ"れ"っ?な"ん"っ…」


喉の違和感は、その存在を大きくする。

自分の声にまで影響が出て、店主は焦りはじめた。


「…………」


そうだ。これも本に願いを書けばいい。

喉が治るとでも、書けばいい。


「……っ?っ!?」


店主は自分で首を絞める。

苦しみの正体は分からないが、ギュッと手で押さえなければいけない気がして



ゴギュ、ゴギュ。



「っ!!!」


喉が…首全体が、脈打った。



ゴギュ、ゴギュ。



強い圧迫感。手を押し返すほどの膨らみ。



「っ、っ…ひへ…」



大急ぎで本に願いを書き込まなければ。

何が起きているのか分からないが、今すぐどうにかする必要があることだけは確かで。



「んも…っ」


思わず本を落としてしまう。

拾いたくても首からなかなか手を離せない。

手を離したら…離したら…。


「んふ…っ、ふ!」


ならばと自分が床に座る。

四つん這いの姿勢で、一瞬だけ片手を離し落ちた本を開く。





店主がたまたま開いたページには。





使者降臨:肉花

欲望の種が肉体を栄養源とし、大きな花を咲かせる。





「……?」



ブチ。ミチミチミチミチ…!!














………………………………next…→……







「いただきます」


「いただきます。…ねぇ真。お願い!明日もあのお店行こ?明日ダメだったら諦めるから」


「んー……」


夕ご飯。

とりあえずサラダを食べながら考える。


満腹屋の行列は開店前から…となると開店時間に合わせて向かうのはあまり賢くない。

凪咲さんの要望を叶えるなら、朝イチ…いや、早朝組もいるかもしれ…いやいやいや、最新のゲーム機やスマホの発売日って徹夜組はもちろん…1週間とか並んで買う人もいるし…行列の世界はそう甘くない。


「ニャア」


「ではじゃんけんで決めましょう。僕が買ったら今諦める。凪咲さんが買ったら明日もう1度だけ行ってみるってことで」


「分かった!…結果は絶対だよ?」


「はい。お互い誓いましょう。ルールを守ると」


「……いい?」


「はい!」


「せーの、」


「「最初はグー!」」


「ニャア」


「「じゃんけん、」」


ポン。僕はチョキ。凪咲さんは…



「パー!よし、僕の勝ちです!」


「ま、まだ…!」


「え?」


な、なんでだろう。僕のチョキが…指が見えない力に負けて折り畳まれて…グーに…!?


「やった!真はグーで私がパー!」


「ちょっと待ってくださいよ!今僕チョキでしたよね!?あっ!!まさか風魔法で僕の指を…!!」


「真、私の勝ちだよ。終わった勝負に文句言わないの」


「こんなズルが許されるんですか…っ!!」


「ふふっ。明日楽しみだなぁ」


次からはあっち向いてホイにしよう。

さすがにズルは出来ないはずだ。









………………………to be continued…→…


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