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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case12 _ 善悪の境目
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第7話「目撃」






さて。


「ニュースの映像を見て大体の場所は分かりました。近辺を歩いて血痕を探しましょう」


近所の人は発見現場に近づかないように遠回りしている。

どうしても通らなければいけないような道ではないし、死体が見つかったとなれば自然か。


現場にはまだ警察の人が何人かいる。

ボロアパートと呼びたくなるような古い建物の敷地内で見つかったようだ。


「あの中に行ければ確実だよね」


「でも近寄ればすぐに声かけられますよ」


「…ちょっと離れた場所でさ、空に向かって魔法を使って爆発とかさせたら…皆そっち行くかな…?」


「だ、だめですよ!?変なこと言わないでくださいよ!」


「だよね…」


見物人丸出しの僕達。

遠くから現場を見つめているだけでは何も解決しない。

…見方を変えなければ。


「あ。凪咲さん、あの人見てください。スーツの女性です」


「今来た人?…現場入っていったね。刑事ドラマみたいじゃない?現場に来てまずは鑑識に話を聞いて…そっか。あの人に教えてもらおうってことね」


「はい。単独で行動する人なら、1人になった時に声をかけて」


「直接聞き出せなかったとしてもこの指輪を使えばいい。そうしよっか」


「出てくるまで待ちましょう」


「うん……」


「大丈夫ですか?」


「ちょっとお父さんのこと思い出して…」


「小説には若い頃の話しか書かれていませんから、あの戦いのあとどんな父親になったのか気になります」


「どんな父親か?んー、変。変なお父さんだよ。私が言葉を分かってきた頃には自分の趣味を押し付けてきたし」


「趣味って」


「ゲームとかアニメとか…勇者だ魔王だって。でも、ただ敵を倒すんじゃなくて相手によっては仲良くなろうねって。お父さんなりの教育だった。表向きは親戚ってことにしてたんだけど、実はお父さんにはもう1人の妻がいて」


「えっ!?」


「その人は魔王。ユイって名前の」


「ああ…確かに出てきてましたけど…妻?」


「うん。身内に魔王がいるし、味方にも魔王がいた。なんかややこしいけど、ね。敵じゃないなら仲良くしないとって」


「そのためにゲームやアニメで教育ですか…」


「ゲームでは悪いやつを倒しまくった。アニメでは幼なじみが魔王の熱血青春ラブコメとか…」


「魔王を無理やり日常にねじ込むんですね」


「ふふっ。結構面白いんだよ?」



あ。思ったより早く出てきた。



「ラッキー。こっちの方に歩いてくるね」


「そうですね。2人で声かけましょう」



ヒールの音が聞こえて、僕達の視線を感じた女性は軽く頭を振ってサラサラな髪を


「行こ」「わ、ちょっと」




「あの。刑事さん?」



「……あなた達。人が死んだのが面白い?」


もしかしてこっちに歩いてきたのって僕達に注意するためなんじゃ。


「まさか。でも状況は知りたい。今すぐ犯人を捕まえられないとしても、どこまで分かったとか」


「…話すわけないじゃない。とにかく。ここにはなるべく近づかないでくれる?次見かけたらあなた達のことを調べるから」


「じゃあ最後に握手だけしてもらってもいい?」


「はあ?」


「頑張ってください。はい、」


僕は黙ったまま。凪咲さんが相手のペースを乱して握手を求めた。


「…そしたら帰って。絶対に」


仕方なさそうに手を出してくれた。

2人の手が触れて、覗きの指輪が発動する…


「………」


「………」


少し長めの握手。女性の顔にシワが増えてきた。嫌そうだ。


「……は………どうも」


「ふぅ…」


"やっとか"、と顔に出ている。

でも思い出したように僕の方に目を向けて再び嫌そうな顔を見せてきて。


「あ、僕は大丈夫です…」


「あっそ」


冷たいひと言。すぐに背中を向けて現場に戻っていく姿を見て少し嫌な気分になったが…


「見えたよ。ついてきて」


「あ、はい!」






………………………………next…→……







「残念だけど、監視カメラはこの辺には設置されてないみたい」


歩きながら凪咲さんが覗きの指輪で見たことを話してくれる。


「でもすごく良いニュースもあるよ」


「なんですか?」


「あ。でも良いニュースって言い方は違うね。訂正させて」


「あの…」


「死んだ人。トシちゃんじゃなかった」


「えっ!!!」


「なんか、警察が追ってた指名手配犯らしいよ?」


「そ、そうなんですか!?…じゃあトシちゃんはどこに…」


「うーん、それは分からない。ねぇ真。ここなんだけど」


「え?」


立ち止まったのはなんでもない道の途中。


「現場で見つかったいくつかの血痕を辿ったら、そこの裏路地に通じてたんだって。こっちには誰もいないし、まだ残ってたら…」


「裏路地…家と家の間って大体狭いですけど、ここはちょっと広いですね。通勤通学の抜け道に使われてそうな感じです」


「探してみようよ」



凪咲さんは右側、僕は左側を担当することにした。

ほんの少しでもいい。血液らしきものが見つかれば。



「通勤通学の抜け道って言ってたけど本当にそうなんだろうね。ゴミが結構落ちてる。タバコとか」


「火事になったらどうするんでしょうね…あ、飲むヨーグルト」


「掃除したくなっちゃうけど、今はよくないよね。証拠になるかもしれないし」


「………」


もう4つもゴミを拾ってしまっていた。そっと戻そう。


「もう少し奥かな」


「ん?」


大きなペットボトルを半分に切って器にしたプランター。

今は土だけで何も育てていないようだが…中に何か見える。

指を突っ込み浅く掘り返すと


「鍵?…この辺の家の合い鍵…」


だとしたらこれも戻した方がいい。



「真、こっち!」


「はい。すぐ行きます!」


真ん中でしゃがんでいる。



「雑草に。ほら」


「…ありましたね」


「覗いてみるね」


「気をつけてください。被害者の血でしょうから、きっとライオンに襲われた記憶を追体験することに…」


「私がパニックになったら強く抱きしめてね」


「……」


やっぱり危険だ。覗きの指輪は。

"被害者"を使う対象にしてはいけないのだ。


…雑草に触れた凪咲さんが硬直する。

さっき女性の記憶を覗いた時はすぐだったし、今回も早く目覚めれば


「っ、あ」


「凪咲さん」


バランスを崩して後ろに転びそうになったのを支えた。


「ありがとう…」


「大丈夫ですか?すごく早かったですけど」


「…これは真も見た方がいいかも」


「え?い、嫌ですよライオンに」


「食べられるんじゃなくて、食べてた」


「……すみません、よく分からないんですが」


「この血、被害者のじゃない。ライオンが被害者を食べてる時に抵抗されて」


「怪我をしたんですか」


「そう。相手は指名手配犯ってだけあって常にナイフを持ち歩いてた。それを刺そうとしてきたんだけど、先に体を噛みちぎったから額を掠っただけで済んだ」


「それ、僕見たくないです…ナイフ向けられるって普通に怖いですよ?」


「その後が大事なの。ライオンはこっちの裏路地を抜けて、さっき私達が立ち止まったところで」


「…?」


「人間になった」


「えぇ…」


「裸で…男。そこまでしか見られなかったけど。これってさ、"変身"するってことだよね?」


「人間がライオンにですか?狼男みたいなことでしょうか…でも創造の力なら不可能じゃないはずです」


「多分犯人は額に傷がある。近くにいるか分からないけど探す?」


「トシちゃんが無事であれば帰ってもいいかもってさっきは思ってました。でも代行が人を殺したって考えると放っておけないですよね」


「そうだね。…ふぅ。でもごめん、私ちょっと」


「っ、覗きの指輪を使いすぎたから」


「お腹空いちゃって」


「……?」


グゥゥゥ…彼女のお腹が鳴った。

そういえば朝ごはんを食べてなかった。


「近くのお店で休憩ついでに食べましょうか」


「うん。ありがと!」


少し恥ずかしそうにお腹を撫でる様子が可愛い。







………………………………next…→……







「はいよー、ラーメン半チャーハンセット!」



朝からラーメン?とは思うかもしれない。

でも、ネットで調べたらこのお店が最も近かったのだ。


「いただきます。…ふぅ、ふぅ」


僕はラーメン餃子セットを注文した。

餃子を焼く音が食欲をそそる…もう少しの辛抱だ。




「さーて!今朝の芸能ニュースをチェックチェックー!」



なんとなくだが、ラーメン屋さんでテレビを見ながら食べるのって良いなと思う。

良い意味で"庶民感"を強く味わえるというか。



「アイドルグループ、お耳ハピネスの元メンバーのチュッたんこと及川シズクさんと、おやすみなさい!などドラマで活躍中の若手俳優…高井スティーブさんの熱愛が発覚!」



「どっちも分からない…」


「熱っ…でも美味しい…」


資料映像としてお耳ハピネス?のミュージックビデオが流れる。

代表曲、恋するASMRはメンバーそれぞれが耳元で好き好きと何度も言ってくれることで話題になった…らしい。


「はいよー、ラーメン餃子セット!」


「ありがとうございます。いただきます」


シンプルな見た目のラーメンだ。

家庭でも再現できそうな…こういうラーメンが好みではある。

熱そうだが少しでも口を慣らすためにスープをひと口。


「あつっ、ひぃ…」


少量飲むつもりが思ったより口に含んでしまった。

軽くやけどしたかもしれない。



「えー、ここで速報です。東裏富1丁目で…」


「ん?ぶふっ!」


「真!?どうしたの?熱いのに急いで食べちゃったの?」


「テ、テレビ…」


「テレビ?」



また、裏富で死体が見つかった。

しかも目撃者によるとライオンが走って逃げていったらしい。


「ついさっきってこと?」


「そうみたいです」



「ライオンねぇ…本当にいたらビックリだよ。テレビ出たいからって嘘ついてんじゃないの?」


店主がテレビを見ながら言った。

客は僕達だけだし少し余裕が生まれたのだろう。

頭に巻いたタオルを結び直している。


「でも殺人は本当だもんなぁ。お客さんも外歩く時は気をつけな。そっちの彼女とか美人さんだしよぉ」


「は、はい…」


「あんまり悪いことばっか起きると客が減っちまうよなぁーったく」


さて、食事を再開…ん?


「なんか聞こえない?」


「聞こえます。ドッドッドッ…みたいな」


店主は冷蔵庫とにらめっこ中。


僕と凪咲さんはガラスのドア越しに店の外を見ていた…




………ら?




「……えっ」「うそ」


同時に反応した。

さすがにあれは…見間違うことはない。

外を横切っていった、大きな、獣。



「凪咲さん今のって」


「……ライオン、だった」


見つけた。裏富のライオンを。









………………………to be continued…→…


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