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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case2 _ ヒーローはなるものじゃない
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第1話「人間が怖がるのはどうして」




僕の新しい日課。

何でもいいので1冊本を読むこと。


普通の人も同じように読書をすることがあるだろうが、僕の場合は少し目的が違う。



早朝5時。

スマホの振動で目覚める。音は出さないアラームだ。

隣の部屋で寝る凪咲さんに配慮してのことだが、今後もこの行為は無駄に終わるだろう。


トントントントン…。

心地よいリズム。温かくて食欲を誘う匂い。

彼女はとっくに目覚めて朝食の用意をしている。

包丁の音ひとつとっても、彼女は美しい。


「ニャァ」


目を擦ってそんなことを考えていると、布団に潜り込んでいたと思われるソープが顔を出した。

寒いから布団を捲ってくれるなと言われた気がして布団を戻すとソープは甘い声で鳴いて静かになった。



今日の1冊。


【人間が怖がるのはどうして?】


小・中学生向けのようだ。

自分の影、親の叱りつけ、勉強、友達、おばけ…

幼少期から成人後まで人間が怖いと思うものをいくつも並べては、どうして怖いのかを考えてみよう…と提案していく内容。


人によって恐怖の対象や基準が違ったり、本能的に最も恐怖する"死"さえも怖がらない人がいたり。

躊躇なく犯罪を犯したり、他人を襲う人間こそが怖かったり。


人が怖がるとはどういうことなのか。

何が、どうして、怖いのか。

そういったものを紹介し、子供に考えさせ、最終的にはなぜ他人にされて嫌なことをしてはならないのか…いじめをしてはいけないのか…に繋がる。



ジャンル的に道徳の授業で取り上げられそうな本だ。



読み終えたのとほぼ同じタイミングで凪咲さんが呼びに来た。


「おはよう。朝ご飯もうすぐだから」


「おはようございます」


「それは?」


「今日の1冊です」


「人間が怖がるのはどうして?…真は何が怖い?」


「え…と…」


「ごめん、卵焼き見なきゃ」


あ…。

でも言えなくてよかった。

"独り"が怖いなんて聞かされたら、ちょっと重いだろうから。

1人は、冷静になりすぎてしまう。

1人は、感情が色褪せてしまう。

1人は、無に近すぎてしまう。

1人は、独りだ。


だから、まだ始まって日の浅いこの新しい生活を大切にしたい。

自分の命よりも守りたいと思っている。


「できたよ。食べよう」


「はい!」





………………………………next…→……




朝食後。

日課とは別に、やっておきたいことがある。

凪咲さんがいればそれのリスクを減らせる。


「過剰な読書…なんかさ、"スキル"みたいだよね。ゲームとかの」


「言われてみるとそうですね。デメリットの振り幅が大きいですが」


「真が創造の書を読み終えたら、私が引っ叩くなり何なりして真を正気に戻せばいいんだよね?」


「その通りなんですけど力加減だけお願いします」


ここまでの数少ない凪咲さんの戦闘シーンを見て思うのはその跳躍力の高さだ。

空中に長い時間留まっていられるのもおかしいが、跳躍力が高いということはそのまま蹴りの強さに繋がる。

腕力はまだ不明だが、脚力はどう考えても危険だ。

軽い気持ちでムエタイばりのキックを叩き込まれたら体が砕ける。


「でも集中してるって見てわかるかな…」


凪咲さんにお願いするのは、

・僕が過剰な読書を始めたら創造の書を差し出して読ませる

・創造の書を読み終えたらすぐに"解除"させる


過剰な読書を誘発するために、適当にネットに投稿された小説を読み始める。


【モモ】の創造の件で分かったことだが、小説の登場人物を使者の候補にするという考えは、そこまで代行の中では珍しくない。

むしろ、"現代"の代行なら映画や小説、ゲームやアニメなどから引っ張ってくるのが常套手段なのだろう。


ということは、自己啓発本やら何やらを読むよりも、この手の小説を読み漁っておく方がいい。

自分が創造したい候補を探せるだけでなく、もし敵が創造していた場合…その弱点などが…知れ…


バチィン!!


「びぃっ!?」


「真?真!しっかりして」


「……」


目覚まし時計の方がよっぽどいい。

強烈なビンタをもらった右頬を押さえ、痛みで思わず涙腺が緩む。

目の前では凪咲さんが心配そうに僕を見つめているが…。


「だい…じょうぶ?」


「痛いことを除けば…」


「ごめんね。でも声かけても揺さぶっても反応しないから…」


床には創造の書。白紙のページを開いていた。


「読め…た…?」


「多分。全部読んだと思うよ。真…すごく冷たい表情で…少し怖かったけど」


残ったページは全て白紙。

遡ると僕が書き込んだものがいくつかとお馴染みの卍の親戚たち。

見たところで解読は不可能だが…


「ジヤイアント…ジャイアントベアー。10M級の巨大熊。これは14代前…外国の代行が書き込んだもの…」


「そんなことが書いてあるの?適当に言ってない?」


「こっちは空を飛ぶ鮫。こっちは手足が鉄で出来た人間」


「過去に創造された使者ってこと?」


「…はい。ページが残っているということは、死んでいなければまだ世界のどこかに…」


「そんなのがいたら大騒ぎだよ。それこそ未確認生物…みたいに…」


「例えば雪男とか。僕の本に載っていなくても可能性は十分にあります」


「ねぇ。私って、同列?」


「…いいえ。凪咲さんは凪咲さんです」


代行が創造してきた使者の"お手本"と自分を比較して焦った凪咲さん。

彼女がそんな化け物と同じなわけがない。


「もう全部分かったんだよね。創造の書のことは」


「……」


ページを捲って文字を指でなぞれば、記憶を探って書かれている内容を思い出すことが出来る。

しばらく使者の情報について書き込まれているが…


「一部の代行は戦争に巻き込まれたみたいです。それから」


……!!


18??年。日本に100の創造の書が再び渡った。


適当に書かれている内容を口に出していたらそんな情報が脳内でピックアップされた。


代行は世界中にいなければならない。

溢れかえる余分な生命を、適切な数まで減らさなければいけないからだ。

それだけでなく、アマゴウラ?が創造した史上最悪のものから生命を守らなければならない。


「真?真ー?…もう1回」


「大丈夫です。正気です。殴らないでください」


「何か重大なことが書いてあったの?」


「おそらくは。活躍した使者の名前が書かれることはあっても、代行の名前が書かれることはまずありません。それは本の序盤に代行の家系図のようなものがあってそこでアバウトに紹介されるからでしょうけど…。柊木の1つ前の代行の一族が最初に記した内容に、多分代行の名前が」


「うんうん」


「アマゴウラ…?」


「誰それ」


「さぁ…。ただ、わざわざ名前が出てくるくらいには活躍したみたいで…」


「その感じだと悪い代行?」


「はい。史上最悪の創造らしいです…」


「その後にそのアマゴウラを倒したみたいなことは書いてないんだ?」


「ないです」


「もし、この話を私のお父さんが聞いたら」


「え?」


「"間違いない。ラスボスのフラグだな"」


「……ラスボス」


「史上最悪とまで書かれてるんだし」


「凪咲さん。今日はあと32冊読みたいです」


「え?本読みたいの?」


「"追記"についても書いてありました。情報は少ないですが」



追記を成功させるコツ…そんなニュアンスだ。

具体的なことは書かれていないが、"頭が熱い"ことが重要とあった。

そして、熱した鉄を叩いて剣を完成させるように、頭が熱いうちに追記をすること。

そうすれば…。



「図書館がいいです。なるべく情報量の多いものを読みたいです」


「う、うん。分かった。行こ」





………………………………next…→……





日頼手中央第二図書館。

近所で最も大きい。


イベントホールでは定期的に子供向けの読み聞かせを開催している。

建物の中は、大人向けと子供向けでわかりやすく分けられている。


「真は何か1冊手に取って先に読んでて。私が色々持ってくるから」


「ありがとうございます。向こうの端っこのテーブルにいますね」


公然で、"過剰な読書"をするのは勇気がいるが、僕は追記をしたくてたまらなかった。


…ラスボス…アマゴウラという名の代行が創造したものが、文字では分からないが何となく分かる気がした。


本能的に恐怖する。それは、知り得ようがない未知の存在を身近に感じた場合。

"今日の1冊"の一部分だ。幽霊が代表例で、このカテゴリーでは死が最も強い恐怖とされる。


史上最悪の創造とは…何なのか。


核兵器のようなものなのか。

不治の病か。

少なくとも今の僕にはそれを想像することすら


バチィン!!


「にゃんっ!?」


「大丈夫?」


今は左頬よりも、集まる視線の方が痛い。


「急いで帰りましょう」


「どっちにしても今はもうここに居たくないよ」


すぐに本を片付けた。

どれも重く、ページの量が半端じゃない。

部屋の隅のテーブルで読んでいたおかげで読書中は怪しまれなかったようだが、目覚めのビンタで部屋中の人間の目がこちらに向けられたようだ。


「真。慌てないで」


「慌ててなんか…」


「大丈夫だから。深呼吸して」


半熟のゆで卵を作るのに最適な道具が、深海の奥のそこで発見された、その鳥は羽根を広げて求愛をしてみせると、若葉が枯れて黒い雲が空に広がり


バチィン!!


「てぇいっ!?」


「しっかりして。今は本読んでないでしょ?どうして?」


「あれ…」


気づけば帰宅していた。

凪咲さんは僕の前で創造の書の…夏野 凪咲のページを開いた。


「追記?するんだよね」


「はい。やってみます」


彼女のページにはまだまだ余白がある。

見てわかる伸びしろなのだ。


そこに、食事中の彼女との会話で聞き流していた情報を書き足していく。

あの時はそんなの無理だと思っていたが、今は違う。

いや、違くはないが、無理でもやらなければならない理由がある。



★正気と狂気の双刃

右手に炎を噴き出す赤の剣を、左手に敵の目に映らない黒の剣を出現させる。



追記したことを分かりやすくするため、追記分には★マークを付けることにした。


彼女が使っていた愛剣。

両親の象徴が武器化されたもので、魔法と同等の力が込められている。

現実的ではない能力を持つから、本来なら創造するのは避けるべきだが…



「恐怖の多くは、それを知ることで改善される。しかし、それが出来ない場合。人は"強くなる"ことを選ぶのだ」


「真?」



((READ))



ふと、聴力が失われた。

彼女が僕を見ながら口を動かしているが、全く理解できない。

…僕の指が増えた。…違う、震えている。

視界がガクガク震えて、体もガクガク震えて、僕の肉体が、脳が、イウコトヲキカナイ。


コレガ、ツイキ、ナノカ。


ソレトモ。ヒ…ゲンジツテキナチカラヲソウゾウスルコトノダイショウナノカ。


カンガエル、コトガムズカシイ…。






「っ!…はぁっ、はぁっ、」


息苦しさから解放される。

手足が…全身がピリピリと痺れている。

なんなんだ、今のは。



「真…?」


「すみません。大丈夫じゃないです」


「そんなの見たら分かるよ…」


彼女はティッシュを僕の鼻に詰めた。


「鼻血もすごいし…無理しないで」


「無理でもなんでもやらなきゃいけないんです」


「急ぐ必要ない。なんか、真が壊れちゃうんじゃないかって…」


「凪咲さん。武器は?」


その問いかけには、首を横に振った。


「そんな…」


「特別な力が無くたって私は強くなれるから。ね、だから、ちょっと休んで」




………………………………next…→……





「変身!とぉうっ!!」


夕方。

再放送される特撮ヒーローをぼんやり眺める。


僕は焦りすぎた。

でも、力はすぐに必要だ。

備えたくて仕方がない。

僕が何よりも怖いと思うものから身を守るために、どうしても必要なのだ。


「…僕にもこんな力があれば…」


1人で戦うヒーロー。タイツにアーマー…マスク。

超人と化した彼は、必殺のパンチやキックの威力が何トンの単位で紹介されている。

この回で繰り出されたダイコンオロシチョップは12t…12トン!?なんて驚くべきなのか迷うところだが、それだけの超威力ならぜひ欲しい。


………ん?


この後続けて放送される同時期に制作された特撮ヒーローの予告を見て思った。


1人、すごく強い使者がいること…

5人、それなりに強い使者がいること…


もしかしたら。


「凪咲さん!」


「なに!?どうしたの!」


突然の呼び出しにお玉片手に駆けつけてくれた。

料理中でも常に僕のことを気にかけていてくれたようだ。


「武器や能力の付与が難しいなら…」


「……ん?」



テレビに映るのは、野菜戦隊サラダマン。

彼らの詳細は置いておくとして、


「真…やめた方が」


「大丈夫。大丈夫」


使者を増やす。

仲間がいるから強大な敵にも打ち勝てるというもの。

そう、だから…


「うわ…」


「真。ついさっきの事だよ?忘れた?」


「え?」


創造の書を触るのが嫌だ。

どうしても触りたくない。


「怖い。あんな思い2度としたくない。って創造の書を遠ざけたの…」



それはどういう…





………………………to be continued…→…


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