神様、再臨す
「本当に駄目かどうかは本人に直接確かめればよかろう。誰か、ソールを呼んでこい」
そう、側仕えに命じた。
程なくやって来たのは、昨日、門前で出会った美女にしか見えない玄鳥の一族ソールだ。
居並ぶ領主一族と獣人と翼人、各部族を代表する面々に若干怯えながら、簡単な説明を受ける。そして、彼もまた、リヒトの言葉に同意した。
「我々の個体数は減る一方で他領へ赴いて施療する余裕などないのです。大変、結構なお申し出ではありますが…」
聖領で新しく出来る医院や職業訓練所における薬師育成のための指導など、他領にはないものだ。
彼は真面目な人なのだろう。さらに学びたい、多くの人を救いたいという気持ちと、少なくなった一族を置いて行くのはどんなものかと躊躇う気持ちの間で揺れているらしいのが手に取るように分かる。
うーん。もう一押しなんだけどな。
「即決出来るものでもないし、改めて返事を聞かせてくれればいいわ。私達は、サヘルにしばらく滞在する予定だから、よく考えてもらえると嬉しい」
迷っているんなら、熟考は大切だよね。私みたいに否応なしに異世界に連れてこられるとか、普通はありえないよね!
「熟考するまでもないだろう。ソールを他所に連れていかれては困る」
おおっと。伏兵現る。大鷲族の若長が嘴を挟んだ(ぷふっ。ダジャレじゃないよ?)。
なんだろう?リヒトと言い、この主従は迫力満点だ。
数える程しかいないと言う、頭部まで鷲の姿の翼人族だ。背中の翼はコンパクトに畳まれているが、広げたら凄そうだ。
カナンも性格はアレだけど、立派な鷹の姿をしている。
この人は大鷲だ。どっちが凄いとか優劣付けがたい。
私の知る限り、大きな鳥って言ったら、とんびくらいしか見たことないからなー。
鷹と鷲の区別もつかない。
「巫女殿には無駄足を踏んでもらって申し訳なく思うが、仕方ないと諦めてもらいたい」
僅かに頭を下げる。
心にもないことがあからさま過ぎるだろう。
「ええっと…」
翼人のまとめ役とは言え、あんまりじゃない?
「そもそも…」
チラリとセーランの方を見る。
「そこにいる者を側に置いているなら、最初から分かりきっていただろうに。何故、巫女殿に無駄足を踏ませるような愚を犯させたのか」
理解出来ないと言う風に首を振った。
対してセーランは視線を落とし、無言を貫いている。
困ったぞ。何やら、大鷲の一族とセーランは訳有りらしい。
途中で立ち寄った翼人の村でも、セーランは翼人の住む谷に行きたくない風ではあったが、まさかの族長一族と対立か?
「シルヴァ、そう邪険にするな。俺の花嫁候補だぞ?」
ガックシ。脱力してしまう。
アシュラム君てば、ぶれないね。
大鷲の若長はシルヴァさんと言うのか。
「アシュラム」
リヒトが強い口調で名前を呼ぶと、ひゃっと飛び上がった。
普通の時なら和むけど、今は止めて欲しい。
何となく、場が静まった。
うーん。空気が重い。これだから、上流階級と付き合うのは面倒なのだ。
「私は、玄鳥の一族が閉じ籠もっているのは世の中のためにならないと考えます」
「セーラン?」
普段、無口な彼が自分から発言するなんて珍しいことだ。
「あの悲劇からもう百年です。翼人の谷を出ても良い頃です」
「セーラン!お前に、谷のやり方に口出しする権利などないのだぞ!」
シルヴァが激昂する。怒髪天を突くような怒りようだ。
「お前…、いや、お前の母親は俺の兄を、いや、谷を捨てたのだからな」
憎々し気な表情から、セーランと彼の母親を心底疎んじているのが分かる。
「口出しする気はありません。私は折角の技術が失われるのが惜しいと思っただけです」
「それが僭越だと言うのだ!身の程知らずが。
はっ。やはり、母親譲りだな。恥を知らんとは何とも度しがたいものよ」
セーランの肩が、わななくように震えた。
ソールが心配そうにセーランの様子を窺う。自分達のことが原因でセーラン親子が悪く言われているのだ。気にするなと言っても、無理な話だろう。
もちろん、私だって黙っている気は毛頭ない。戦ってやる!
「あんたねえ!」
《うるさーい!》
はい?セイラ?
《うるさい!うるさい!うるさーい!》
ばばーんと寝床?がわりの布製の鞄から飛び出すと、ブンブンと勢いよく、そこいら中を飛び回る。
高速過ぎて目で追っていると疲れる。
《ナツキのお供をいじめるなぁ!》
そう高らかに宣言したのち、空中で仁王立ちした。
そうしたところで、精霊は存在そのものがかわいいのであまり迫力がない。
それはそうと、大層お冠である。どうしたの?
精霊との付き合いは、結構、長いのだけど、彼らの行動パターンはいまだに読めない。
しかも、セイラは飛び抜けて自由だ。それはもう、自由を絵に描いたようなフリーダムさに頭を抱えるくらいに。
だけど、魂の伴侶である私といつも一緒の面々には多少、気を遣っている、らしい?
しばしば、東領にある精霊の森を抜け出しては神殿に居座っているセイラだが、そのお守りをしているのがほぼアリーサとセーランなのである。ちなみにラベルはおもちゃ扱いされている。
《こいつはわたしの子分なんだからね!》
セーランを指差した。
いや、子分て。いつ、そうなったの?
《わたしの許可なく、悪口は言っちゃ駄目!》
そう言う問題か?
あ!ちょっと待って。ヤバい、ヤバい。問題発生の予感がする。そもそも、セイラを隠したのには訳がある。
「ば、薔薇姫?」
「まさか、そんなことが」
「しかし、伝承の通りのお姿だ」
いつしか囁きがざわめきへと変わる。
翼人はシルヴァやセーラン、ソールだけじゃない。シルヴァのお付きらしい人もいれば、領主館で雇われた使用人だっている。
「は、ははー!」
その場にいた翼人が一斉にひれ伏した。
「このような奇跡が我が身に起きようとは!」
シルヴァに至っては感涙している。
そりゃ、そうか。薔薇姫が復活したのは、ついこないだのこと。レーヴェンハルト創造以来だもんね。
あああ、もう!神様降臨だよ(再び)!
《分かればいいのよ》
セイラがフフンと、鼻高々だ。
こらあ、調子に乗らない!偉いのは、ご先祖様なんだからね!
私と同様、魂が同じだとしても(亡くなってアオ曰く、私はキーラの生まれ変わりなのだそうだ)、全く別物に過ぎない。
そこのところ、勘違いしないように!
《ふにゅ》
こてんと小首を傾げる。
かわいいけど、懐柔されないぞ。多分。




