迷う心と自由な人達
領主館で偶然出会った玄鳥の一族である男の人も、そんな悲しい出来事を経験した人達の一人なのかと思うと心が傷んだ。
「もうかれこれ、百年くらい前の悲劇ですが、当事者にとっては過去の出来事と割りきれるものではないでしょう。
私も玄鳥の一族と顔を会わせたのは、ほんの数回に過ぎませんし、そもそも人数もそれほど増えていません。翼人の郷の奥深くでひっそりと暮らしているとしか」
そんな風にセーランが語り終えた。
なんだか悲しいね。種族の違いとか、そんな些末な事で人は簡単に争う。私の暮らしていた日本ではそんなことはなかったけど、世界中で肌の色の違いや宗教の違い、異なる部族だからと言う理由で争いが絶えず起こっていた。
なかでも私が一番許せないのが、子供達が巻き込まれることだ。テロ組織、反対組織の撲滅だと言いながら、繰り返される空爆やテロ。それに巻き込まれる子供達の数のなんと多いことか。
そんな新聞やテレビの報道を見ながら、憤るけれど、私は何もしなかった。何をどうすれば良かったのか分からなかったし、遠い他国での出来事だったからだ。
けれど、今は違う。私はそんな悲劇のあった地に実際にいるのだ。終わったことだからと知らぬふりをするのではなく、考えていきたい。
「そうなると、玄鳥の一族を聖領に勧誘するのは難しくない?」
「そうですねえ」
ラベルが両耳をピンと立て、同意する。
彼も思うところがあるのだろう。先だっての、実家のゴタゴタとは違うが、巻き込まれた側ではあるし。
ヒルダさんは当然知っていたはずだ。なのに何故、彼らを招くと言うようなことを言ったのだろう。
「うーん、分からん」
私は頭を抱え込む。
「勧誘する、しないはともかくとして、彼らの薬師としての技術は確かなのでしょうし、教えを乞うと言う形で会うくらいなら問題ないのでありませんか?」
ヴァンがそう提案する。
うん、いいね!私の職業訓練所で薬師を育成するのはどうだろうか?
「とりあえず、明日、領主館に行ってみよう」
「はい。お供いたします」
皆が賛同してくれた。
アシュラム君とも約束したことだし、全ては明日にしよう。
翌日もまた、暑さの厳しい快晴であった。ここには冬という概念はないのか。
「うーん、そうだなあ。年がら年中、こんな感じだせ?」
私はまたしても、お腹が空いたのでログさんから社員食堂?で賄いを頂いていた。
本日は鶏肉の煮込みだ。旨し。
南領までの道中を尋ねられたので話していると、途中の村で金の卵を頂いていたことを話すと、欲しいとせがまれたので残っていた数個を手渡す。
「おら、食いな。金の卵のオムレツだぜ?」
おお!プロ顔負けのフワフワ感だ。
「美味しー!」
ハグハグ。
「ログさんは料理も出来るんですね!」
「あー、まあな。あいつが何も作らないというか、下手なもんで仕方なく、な」
なるほど。エバさんは料理が出来ないのか。
まあ、あれだけのエロ…いや、美人さんなんだから、料理くらい。ログさんもそうだよね?
「うーん、最初に会ったのはあいつがまだガキの頃だったからな。容姿云々は気にもとめてなかったな」
ほほう。結構、年が離れてらっしゃる?
「年の離れた妹って感じで一緒に暮らしていたからな。あいつの両親も健在だったし」
「ご両親は亡くなられたんですか?」
「いや、ピンピンしてるぜ?宿は任せたって故郷に帰っちまったんだ」
故郷?
「あいつの父親が玄鳥の一族なんだ」
母親は人なんで、あいつも人にしか見えないがな。俺と同じだ。
ちょっ、ちょっとお!
「お父さんが玄鳥の一族って!有名な薬師なんじゃないですか!」
「そうだぜ。なんてったって、俺が拾われたのもヘマやって大怪我していたところを治療してもらったのがきっかけだったしな」
おーい。こんなところに伏兵が(違うか)。セーランてば、知らなかった訳じゃないよね?
「もちろん 知ってるぜ。けど、あいつは自分からは言わないだろうぜ?」
「えーと。過去の出来事のせい、とか?」
「なんだ。聞いたのか。そうだ。親父は当事者だ。拐われた子供達の中に兄弟もいた」
ああ…。なんてことだ。こんなに身近に当事者の家族がいたなんて。
「あの当時、見習いとして一人立ちしたばかりで里にいなかったから、親父は難を逃れたんだ。死んだ子供達とは年もそう離れていなかったし、全員、兄弟か友達みたいなものだったんだろう。随分と苦しんだらしい。それに母親が悲しみのあまり、後を追うように亡くなったって言う話だ」
だから、薬師を辞めた。
「この宿屋を建てて、薬師とは全く違う生活を始めた。玄鳥の一族を見たことがあるか?」
「ええ。領主館で偶然会って」
「特徴的だったろう?」
ツバメが人の形をしたら、こうだろうという姿だったと話すと、
「そうだろうな。見た目でそうと分かるのを嫌って、親父は髪を赤く染めた。瞳も赤だし、目立つと言えば目立つが、そんな色合いの種族なのだと言われれば、翼人は派手な見た目の者が多いから、納得してもらえた。まさか、高名な薬師が宿屋の親父をやっているとは思わんだろう。
そうして、薬師であることを封印し、ずっと過ごしてきた」
と、義理の父親の越し方を語った。
「薬師を辞めてしまうほど、辛い経験だったんでしょうね」
「だろうな。けど、少なくとも俺達の前ではそうした素振りは見せなかった」
「私…、実は玄鳥の一族に用があって来たんです」
ログさんは何も言わなかった。ただ、先を促すように頷いた。
「癒し魔法の使い手は少なくて、それなら代わりに薬師を招致出来ないかと。人から勧められたのですけど、私も良い考えだと、そう思って。けど、ここに来て色々な話を聞くうちに少しだけ迷ってます」
「親父みたいに薬師であることを隠して生きている者もいるからか?」
「そう…、そうですね。無理強いはしたくない」
「そんなことか。相手は大人なんだろう?嫌なら嫌って言うだろうぜ。姫さんは好きにやったらいいさ」
ええ?そんな簡単に言わないで欲しい。
「俺はな、時々思うんだ。親父は好きで薬師を辞めたんじゃないって。俺を助けたのが、その証拠だ。けど、ここで薬師として生きるのが辛かったのは本当だと思う。
だからさ、あんたが連れ出してやればいいのさ。
疲弊して、殻のなかに閉じ籠もったきりの玄鳥の一族が再び飛べる場所に」
なんなら、親父に話をつけてやろうか?
「待って!待って下さい。もう少し、ゆっくりと話をさせて下さい」
私がこれから勧誘しようとしている相手のこともまだ、分かっていないんですけど!
「まずは私のやり方で試させて下さい」
「ふうん?まあ、いいけどよ」
ログさんは不満そうにふんと鼻を鳴らした。
いやいや。急ぎすぎると、ろくなことはないですよ?経験上、知ってます。
うーん。あっちでもこっちでも、私の周りは自由だな!
と、そこで、もぞもぞと私の頭の上で寝こけていたセイラが起き出す。
昨日、置いていかれたことを根にもって、私から離れようとしないのだ。
半分、寝惚けまなこで、
《火竜、いつ会える?》
と、かわいくおねだり。
セイラ、お前もか。
火竜には会えませんよ〜。何度も言わせないでね!




