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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第二章 南領編
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旅はのんびりと

聖領を中心に東西南北に分かれた街道を主道とし、道は各領地へと続いている。

そうかと言って、聖領と四つの領地が隣り合っている訳ではない。まずは聖領を抜けるまで街道は急峻な崖に阻まれる。

そこを抜けると、のどかな田舎道がひたすら続いている。その辺りに各領地との境界線が引かれているのだ。

南領の北部は大森林地帯と喧伝されるが、今のところ、のどかな田園風景が広がっている。

民の主食である小麦や農作物のほとんどが、こうした場所で作られるのだそうだ。

それは聖領の清らかな神気が行き届いていることによる恩恵なのかも知れない。

私達は、そうした眺めを騎獣の背に乗った上空から、時として休息がてら降り立った場所で目にすることが出来た。

聖領の地を出て2日、そろそろ大森林地帯と呼ばれる地が見えてくる頃だ。

「今日は、この村の集会所で休ませてもらえることになりました」

村長と一夜の宿について話し合いを行ったヴァンがそう言う。

たまたま立ち寄った、この農村はさほど大きくはないが、旅人をもてなすために集会所を臨時の宿泊施設としているのだそうだ。

「ここから先は主だった村はありません。

ここが最後なので、皆さん、こちらで旅に足りないものなどを村人と物々交換などで手に入れるのです。

こちらとしても辺鄙な場所ですから、旅人がもたらす物資は大助かりなので、その関係で宿泊先を提供するようになって」

とは村長さん。

「部屋も幾つかに区切られていて、快適とまではいきませんが、清潔さにはこだわっていますので、どうぞ遠慮なくお使いください」

ふくよかな村長婦人がそう補足する。

村自体も不衛生なところはなく、いかにも農村といった風情だ。

馬糞やら牛糞やらの、そこはかとない薫りが漂うのは致し方ないだろう。

黄金の鶏冠と赤い、長い尾羽を持った鶏が、放し飼いにされている…。

これはどういう品種なのだろうか。

「こちらは金の卵をうむ、珍しい鶏です!」

おおぅ、黄金の卵?

うーん、卵かけご飯にしたい。米がないのが悔やまれる。

「お米ですか?ありますよ?」

マジですかっ!

喜びのあまり、小躍りする私の首根っこをアリーサがむんずと掴み上げる。

「夕飯にお出しいたしましょう」

一年ぶりのお米…。長かった。

以前、私は炭水化物ダイエットに挑戦し、三ヶ月間、お米を控えに控えた。

むろん、パスタやラーメンもだ。

その結果、三キロ痩せた。やったね!

しかし、反動とは恐ろしい。

米を解禁した途端、一ヶ月で五キロ増え、それから体重が上りの一途を辿ることとなった。

恐るべし、炭水化物。

村は取り立てて見るものもなく、私は夕御飯を楽しみに待ちわびる。

「こちらが今年、ここで収穫した米です」

村長婦人率いる、村の奥様達が料理を運んで来てくれた。集会所に台所はないので村長宅で調理したそうだ。

ホカホカと美味しそうな湯気の立つ、お皿に盛られたお米はー、

うん。インディカ米だね。

パエリアとかに適したお米と言ったらいいだろうか。私も詳しくはないので裏覚えの知識だ。

卵かけご飯には残念ながら適さない、はず。

それでも私はあえて挑戦する。

しかも、醤油がないので、村長宅にあった魚醤(ナンプラーみたいなもん?)なるもので代用する。

まるで金色のメッキを張ったような卵を器に割って、魚醤を加え、ひたすら混ぜる。

混ぜ混ぜ。

予想通りだった。合わないし、全体的にパサパサする。

分かっていたよ。でも、挑戦するって大事だよね!

私は奥さんに頼んで、チャーハンみたいな炒めご飯にしてもらう。

美味しかった。完食です。

翌日、黄金の卵をうむ鶏の鳴き声で、早朝に叩き起こされた。

うるさい。

「お世話になりました」

村人に挨拶する。謝礼とは別に、お礼に渡した聖領の護符を村長が土下座して受けとる。

いやいや、大袈裟だろう。ん?これが普通?

聖領、恐るべし。

代わりに黄金の卵をどっさりいただいた。

カナンが複雑そうな視線を卵の入ったカゴに向ける。

いや、有精卵ではないですよ?

私もそこは弁えています。って、嘴でつつくな!

カナンに乗った私は、村を後にする。

今回、新しい旅の仲間となったのが仲間達の乗る、それぞれの騎獣だ。

アリーサがスタンダードな馬の騎獣で、セーランがカモシカ型(渋いね)。

そして、ラベルがヒッポグリフだ。

いや、それファンタジー世界の産物じゃね?

「確かに珍しいですが、神獣ではありませんから、驚くほどのことはないですよ?」

「神獣?」

「炎竜とか」

そんなのいるんですか。

心から、会いたくないです。炎のブレスとかいらないです。

人畜無害?な花竜でもう一杯一杯です。

「滅多に姿を見ることはありません。

まあ、南領のどこかに炎竜の棲みかがあるらしいのですが…」

いやーっ!そんな豆知識いらないよー。

「炎竜は砂漠の中心に行かなければ会えません」

ぼそりとセーランが呟く。

「砂漠の中心は高温の炎熱地獄と呼ばれ、人の立ち入るような場所ではありません」

だよね?ドラゴンって、軽い天災みたいなものだもの。そんなに簡単に会えないよね!

ほっとむねを撫で降おろす。

《ドラコン?会いたいー!》

卵の入ったカゴから、元気な声が若干、くぐもって聞こえた。

私は慌てて、卵を覆ったナプキンを外す。

すると、ひゅんと小さな妖精が目の前で跳び上がった。

ちょっ、セイラ。あんた、いつの間に。

《ドラゴン、好きー!》

やーめーてー!ドラゴン、NO!










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