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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第一章 東領編
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あらためまして

「あらためてご挨拶させていただきます。わたくし、ここで神殿長をさせていただいておりますヒルダと申します」

先の女性が、私の前で両腕を胸元へ交差させてお辞儀をする。

私達が今いるのは神殿の中の一室だ。無用なものは一切ないといった感じのシンプルな部屋で、さっきまで飲み物の用意を行っていたお付きの人もヒルダから目配せされると部屋から退室していった。だから、ここにはヒルダと名乗った女性と私の二人きりだった。

「あ、はい。私は高良奈月と言います。はじめまして」

と、慌てて私もお辞儀を返した。

新しい衣装に着替えさせられた私は、まさにまな板の上の鯉の心境だ。

先程、鏡で確認した私は、驚くよりもがっかりした。普通の神経の持ち主ならば、パニックになっても当然だろうが、日々の社畜生活(帰宅は終電ギリギリなんてあたり前。休日であっても現場の責任者がいないなどと、急な呼び出しがかかる等々)で神経が少々麻痺していたせいかも知れない。

現実逃避のような、この状況をかえって楽しむ始末だ。

例え、私が今着ている服がゲームなんかでよく見る女神様のような格好であっても。

「ナツキ様…。お顔は存じ上げておりましたが、今日、初めてお名前を知りました」

「え?えーと、私のことご存じだったんですか?」

「ええ。随分と前から、あなた様のことは拝見しておりました。僭越ながら、我が子の成長を見守る親のような気持ちで、見守ってきたのです」

親ってあなた…、あなたのほうが年下でしょうに。

まあ、今の私は何故だか若返っていて、娘と言ってよい年代ではある。それでも彼女のほうが幾らか上かなって感じだ。せいぜい姉妹にしか見えない。

「わたくしはあなた様が思っているよりも、随分と年上なのですよ?」

そう言って、イタズラっぽく笑う。

え?何それ。世間で言うところの美魔女ですか?

「わたくしがあなた様を初めて見たのは、そうですね…。幼少期の時分でしょうか?一人で立ったり、歩いたり出来るようになった頃かしらね」

え?そんなに前から?正直に驚いた。

両親はすでに亡く、親類縁者との関わりの薄い環境で育った、私の幼少期を知る人間は皆無と言っていい。

そんな人間に別の世界で会えるなんて。素直に喜んでいると彼女の口から聞きたくもない話題が飛び出した。

「ですから、あなた様がご両親を不慮の事故で亡くされた時も、こちらからは何も出来ず、もどかしい思いでした。

見ていることしか出来ない自分が歯がゆくて…」

ドキンと心臓が音をたてる。常日頃、頭の隅に追いやり、思い出さないようにしてきた記憶を、無遠慮に触れられたような気がした。

「…」

「申し訳ありません。わたくしは無神経でしたね」

私の表情から自分が失言したと悟ったのか、ヒルダが謝った。

両親の乗った車が居眠り運転の大型トラックに追突され、亡くなったのは、私が小学校三年の時だった。

当時、仲良しだったクラスメイトの家族に便乗して一泊二日のキャンプに来ていたので一人だけ助かったのだ。

両親は帰って来た奈月を、友達の家まで迎えに来る途中で事故に遭遇した。

待てど暮らせど、両親は来ないし、連絡もつかないしで心細い思いをしていたところに両親の事故を知らされ、友達の親に連れられて行った病院の一室で物言わぬ両親と対面した。

その日から私の心は半分死んでいるようなものだった。

「…いまだに傷は癒えてはおりませんか?」

心配そうに、こちらを窺い見るヒルダに私は何も返せなかった。

「では、続きの話をさせていただきますね。何故、あなた様がこちらに来ることになったのか。そして、あなた様の暮らしていた世界とこちらの世界との関わりを」

ヒルダは語り始める。

それは神話の世界のような古の時代に誕生した、レーヴェンハルトという新しい世界の成り立ちの物語であった。



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