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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第一章 東領編
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精霊の友逹

一人、先に帰って来た私を、残っていた面々が遠巻きに見ていた。声を掛けたいのに掛けられない、そんなジレンマと戦っているみたいだ。

数分後、戻って来たヴァンがアリーサに責め立てられていた。

私は騎獣の世話をトールに任せ、ふらふらと花畑の中を歩いて行く。

ここに咲いている花は季節に関係なく、いつでも満開だ。精霊の魔力によるものらしい。

私は大樹の根元へと腰を下ろす。

正直、疲れてしまったのだ。

《ナツキ様?大丈夫ですか?》

アオが仄かに光ながら、私の膝へととまった。

心配そうに見上げる、あどけない表情にささくれだった心が和む。

「今日ね、目の前で人が死んでいくのを助けらなかったの」

《ナツキ様は治癒魔法使いではないのですから、その死はナツキ様のせいではありませんよ?》

「うん。そうなんだけど、無力さに打ちのめされているところ」

私は驕り高ぶっていたのかもしれない。出来ないことはないと、頭から突っ込んでいって、結局、失敗してしまった。

《‥キーラ様が》

「うん?」

《キーラ様も難題にぶち当たったら、今のナツキ様のようにふて寝しておられました》

そうだったね。以前、アオの記憶と同調した際、キーラも同じようにふて寝していた。

彼女の悩みは魔力を持つ者と持たない者のいさかいで、私のような個人的なことではない。

《悩み事があれば、私におっしゃって下さい》

フルフルと羽を揺らす。

《私はあなたの契約者ではありませんが、名前を頂きましたから》

名前をつけてあげた時、アオは私との契約を拒んだ。もうすぐ消え行く自分に契約者は必要ないと言って。代わりにこう言った。私達は友達だと。

「‥潜蛇と、その召還者を捕まえて、罪を償わせてやりたい」

《はい》

「奪った命がどれだけ尊いものだったのか、ちゃんと分からせてやりたい」

《その通りです》

「私に出来るかな‥?」

半分、ベソをかく。

出来るかな?力のない、私に。

調べたら、私の魔力はそれほどないらしい。閉鎖的で、仲間内で婚姻を繰り返してきた隠れ里の者と比べ、大分劣っているそうだ。

ヒルダさんに能力のない私を転移させたことを後悔しているかと聞いたら、笑って「とんでもない」と答えてくれたので、救われた気がした。

「私に力を貸してくれる?」

《喜んでお手伝いいたします》

極上の笑みで答えてくれた。

「どうやって潜蛇を捜したらいいのかなぁ?」

問題はそこだ。犯人はレキか、その周辺にいる人物だと思っていたのだが、まるで見当違いだった。

《私をお連れください》

「アオを?」

《私の目なら、潜蛇を視ることが出来ます》

アオの魔力は、魔力探知に長けている。その目でどんなに遠くても、どこに隠れていようとも魔力を持つものを探り当てることが可能なのだ。

滅多にいない、コアなスキルらしい。

「そっか‥。アオなら、捜し出せるかも。お願い、協力して!」

《はい、私でお役に立てるなら》

やった!そうだよ!こんな近くに解決へと導く鍵があったなんて。

私は小躍りしたいくらい喜ぶ。

《駄目です!》

《そうです。絶対に行かせません!》

いつの間にか沢山の精霊達が集まって来ていた。そして、全員が全員、アオが森の外に出ることを反対した。

《そのように弱った体で森の外に出るなんて、自殺行為です!》

《この森にいるからこそ、長の命は永らえているのですよ!》

全員が怒っていた。

《お前たち‥。ナツキ様は薔薇姫の魂の伴侶なのだよ?》

アオが仲間達をそう言って窘める。

《そうかも知れないけど‥、生まれ変わりかもしれないけど。だったら、薔薇姫は?薔薇姫はどうして、生まれ変わらないのですか!だったら、魂の伴侶なんて必要ない!》

そうなのだ。私がいても、薔薇姫は一向に誕生する気配がない。

私が意気消沈すると、アオが見たことがないくらい怒った。

《なんと言うことを‥。それが精霊族の末たる者の言うことか!ナツキ様を信じられないと言うなら、お前にここで暮らす資格などない!》

青を纏った、怒りのオーラがアオの体を包み込む。

《ひ、ひいっ。も、申し訳ございません》

羽を縮め、ガタガタと震えながら、叱責を受けた妖精は地面へと落ちていく。仲間達が庇うように、その周りを行き交う。

《薔薇姫は我らの母にして、女王。その魂の伴侶を侮辱することは、薔薇姫をも侮辱することと知れ!》

《ごめんなさい、ごめんなさい》

泣きながら謝る妖精を、周囲の妖精達が、

《許してあげて》

と、一生懸命庇う。

「アオ、アオ!」

私は慌てて、アオを両手の手のひらで包み込んだ。

「いいから、私は気にしないから。そんなに怒らないであげて」

激情に駆られ、四方に広げられた羽がゆっくりととじられていく。

この小さな体のどこに、あれほどの激情が眠っていたのか。

私の手の中で、アオはいつものアオへと戻った。

《すいません》

小さく謝る。

ああ、良かった。いつものアオだ。

私はほっとする。長として威厳のあるアオも格好いいけど、いつものまったりとしたアオの方が好きだな。

そう言うと、アオは先程の自分を省みたのか、赤くなった。

《私も、のんびりしている方が好きです》

うん、そうだね。

けど、困ったな。アオの体を考えると、やっぱり森から連れ出すのはマズイよね。

もし何かあったら、取り返しがつかないよ。私はこれ以上の犠牲を出したくない。

どうしよう?



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