領主館でのアレコレ
「面目次第もございません」
屈辱的な顔で見舞いに訪れた私にレキが詫びる。
そんなに嫌そうに言われても‥。
「まさか、彼女があのような犯行に及ぶとは考えてもいませんでした」
とは、オーリさんだ。そして、彼女とはレキを刺した犯人で私とも面識がある人だった。
「あのあと、俺の担当から外したのだが、特に不満を言っているようではなかったのだが‥」
客として訪れた私に無礼を働いたとして解雇されそうな所を私の嘆願で回避し、別の部署で働くこととなった。
「不満はあったのじゃない?あなたの側で働くのとそうでないのとでは天と地ほどの差があるでしょうし」
「‥領主館で働くことに変わりはないだろうに?」
レキは不満そうだ。
この人、ホントに気付いていないんだ。彼女らが自分のために集められたってことに。マジで、残念過ぎてかわいそうになってくる。
「間違っているとでも?」
私の哀れんだような波動を読み取ってか、渋面でそう尋ねた。
「いやあ。これって言ってもいいのかな?」
オーリを見ると頷いたので思いきって話すことにする。私が言うべきことでもないのだか‥。
「だから、さ。彼女達はあなたのお手つきになるのが目的で働いてるんでから、そのあなたから遠ざけられて、面白い訳ないでしょうに」
「お、お手つきっ!?」
あれ?やんわりと言ったつもりだけど、いけなかった?こっちって割りと性に関しては保守的なんだもん。気を遣うよ。
「なななななな!オーリ、お前っ、知っていたのか!」
矛先がオーリへと向かう。
「もちろん存じておりました」
しれっと答える。
「考えたのは乳母殿と執事長ですが、私は問題なかろうと静観しておりました」
「ネイが?」
ネイと言うのはレキの育ての親とも言うべき乳母の名前で領主館の最高権力者であるとのこと。
「ただ、乳母殿はご自分が育てたレキ様の趣向までは把握しておられなかったようで、美女を集めたところで、どうにかなるとは思いませんでしたので」
ばっとレキがこちらを向いた。私はすかさず、視線を反らせた。武士の情だ。自分の性癖をばらされたら、恥ずかしいよね?
「あなたは誤解しているようだが、私は別に獣人が好みと言う訳ではない」
え?そうなの?モフモフ仲間じゃないのか。良かった〜。何となく、一くくりにされたくなかったので(ひどい)。
「私が好きなのは、亡くなった兄上だ」
おぅ。まさかのBL発言。しかも、兄弟。私もあちらでは読んでいたので否定はしないが、近親相姦はいかんのでは?
「違うっ!兄上のような犬系獣人に憧れていたのだ!」
「憧れって‥。ああ、そう言うこと」
「‥何を一人で納得している?」
「だからさ、お父さんやお兄さんと一緒が良かったってことでしょ?」
グレートデーンと柴犬じゃ、趣が全然違うけど、同じ犬系獣人ではある。
「ファザコンか‥」
「何だそれは?言葉は分からんが、変な意味だろう!」
あんまり興奮すると傷が開くよ?非力な女の力だったから、深手を負わなくて済んだとは言え、血が流れたんだから。
「まあまあ、興奮しないで。治癒魔法と言っても、完璧じゃないんでしょ?安静にしてなさいよ」
稀代の治癒魔法使いであったと言う、姉妹の母親程の治癒者はそうはいないらしい。傷を塞ぐとか、簡単な病を癒す程度で、四肢の欠損を補うとか、不治の病を癒すとかは無理らしい。
「家族と同じなのが良かったのに、違ったから拗ねていたってことでしょ?」
「ばっ!ば‥」
おおっと、馬鹿と言いそうになったね?神殿の巫女に対して、一領主の発言としては不適切だ。
よくのみ込んだねー。ヨシヨシ。
「馬鹿にしないで頂きたい」
してないよ〜。心の中だけで〜。
「くそっ!」
それも問題発言だけど、無かったことにしてあげよう。私はなかなかに寛大だよね?