甦る過去の悪夢
久々に頭を使ってか色々とモヤモヤしていたのが、すっきりとクリアになった気がする。
「ついでに東領に権力争いとか派閥みたいなものがあるのか教えてくれない?」
敵を知るにはその辺も理解しておいた方がいいだろうと思っての提案に、
「‥そうですね。その辺りは私よりも適任者がおられますので、そちらに伺うのが一番かと」
と、アリーサが言ったのでラベル辺りに聞くのかと思いきや、まさかのオーリである。
「先日は失礼いたしました」
ウサメン再登場だよ!相変わらず、大人の男の魅力溢れるウサギさんだね。
「こちらこそ、ご無沙汰でした。イサベラは元気ですか?」
「あれはいつも元気なのが取り柄ですよ」
ふっと笑う。婚約者と言うよりも、年下の可愛い妹のような感じである。
あれ?もしかして、私の出番あり?
何と言っても、婚活の旅だからね!もちろん、オーリが敵じゃなければの話だけど。
「こちらへと伺ったのは、我が主への誤解を解くためです」
ほほう。我が主とは、オーリさんははっきりとレキ陣営なんだね。気を引き締めないといけない。
私が身構えるのが分かったのだろう。少し悲しそうな顔をした。
ウサメンだから絵になるなんて、思ってないよ!ホントに。
「グエン様にお会いになったとお伺いしました。その折にレキ様のお母上とも‥」
ああ、あの女の人ね。自身のことすら忘れてしまった、先代領主の妻。悪事に加担して天罰を受けたのであれば、自業自得とも言える。
私の嫌悪を正確に読み取り、オーリがまるで擁護するかのように抗弁する。
「あの方は、かわいそうなお方なのです。グエン様は一族から迎えられた先の奥様を心から愛していらして、再婚などしたくないとおっしゃるのを無理矢理押し付けたような形で輿入れされた妻を丁重に扱うものの、それだけの関係でいらした」
東領は幾つかの地域を、先祖代々、貢献のあった家臣に分割統治させる仕組みで、中々に柵が多いらしい。そのうちの権力者の一人からごり押しされると、領主と言えど断りづらく、ましてや領主が独り身などもっての他と言う正論を盾にとられ、渋々承諾した。そんな結婚に愛情など湧こうはずもなく。
「レキ様がお生まれになっても、相変わらずで。これは、父から聞いた話ですので私が直接見聞したことではないのですが」
あー、ムスカの町長さんね。グエン様の側近だったとか言う。
「父は間近で見ておりましたので、何度となく換言したらしいのですが、こじれてしまった関係を修復するには至らず」
親のことはさておき、三人の兄弟は仲が良かった。父親と同じ獣人として生まれた長男は穏やかな気質で思慮深く、病弱な次男の面倒をよく見て、年の離れた三男を可愛がっていた。
「私は家臣の子ですから、お三方を側から拝見するだけでしたが、本当に仲が良く、亡くなった奥方の姪にあたるお嬢様といつも一緒でした」
この人が後に長男に嫁いでラベルを産んだ。
「けれど、それを快く思わなかったのが奥様です」
愛されなかった反動からか、レキを次期領主にすると公言するようになり、兄弟から引き離した。
「お寂しみそうなレキ様の側近として、この頃、私は召し抱えられました」
遊び相手として、そして、ともに勉強に励む学友として。
「一番上の兄上様が亡くなられ、レキ様が次期領主となられたのですが、ご本人が望んだことではございません」
えー、口では何とでも言えるよね?それに小さい頃から仕えていた主だもん。情だってあるんだろうし。
「レキ様にご結婚の意思はないのですよ。いずれ、ラベル様のご子息に領主の座をお返しするつもりなのです」
これまで同じ天幕の中にいながら、己を完全に消していたラベルが驚いて身動ぐ。
オーリを筆頭にレキの関係者には壁を作るラベルであったが、聞いた言葉につい反応してしまったようだ。
そんな風に動揺を隠せないラベルを、弟でも見るように優しく見遣る。
「これは嘘偽りなく真実です。グエン様も了承しておられます」
「けれど、それでは叔父上が‥」
「元々そのつもりだったのです。真実を話さなかったのは、あなたが幼かったのもありますが、あなたに危害が及ぶ可能性があったからです」
「どういうこと?もしかして、ラベルの両親の死が単なる事故ではないと察していたの?」
オーリがラベルから私へと視線を戻す。
「もちろんです。ただ当時は、はっきりと分かってはいませんでした。それが最近になって、レキ様のお身の回りにあり得ない事故が頻繁に起こるようになって、やっと核心に近づけたという所で」
「あり得ない事故って‥?」
「言葉の通りです。偶然では片付けられない、ご長男夫婦が巻き込まれたような事故がレキ様の身の周りで起こっているのです」
なんですって!そんなの一大事じゃない。もっと大変だ!って顔してよ。
オーリさんってば、無表情もといクール過ぎて、分かんないから!




