反省してみる
神殿の奥に連れていかれると、そこには広々とした大浴場があった。ライオンに似た大きな銅像の口がお湯の注ぎ口になっていて、溢れんばかりのお湯が半円を描いて浴槽に注ぎ込まれていた。高級スパと遜色ない。
「はああ。生き返る〜」
私は寒さで固くなっていた体で、うんと伸びをしたのち、顎先まで湯船に浸かった。
極楽、極楽。一人、まったりとお風呂タイムを楽しむ。
最初、お付きの人達は私が一人で入浴することに難色を示した。「お世話いたします!」と、いい募る彼女らを説得するのは少々骨が折れた。
「一人にして欲しい。これは命令よ」
と、きつく言うと渋々納得してくれたのだ。命令なんてしたくなどなかったが、どうやら私は彼女らにとっては賓客扱い。お願いするよりも効果があるだろうと察したら、案の定だった。
「巫女様って、言っていたわよね」
明らかに神殿らしい建物からして、ここは神官や巫女といった神に仕える人が住む場所。私には巫女としての役割を期待されているらしい。あくまで推測の域にすぎないが。
けど、巫女って何をするんだろう。お正月におみくじを売っている姿しか思い浮かばないのだけど。
まあ、それは置いといて。
私は、お湯のなかで手のひらを使って腕を肩から指先へと向かって撫で上げる。やっぱり艶々と若々しい張と弾力を感じる。年を重ね、全体的にくすんだような肌色が抜けるような肌色へと変化していた。体つきもほっそりとしているようだ。
「何だか、分からないけど若返った?」
ううん、もしかしたら、どこぞのラノベ展開よろしく、異世界で超絶美少女に変化したとかそう言う展開だってあるかも?
だって、さっきの身分の高そうな女の人もお付きの人達も全員美女や美少女だったもの。あり得ないことはない!
私は存分にお湯で温まると浴場から出た。そこには一人の少女がひっそりと待機していた。大勢に世話を焼かれるのもゴメンだと言っていたのを、考慮してくれてのことだろう。
私は少女に、声を掛けた。
「ねえ、鏡はない?全身が見えるような…」
「姿見でこざいますか?」
私は、大きく頷いた。
「こちらでございます」
私は薄手のガウンのようなものを纏った格好で、彼女に案内されるまま向かった。
ここはいわゆるメイクルーム、いや、フィッティングルームだろうか。浴場のすぐ側にあった。
「どうぞ、ご覧下さい」
私は、内心ドキドキしながら、大きな鏡の前へと立った。
「…っ!」
そこに映っていたのは、間違えようもなく私だった。30才ほど若返っていたが。そう、高校生くらいの頃の私だ。
ただし、若返ってはいたものの、キラキラしい美少女の要素は微塵もなかった。
直後、私はスンと素に返った。浮かれた自分を恥じさえする。
そうだよね。そんな都合のいい展開ないよねー。いい年して、反省した。