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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第一章 東領編
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先代領主に会う

床の上にぶちまけてしまった蜂蜜は、集まったおばあちゃんメイドズによって、あっという間に綺麗に片付けられた。

一連の騒ぎが静まってから、私は自己紹介と改めてお詫びをした。

「初めまして、ナツキと言います。ラベルの友人です」

ラベルがえぇ!って顔をしたけど、無視した。

「あの、本当に申し訳ありませんでした」

「気にしないでいいよ。それより、わざわざお見舞いに来てくれてありがとう」

全く気にしていないという風で、私は胸を撫で下ろす。

「半分になってしまったんですけど、良かったら試してみて下さい」

「蜂蜜だっけ?いつも飲む薬湯が苦くて参ってるんだ。蜂蜜を垂らすと飲みやすくなるから、助かるよ」

ニコニコと邪気の無い笑顔でそう言う。

セトさんも人族であるが、弟のレキとは全く似ていない。見た目からして男らしい印象のレキと違い、どちらかと言うと女性っぼい、優しい雰囲気である。トウモロコシ色の髪に空色の瞳を持ち、肌は病人らしくかさついてはいたが、抜けるように白い。

「まあまあ、珍しいものを有難うございます。若様、こちらは精霊の森で採取された、たいへん貴重なものでございますよ?」

「へえ?そうなんだ?」

私が渡した瓶入り蜂蜜をセトが興味深そうに眺める。

「どうやって手に入れたの?」

「私達、今、精霊の森で生活しているんです」

すると、セトさんが酸っぱいような表情をして見せた。

「‥えぇと、それはそのう。二人で?」

恐る恐るという風に聞いてきた。

あれ?もしかして誤解されてる?

「いえいえ、仲間達と一緒ですよ!」

豪快に笑い飛ばすと、

「あぁ、そうなんだ」

一先ず納得したようだけれど、すぐに悲しそうに眉を曇らせた。

「ラベルももう、そんな年頃なんだね。まだまだ、子供とばかり思っていたけれど」

「叔父上‥」

「喜んであげないと駄目なのに、僕ときたら自分ばかりが取り残されてしまうと嘆いてばかりで、本当に情けないよ。僕の大切な人達は皆、僕の側からいなくなってしまう」

俯いてしまったセトさんに、私とラベルは何も言えなくなってしまった。

「さあさあ、黙りなんてつまりませんよ?せっかく坊っちゃまが訪ねて下さったと言うのに」

さすが年の功、おばあちゃんメイドがしんみりしてしまった場を盛り上がるように手を叩いた。

「そうだったね。ごめんよ。それで、二人はどんな風に生活しているの?僕はこれまで一度も精霊の森にいったことがないんだ」

気を取り直したセトを交え、精霊の森での生活等を面白可笑しく語って聞かせる。

会話の途中、ちらっとレキのことに触れたが、セトさんは異母弟であるレキをあまりよくは思っていないようだった。

「ごめんなさい。ちょっとお手洗いに‥」

叔父と甥が楽しげに会話を続けている最中、お付きのメイドさんに断って部屋から退出する。

「ご案内いたしましょう」

と言うのをやんわりと断り、私は屋敷内を捜索し始めた。見当はついている。離れに向かう途中、ラベルがひどく気にしていた一角を目指す。多分、そこに先代領主が住まっているのだろう。

ちよっとドキドキする。

本邸の右端、渡り廊下で連結している部屋を庭からそっと眺めた。

えーと、それらしき人は‥と。

窓から室内を覗いて見たが、薄暗くてよく分からなかった。

「うーん。いないなあ」

人のいる様子はない。もしかして、空振りかと振り返った。

「ひぃっ!」

つい、悲鳴を上げてしまった。だって、いつの間にか背後に人が立っていたんだよ!びっくりするわ!

地球年齢で言うと、私くらいか。よくて五十そこそこ。黒髪、黒い瞳の美しい人だった。

あれ?どこかで会ったような?

「す、すいません!私、セトさんのお見舞いにこちらに伺った者ですが、うっかり道に迷ってしまって」

「‥‥」

私の苦しい言い訳を聞いているのかいないのか、ぼんやりとしている。

「えーと。あ、そうだ!私、ラベルの友達なんですよ」

「ラベル‥」

初めて、その人の顔に感情らしきものが浮かんだ。

やった!最初からラベルの知り合いと言えば良かったんだ。

「そうです、そうです!ラベルは今、東領に里帰りしているんですよ」

こちらへは久しぶりらしいから、この人も喜んでくれるに違いないと思ったのに、どうも様子がおかしい。

ブルブルと、まるで痙攣するかのように震えだし、さらに額を両手で抱えるようにして、もがき始めた。

え?え?え?ちょっ、待って!発作か何かなの?

「だ、大丈夫ですか?」

蹲るように丸めた体を支えようと腕を伸ばすと、手のひらをひっかかれた。

それから私を、恐ろしいものを見るかのような目で見た。そう、まるで幽霊でも見るかのように。

「っき、いやあぁぁぁぁぁっ!!!」

絶叫。まるで狂ったようにその人は叫びはじめた。

もはや、狂人としか言い表せない。

この美しい人に一体何が起こったというのだろう?私は棒立ちとなって、立ち尽くす。

そんな私のすぐ横を通り抜け、彼女の元に一人の男性が向かった。

「私だ。分かるか?大丈夫だから、落ち着きなさい」

それは初老の男性だった。喚き続ける女性の体をしっかりと抱き締めて、まるで赤ん坊をあやすかのように優しく背を撫でる。

「大丈夫だ。もう、大丈夫」

落ち着いた男性の声を聞いているうちに落ち着いてきたのだろう。その女性は次第に大人しくなった。

「旦那様!」

一人の女性が急いで駆けつけた。

「申し訳ありません。私が少し目を放したばっかりに」

男性から女性を受けとるようにやんわりと抱き留める。

「気にすることはない。昼も夜も、これの世話でお前も休める暇がないだろう」

「もったいないお言葉です」

そっと一礼し、

「さあさ、お嬢様。乳母やと一緒に参りましょうね」

優しく声を掛ける。

「ああ、うう」

言葉にもならない声を発しながら、お嬢様と呼ばれた女性が虚ろな目をして、さっきまで私が覗いていた部屋へと連れて行かれた。

「おもしろいものが見れましたかな?」

初老の男性は犬系獣人だった。大柄なグレートデーン。瞳の奥に思慮深さと咎めるような色があった。この人が多分‥。

「孫を連れて、こんな所まで何が知りたくていらしたのか。あなたが望むものなど何一つありはしないものを」

「あ‥。私ー、私は‥」

言いたいこと、聞きたいことが山ほどあった筈なのにどれも見当違いのような気がして、言葉が出ない。

「早々とお帰りになることだ。真実など、誰の目で見るかによって如何様にも変化するものだ。あなたが信じたいと思うものをその通り信じればいいでは無いか。私は一向に構いません」

そう言い捨てると、先代領主グエンも屋敷の中へと消えていった。

私は一人残され、草原を抜ける冷たい風になぶられ続けた。












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