東領の領主さま
結局、東領の領主館には私とアリーサ。それにセーランが向かうこととなった。残ったヴァン達には天幕(野外テントとは違う重厚な造りで快適だ)周りの整備と物資の補給をお願いした。
今回、会見する運びとなった東領の領主だが、妖精の宵祭りの最中、姿を見た感想はと言うと。
ズバリ、第一印象は出来る男。あのオーリさんを側近として侍らせているだけはある。為政者としてのオーラが半端ない。
さて、そんな領主の住む領主館に到着した。いかにも男らしい領主とはうって変わって、ヨーロッパ風のモダンな建物だ。白壁には蔓草が絡まり、なんとも風情がある。
私達が玄関で用向きを伝えると、応対に現れた執事さんが申し訳なさそうに当主の不在を告げた。
何でも政務が長引いて、帰宅が少々遅れているとのこと。中でお待ちいただきたいと平身低頭だ。
私達は特に予定もないので、快くそれに応じた。
案内された部屋はこれまた女性が喜びそうな、細やかなレースのカーテンやフカフカの花の図柄をモチーフとしたカーペットなど全体的に可愛らしい印象だった。
所在投げにソファに腰掛けて、待つことしばし。
部屋へと、数人の侍女が現れて手際よくお茶の支度をしていく。その後、一人を残して部屋から出ていった。
アリーサは私の隣、セーランは私の斜め後ろに待機だ。
「美人さんばっかりだね」
若くて綺麗な人ばかりだったから、ついつい口が滑った。
「もしかして、領主の好みで集めているのかな?」
独身だって言うし、お手つきの一人や二人いるのかもしれない。
そんな風にアリーサに耳打ちしたのが、聞こえたらしい。
「お館さまは、そのようなお方ではございません。当家の侍女は数々の審査を受け、見事合格した選りすぐりの者達ばかり、皆、きちんと分を弁えておりますわ!」
主を尊敬しているのだろう。そんな思いが伝わってくる。
私は自分が悪いと思ったので、すぐに謝罪した。
「ごめんなさい。口が過ぎたみたい」
ちょうどその時、扉が開かれて室内に入ってきたのは、東領の領主その人であった。
え?ノックとかしないの?
私が挨拶しようと立ち上がりかけたのを手のひらで押し留め、部屋にいた侍女に視線をくれた。
「今すぐ、ここから出て行け。客の許しも得ずに発言したばかりか、大声を出すとは何事だ。
この屋敷にお前のような輩は必要ない」
件の侍女は真っ青になりながら、無言で部屋を後にする。
「ちょっと待って。私が悪かったの。彼女を責めないであげて」
彼は私の方へ向き直ると、
「侍女の扱いは当家の問題です。口を挟まないでいただきたい」
きっぱりと私の意見を拒絶する。
「さりとて、先に非礼を働いたのは私ですから、善処いたしましょう」
予定より遅れたことを指しているのだろう。
それから徐に私の前に片膝を付くと、臣下の礼をとった。
「初めてお目にかかります。東領が領主、レキと申します。以後、お見知りおき下さい」
「神殿で巫女の位をいただいております、ナツキと申します。こちらこそ、よろしくね」
と、挨拶した。
アリーサから身分の上下について叩き込まれた私は、あまり丁寧な物言いにならないように注意する。
レキに立ち上がるよう促すと、彼は私の真正面に腰をおろした。座っていても威圧感が凄い。決して大柄な訳でもないのに、他者を威圧する、何だろう。
カリスマ?っぽいものにやられるのだろうか。
出ていった侍女さんに代わって、執事さんがやって来てお茶を入れ換えてくれた。なのに寛げないのは、同席する相手が相手だからだろうか。
「それで?巫女殿は何故、我が領にお出でになり、立ち入り禁止の妖精の森に居続けていらっしゃるのか?」
どストレートに聞くね?やっぱり、この人は油断がならない。
見た目は三十代前半だろうか(地球年齢で)、ややくせのある黒髪を肩口まで垂らした美丈夫だ。とくに印象に残るのは、強い意思が込められた黒い瞳だった。
「精霊の森に行ったのは成り行きです。オーリの、あなたの側近からそうするように勧められたからです」
「なるほど」
両手を顎の下で組み、こちらへとやや前傾姿勢をとった。
ちょっと、近いから!
「しばらくの間、逗留する許しを得たいのですけど‥」
「これは異なことをおっしゃっる。神殿の巫女姫のご意向を一領主が反対出来るとでも思うのですか?」
むむ。そう言われると困る。神殿は他領において基本不干渉であるが、権威は絶大だ。例えば、ヒルダさんがレキを領主不適格と断じれば、それは無視出来ない。
「私はお願いしているのですけど?」
精一杯、威厳のある風に答える。
「ハッ」
レキが一笑する。
「よろしいでしょう。好きなだけ、森へお留まりください」
「ありがとう、ごさいます」
何か嫌味だなー。やっぱり苦手、この手のなんつーの?自信家タイプって奴。
「ああ、そう言えば、当家のラベルを共に連れて来ておられるとか」
「え、ええ。今度一緒に連れて来ましょうか?」
「いえ、結構。あれには極力目立たぬようお伝え願いたい」
は?
「東領に火種は要らぬ。そう言えば、理解するでしょう」
自分の甥っ子に対して、それ?私は怒りで全身をわななかせる。




