ウサギなのにイケメン
怒り心頭だった私は客間に案内され、イサベラから接待を受けていても、ろくに話を聞いてもいなかった。
「え?ごめん。聞いてなかった」
イサベラは気にした風もなく、同じ言葉を繰り返した。
「ですから、妖精の森にご一緒しませんか?」
はい?なんですか、そこ?
「妖精達が集う神聖な場所なんですの。元々、この領で行われる妖精の宵祭りは、東領が妖精の森を有していて、彼らを慰めるために始めたのがきっかけなのです。
妖精の森は、この世界で唯一の場所なんですのよ?」
ほほう。そう言えば、神殿で習ったような気がする。
妖精の女王が地球に残ったとかなんとか。
「そうですの。女王は自身の契約者であるキーラ様とともに残ると決め、自分以外の妖精を全てをこちらへと送ったのです。
彼らにとって女王は母であり、主でもあります。彼らの嘆きは深く、悲しむ姿を見て、哀れんだ始祖様が安住の地として森をお与えになり、静かに暮らせるようにお計らいになったのです。
それから、代々の東領の領主に妖精の森を守護するお役目を与えられたのです」
そうした理由で妖精の宵祭りは領民にとって楽しいお祭りだが、一方で祭祀の役割を兼ね、極めて重要な意味を持つ。
「ですから、ね!キーラ様の子孫であられるナツキ様に会えば、きっと慰められるはずですわ!」
無邪気にそう言うが、いやいや、逆に恨まれているんじゃない?だって、女王様はその人のために残ったのであって、妖精達は一緒に来て欲しかったでしょうに。
あれ?そう言えば、キーラの子孫って、私の素性が普通にばれているんだけど。いいのかな?
「聖領には各領からの間者が大勢放たれておりますもの。今さらですわ」
なにソレ、こっわ。アリーサも真顔で言うの止めてよ。
「えーと。私が行くのはどうかな〜」
遠回しに拒否っていると、客間の扉が開いた。
新たに現れた人物は、
「私からもお願いする。是非とも妖精の森へとお出で願いたい」
と、開口一番そう言った。低く響く、良い声だ。
彼は全く躊躇う様子もなく、イサベルの座るソファの横へと立った。
「お帰りなさいませ!オーリ様!」
イザベラがかわいらしい声を上げ、隣に立つ男性を見上げた。
すんなり入って来たからには屋敷の関係者とは思ったが、まさかの当主様とは!
しかも驚くことにかなりのイケメンだった。
ふおおぉー!なにこのイケメンならぬ、イケウサは!
これまでシル◯ニアファミリーを彷彿とさせる兎系獣人にしか会っていなかったから、驚きどころの騒ぎじゃないよ!
しゅっと均整のとれた体つき、濡れたような黒い毛並みで瞳は深紅、ぴんと立った兎耳。
兎系獣人だけど、格好良すぎる!ときめく!ときめくよ〜。
「突然、ご無礼いたします。この屋敷の当主オーリと申します」
手を胸に当ててお辞儀する姿も絵になるわ〜。
「ひゃ、はじめまして。トールの、甥御さんの言葉に甘えて、図々しくご厄介になりにきました」
緊張して、声が裏返ったよ。
そんな私にオーリがふっと笑いかけた。
ふおおおおー!マジイケメンって、ん?
オーリの周囲を小さな光の玉みたいなものが飛び回っている。
「ああ。やはり、あなたには見えるのですね?」
彼が片手を上げると、光る玉がそこに止まった。
「私は契約者ですから目にすることができますが、普通、これの姿は人には見えません」
まるでオーリの言葉を肯定するようにチカチカと点滅する。
「これが私の妖精でシズクです」
おおっと、妖精との初対面ですよ!
オーリの指の先にとまる、それは光っていたものの、どこか弱々しい。
どうしたのかな?病気?