癒されたいです
妖精種は今や絶滅危惧種と言われている。何故なら、全ての精霊の母たる存在である、精霊の女王が地球に残ったから。
彼女は、創造の大魔法でレーヴェンハルトを創造した姉妹のうち、妹の方の契約者、いわゆる《魂の伴侶》であった。
ついに東領の領都に到着した。ここまで来るのは、本当に大変だった。ムスカの町でもそうだったが、とにかく祭りに向かう人と馬車と騎獣で街道に長い列が延々と続いていたからだ。
いくら私達の乗る馬車が特別仕様で速くとも、前に進めないのではどうにもならない。
単騎の騎獣であれば、空を駆ることも可能であったが、いかんせん馬車を繋いでいるのでそれもままならない。
しばらくは、亀のようにのろい歩みに合わせていたが、途中の町で馬車を切り離した(もちろん、トールが馬車を預かってくれる場所を見つけた)。
それからは騎獣に乗って、空の旅を楽しんだ。
転移して最初に乗せられた鷹の騎獣カナンでの上では風魔法を使えず、ひどい目に合わされたが、今は違う。
風属性の盾を作り出し、がっちりガードしている。
「うわ!大渋滞だねえ」
上空から見下ろせば、街道はどこまでも長蛇の列が延々と続いていた。
「やっぱり、馬車を捨てて正解だったわね」
私は背後のヴァンを振り仰いで、そう言った。
「そうですね。しかし、ここまでとは…」
私達が乗っているのは、もちろんカナンだ。
カナンは渋々、ホントーに渋々、私がヴァンと同乗することを許してくれた。今回の旅に同行する許可を与えてくれた恩義があったからだ。
それほど嫌なら別に他の人と同乗して良かったんだけど、ヴァンが譲らなかった。
「馬車とは違って、騎獣だと狙われやすくなります。上空を飛ぶなら、カナンに勝るものはいませんから」
あー、警護の関係ね。はいはい。
私を他の男の手に委ねたくなかったとか言う、甘い展開はなし?
ですよね!
「この分ですと、夕方には領都に到着するでしょう」
その言葉の通り、私達は夜になる前に領都に到着した。東領の領都・アロームは、大きな花の塔が見事な美しい都だ。
「すっご!」
花の都にふさわしい、大輪の薔薇や百合などが咲き乱れる、どこかフランスのパリを思わせる佇まいに私は絶句する。
キレイー!とか、カワイイ!とか言う、次元じゃない。
ホント、圧巻だよ。
「どうですか!我が東領の誇る領都の景色は!」
自分の手柄でも何でもないのにトールが自慢気に言うのも気にならないほどだ。
聖領とはまた違った気品みたいな?ものを感じる。
通りを行く人達も洗練さており、野暮とは程遠い。なんて言うの、ワンコならドーベルマンとかアフガンハウンドみたいな血統書つき?雑種とかいなさそう。
「ドレスとタキシードって、ここは中世ヨーロッパか!」
無理しているとかではなく、普通に着こなしている。子供達も大人のミニチュア版みたい。
あ!あの子、ポメラニアン系獣人だよね!フワフワしてる。
「もふりたい‥」
くっ。思う様、もふもふしたい!
「駄目ですよ」
アリーサがそっと背後から忍び寄って来て囁く。
分かってるってば!獣人の子供を親の許可なく触ることは法律で禁じられている。
さすがだね!もふりたいと言う衝動は、時に犯罪をひきおこしかねない危険な衝動だもんね!
「そんなのはあなただけです」
って、ひどい!
「はっ!ふう、あああっ!」
トールが叫び声とともに飛び上がる。
「ちょっと、止めて下さい〜!」
もふりたい衝動はやむにやまれず、身近にあったトールの尾っぽをむぎゅっと掴むという行為に還元された。
特大の毛玉みたいな感触だ。
はあ〜、これはこれで。いいね!
「子供が駄目だからって、大人を触っていい訳ではありませんよ!」
アリーサに叱られる。
「そ、そうですよ!これ、男性が女性にやったら、痴漢行為で逮捕されますよ!」
涙目でトールが抗議してきた。
「え?じゃあ、女性が男性にするのはどうなの?」
「それはまあ、別に逮捕はされませんけど‥」
「じゃあ、いいじゃない」
「「良くありません!!」
そんな二人で責めなくたって。ブツブツ。