気がつけば羞恥心
どのくらい気を失っていたのだろうか。私は、ぼんやりと目を覚ました。
風が止んだのかと思ったが、そうではないらしい。どこかの洞窟の内のようだ。…暖かい。
視線の先で、焚き火がチラチラと炎を上げている。
伏せた体を持ち上げると、肩から何かがずり落ちた。黒っぽいコートのような服が体にかけられていた。その下は全裸だ。
「コホン」
わざとらしい咳払いが聞こえた。
どうやら私以外にも人がいたらしい。頭の方角には誰もいないので足元の方を見ると、そこには所在無げに座る人の姿があった。
「あー、気がついたのか?気分はどうだ?どこか痛むところはあるか?」
「ええと。とくには…」
寒い以外に特に問題はない。まあ、全裸なのは大問題であるが、そうしたことを聞いてはいないと思われた。
「そうか、良かった。人によって転移後、具合が悪くなると聞いていたのだが…。それはそうとー」
その人はすっと背筋を伸ばしたかと思うと、次の瞬間、がばりと頭を下げた。
「迎えに来るのが遅れて、申し訳無い!」
「へぁっ?」
びっくりして変な声が出てしまった。
「こんな寒空の下で待たせてしまって、俺は騎士失格だ。…本当にすまない」
随分と気に病んでいる様子に私は、
「いえ、いいですよ。そんな気になさらなくても…。それほど長時間、あそこにいた訳じゃないし」
と、逆に慰めるように言った。
そもそも迎えに来るのが遅れたとか、そんなこと聞いてないし。
「いや、そのせいであなたに迷惑をかけてしまった。こちらの責任だ。本当にすまなかった」
「迷惑だなんで…」
「あと、寝ている婦女子にどうしたものかと思ったが、汚れたままにしておけないし、勝手にこちらで処置してしまったことも、合わせてお詫びする」
言いながら、そっと視線を反らせる。
ん?処置ってなんのこと?
「…それで、だ。これを着て欲しい」
手渡されたのは、白っぽい生地の服だった。
私が、それを受け取ると彼は立ち上がり、
「俺は外で待っているから」
そう言って、私の側から離れて行った。
訳の分からないまま、一方的な会話にしばし呆然とする。
私は、ぼんやりと彼の後ろ姿を見送った。
あー。何だか、まだ思考が追い付かない。
さっきの人…。人ってゆうか、人間じゃなかったな。
着ぐるみじゃないよね。獣人と言ったらいいのか?頭が狼で、体が人間。
それよりも、処置ってなんだろう?気を失う前の私は、どうしていたっけ?でっかい鷹に襲われて、それで…。
「ん?」
はたと思いつく。
私は黒っぽいコートをめくって、下半身を見た。
生足がそこにはあった。本来であれば、感じたであろう違和感もなければ、鼻をつく臭いもなかった。
綺麗なものだ。行き着く、その真相は果たして…。
「はわわわわわ!」
私、見知らぬ狼男に下の処理されちゃった!