異世界に出店?
私の、ううん。私達が西領へとやって来たのは、次期領主にするために軟禁されているヴァンを救い出すためだ。それなのに、すでに新しい領主って!
「そ、それって本当なの?ヴァ、その。新しい領主が決まったって?」
「うん?うん、そう聞いてるよ。先代領主様が臥せってから、誰が次の領主になるかって随分と揉めていたらしいけど」
まあ、僕もマリウスから聞いただけで詳しくは知らないけどと、リクが言う。
私は、頭を抱えた。新領主誕生を祝うパレードって、いつの間に、そんな風に話が発展していたのか。ここで私が横槍を入れるのは、もしかして他領への政治的不可侵と言う聖領のスタンスを崩すことになってしまうのでは?そうなると、ヒルダさんに申し訳が立たない。すると、うーんと唸る私の背後から、そっと声が掛けられた。
「…まずは真偽を確かめられたらいかがですか?」
振り替えると、相変わらず表情の読めないセーランが、私を静かに見下ろしていた。
「え、ええ。そうね!確かめてみないことにはね!」
この先どうするかを考えるのは、それからでも遅くはないはず!
「へえ?あんたら、新しい領主様に興味津々な訳?」
ネコ耳をピルルと振るわせ、リクが面白そうにこちらを眺めていた。
は!そうだった!ここは領主一族であるマリウスの邸宅で、彼らはマリウスに集められた人材達だ。当然、マリウス側の人間に違いない。
「え、えーと。そうね。それはやっぱり、商いをする上では新しいご領主様が誰なのか、とても気になる話題だわね」
何とか誤魔化そうとする私に、リクが笑い飛ばす。
「あー。いいよ、いいよ。僕らはお偉いさんとか、政治とか全く関心がないからさ。自分達の好きなことをして、暮らせたらそれでいいの」
右手をヒラヒラと振って、面倒くさそうにそう言い放つ。
「え?でも、マリウスさんに、お世話になっているでしょう?そうすると関係なくない?」
「あんたがどう思ってるのか知らないけど、僕らは、マリウスに恩義なんて、ちっとも感じてないよ?マリウスが僕らをタダでここに住まわせるのは単なる好奇心からだし、こうして僕らに好き勝手させるのだって、何かしでかすんじゃないかって、期待しているだけだからね」
「ふーん。そうなの?」
私は小首を傾げる。好奇心って言うのは、たぶんにそうなんだろう。私達が、招待されたのだって、そんな理由だろうし。でも、恩義を、感じないって言うのは何となく違う気がする。
「あんたは人を疑うことを知らないんだね?」
そう言って、リクは猫のように瞳孔を細めた。そうすると本当の猫のようだ。
何故だか、背中がゾワリとした。
「この部屋にいる人間を見てごらんよ。あんたは見た目だけなら普通の人間っぽいけど、違うだろ?」
言い当てられて、ドキリとした。もちろん、私はこの世界の人間じゃない。地球、レーヴェンハルトが元々あった世界から召還された人間だ。
「獣人に翼人に地底人(おそらくシンゲンさんのことを指しているのだろう)、それから姿は見えないけど、妖精だっている。あんたの連れだって、そうだろ?」
えぇ?セイラの存在はまだ隠してて、知られていないはず、だよね?世間一般的にも妖精はとても珍しい。その上、妖精の女王だなんて、レア中のレアだろう。
聖領で私の魂の伴侶であるセイラを害そうとする人間はいない。東領じゃ、妖精の森があって、妖精は人々の隣人だった。南領では、神様のように崇められてたから、あまり気にしたことはなかったが、妖精は高く売れる。そう、人身売買のように妖精を狩って、結界に閉じ込め、鑑賞するふざけた人間が一定数いると知ったのは、ごくごく最近のことだ。
「パッと見、マリウスは高貴な身の上であるにもかかわらず、気さくで身分を嵩に着たりしない、いい人間に見える。そう見えているんだろう?
でも、本質は違う。マリウスは、真実、貴族らしい貴族だよ。退屈でつまらない生活を満たすために、人とは違った珍しいモノを集めているに過ぎない。ただの人外コレクターってだけだ」
そうして尻尾をユラリと一振させた。
ほんの少しの怒りを滲ませたリクの様子から、セイラのことは気付かれてはいないようだ。
「コレクターって…。ただ、珍しいものが好きなだけじゃないかな?」
現に私を誘ったのも、聖領からやって来た商人と言う割にチグハグな組み合わせが気を引いた、そんな感じだったし。
「ふうん?そう思うんなら、それでいいんじゃない?」
そう言うと、興味を失ったみたいに大きな伸びをしてからゴロリと横になった。
猫獣人に知り合いがいない訳ではないが、彼は本当に猫っぽい。
「お!話は終わったか!それで、ワシのゴーレム作りだがな…」
と、ここでシンゲンさんがここぞとばかりに話の続きを始めた。
あー。まだゴーレムの話って終わってなかったのね…。興味はそれなりにあったが、ヴァンのことで頭が一杯であまり耳に入らなかった。ごめんなさい。
翌日、私達はマリウス邸を後にした。とは言え、泊まる所がなければ、また、舞い戻ってくる可能性もあったが。
「まずは情報収集だね!」
変に気合いが入る私に、
「あまり目立ちすぎませんように」
と、アリーサが釘を刺す。
「も、もちろんよ。ヴァン救出のためだものね!」
こうして始めた情報収集だったが、結果は芳しくはなかった。先代領主の服喪中につき、活動自粛。それは本当だった。開いた店は最小限で活気はない。通りを歩く人々も言葉少なで、皆、必要なことを済ませると家路を急いでいく。
これでは話をすることさえ難しい。そんななかで、私達は一軒の食事処へと辿り着いた。そう、まるで導かれるかのように。
「いらっしゃいませ!ご注文がお決まりでしたら、カウンターまでどうぞ!」
そこは、まごうことなきファーストフード店。いわゆるハンバーガーショップだった。
見慣れた注文カウンター。その上のイラスト込み(残念ながら写真ではない)のメニュー表示。そして、何よりも目を引いたのは…。
「どう言うこと?」
まるで地球に戻ったかのような錯覚に陥る私に、ファーストフード店の売り子らしい制服?を着たカウンターのお姉さんは朗らかに声を張った。
「ただ今、キャンペーン中につき、ハンバーガーセットにポテト増量中です!」
いや、ほんと。どう言うこと?
ごめんなさい!前回から3ヶ月が経過してしまいました。
続きを書きたくても、メンタルが落ちすぎて、ついでに体調不良もあって、時間だけが経ってしまいました。
ブクマ登録されている皆様、お久しぶりです。今後もよろしくお願いします。