新しい出会いは奇抜でした
「発明って、技術者か何かなの?」
気になって尋ねてみる。
「魔法技士?と言う肩書きみたい、です」
「魔法技士?」
何だろう。初めて聞いた。首を傾げる私に、アリーサが答えをくれた。
「魔法技士なら、ソールもそうですわ」
「ソールが?そうなの?」
ソールは南領から招致した治療院の癒者である。
「彼の場合、治療を目的とした魔法技士と言えます。特殊な魔法生物を用いた薬を生成していますでしょう?あれがそうです」
そう言えば、そうだった。永珠の実で万能薬を作ってくれている。
「魔法技士も専門によって多岐に渡りますが、総じて魔法を用いた技術で開発する者達の総称です」
はあー。そうなのか。
「それでシンゲンさんは、何の魔法技士なの?」
「それは、ですね…」
ドッガーーーン!!!大きな爆発音が起こると同時に建物内がビリビリと揺れた。
「ひっ!」
私は咄嗟に頭を抱え、その場へと踞る。そんな私を庇うようにアリーサが両腕の中に抱え込み、そんな私達二人をセーランとラベルが取り囲む。
「どういうことだ!何が起きている!」
ラベルが、怒鳴るようにセリに言葉を投げかけた。
「あー。また、ですかー」
対するセリは、ホリホリと頬をかきつつ、全く動じていない様子だ。
「ご安心ください、です。シンゲンさんの研究室には対防御、対爆発の結界魔法がかけられていて、安心、です」
いや。全く、安心出来ませんけど?震度五くらいの揺れがあったよね?
「いつものこと、ですー」
動揺する私達を置いて、トテトテと揺るぎない足取りでセリが向かった先に、頑丈そうな扉があり、彼が扉を開けた途端、爆風と共にもうもうと白い煙が吐き出された。と同時に、一人の小柄な人影が転がり出てきた。
え?誰?子供?
「ひっ、ひぃー!ひどい目にあったわい!」
ゲホゲホと咳き込む、その男性は、どう見てもとっくに成人を迎えているみたい(おじさんだね)だが、随分と小柄だった。
「シンゲンさん。また、失敗、ですか?」
もうもうとする煙を吸わないように、息を止めていたらしいセリが、ぷはっと一息吐いてから、足元を見下ろした。
「お!セリじゃねえか!聞いてくれるか!」
男性は胡座をかくと、片膝を手で叩いた。それから始まった長々とした講釈はさておき、ようするに彼の作りたかった代物はゴーレムらしかった。
「石人形?」
私が繰り返すと、シンゲンさんは破顔した。
「そういうことだ。俺は、鍛冶を得意とする一族の生まれでな。鉱物や鉱石なんかを細工するのが得手なのだ」
剣や鎧といった武具や鍋釜といった生活用品、それこそ多岐に渡る。
「俺が着目したのはな、動く兵隊だ。剣も通さず、炎なんかにも強い。魔獣を相手に戦える、そんな便利な代物だ」
「それは…。もし、本当に作成出来れば、役に立ちますね」
ゴーレム。ファンタジー世界じゃ、よく聞く魔法生物?だ。元は地球の一部とは言え、私にとって、レーヴェンハルトはもはやファンタジー世界以外の何ものでもない。ありありの、ありだろう。
「だろう!あんた、分かってるじゃねえか!」
私の手をとり、ブンブンと振り回す。ちょ、痛いですよ。
「それで?完成されたのですか?」
そう言って、私の手を握るシンゲンさんの手をアリーサがはたき落とす。
「それは…まだだが」
「夢物語を見すぎではありませんか?石に命を宿すなんて」
冷たい視線を投げつける美女相手に、シンゲンさんはシオシオと項垂れた。
大爆発が怒った部屋の廊下から、私達はすでに別の場所へと移っていた。そこは、そこそこ大勢が入れる広間だった。部屋の中には、ソブァや長椅子がそこかしこに並べられ、敷き詰められた絨毯の上には大小様々なクッションが置かれている。椅子に腰掛けようが、寝転ぼうがご自由にどうぞと言ったところか。
私はアリーサを隣に、広めのソファに腰掛けた。護衛役のセーランは、私達の座るソブァの斜め後ろに立ち、ラベルは扉の横を守っている。
シンゲンさんは、私から見て左隣の、一人掛用のソファに腰掛けて、熱弁を奮っていたが、アリーサに冷や水ならぬ大量の氷をぶっかけられたように意気消沈していた。
「まあまあ。そんなに落ち込まないでよ」
そんな空気をとりなすように笑って言ったのは、一人の翼人の青年であった。ウェーブを描いた淡い金髪に、菫色の瞳をした美青年は、シンゲンさんと同じく、マリウスさんにスカウト?された寄宿人の一人だ。翼人は総じて線の細い美形が多いが、セーランと張る美貌の持ち主だった。
そんな彼と同じ身の上の、寄宿人達が、この部屋にあと三人もいた。それぞれがめいめい、それぞれの好きなように寛いでいる。
「そうだよ。おっちゃんが失敗すんのは、一回や二回じゃないじゃん。何十回じゃん!今さらだって!」
慰めているのか貶しているのか。そう言うのは、クルクルと巻いた灰色の短髪に、同じく灰色の猫耳をピコピコさせている猫獣人の少年である。ただし、普通の猫獣人と違って彼には艶々とした蜥蜴の尾が生えていた。珍しい猫と蜥蜴人との混血であるらしい。
「気にすることないって。マリウス様だって、何にも言わないよ!」
ふかふかとした絨毯の上に座り込んで、ベシベシと蜥蜴の尾を床に叩きつけている。
「リクよ。慰めはいらん」
「もー。テンション、ひっくいなー」
あーあと、リクと呼ばれた少年が、つまらなそうに絨毯の上にひっくり返る。
そんな彼の横には、着ている服の布面積が少なすぎでは?と、思わず突っ込みを入れたくなるくらいの、薄着の美女が右手を支えに横座りになっていた。
彼女は、昼間っからお酒の入ったグラスを左手に、面白そうに成り行きを見守っている。
そして驚くなかれ、そんな彼女の肩には妖精がいた。飼い主ならぬ契約者とよく似た色っぽい妖精さんだ。全体的に濃いピンク色をしていて、セイラと同系色なのだが、セイラと違って、妖精らしからぬ色気があった。
《ふあぁ。つまんないなあ。新しいオモチャも、何だかしけてるしー》
なに?オモチャって言った?それに、しけてるって何よ!と、心のなかで突っ込む。
だって、話がややこしくなりそうだったし。妖精の姿が見えているのは、おそらく私だけだろう。皆には淡い光の玉くらいにしか見えないし、声も聞こえていないはずだ。だって、アリーサが何の反応もしていないからね。
「ま、まあ。とにかく、失敗は成功のもととも言うし。また、頑張れば…」
私も適当に応援を送る。ゴーレムって、あれば便利だとは思うけど、特に必要に迫られてもないし、頑張ってとしか言いようがない。
「そうも言ってはおられん、事情があってな…」
「そうだよねー。マリウス様は、今度のパレードに使いたいって意向だからねー」
リク君が足をパタパタとさせながら、相づちをうつ。
「パレード?」
「そ。新領主様のお披露目のパレード」
そう言って、くるんと体を反転させ、私の方を向いた。瞬間、大きくてクリクリとした灰色の瞳孔が、まるで猫のように縦に大きく開いた。
「新しい西領のご領主。ヴァン様のお披露目パレードだよ」
な、な、なんですってー!!
ちょっと気分がのったので、サクッと続きを書いてみました。新しい登場人物がどう絡んでくるのか、何も考えてませんが、何とかなるでしょう!