まさかの出会い
私の頭のなかは、クエスチョンマークで一杯だ。と言うのも、気付いたら、私達はとある男の家の前にいたからだ。
私はある程度、西領の知識を詰め込んでから、ここ西領の都であるイリヤスにやって来た。しかし、私達は西都に入る前に、シンプルかつ、切実な問題に直面することとなった。
それは泊まるところがない!である。都に入らず、周辺で夜営をすることも出来なくはない。都の周辺に魔獣が現れることなど滅多になく、あったとしても都を守る警備隊が殲滅もしくは追い払うだろう。
だがしかし!外には水道もトイレも、ましてや、お風呂もない。目の前に温泉スパが広がっているのに自由に入れないなんて、拷問に等しい。もちろん食事一つするのにも門の中と外を往復しなければならず、不便だろう。まさに、ないない尽くしである。そんな環境、耐えられない!
そんな窮地に陥った私に、気軽に「屋敷に来ないか?」と、声を掛けてくれたのが、都に入る際に行われた検問所で私達の担当となった騎士様だった。
今日、初めて会った相手に、家に泊まったら?なんて、例え、同性同士であったとしても、私だったら無理だ。泊まる方にしても、泊まらせる方にしてもだ。検問所で都に入る資格を審査されるが、全てを把握しきれないだろう。善人を装った悪人だっているかも知れない。実際、私の素性は嘘で固められている。
しかし実際に、都に入る検査を私達はパスした。そんな私達が向かった先は、件の騎士のお屋敷だった。
「これ、どう見ても、ただのお屋敷じゃないよね?もはや大豪邸。ううん。お城だよね?」
そう、私は彼の部下だと言う青年の案内で、彼のお屋敷へと連れていかれ、その豪華絢爛ぶりに、私は思わず、あんぐりと口を開いて、屋敷の前に突っ立っていた。
「当然です。マリウス様のおばあ様は、先々代のご領主様のお妹様に当たられるお方。嫁ぎ先は由緒正しいお家柄です。そして、マリウス様は、当代のご当主様の三男として、生まれたお方ですから」
無表情なまま、そのような説明をしてくれたのは、マリウスさんの部下であり、ここまで案内してくれたメルクリウス君。マリウスさんによるとメル君だ。
ちょっとー!まるっきり敵陣なんですけど!一番、関わっちゃいけない西領の傍系一族じゃん。
私は、ガックリと地面に膝をつきたいのを、かろうじて踏みとどまった。そして、心の中で握りこぶしを握る。
よし、言うぞ!
「い、いやあ~。そんな貴い、お家柄の方のお屋敷に泊まらせていただくなんて、一介の商人の私には荷が重すぎますわ~」
わざとらしく、オホホと作り笑いまで付け足す。
そんな私をメル君は何の興味もなさそうに一瞥し、
「お気になさらず。マリウス様は、ご自身が興味を持った対象を集めて、鑑賞する趣味がおありです」
「は?」
趣味ってなに?私の疑問をそっちのけに、メル君は明後日の方を向いた。
そして、向いた先には、お屋敷の門番がいて、メル君の姿を見るや、開門する。
「メルクリウス様、おかえりなさいませ。それで、そちらの方々は?」
「うん。この人達はマリウス様の例の趣味だから」
「さようでございますか」
門番さんは、あっさりと納得。
いやいや。そこはもっと「この怪しいやつは?」とか、「こんな輩をお屋敷に招き入れて大丈夫なのですか?」とか、粘ろうよ!
「気にしなくてもいいよ。君達以外にもこの屋敷には大勢寝泊まりしているよ。マリウス様の本業は別にあって、都の検問所での仕事は完全なる趣味。君達みたいに興味を持った人間を集めるためにやっていることだから」
都の検閲所での仕事を趣味のために行うって、どう言うことよー。もうもう、訳が分からない。
「さあ、どうぞ」
促されるま、私達はお屋敷の中へと入っていった。騎獣達は門番さんが専門の係に預けてくれるそうだ。
だから、屋敷の中に入ったのは私とセーラン。ラベルとアリーサの四人だけだ。
メル君を先頭にお屋敷の中へと足を踏み入れた私は、次の瞬間、とんでもないものを発見する。
それは正真正銘、まがうことなき、パンダだった。玄関扉の真ん前で、彼?彼女は、もっふりとした絨毯の上で寛いでいた。
「え?パンダ?は?どうして??」
「あれ?ナツキさんはパンダをご存知なのですか?こちらはパンダのセリヌンティウス。この西領にわすが数十頭しか確認されていない稀少種です」
「はじめまして!セリです!よろしく、です!」
二足で立ち上がると、ぺこりと頭を下げて挨拶された。
はい?よろしくです?
彼はもはや、私の知るパンダでさえなかった…。レーヴェンハルトが創造された時、パンダは存在しなかった。そう、図鑑のなかにしか。
創造から長い年月をかけて、パンダに魅了された研究者達が熊と白熊を掛け合わせ、ついでに魔力を掛け合わせて生み出したのが、この新生パンダなのだと言う。
パンダだけど、パンダではないって言うのは間違ってはいないようだ。
「それでは屋敷の中の案内は、このセリが行いますので。あとはよろしく」
「かしこまり、です!」
ピッと敬礼するセリ君。メル君は、さっさっと何処かに消えてしまった。
「案内する、です!」
そう言って、セリ君はトテトテと歩きだした。背中から下半分は白地が多く、そんな巨体に不似合いなくらいに、小さくて黒くて丸い尾っぽがフリフリと左右に揺れている。どちらかと言うと、レッサーパンダ派の私ではあるが、パンダもいいね!
彼を先頭に私達が案内されたのは、離れにあたる一角だった。廊下で繋がってはいるが、屋敷の主人達が暮らす母屋とは明確に区別されている。
並べてある調度品や壁や床の装飾など、建物自体の造りが劣っている訳ではない。それなりの代物であろう。
ただ何と言うか、母屋にはなかった空気がそこにはあった。いや、何か変な匂いがするよ。
「あー。シンゲンさんがまた何か発明したかも、です」
「シンゲンさん?」
何その、和風テイストなお名前。レーヴェンハルトは欧州色に彩られた土地で、私のように稀に召還される巫女に東洋系が混じることはあるとは聞いているが。
「シンゲンさんは巫女姫のお血筋なの、です」
って聖領の巫女?そんな重要案件、さらっと話していいの?
「あ、これ秘密でした、です。内緒でお願いします、です」
新年、明けましておめでとうと始めるつもりが、二月に突入してしまいました。色々、あったというか、あるのですよ。ごめんなさい。
そんな訳で今年、一作目となりました。今後も不定期連載となりそうですが、今年もよろしくお願いします!