西領ってどんなとこ?
ヒルダさんと話をして数日後、私達は西領へと出発した。旅の同行者は、いつものメンバー(ヴァンを除いた守護騎士達とアリーサだ)と言うところが、何故か、新米妖精トリオが随行していた。
《やっぱり経験値?は大切なので》
《ひゃっふう!旅だー!》
《モフモフ…》
それぞれ理由は違えど、旅の仲間だ。元々、妖精の森を出た理由が経験を積むことなので、西領への旅は彼らにとって、よい経験になるだろう。
…うん、まあ。お目付け役にセイラもいることだし、何とかなるだろう。当の本人は、マイバックの中で寝こけていたが。
午前中に聖領を出てからお昼に一旦、休憩をとる。それから、それぞれの騎獣に乗って、ひたすらに西の方角を目指した。
「ところで、この中で西領に行ったことのある人はいる?」
旅に出てからの質問にしてはマヌケ過ぎるが、念のために聞いてみる。
「私は一度だけ。聖領の騎士団と西領の騎士団との合同訓練があり、それに参加したことがあります」
全員が首を横に振るなか、セーランただ一人があると答える。無口なセーランが自分から発言することは珍しく、それも希少な西領の情報が知れるとあって、私はさらに興味がわいた。
「へえ。そんなのがあるの」
「四年に一度、選ばれた領に一部の聖領騎士団が派遣されるのです」
「あれかな?聖領と西領の騎士団同士の親交を深めるみたいな、そんな感じで?」
それとも、お互いの技量を測る競い合いなのかしらね?四年に一度なんて、オリンピックみたいだし。そんなことを考えていると、またもや爆弾発言が。
「違います。各領に聖領へ反旗を翻す、反逆の意図がないかを調査するためです」
不必要な軍事力の強化がされているか否か、各領の騎士団を探るのか一番手っ取り早いからと言うのだ。
ブフー!私は吹き出した。とんでもなくヘビーな理由だった!
「数百年前に一度だけ、起こりかけた事です。歴史の授業で習ったはずですが?」
横からアリーサが、じと目でそう告げる。
彼女曰く、豊富に農作物が収穫され、力の強い獣人も多い南領は、他領に比べても国力が高かった。そこで何をとち狂ったんだか、十数代前の領主が聖領は聖領として尊崇の場とし、政治の場においての代表。つまりレーヴェンハルトの絶対君主と成ろうとした者がいたのだそうだ。もちろん、完膚なきままに神殿長に叩きのめされたのだけれど。だって当然だよね。領主とは言え、ただの人が女神に逆らって、無事でいられる訳がないもの。
それにしても、南領って、よくもまあ、騒ぎが起きると言うか、起こす領だね。獣人との諍いが解決されたのは記憶に新しいけれど、過去には聖領に対抗しようとか。
「習ったかも知れないけど!全部が全部、覚えてなんていられないわよ」
私は、自分で自分を擁護する。だって、このレーヴェンハルトでは、地球の三倍の、ゆっくりとした時間が流れるのだ。私が世界史で習った、地球上における人類の二千年の歴史が、ここでは三倍、六千年以上もあるのだ。
「まあ、今はいいでしょう。帰ったら、さっそく復習いたしますよ」
「はあい」
うう。また、あの無駄に長ーい歴史の授業が始まるのか。歴史は好きな科目の一つだけど、長いのは嫌だ!
「まあ、それは置いといて。セーラン、西領はどうだったの?」
セーランは少しだけ首を傾げた後、こう言った。
「行く前に、あまり先入観を持っていただきたくないのですが…。反逆の意図はなくとも、聖領への忠誠心は他の領と大差ないでしょう。しかしながら、油断すると足をすくわれる羽目になると心得た方がいいでしょう」
って!ヒルダさんと同じようなこと言ってるし!何なの、西領って。油断ならない人ばっかりが巣くう魔物か何かが住む場所なの!それとも魔王がいるとか、そう言う?
「魔物、ですか。西領家を百鬼夜行の類いと考えたら、魔物と言ってもいいかも知れません」
百鬼夜行って、それ妖怪達の行進だよね!って、セーランのなかでは西領家は魔物認定なの?
「二代続けて神殿長を排出した手腕は、伊達ではないと申しますか。油断すると取り込まれる、そんな感じがいたします」
なんかもう、ヴァンを救出に行くって息巻いていたのが、みるみる萎んでいく気がする。
そんな妖怪じみた人達と渡り合えるだろうか…、不安。私はどちらかと言うと、口下手。口八丁手八丁な人達は苦手なんだよね。
それでも!ヴァンを取り返すまで諦めないけどね!皆も手伝ってよね!ね!ね?
今回、短めです。年内にもう一話、お届け予定です。おそらく、多分!これから年末に向けて、ラストスパート。やり残したことはやってしまおうって、感じですね。