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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第五章 西領編
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西領に行こう

 ピアレットによると、こうだ。先代の神殿長に続き、その娘であるヒルダさんも西領の領主家から輩出された神殿長となった。二代続けて神殿長となることは、結構、珍しいことなのだそうだ。

「どの領主家も元を辿れば、レーヴェナータ様のお子様方の血筋。神殿長となるのは、例外はあっても、ほぼ、女性で、歴代の神殿長の中にはお子を残されない方もいらっしゃいました」


この世界、レーヴェンハルトを支える女神と言ってもよい神殿長となった人達は、自身の幸せよりも世界の安定を第一に、考える人。そして、結婚しない建前はあっても、事実婚によって血筋を残すことを強いられることに拒否感を示す人もまた、多いのだそうだ。


ヒルダさんも結婚はしていなくても、騎士団長との間に子供がいる。そして、チラリと聞いた限りでは、前夫と子供を前回の《次元の大波》で亡くしたと言っていた。そんな悲しい過去から立ち直り、新たな幸せを掴めて、私としても嬉しい。


「領主家全体で、レーヴェナータ様直系のお血筋が南領の領主家を除いて、少なくなっているのですよ。そして、ヴァンは数少ない西領の直系として、騎士を辞して西領家の跡目を継ぐよう求められているのです」

それ故、先代の西領領主の不調を理由に呼び戻された結果、引き留められているのだそうだ。


うん、理由は分かったよ。納得した。けどね、ヴァンは私の筆頭守護騎士なんだよ!勝手に離職を進めるなんて許さない。断固、抗議するよ!

「私、西領に行ってきます!」

私はそう言って、両の拳を握りしめ、席を立った。

「…はい?」

そんな私を対面に見上げるようにして、ピアレットさんが首を傾げた。


「私の守護騎士を勝手に辞めさせるなんて、とんでもないわ!レーヴェンハルトの巫女である私の許可なく、辞めさせるように仕向けるだなんて、絶対に許しません!」

巫女としての職権乱用?そんなの、何とでもどうぞ。私は、ヴァンの主として、正当な主張をするまでだ。そんな風にメラメラと燃える私を、ピアレットさんは不思議そうに見つめ、

「ナツキ様は、ヴァンを夫にしたいのでしょうか?」

と、聞いてきた。

「は?」

炎に冷水でもぶっかけられたかのような質問に、私は固まる。

「は?いや。ええ?何、言ってるんですか!」

ホント、何、言ってるの?誰と誰が結婚?私とヴァンが?

「心配なさらなくても、西領の領主になったからと言って、あなたと婚姻出来ない訳ではないのですよ?むしろ、西領家側は諸手をふって後押しするでしょう」

「いや、いや、いや!私はそんなことを言っているのではなくてですね…」

「ただし、正式な婚姻とはなりません。神殿長はもちろん、巫女もまた、たった一人を決めてはならないのは、古からの掟でございますから」


私は、ピアレットさんの言葉に、さあっと青ざめる。そうなのだ。どうして、私は忘れていたのだろう。婚活の旅だなんだと浮かれてて、忘れてしまっていた。

私達は、ううん。私とヒルダさんはレーヴェンハルトを支える礎として、世間一般における一夫一妻、いわゆる、結婚は許されていない。

それは権力の集中を押さえるためと言う側面とともに、何よりも、この世界のことを第一に考えなければならないために、たった一人を決めてはならないのだ。

地球のほとんどの国では一夫一妻が普通である。イスラム圏や、アフリカの一部では、お金持ちの男性が女性を多く娶ることは、女性を救済する意味もあって推奨されると聞く。

けれど、私は日本で生まれた。早くに亡くなったけれど、仲の良い両親を見て育った。事実婚としての夫を何人も持つのも、結婚していないからと言って、その夫が別の女性と結婚するのも嫌だ。


「そうですか。すぐに決める必要はありませんが、次の《次元の大波》が来るのは、そう遠い未来ではありません。どのような結果を選ばれるにしても、後悔しないようにして下さい」

真剣な表情でそう言う、ピアレットさんに私はただ、頷くことしか出来なかった。


《次元の大波》のことを聞いていたのに、どこか遠い世界のお話のような気がしていた。けれど、それは実際に起こりうる現実であり、私も逃れようのない当事者となりうるのだ。

ヴァンを連れ戻したいと願っただけなのに、私の胸に言い様のない不安が募る。


「うん!考えても仕方ないか。とにかく、西領に行って、ヴァンの気持ちを確かめないと!」

もしも、ヴァンが騎士団を辞して、次代の西領の領主となる、決意を固めたのなら、私は諦めよう。彼の人生を私が決めて言い訳がない。ただし、無理矢理、領主となるよう周りから言い含められ、仕方なく領主になると言うのなら、話は別だ。私は彼を助けるために全力を尽くそう。


「西領に出発だ!」

私が決意も新たにそう宣言すると、部屋の窓辺に置かれた藤製の籠のなかで微睡んでいたセイラが眠たそうに目をこすり上げながら起きてきた。

〈ムニャ。なあに?ナツキ、うるさい〉

「あ、ごめん。ちょっと高ぶっちゃって…」

うーんと一伸びしてから、セイラはちょこんと藤籠の取っ手部分に腰掛けた。

〈シズクから言われたんだけど。あたしに落ち着きがないのは、ナツキにも責任があるんだって。私とナツキは魂の伴侶でしょう?精神的に繋がりあっているのよね?〉

そう言って、スラリと伸びた足を組んだ。妖精と言うサイズ的に分かり辛いのだけれど、セイラは絶世の美少女だ。小学生高学年くらい?に見える。

そんな彼女は黙っていれば、とにかくキレイだ。ほんのちょっとだけ、見とれた。


「うん?うん、まあ、そうみたいだね。あんまり、意識したことないけど」

〈だからね?私が記憶を取り戻してからも、相変わらず落ち着きがなくって妖精女王らしくないのは、ナツキが始終、ワーワーキャーキャー騒いでいて落ち着かないせいなんだって。つまり、いい加減、品位と言うものを身に付けたらどう?〉


何ですって!私が、帰ってこないヴァンを思って、モヤモヤ、イライラしていた時に、呑気に寝こけていたアンタにそんなことを言われる筋合いはない!

ついでに言うけど、ヨダレの後がハッキリと残っているよ!品位とか言う前に、女の子としてどうなの?って、声を大にして言いたい。


精神が繋がっていても、大人になれないのは、相も変わらずお子様な、アンタ自身のせいじゃない?

私ってば、見た目はどうあれ、地球じゃ、四十オーバーの、れっきとした大人。いや、オバサン。落ち着きがないとか、そんなことないですよ!




すいません。前回から一月以上経過してしまいました。一月で二話の更新を目標にしていたのに、早々に破ってしまいました。

今月は!頑張ります!今後ともお付き合い、よろしくお願いします。

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