空から舞い降りた?
と言うことで、私は、一晩ぐっすり眠り、すっきりと冴え渡っ?た頭で、考え付いた名前を披露した。真面目そうな女の子は、サシェル。元気な男の子は、ルシェル。引っ込み思案な女の子は、ミシェル。
揃いの名前にしてみたよ!
《わ、わ~。嬉しいです》
《気に入ったぜ!》
《…いい、ね》
三者三様のコメントもいただきました!
新米妖精達は、嬉しそうにポワポワと宙を跳び回る。
《わあ。いいな~。僕も名前が欲しい…》
そんな風に言い出す子もチラホラいたけど、これはあくまでも仮名だ。契約した相手に付けてもらうのが本当なのだから、私は、その要望に答えるつもりはない。
「いつか出会えるかも知れない契約者のために、名前を付けるのはナシ!これは、あくまで便宜上つけた名前だよ?分かりやすいように揃えただけだし。それよりも、大切な出会いのために、名付けは、とっておいたほうがいいいよ」
私がそう言うと、残念そうにしながらも、納得してくれたみたい。
《うん。今までと違って、森の外に出ても良くなったから、もしかしたら、出会いがあるかもしれないし!分かった!とっておく!》
妖精達は、皆、素直でいい子だなー。
《あ、でも!契約するより、人で遊んでたほうが楽しいな~》
しれっとそんなことを言う。妖精って、なまじ人に見えないから、イタズラ好きなんだよね…。セイラもわざわざ姿を消して、イタズラしているし。もっぱら、被害者は犬耳のあの子に限られているのだけれど…。あえて、言うまい。
そんな風に皆で和気あいあいとしていたら、警戒にあたっていたスクアーロが鋭い声を発した。
「何か来る!起きろ、アニス!」
その声に仮眠と取っていたと思われるアニスが、素早く起き上がった。そして、油断なく、二人とも剣を抜き払う。スクアーロは剣士、アニスは魔法がメインだが、剣も使えると聞いている。
私は、そんな二人から離れた場所で、同じく、二人が見据える方角を注視する。妖精達も怯えた風だ。何と言っても、妖精の森は絶対不可真の聖域。事前の許しも得ずに、乱暴に押し入る者などいないせいだ。
《ナツキ様、怖いよ…》
まだ、心の成長が覚束ない、幼い三人が怖がって、私の腕にしがみつく。
「大丈夫だよ。ここには私も薔薇姫もいるからね」
と、隣の相棒はと見れば、いまだにグースカ惰眠を貪っていた。
え?何で、こんな騒ぎのなか、寝ていられるの?肝が太い、いや、図太い?
呆れ半分、私は、ため息をついた。
妖精の森の外を注視すること、しばし、それは地上ではなく、空から現れた。
大きな翼持つ者、それが高速で妖精の森を突っ切って、こちらへと向かってくるのが目視出来た。
…あー。だから、セイラは危機感を覚えず、眠っていられた訳だ。
翼を広げた鷹の騎獣に跨がっているのは、もちろん…。
「っナツキ、様あああ!」
狼の顔持つ獣人にして、私の守護筆頭騎士ヴァンが、大音声で私の名前を叫んだ。それは、妖精の森全体を揺るがす程で、森からたくさんの鳥達が飛んで逃げていくのが見えた。おそらく、森の獣達も同様だろう。
うん。怒っているな。
守護騎士である、彼らに断りもなく、コッソリと東領に出掛けたのは私だ。もちろん、置き手紙はしたが。そう言うものでもないだろう。
彼が、護るべき対象である私が、勝手に聖領から隣領とは言え、他領に出掛けたのだ。護衛対象を見失ったと、大慌てだったに違いない。
ヴァンは、愛騎が地上に降り立つ前に、その背から身を踊らせた。
スカイダイビング?って、いやああ!
「きゃああ!ヴァンの馬鹿ー!何して…」
絶対に大丈夫だと言う信頼はあれど、飛んでいる騎獣から飛び降りるなんて心臓に悪い。
私が、非難の言葉を紡ごうとした、その目と鼻の先にヴァンがズザッとばかりに着地してみせた。
「ひいっ!」
私の口から、思わず悲鳴が漏れる。
私の目の前に立ったヴァンの琥珀の瞳が、今しも、私を射殺しそうなくらい爛々と暗く輝き、大きな犬歯が覗く口からモウモウと煙が…。
いや、煙なんて口から吐かないけどね!
何て言うか、恐ろしい以外の形容詞が見つからない。私は、私の腕にしがみついていた妖精三人を胸元へと抱え込む。だって、一人だと怖いんだもん!
他の妖精さん達は、とっくに大樹の影に避難しており、私達は逃げ遅れたのだ。敵ではないので逃げる必要もないのだが、心情的には私も隠れたかった。
《や、やだー!食べられるー!》
ひいいっと泣き叫ぶ子達を胸に、私は、精一杯の愛想を振り撒くようにヴァンを見上げた。
「ヴ、ヴァン。あの、早かった、わね?」
レキから知らされていたとは言え、一日で聖領からここまでやって来たのかと、驚きさえした。
「ええ。どこぞの、お姫様が勝手にお城から抜け出したとヒルダ様から告げられたもので」
ニヤッと口角を上げる。普段だったら、きゃー!カッコいいってドキドキするはずが、今はそれどころではない。さらに凄みが増した。
「あ、あら。抜け出したなんて、人聞きが悪いわよ?ちゃんと、置き手紙を…」
「ええ。拝見させてもらいました。ちょっと?新しく生まれた妖精を見に?東領に行ってくる?」
その視線は、私共々、胸に抱え込む三人を射ぬく。
ガタガタガタ。マジで私達、四人とも震え上がった。