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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第四章 北領編
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初代の剣

「いいわ。あなたの好きになさい」

「ええと、じゃあ。剣を貸してもらえるんですか?」

私が切々と訴えている間中、不機嫌そうに押し黙ったままだった相手の、思いもよらない言葉に逆に戸惑ってしまった。

「ええ。あなたにあれが使いこなせると言うのなら、好きにすればいいでしょう」

「あ、ありがとうございます!」

私は席を立って、頭を下げる。大事な家宝を貸してもらえるのだ。頭を下げるくらいじゃ、足りないくらいだ。

そんな様子をオーレリアは冷ややかに見つめていた。

「ザキ…、宰相に用意させるわ。それまで客室なり、エインの部屋なり、好きな場所にいたらいいわ」

「はい。では、お言葉に甘えて、エインさんの部屋で待たせてもらいます。それでその、エインさんを連れて帰っても…」

「だから、好きにしたらいいでしょう?あの者は、とうに北領家とは縁が切れています。ただの温情で治療したまで。この先、どうしようと関係ありません」

私達の思いに共感してくれたのかと思ったら、オーレリアはオーレリアのままだったね。


「…分かりました。エインさんは、私達と一緒に連れて帰ります」

項垂れた私にオーレリアが畳み掛ける。

「ただし、反領主組織に荷担した者を匿うことは許しません。もし、そのようなことがあれば、あなた方とて容赦しません」

「…はい」

了承しながら、私は背中を冷や汗が流れるのを感じた。その当人を、残ったセーランが捕らえに行くと言っていたからだ。

それにエインさんも、出来るならば、彼を庇いたいと思っているはずだ。しかし、領主に反旗を翻した人間を私達が庇う訳にはいかない。これについては、心を鬼にして当たらねば。

「理解しているならば、結構。もう、お下がりなさい」

まるで犬の子を追い払うように退出を促される。

美人だけど、やっぱり性格悪いな!ヒルダさんとは大違いだよ。


私は、オーレリアの執務室から出た。そこには待っていてくれると言ってくれた、侍女さんが待機していて、彼女に連れられて、再び、エインさんの部屋へと戻った。

「ナツキ様!無事でしたか!」

ヴァンを先頭に、皆が私の元へと押し寄せて来た。

「大袈裟ね。私は何ともないわ。オーレリアも快くとはいかないまでも、剣を貸してくれるそうよ」

「本当ですか?良かったですね。これで目的が果たせそうですね!」

ラベルが手放しで喜ぶ後ろで、エインさんが複雑そうな表情を浮かべていた。


「エインさん?どうかしましたか?」

「いえ。随分とあっさりと承諾したのだな、と。あれは長らく、旧・領主館の跡地にあり、領主の手になかったのです。それを数十年前、オーレリアが冒険者を雇って取りに行かせて、やっと手元に取り戻すことが出来たのです。

当時は大勢の犠牲者が出て、北領の領主の証であるとは言え、惨いことをしたものだと、私も非難したものです。そうまでして手に入れた大切な剣をこうも易々と渡すだなんて…」

「その話は私も知っています」

私が相槌をうつ。

「聖領にまで伝わっていたのですか?」

彼は驚くよりも、自国の醜聞が他領にまで伝わっていたのかと恥じる様子であった。

「私に付いて、北領に来てくれた元・冒険者の女性がいて、彼女から聞いたのです。彼女は、たった一人の生き残りだったそうです」

「ああ、そんな…。私はその女性を存じ上げないが、よく、この地へと戻る決心をしてくれましたね」

「ええ。彼女曰く、過去の因縁を断ち切るためだそうです。それに、旧・領都に囚われた仲間を救いたいとも言っていました」

「ならばなおのこと、一日でも早く、この体を治して旧・領都を解放しなければなりませんね」

「私も出来るだけ、手助けします。完治に向けて、一緒に頑張りましょう!」


結局、その日は、テトラさん一人を残して、一旦、引き上げることになった。私が提供した薬の効力で、痛みは緩和したが、すぐに動かすことを慰者から止められたからだ。

一晩、様子を見て、問題ないようならイリューズ商会の屋敷へと移動してもらう予定だ。


北領家の玄関口で待たされることしばし、重厚な赤い布地を巻かれた北領家に伝わる、初代の剣を持った宰相が現れた。

「くれぐれも丁重にお取り扱い下さい。これはこの世に、二つとはない品です。失われれば、同じものは二度と作れないでしょう」

「心してお預かりいたします」

私は、差し出された剣を両手で受けとる。それはズシリと重かった。

「どうも、ありがとう。エインさんとテトラさんのこと、よろしくお願いします」

「…私は、彼らのことは預かり知らぬ立場ですから、要望にはお答えいたしかねます」

ぬう。可愛くない。立場上、そうなのかも知れないが、彼が采配しているのは明らかだ。


「それと、余計なことかも知れないけど、オーレリア…さんと、もっとよく話し合ったらどうかしら?」

すると、宰相、ザキの左眉がピクリと動いた。

「彼女は絶望したと言うけれど、全てにおいて、そうだったとは限らないわ。ご主人との関係だって、最初はギクシャクしていたかも知れないけれど、最後までそうだったとは限らないし。

何より、私の目から見て、子供達の存在を疎んじているようには見えなかったもの」

そうなのだ。セアラのことと言い、彼女なりに子供達を北領の闇から守っていたのではないだろうか。


「それに今は、あなただっているわ」

「私の存在など、あの方には何の意味などありませんよ」

自嘲的に言うのを、とんでもないと私は切って捨てる。

「あなたは気付いていないようだけど、あなたがいる時といない時では、オーレリアの表情は、全然、違って見えるわ」

「何を根拠に…」

狼狽えたような彼に、私は発破をかける。

「もっと、自信を持ちなさいよ!少なくとも、オーレリアに信頼されているって、きちんと知っておくべきよ」

「…」

それきり黙ってしまった宰相に、私は、肩を一つ竦めて見せた。

「あなた達って、似たもの同士なのね。他人のことはよく見えるようなのに、自分達のことはちっとも分かっていないのね」

戸惑ったような彼に、私は今度こそ、別れを告げる。

「じゃあね!北領がもっと豊かになって、領民、皆が幸せに暮らせるようになったら、あなた達の言う、その絶望は消えてなくなるのかしら?そうなると、いいわね」


ザキ一人、取り残されてしまったかのように、その場へと佇む。彼女は、まるで嵐の目のようだ。

「聖領の巫女とはあんな風なのか…」

「馬鹿ね。あれは規格外よ」

「オーレリア様…」

いつの間にかオーレリアがすぐ側まで来ていた。自分はそんなことにも気付かず、彼女の残した言葉を反芻していたのかと、ザキは反省する。

「申し訳ありません。お出でとは気付きませず…」

「気にすることなくてよ。あれの最後の姿を目におさめておこうと思っただけよ」

「最後とは?」

「初代の剣がどういう代物か、お前は知らないでしょう。あれは諸刃の剣なのよ」

「それはどういう…?」

「お前は知らなくてもよいことです。代々、領主となる者のみに引き継がれてきた口伝です」

「出過ぎたことを申し上げました」

がばっと体を二つに折った。


陰謀や策略に長けているくせに、これは幾つになっても生真面目で遊びがない。

まあ、そんな風に育ててしまった、わたくしの罪ねと、オーレリアは心のなかでひとりごちる。

「けれど、そうね…。一つだけ教えてあげましょうか。剣の持つ、真の力を解放すると偉大な力を得る代わりに、それを使用した者の命を奪うのです」

はっと、ザキが顔を上げる。そこには年齢など感じさせない、美しい女主人の顔があった。

いつ、いかなる時も本当の感情を見せない、冷たい横顔が、ザキには何故か憂いを帯びて見えた。

そんか表情に無性に胸のざわめきを覚えて、ザキは、いつまでも忘れることが出来なかった。


イリューズ商会に戻ると、アウルムが出迎えてくれた。いや、違う。子供達から逃げてきたのだ。

「ネコー!ネコちゃん、やー!」

「待って、待って!逃げないでー!」

小さな子供達が追いかけて来る。アウルムはビャッと毛並みを逆立てて、私の後ろに隠れた。

あー、子供達に構われ過ぎたんだろーなー。置いていって、ごめんねと心のなかで詫びる。

「「お姉しゃん、お帰りー!」」

「ただいま。いい子にしてた?」

「うん!ネコちゃんと遊んでたー!」

「撫で撫でしたいー!」

「ごめんね。アウルムはお姉ちゃんとこれからお仕事なの。また、遊んでね」

嘘も方便だ。

「ええー!やだー!」

幼子だと駄々を捏ねるのも、かわいいなー。


「こら!お前ら、いい加減にしろ。嫌がってるだろう!」

救世主ロック君の登場だ。

「悪い。こいつら、モフモフに飢えているんだ。ほら、アルバ様があんたらに付いて行ったろう?』

「あー、そっか。そうだった」

黄金の羊にして聖獣のアルバは、育ての親とも言うべき星熊様を取り戻そうと旧・領都まで付いて来た。

束の間の邂逅で、それは叶わなかったけれど、初代の剣を得たのだ。彼女もまた、解放出来るかも知れない。


「お姉ちゃん達とお仕事が終わったら、また、遊んでね」

「うーん。わかったー」

渋々ながら、子供達は納得してくれたようだ。ロック君に連れられて行く子供達の後ろ姿に、ほのぼのしていると、アウルムから抗議された。

「ギニャ!」

しっほでバンバンと床を叩いている。

「ごめん、ごめん。でも、少しくらいなら遊び相手になってあげてもいいでしょ?神殿でも神官見習いの子供達と遊んでいたでしょ?」

「ギニャ、ニギャ!」

「あ、そうか。あの子達は神官見習いで、よくしつけられた、いい子ばかりだったねー」

「ギニャ」

「まあ、ほんの数日だけだよ。また、旧・領都に戻るからね」

しっほが私の足を叩く。もちろん、痛くはないが。

「あははは。我慢、我慢」

私はアウルムの頭を撫でるが、嫌そうに顔を背けられた。

ちょっとー、ご主人様にその態度はないんじゃないかなー。







7月20日でなろう連載二周年を迎えました!昨日、更新したかったのですが、力及ばす、今日になってしまいました。まさか、二年も書き続けているとは思いもしませんでした。これからもよろしくお願いします。

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