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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第四章 北領編
158/210

現状打破に向けて

旧領都の呪いとも言うべき、次元の歪みを正すために必要な北領領主家に伝わる剣と、それを扱う人間を求めて戻って来たと言うのに、何と言うことだろう。

当てにしていたエインさんの安否不明とは。

「他の子供達はどうしているの?一緒に連れ拐われたとか、残った子で怪我を負ったりしてはいないの?」

私は泣きじゃくるメーテルの肩を宥めながら、他の子供達がどうしているのか問う。

それに答えてくれたのは、ロック君だ。彼も顔面蒼白ながら、年長者としてしっかりしなくてはと思っているようだ。

しっかりとした答を返してくれた。

「チビ達は全員無事だよ。最初、俺達の住処に連れていくつもりだったんだけど、セーランさんがイリューズ商会のほうが安全だって言うから。

それで俺達、皆で避難したんだ」

私が最初に連れて行ってもらった、スラムにあるバラックで暮らしている子供達も一緒に移動したのだそうだ。

「我々は既に目をつけられており、居場所も把握されているはずなのに、イリューズ商会には手を出さないでいるのだから、今回の目的は、修道院に潜んでいた反領主組織のメンバーの制圧だったのでしょう。

エイン様は、それに巻き込まれた形でしょう」

珍しく怒気を滲ませたセーランが淡々とそう語る。

エイン様呼びからも分かるようにセーランはエインさんに傾倒している。

領主家にうまれながら、不遇な身の上を甘んじて受け入れ、自らの信念を貫く彼の生き方に共感しているようだ。

セーラン自身もエインさんと同様に元の身分は高い。けれど、色々な理由からそうした地位を捨て去り、聖領の騎士団に所属している。

聖領騎士団に入団すること自体、破格のことなのだが、己の血筋と一線を画していると言う点では似た二人である。


「領主家に反意があるのは構いません。しかし、エイン様が求めておられる子供達の幸福をぶち壊すようなやり方でしか、それを実行出来ない連中にかける情けなどありません」

決して声を荒げたりしないのが、逆に怒りの度合いを物語っているようだ。

セーランの言う、反領主組織は北領領主家に対抗するべく集まった地下組織である。

彼らは領主家におもねる権力者や商人などを個別に襲撃し、略奪等を行っているらしい。

略奪した品は分配しているとのことだが、略奪されれば、その分、領民に新たな負担が強いられる。

そうしたことを考えず、闇雲に活動するだけのまったく当てにならない連中だそうだ。

「よりにもよって修道士に仲間がいるとは、本末転倒です」

そうだよね。そうした暴力による解決はエインさんが最も嫌うところだ。

「とにかく、安全な場所まで移動しよう。話はそれからよ」

私は、セーランを復讐から?踏みとどまらせるとともに、メーテルの背中をそっと押し、移動することを提案した。

子供達だって、突然の襲撃やら移動やらで動転しているだろう。復讐とか制裁とか、そんなものは後でいい。起こったことはもう、巻き戻しはきかないのだから、それよりも無事な者の今後を考えるべきだろう。


私達は、セアラの祖母であるテトラさんのいるイリューズ商会へと足を向けた。

昨夜の襲撃を恐れてか、いつもの市場はひっそりと鳴りを潜めている。うっかり店を開けて、巻き添えを食らうことを民も警戒しているのだろう。

そんな静かな通りを通り越し、イリューズ商会の門を叩いた。

「まあ!ナツキ様!戻っておいででしたの?お話は既にお聞き及びになっているのでしょうね?

さぞ、驚いたことでしょう。ささ、お早くお入り下さいませ」

髪を乱し、小さな子供達をスカートにまとわりつかせた、テトラさんが玄関口に現れた。

私は、その様子に目を見開く。おっとり、のんびりしていた人が何と言うか別人のように活発になっているのだ。

子供達は皆幼くて、泣いたり暴れたりと忙しない。そんな子供達をやんわりといなしながら、突然、帰って来た私達を快く受け入れてくれた。

「何と言うか…。テトラさんってば、たくましくなったよね?」

「あら!わたくしだって北領領主家を影ながら支えてきた元・領主夫人ですのよ?非常時には、それなりに対応が出来ます」

いきなり増えた孤児達の面倒を見るために悪戦苦闘しているようだ。仕える主に似たのか、彼女の側仕え達も年配の者が多く、比較的のんびりとしていた。

そんなチーム・テトラが、孫のような年齢の子供達を大勢世話することになって、てんてこ舞い。

とにかく、一丸となって子供達の面倒にあたっているらしい。

言っている側から幼子がぐずるのを抱き上げてポンポンと慣れた手つきで背中をあやす。

「アランも気性の穏やかの子で、同じ様にセアラも手のかからない子供でしたから、本当にもう大変!

こんなにたくさんの孫をいっぺんに抱えて、なりふり構ってなどいられませんわ」

おお。おばあちゃん、逞しい!

さすがにこの先の話し合いに子供達を連れていく訳には行かず、テトラさんは子供達を側仕えに託した。


頑丈な扉を閉めると、子供達の声がすっかり聞こえなくなった。商会に戻っても、メーテルは動揺したままだったが、子供達のリーダーであるロック君が戻ったことで年長者がまとまって幼子達の世話を始めた。

テトラさんの側仕えともども、彼らの面倒を見てくれるだろう。


「ごめんなさい。今回、セアラは一緒じゃないの」

テーブルを挟んで座るテトラさんに私は開口一番、そう告げた。

「ええ。承知しております。あの子から手紙を受け取っていましたから」

聞けば、セアラは自らの胸のうちをテトラさんにあてて、何度も手紙に綴っていたそうだ。

「あの子が北領の農業に関心を持ったことや、アランが…、亡くなった息子が旧領都の呪いを解くために様々な活動をしていたことを知って感じたことなどをわたくしに正直に打ち明けてくれていました。

その事から、わたくしはあの子が為すべきことをするまで帰らないのではないかと思っておりました」

髪の解れはそのままに、テトラさんは凛とした表情でそう語る。

そんな様子を見るにつけ、やはり、領主夫人となった人だなあと私は関心する。おっとりとした中で一本筋が通っている、そんな印象を受けた。

「それで、お戻りになった理由は何ですの?それよりも先に、エインのいる修道院が襲撃を受けるなど、現在の北領の情勢についてお話いたしましょうか?」

「え、ええ。一番はエインさんの現状について知りたいわ」

私はやや気後れしつつ、すっかり別人のようなテトラさんから情報を仕入れることにした。

「そうですわね。結論から言いますと、エインの命に別状はございません」

「ああ!良かった!」

無事だったのか。それが聞けてほっと胸を撫で下ろした。

「けれど、全くの無事とは言えません。エインは…、義理の弟はもはや立って歩くことは不可能でしょう」

「なっ!」

私は絶句する。

「領主館にいる、わたくしの小飼の侍女からの情報によりますと、エインは焼けた修道院の、天井の梁の下敷きとなり、救出されました時、既に両足の骨が粉々に碎けてしまっていたようです。領主お抱えの癒者による治癒魔法でさえ、完治が難しいだろうとのことです」

両足の骨が砕けたって、そんな…。でも、待って!もしかしたら、永珠の実を使ったら、完治するのでは?

「あの…!」

そんな私の提案をヴァンが声で遮った。

「ナツキ様!」

私の脇に立つヴァンが険しい表情をして、私を見下ろしていた。

あ!そうだった。永珠の実の存在は、おいそれと口にしていいものではない。もちろん、ヒルダさんに了解を得てからなら、治療は可能だろう。

「ごめんなさい。すぐには無理かも知れないけれど、聖領で新しく治療院が設立されたの。そこでなら、エインさんの治療が出来るかもしれないわ」

「それは、どうでしょうか。聖領までは魔獣の跋扈する荒れ地を抜けなければなりません。

動けない怪我人を抱えて、踏破するのは難しいのではないでしょうか?」

「騎獣で仕立てた馬車なら早いし、空も飛べるわ!それなら…」

テトラさんが弱く頭を振る。

「あの弟が自分のために他者を危険な目に合わせようとするとは思えません。ナツキ様も荒れ地を通っておいでになったのでしょう?あそこは生ある者を阻む、旧領都とはまた違った意味で呪われた地です。

エインはそこまでして、自分の体を治そうとは思いませんでしょう。もちろん、話をしてみるのは構いませんが…」

私も、それなら私が説得するわ!とは言えなかった。何故なら、テトラさんの言うようにエインさんは決して望まないだろうと思うから。

「命があっただけ、幸運でした。オーレリアは手厚い看護をしてくれたようですわ」

「オーレリア、さんが?」

「ええ。あれもエインを追い出した義母同様にエインに構いませんでしたけれど、少くともわたくしの目にはエインを敬っているように見えました」

「敬う?」

「代々の神殿長は次代を生むために、夫を一人としません。それは御存知かしら?」

「何となくですが」

テトラが薄く微笑んだ。

「わたくしの夫はわたくし以外を娶りませんでしたが、領主に妻が何人いてもいいのですよ?

それは聖領の神殿長も同じです」

全く同じとは言えない。彼女らは時として、結婚すらしない。

ヒルダさんは最初のご主人を亡くしたあと、結婚という形をとることはなかったそうだ。

息子までいるというのに、ヒルダさんは聖領騎士団の騎士団長とは結婚していない。

「女の身でそれは時として悲しいことだと、わたくしは思います。神殿長の責務を全うするためとは言え、決して、一人の夫に寄りかかることが出来ないのですから。

それは生まれた子供にも言えます。時として、彼らは母親を母親と呼べず、父親を父親と呼べないのですから」

ああ、そうか。そう言うことか。オーレリアは父親像をエインさんに重ねて見ていたのか。

私の考えを読んだようにテトラさんが頷いた。

「その通りです。オーレリアは虚言を持って、自身を年下の夫へと見合せた実の父親やわたくしの夫を毛嫌いしておりましたが、聡明で穏やかな気性を持つエインを面と向かってどうこうはいたしませんでしたけれど、慕っているように見えました。

彼女がエインを厚遇しないのは、彼女なりの優しさなのですよ」

荒れた北領でエインの肩を持てば、エインが矢面に立たされることだろう。それは政治的にも利用される恐れがあるし、民衆の反感を買うかも知れない。

「オーレリアがエインやセアラを他者の目にはまるで冷遇するかのように遠ざけて見せたのは、彼女なりのせめてもの愛情表現なのです。

…あなたはそうは思われないかも知れませんが」

そう言って、テトラさんが私の目をじっと見つめた。


確かに私は、幽閉されたセアラを救うためにこの地にやって来た。そして、同様に領主家から追放され、少ない運営費で修道院を運営するエインにも同情した。

オーレリアが悪い。すべての元凶は彼女にあると信じて。

「私はまだまだ、考えが及ばないようです」

「オーレリアは善ではありませんが、全くの悪でもないのですよ。そこは間違えないでいただきたいのです。

これは姑として、彼女を諌めきれなかった不甲斐ない、わたくしからのせめてものお願いです」

そうしてテトラさんは白髪の目立つ頭を下げた。

彼女は夫を、頼りとする息子を亡くしてきた。大きな孫も二人いるが、まだ、十分に若いはずなのに淡い金髪に白髪が目立った。

おそらく心労からくるものだろう。


「…オーレリアは、私との話し合いに臨んでくれるでしょうか?」

テトラさんが真っ直ぐに私の方を見た。

「わたくしの命に代えましても」

命なんて望まないよ。でも、テトラさんの心は受け取ったよ。それを生かすも殺すも私次第だ。


私は寒くもないのにブルッとひとつ震えた。武者震いだろう。

まだ見ぬ敵、オーレリアに立ち向かう勇気を私にください。そんな祈りを胸に抱き、私は立ち上がる。

「行こう!北領を救うために!」

私は仲間達の顔を順番に見ていった。

ヴァンが狼の面で頼もしげに頷く。そんな彼の横にはセーランが。セーランもまた、嬉しそうに顔をほころばせていた。

ラベルもまた、ワンと一声上げそうな勢いでフサフサの尾を振っていた。

モフモフしたい!って衝動を抑えるのは、多分に困難である。


そして、アリーサもまた、

「どこまでもお供いたします」

と、頼もしげに言ってくれた。


私達は仲間だ。どんな困難も一緒に乗り越えてきた。今度もきっと、大丈夫!

私は、作った両手の拳を握りしめた。










前回の後書きで毎週更新と書いたのに!速攻、破ってしまいました。すいません。気付いたら、はや三週間が過ぎておりました。

今後は出来るだけ早めにお届け出来るよう、頑張ります。

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