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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第四章 北領編
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農作業に勤しむ

星熊と対峙したあと、ヒルダさんに魔法道具で通信し、その結果待ちとなった私達は、そのまま旧領都に残ることとなった。

吹き溜まりは様々な人々の集まりで、来る者は拒まない。

もちろん、それなりに見返りと言うか対価が必要ではあったが。

私には神殿から、聖領の巫女に一定額の金銭が与えられている。それだけでも働かなくても食うには困らないくらいの金額だ。

だから、金銭を支払うことでこちらに滞在することも出来たのだが、それよりも私は働くことを選択した。


「見て、見て!こんなにおっきなサツマイモがとれたよ〜」

私は収穫したばかりの芋を周りの皆に見えるように高々と持ち上げる。

「まあ!大きなお芋!さすがナツキ様ですわ」

隣でせっせと土を掘り起こしていたセアラがキラキラと目を輝かせる。

「私も負けないように頑張ります!」

そう言って作業を再開させる。

そんな少女の微笑ましい姿に、私はうんうんと頷いた。


私達は吹き溜まりに滞在する対価として、こうして農作業に従事することとなった。

朝から夕方まで、農業に精をだしている。まるでお百姓さんのように朝日が昇りきる前に起きて、暗くなったら就寝するという健全な生活をそれなりにエンジョイしていた。

ああでも、私達と言ってもヴァンとラベル、そして、ミグ姉さんは別だ。ヴァン達は魔獣に対する周辺の警備を、ミグ姉さんはここより離れた、豊かな森まで出掛けて狩りなどをしている。


「ご覧になって、ナツキ様!こんなにお芋がたくさん!」

数珠繋がりのようにポコポコと連なったサツマイモに、セアラのテンションが高い。

「ホントだねー。たくさんなってるね〜」

「はい!それに大っきい」

心底、嬉しそうな笑顔に、こちらまで笑顔になってしまう。

彼女は領主の娘らしい綺麗なドレスなんぞ着ていない。吹き溜まりに置いてあった、誰のものかも分からない農作業に適した村娘のような格好だ。

見ようによっては高貴なお姫様が、お忍びで、つかの間の庶民の暮らしを楽しんでいる風だ。

もちろん、私も似たような格好である。ただ、私の場合、あまり違和感はない。元々、村娘と大差ない庶民顔だからだ。

ああ、もう。自分で言って虚しくなるので止めよう。


「おっ!セアラちゃんも農業の楽しさが分かってきたな!」

大汗をかきながら、芋を掘り起こしやすくするために畑に鍬をふるっているのはバレンさんだ。

「はい!大変ですけれど、とても遣り甲斐がありますわ!」

彼女の言葉に、そうだろうとバレンは満面の笑みだ。

彼は、寡黙な農業人かと思われたのかだが、農業については全く寡黙ではなくなる。むしろ饒舌、つーか、うるさい。


「こんなに大きくて綺麗な、お芋を見たのは初めてです。北領でもやり方次第で立派な作物は育つのですね」

「そうさ。痩せた地が多いから、余所の領に比べたらどうしても見劣りしがちだが、丹精込めれば、ちゃあんと土地が答えてくれるのさ!」

「…土地が答える。とてもいい言葉ですね」

「おうさ!ここは呪われた土地だから農業なんてしても無駄だって皆が言うが、呪われているのは土地じゃない。そんなのは人がまき散らした勝手なデマさ。

だからこそ、こうして立派な野菜が育つんだ!」

声を大にして、そう力説する。

「素晴らしいです!」

ニコニコと二人で分かち合い、微笑み合うのを尻目に、私は黙々と収穫を続ける。

あー、早くサツマイモを蒸かして食べたい。お昼に蒸かしてもらおっと。


私が二人のやり取りに無関心なのは、こうした会話が毎度のことのように続いているからだ。

前回のカボチャの時も、前々回の人参の時もそうだ。収穫する品が変わるごとにセアラは純粋に驚き、バレンが農業自慢をするのである。

私も最初は一緒になって感激していたものたが、もうお腹一杯です。


「すいません。兄貴は農業のことになるとうるさくて」

同じ様に作業を手伝うヨウタが申し訳なさそうに頭を下げる。

「ああ。いいよ、いいよ。毎度のことだし、二人は気が合うのでしょ」

領主の娘と寒村出身のおっさんが気が合うとは、何やら腑に落ちないのだが、ここでは身分など関係ない。

「俺達も最初は付き合ってたんですが、ちょっと飽き…いや、その。決して、兄貴のことを尊敬していない訳じゃないんですよ?ちょっと、面倒くさ…えっと」

モゴモゴと言い訳するのを生ぬるく見る。

うん、いいよ。大変だったんだね。私は、ヨウタ達の密かな苦労に心のなかでエールを送った。


畑には私達の他にも大勢が収穫を手伝っている。主に女子供だ。女性達は、もう若くはない。おばちゃん世代ばかりだ。若い女性は他にも色々と需要があるので、ここにはいない。

それについては私もどうなんだろう?と思わない訳ではないが、彼女らは納得しているし、家族を養うためだ。

ここにいる子供達の大半は父親を亡くし、母親一人が働き手とならざるを得なくなった家庭の子供達である。

厳しい北領の暮らしの中で弱者である女子供は、飢えや犯罪などの犠牲になりやすい。

母親達は、ナタクの庇護の元、子供達を預けて安心して働いている。主な働き先は領都の花街で、いわゆる出稼ぎ状態。

母親と離れ離れとなってはいるものの、大勢の子供達と一緒に楽しく暮らせているのなら、今は何も言うまい。


夕方まで農作業に勤しんで、くたくたとなって洞窟へと戻る。

そこで大きな鹿を仕留めて帰ったミグ姉さんと出くわした。

「わあ!ミグ姉さん、今日はとびきり大きなのを仕留めて帰ったんだね!」

「まあね。今日はもうちょっと遠くまで足を伸ばしたからね。だから、帰りが遅くなっちまった」

もう夕闇迫る刻限に近い。日中でも魔獣は徘徊しているが、夜になるともっと危ない。

暗がりから襲ってくるからだ。だから、森のなかでの作業は日が沈む前に早めに切り上げる。

「わあ!すっげー」

「おっきーい!」

血抜きされ、木の棒に逆さまに吊り下げられた鹿へと子供達が群がる。わいわい、きゃいきゃいと微笑ましい。

「旨そー」

若干、本能のままに呟く声もあったが、子供達は総じて無垢で可愛らしいものだ。

「あんたら、これは明日の夕飯だよ。今日のはもう用意されているからね!」

ミグ姉さんが鹿を肩へと担ぐ。相変わらず、ワイルドだね。

「えー!今日、食べられないの?」

小さな男の子が指を口に加えながら、ミグを仰ぎ見る。

そんな男の子の頭をポンポンと手のひらで軽く叩きながら、

「お楽しみは待った分だけ、倍の喜びとして返ってくるもんさ。明日までおあずけだよ」

「ちぇっ、そっかー」

男の子が納得した横で、同じくらい小さな女の子が、

「そうだよね。お母さんに会えなくても、待った分、倍、嬉しいもんね」

ポソリとそう言った。

すると、あれほど騒がしかった子供達が一斉に押し黙った。

いずれは帰ってくると分かっていても、心のなかではやはり寂しいのだろう。

そんな子供達に、さて、どうしたものかと悩む私を救ってくれたのは、やはり、ヴァンだった。


小さな女の子を片腕一本で軽々と胸へと抱き上げ、

「もう少し寝たら、本格的な冬が始まる。その前にお母さんは帰ってくる。それまで待てるだろう?」

そう言って、女の子をあやした。

ヴァンは背が高く、がっしりしているから抱き上げられても怖くない。何より、体を覆う狼の被毛がフワフワと心地いい。

女の子も嬉しそうだ。

「ホントに?もうすぐ?そしたら、お母さんは帰ってくる?」

「ああ。何度か寝て起きたら、すぐだ。頑張って働いて帰って来たお母さんに美味しいものを食べさせたいだろう?

明日も頑張って、畑のお手伝いが出来るか?」

「出来る!」

女の子が両手を上げて、答えると周りの子供達も口々に「自分達も出来る!」と、一斉に騒ぎだした。

「ああ、ほらほら。騒いでないで中にお入りよ。夕飯の前に体を洗って綺麗な服に着替えないと」

おばちゃん達が子供達を引率していく。


ヴァンは、抱き上げていた女の子を地面にと降ろすと、そっと背中を押す。

女の子が小さな手でバイバイとヴァンへと手を振りながら、皆の後へと続いた。

「あんた、見かけによらず、子供をあやすのがうまいじゃないか」

そう、ミグにからかわれたのをヴァンが嫌そうに顔をしかめる。

「別に…。頼まれて、時々、養護院の子供達の面倒をみているだけだ」

養護院の女の子は神殿の神官見習いとなる者が多いが、男の子の中には兵士を希望する者もいる。

そんな彼らのために騎士団から数名が派遣されているのだ。騎士団に所属するのは家柄の良い者が多い。

孤児達に冷たい訳ではないが、軽んじている者は少なくない。

剣の基礎や魔法の扱いなど、一通りのことを仕事として行う者が多いなか、ヴァンだけが親身に面倒をみていた。

私も養護院によく顔を出すので、実際に見て知っている。


「ヴァンは、いいお父さんになりそうだね?奥さんになる人は、幸せ者だね。私も子供好きな人がいいな」

からかい半分、そう言うと、

「っな!」

ヴァンが目に見えて総毛をぶわっと逆立たせた。

「な、何を一体!」

ん?何で慌ててるの?いいお父さんになりそうだなあって思ったから、単純に褒めただけだよ?

「ナツキ様っ!俺も子供は好きです!いい父親になれますよ!」

茶色の尻尾をブンブンと振ってアピールするラベルに、

「うん。そーだねー」

と、相づちをうつ。

ラベルも子供には人気だ。精神年齢が近いせいだろうなーと、思っているのは内緒である。

「ナツキは、もう少し、人目を気にするべきだ!」

「ん?うん、ごめんね」

何やら、お怒りのようなので一応謝っておく。


『おめえはちっとは男心ってもんを学ぶんだな』

日がな一日、洞窟の外でのんびりと日向ぼっこをしているアルバが呆れたように言う。

基本的に、その声は他の人には聞こえない。だからか、結構、いいたい放題だ。

ただ飯食いの分際で偉そうに!って、アルバは勝手にその辺の草をモシャモシャ食べるので食い扶持を稼ぐ必要などない。

しかし、腹が立ったので

「アルバもそのモフモフとした毛を刈ってもらって、少しは冬支度に貢献したらどう?」

『俺は羊だけど、羊じゃねえ!聖獣だ!』

そうだけどさー、見た目、大きな羊なんだよね。キラキラした角を生やしてはいるけどさ。

毛もあったかそうでいいウール製品になりそうなんだよね。

『俺の毛は極上品なんだ!神殿長に献上されるほどなんだぞ!』

へー、そうなんだ。それじゃ、頑張って資料を探してくれているヒルダさんへ献上させてもらおうかな。

『ひっ!』

私の考えていることを読んだのか、アルバが脱兎の如く、洞窟の中へと逃げていった。

あっ、間違えた。脱羊?だった。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

近場では杏の花と桜が綺麗に咲いているそうです。近いうちに見に行きたいな。

皆さんも一緒に春を満喫しましょう!次回も早めにお会いできますように!

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