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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第四章 北領編
152/210

それぞれの決断

うろんな輩(私達のことである)に警戒し、歩みを止めていた星熊であったが、再び、活動を始めた。

星熊の歩く先から凍っていくのが、本当に不思議だ。まだ少しばかり、遠いので確認出来ないのだが、もしかしたら、地面に熊の肉球跡が点々と残っているのかも知れない。

緊迫した空気でなければ、近寄って見てみたい。きっと、かわいいはずだ。


ドシン、ドシンと地面を踏みしめる振動が足元から体全体へと伝わってくる。

星熊の歩みは、決して速くはない。一歩、一歩、踏みしめる感じだ。こうして見ると、星熊によって村や畑が破壊されたが、人死には出ていないと言うのは本当のことのようだ。

歩き始めたくらいの小さい子供はともかく、幼い子供の足でも難なく逃げられる、そんなゆっくりとした足どりであった。

墜ちた聖獣だとアルバは言ったが、彼(もしくは彼女?)は本当は破壊などしたくないのかも知れない。

自分の意思では止められないだけなのかも?


そうだとしても、この先へは行かせる訳には行かない。この先には、バレンがたった一人で、その後、彼の畑作りの情熱に賛同した人々の手を借りて、ようやく実った畑があるからだ。


だから、戦う。まずは小手調べ代わりに、ヴァンが先制攻撃を放った。魔力を通した剣を星熊へと向け、斬擊を撃ち込む。

《雷波》

雷を纏った攻撃である。だが、それは星熊の前で阻まれた。

《氷塊》

星熊が詠唱とともに氷の防壁を作り出した。それはとても厚い氷の盾となった。

ヴァンの一撃は防がれはしたが、防壁もまた、粉々になって消え失せた。


ちなみにヴァン達が魔力を発動する際、呪文を唱えるのに対して、私が大概、無詠唱なのは魔力の性質が異なるから。

地球産とレーヴェンハルト産の違い?かな。ヒルダさんも詠唱するのでそうなのだろう。

私は、魔力を頭の中でイメージしているので言葉は必要ないって思ってもらえると助かる。

魔法について色々と学んだけれど、詠唱してもしなくても効果はあまり変わらない。

まあ、言葉にするとイメージしやすいのは確かかも。


「え?魔法が使えるの?」

ヴァンのように呪文を唱えた星熊に、私は、素直に驚いた。

《当たり前だ。元、聖獣だと言っただろうが》

あー、そうだった。そうだった。


「次はあたしの番だね」

ミグ姉さん、あたしの番って、もしかして素手で挑もうって言うの?

「馬鹿をお言いでないよ。あたしは拳に魔力を纏わせるのさ」

そう言うや否や、ミグ姉さんの両手にメリケンサックのようなものが装着された。

メリケンサックだよね?

「行くよ。熊野郎!」

ダダッと駆け出し、星熊の手前で跳躍すると頭上から拳を叩きつける。

拳は星熊の額、星の紋様にクリーンヒットした。

マジで素手で!星熊、大丈夫?凄い音がしたよ?

一撃を入れると、ミグ姉さんは後方へと跳びずさった。


ど、どうなったの?

「つうっ」

ミグ姉さんがその場へと踞った。見れば、メリケンサックに無数のヒビが!

ピシピシと音をたて、粉々に砕かれた。

「なんて、頑丈なヤツなのよ!」

魔力で形作れた武器は壊れたけれど、本人はいたって元気だ。

あ、大丈夫みたい。良かった。


続けて、アウルムがガッと気炎を吐いた。文字通り、炎の球を口から吐き出したのだ。

星熊へと届き、あ、届かなかったみたい。氷の壁じゃなく、星熊が右手でぺいって叩き落とした。

アウルムが、ガーンってなってる。しょうがないよ!まだ、子供だもん。


そんな三人(二人と一匹)の連続攻撃を目撃したシュウとバレンの兄弟は呆気にとられたように口を開いていた。

「…あんたら、何なんだ」

シュウが呆然とした表情で尋ねてきたので、

「え?私達?ただの旅人だよ。でもって、時には世直ししているの」

と、私は答えた。

「世直しって…」

「あ!忘れてた。婚活目的の旅だった!」

ヤバい、ヤバい。肝心要の婚活をすっかり忘れていた。

元々、こうした旅を始めた目的は、私の婚活のはずだった。


けど、実際、今回の旅では私のお婿さん候補になりそうな人には、まだ出会えていないんだよねー。

ナイスミドルな中年には何人かお会いしたけどさ。全員、私とどうこうなりそうになかったし。

辺境の町で出会ったホップさんは裏社会の人間だし、イリューズ商会の会長さんは既婚者だったしね。

まだ、会えていない北領の現領主、アラン君が候補と言えば、候補だけど。

私は、マザコンはちょっとな…。地球で別れた元婚約者もマザコン気質だった。彼が私を捨てて選んだ女性は、彼のお母さんのミニチュア版って感じだったし。

今思えば、別れて正解だったよ。負け惜しみではなく。


攻撃をものともせず、徐々に間合いを詰める星熊に、私は光の魔法を発動する。ただし、最小限に抑える。

私は元々、魔力のない世界―、地球から来た。今いる世界、俗に言う異世界であるレーヴェンハルトは魔力に満ち溢れた世界だ。

私は魔力を持っているが、それを使う器が形成されていないのだそうだ。

だから、大きな魔力を行使すると私の体がもたない。使いすぎると死に至る、そんな危険な行為なのである。


「分かっていると思うが…」

ヴァンが渋面でこちらを見下ろしてきた。

「もちろん、分かっているわよ。私だって、死にたくないもの」

そう言うと、ヴァンがむっと口を引き結んだ。

彼が心配してくれるのは有難いと思う。なんと言っても、ヴァンは私にとって特別な存在だ。


この世界で初めて出会った、大切な人。


心配をかけたくない。けれど、私は、自分が出来ることをしたいのだ。そうでなければ、この世界で、人生をやり直す意味がない。


私達のやり取りを横で聞いていたのだろう。

《お前が戦うのは危険なのか…?ならば…》

と、アルバが心配そうに自身の羊毛を私の手にすり付けてきた。

もふもふする。極上のウール感だね。

「あなたも心配症ね!任せておいてよ」

《無理はするな。やつを取り巻く邪気は領都の歪みを正さない限り、消滅出来ないだろう。だが、例え一時でも、やつが心安らかになれるのなら…》

分かってる。アルバにとって、星熊は大切な友達なんだろう。いや、相棒かな。


「私だって戦えるってところを見せてあげるわ!」

私は、心配そうなアルバに、そして、ヴァンに笑ってみせる。


この世界に来て、もう随分と経った。時間の経過が元の世界と違って緩やかで、あれ?そんなに経っていたのって、たまに驚くことがある。

だいたい、あちらの一年がこちらの三年くらい。時間がゆっくりと流れているのだ。


だから、私だって日々、成長している。


「セイラ!」

《はいはーい》

私の呼び掛けに答え、セイラが現れる。彼女は妖精達の女王であり、私の魂の半身でもある。

魔法を使うことで生じる体への負荷をセイラと同化することで半減する術を得た。

まあ、行き当たりばったりの偶然の産物だったのだけれど。

「いくよ?準備はいい?」

《いつでもオーケーよ!》


セイラが消え、私と同化する。私の左目が、セイラと同じ鮮やかな真紅へと変化した。

私は、両手を胸の前で重ねた。心臓の鼓動がはっきりと聞こえてくる。その規則正しいリズムに呼吸を委ねる。


光の魔法は時に癒し、時に魔を浄化する。聖なる力だ。

私は、私の中で眠る魔力をゆっくりと解放する。

体の周りで、仄かに光輝く、魔力で出来た線が螺旋が描き始めた。それは徐々に広がっていき、空中へと魔方陣を描く。


それは広がり続け、遂には、星熊の元にもそれは届いた。

《グギャアアアアアア!!!》

光が触れた途端、星熊が二本足で立ち上がり、大きく咆哮する。金剛石の体毛で覆われた体に、光で出来た螺旋がまるで戒めのように巻き付く。

まるで拘束する鎖のように。それが星熊の頭頂にまで達した時、ドシンッと大きな音を立てて、その場へと崩れ落ちた。


《カノン!》

アルバが、星熊へと駆け寄った。

《カノン!カノン!》

羊の鼻先を動かない星熊に向けて、懸命に呼び掛ける。

すろと、倒れた星熊こと、カノンがうっすらと目を開いた。

《アルバ…?》

《そうだ、俺だよ!正気に戻ったのか!》

カノンが何度か瞼を閉じたり開いたりしながらも、徐々に覚醒した。

《私のことは放っておいてと言ったでしょう?》

首だけ持ち上げ、カノンが諭すように言う。

《俺はうんとは言わなかっただろうが!》

《困った仔ね》

カノンが苦笑する。


うん。もしかしなくても、カノンって女の子?いや、女の人(熊)なんだね。雄々しい外見に騙された。

そんな風に心の中で思っていると、カノンが首を巡らせ、私を見た。

《あなたは聖領の神殿長?いいえ、纏う色がこちらとは違うわ。異界から来た巫女なのね?》

私は頷いた。

《遠いけれど、レーヴェナータの血筋とよく似た波動を感じるわ…。神殿長となる者が持って生まれる波動に似ている…》

「ヒルダさんを知っているの?」

《ヒルダ?いいえ、私が知っているのは、ずうっと前にこの地を訪れたレイヤと言う名前の神殿長だけよ》

レイヤ…。私は記憶を探った。

「ヒルダさんのお母さん!」

先代の神殿長の名前が確か、そう言った。

《まあ、そうなの。あの子が子供を生んだのね》

カノンが感慨深げにしきりに頭を上下させた。

《詳しく聞かせてもらいたいけれど、あまり長くは保たないみたい。すぐにまた、正気を失ってしまいそうなの》

《カノン!駄目なのか?やっぱりお前を元には戻せないのか?》

アルバの、その声は今にも泣き出しそうだった。

《アルバ。私のかわいい仔。あなたはもう、成獣だもの。一人でもやっていけるわ》

《嫌だ!嫌だ!》

大きく頭を振るアルバを優しい眼差しで見た後、カノンが私へと視線を戻す。


《お願いします。私ごと、この地を浄化して下さい》

《カノンッ!》

アルバが堪らず、悲鳴をあげる。

「…どうして私に?」

私は問う。

私よりもずっと強い力を歴代の神殿長は持っているはずだ。現代の神殿長であるヒルダさんは聖領を離れられない。

しかし、かつてこの地に来たヒルダさんのお母さん、レイヤさんはどうしてそれをしなかったのだろうか。

私の疑問に答える形でカノンが言う。

《レイヤには出来なかった。あの子は優しすぎたから。この地を歪めているのは次元の歪みだけではないわ。

―人の心。

かつて領主であった者の怨讐と、一緒に巻き込まれて亡くなった人々の魂がどこにも行けずにさ迷っている。

レイヤに出来たのは全てを消し去ること。けれど、彼女には出来なかった。何故なら、大勢の魂のなかには無垢な子供の魂も大勢いたから。

レーヴェナータの血を引き継ぐレイヤにとって、例え、魂だけの存在となったとしても、この地に住まう者はすべからく自身の民。

彼女がこの地を訪れたのは、まだ、神殿長となっていない頃のことだけど、彼女には民を、ましてや無垢なる子供の魂を消し去ることなんて出来やしなかったの。

でも、あなたには出来る。あなたは異界から来た巫女だもの。自身の民を守るよう、魂に刻まれた神殿長とは違う。

…そうでしょう?》


そうでしょう?って言われても、いや!私だって、そんなこと嫌だよ。出来ることなら、助けてあげたいって思う。大人はともかく、子供達は単なるとばっちりで、巻き込まれただけなんでしょう?


ぐるぐると思い悩む私を、カノンは黙って見つめる。その瞳は静かな色をたたえていた。死への恐怖はなかった。

彼女はただ、消滅を願っている。己と、歪んでしまった人々の魂もろとに。


けど、けどね!


「やっぱり出来ない!」

私がそう宣言すると、カノンが悲しそうに目を伏せた。

「消し去るんじゃなくて、別の方法を探してみる」

《そんなこと、出来っこないわ》

「諦めないでよ。あなただって、救ってあげたくて、そうなってしまったんでしょう?」

カノンがはっとしたように私を見る。

「今度こそ、間違えずに皆を解放してあげよう?だって、もう十分過ぎるほど苦しんだはずよ。

神様だって、これ以上の苦しみを望んでいないはずよ」


あー、やだなー。何か格好つけちゃった。赤面。

でもさ、この世界の神様ってレーヴェナータなんだよねえ。あと、生ける神としてヒルダさん?

ヒルダさんにお出まし願うって訳にはいかないよねえ?































ちょっと、ぶっつけ原稿なので誤字等あるかもです。一応、確認はしているのですが。

毎週、更新されている方にはホント脱帽です。私も進度をあげたいのですが、なかなか出来ないでいます。これからも、頑張り過ぎない程度に頑張ります。


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