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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第四章 北領編
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聖獣って?

チンピラからメーテルを守ったことで信頼を得た私は、メーテルに北領で暮らす子供達の話を聞かせて欲しいと頼み込んだ。

彼女は明らかに旅人である私が、どうしてそんなものに興味があるのかと訝しがったが、了承してくれた。

「それじゃあ、明日も同じ店で働かせてもらう予定だから、あなたも来たら?仕事が終わったら、私達の住まいに連れていってあげるわ」

「分かった!じゃあ、明日ね!」

そう約束した後で、明日もまた、今日のような戦場(?)に立たされるのかと恐怖したのだが、後の祭りだ。

折角の信頼を失う訳にはいかない。

「が、頑張れ!私!」

そう言って、一人、鼓舞するのであった。


うう。身体中が筋肉痛だよう。今日もハードな一日だった…。

約束通り、市場を訪れた私は、昨日のパン屋の売り子に再び、挑戦した。流石に昨日よりは動けた気がするが、とにかく疲れる。パン屋さんがおしゃれで働き易いって誰が言った?メチャクチャ、ハードだよ。

そう言えば、地球でも人気のパン屋さんは、パン製造部門も売り子さんもフル稼働で休む暇もないくらいの忙しさだったな…。

「ふううぅ。足も腕もパンパン!」

私はストレッチで強張った体をほぐす。

「…それ、何の真似?」

メーテルが変なものを見るような目で、ストレッチを行う私を見る。

「んー?ストレッチだよ〜。体をほぐしてるの。こうすると翌日、楽になるのよ」

「へえ」

メーテルも見よう見真似で私の筋肉ほぐしに倣う。

「んん?何だか体が楽になったみたい?」

そうでしょう、そうでしょう。ストレッチは大事だよ!


その日は昨日よりも大きなパンを報酬にもらい、私の気分も晴れ晴れとしていた。もちろん、それだけの働きをした訳だから、正当な報酬だ。

メーテルも昨日と同じか、多いくらいだ。やっぱりメーテルより、私の方が少なかった。

まあ、仕方ないね。キャリアの差だ。

まだ、見た目、小学生くらいでしかないのに、メーテルはもっと幼いうちから子供でも出来る仕事をもらっては、生きるために働いてきたと言う。

「はあ。そんなに小さいうちから働くの?」

「当たり前じゃない。働かないでどうやって食べていくっていうの?」

「ええと。養護院で面倒をみてもらうとか、行政が支援してくれたりとかないの?」

「養護院で面倒をみてもらえるのは本当に小さな子だけよ。赤ちゃんとかね。あと、領主様には誰も何も期待していないわ」

その言葉には説得力があった。北領では、本当に領地や領民を守るべき領主がその役割を果たしていないのだと改めて痛感するのだった。


さて、入念にストレッチを行った後、いよいよ、メーテルの住まいへと足を運ぶ。

途中、ラベルとアウルムの二匹、いやいや、一人と一匹と合流を果たす。

メーテルは猫形騎獣であるアウルムを見て、目を見開いた。

「すごい。…騎獣持ちなの?」

北領で騎獣を持つのは、大抵金持ちと相場が決まっているらしい。

「あー。私の所じゃ、誰でも騎獣を持つことが出来るのよ?」

「へえ。羨ましいわね」

騎獣はかわいいだけでなく、馬力もあるので重労働に耐えうるし、何より飛行するもののが大半で機動力がある。

「綺麗な毛並み。それに賢そう」

メーテルはべた褒めだ。騎獣が好きなのかな?

「あ~ちゃんはお利口さんだもんねえ」

カシカシと喉元をかきかきしてあげる。こうすると喜ぶのだ。

「ギニャ!」

上顎を上げて、ポーズを決める。

ふふん、そうだろうって感じかな。

「触ってもいい?」

「もちろん、いいわよ。て、言うか。乗る?」

「えええ!いいの?」

初めて会った時から一番の、いい笑顔だった。

「どうぞ」

ラベルがメーテルの脇に手をやり、両手で持ち上げる。それから、アウルムの背中にそっと乗せてあげた。

「ふ、わああ!ふかふか!」

そうでしょう、そうでしょう。春めいてきたとは言え、まだ肌寒い、この季節。騎獣達は暖かな冬毛に覆われていて、ふかふかなのだ。

メーテルが滑らかでふかふかなアウルムの毛並みをそっと撫でると、グルグルと喉を鳴らせた。

「ふあ!グルグル言ってる!猫みたい」

「猫形騎獣だからねー。普通の猫が喜ぶことは、大抵、喜ぶよ」

ふあふあ、言ってるメーテルを乗せて、私達は歩きだす。


「こっちよ!あれが私達の家よ」

市場を通り抜け、バラックが建ち並ぶ中をさらに通りすぎて行くと、バラックとも呼べないような廃墟に出た。

メーテルが指し示したのは、そのうちの一つだ。

屋根も壁もボロボロでトタンや板でツギハギされた、今にも崩れそうなバラックが彼女の住まいらしい。

「皆ー!帰ったわよ」

メーテルが呼び掛けると扉が開き、わらわらと子供達が溢れだす。

おおう。こんなにいたのね。

「あー!お姉ちゃんが騎獣に乗ってる!」

「本当だ!すっげー、カッコいい!」

「猫ー!」

上は五、六歳くらいから、下は二、三歳くらいの子供達が裸足で駆けてくる。

女の子で大きい子は小さい子の手を引いて、ゆっくりとした歩みだ。

「お姉ちゃん!この子、どうしたの?」

アウルムを囲むように子供達の群れが押し寄せ、アウルムは少し困っている様子だ。

アウルムもほんの子供だから、人間の子供にどう接していいのか分からないのだ。

「この子は猫形騎獣のアウルムって言って、ナツキの騎獣で乗せてもらったの」

「ナツキ?」

ようやく、子供達の目がこちらへと向いた。アウルムに釘付けで目に入ってなかったのだろう。

「この人達、だあれ?」

「犬ー!」

「い、犬じゃない!」

今度は犬系獣人のラベルに興味が移ったようだ。

子供達は犬や猫が大好きだからね!お供に二人を選んだのは、そのためだ。それにラベルはお子様だから、子供達と気が合うだろうから。

ちなみにヴァンはその反対で、きっと見た目で怖がられると思い、今回は外れてもらった。

ショックだ、みたいな顔をしていたのが、可笑しかった。


子供達は総勢七人。全員が裸足なのはもちろんのこと、男の子にいたってはスモックさえ着ておらず、下着(ランニングシャツ)と短パン姿で寒くないの?と聞きたいくらいだ。

流石に女の子や小さな子達はこれでもかと着古したスモッグを着ている。

「こんにちは!お姉ちゃんはナツキって言います。メーテルお姉ちゃんの友達だよ!」

スルーされまくっていた私は、自分から子供達に話し掛けた。

「ナチュキ?」

舌ったらずの幼児がナツキと言えなくて、キョトンとした顔でナチュキと言ったのが辛抱溜まらん!って言うくらい、可愛い!

「ナツキだよ〜」

私は満面の笑みでそう訂正する。

「ナツキお姉ちゃん?」

小さな子の手を引いた女の子、これまた、メーテルとどっこいどっこいの美幼女だ。

「そうだよ〜」

「えっと。お姉ちゃんもここで暮らすの?」

どうやら自分達の仲間になるために来たのかと思ったようだ。

「もちろん!今日から仲間になるのでよろしくお願いします!」

私の宣言に、わあっと子供達が笑顔になった。

「やった!お姉ちゃんが増えた!」

「ナツキお姉ちゃん!」

わらわらと子供達がまとわりつくのを、私はニヤニヤ顔で受け止める。いまだかつて、これほどまでに子供達に懐かれたことがあっただろうが、いや無い。

養護院の神官見習いの少女達は、皆、礼儀正しく、私を巫女として遇していたし、孤児達からは逃げられまくっていた。

冒険者ギルドの双子達は、フレンドリーだったけれど、懐くとまではいかず、寂しい思いをしていたものだ。

お姉ちゃん、お姉ちゃんとまとわりつかれる私をラベルとアウルムが遠巻きに見ていた。

「な、何故?」

「ギニャ!」

二人とも、ごめんね。私、今日からここんちの子になる!


ちょっとした騒ぎになっていたなか、別の男の子の一団が帰って来た。

「おい。一体、何を騒いでいるんだ。この辺は俺ら以外に誰もいないが、迷惑だろう」

男の子と言うより、少年の域に達した子供達の中で一番、背の高い子が叱りつけるように声を掛けてきた。

「あ!ロックお兄ちゃんだ!」

私にまとわりついていた子供達が離れ、一斉に少年へと群がる。

私は、引き潮のように引いていった子供達の波を悲しい気持ちで眺める。

うん。ドンマイ!頑張れ、私。


「お兄ちゃん、あのね!新しいお姉ちゃんが来たんだよ!」

そう言って、男の子に手を引っぱられた少年がこっちを見た。

「は?誰だ、お前」

幼い子供達と違って、警戒心丸出しでこちらを睨み付ける。

「あのね。ロック兄さん、この子は私を助けてくれたのよ」

アウルムに乗ったメーテルが助け船を出す。

「助けてくれたって…。と言うよりも、お前、何に乗っているんだ。危ないだろうが!」

少年がアウルムに乗ったメーテルをその背から抱き下ろした。

あ、ごめんね。一人じゃ降りられなかったね。

背中にメーテルを庇うようにして、少年は再び、私に対峙する。まあ、少年が警戒しているのは、私よりラベルなんだけどね。余所者と言う点では同じだろうけど。

「お前達は何だ。どこから来た?この辺りでは見ない顔だな?」

少年の左右に別の少年二人が並んだ。

少年よりも背も低いし、体つきも幼いが小さいとは言えない男の子達だ。

彼らはきっと、幼い子供達の兄貴分なのだろう。

「こんにちは。私はナツキって言います。突然、やって来てごめんね。私達は聖領から来たの。ここでの暮らしが知りたくてメーテルに連れて来てもらったのよ」

「暮らし?俺達、孤児が珍しいって?」

「ううん。違うわ。聖領にも孤児はいて、養護院やギルドで養育されているわ。私は彼らと会ったことがあるし、どんな風に暮らしているのかも知っている。

けど、ここでは私の知る子供達のような暮らしをしていないと聞くわ。私はそれを調査して、聖領から支援出来るものならしたいと思ってるの」

「は!俺達を哀れもうって言うのか!馬鹿にするな!」

ロックと呼ばれた少年の全身から理不尽な世の中に対する怒りのようなものが噴出したかのように見えた。

私には彼の気持ちが手に取るように分かった。だって、私も同じだったから。

事故で両親を亡くし、世の中の全てを恨んでいた頃の私がそこにいた。

「ごめんなさい。私の言い方が悪かったわ。あなた達を見下している訳でも、哀れんでいる訳でもないの。

私が私に出来ることをしたいと思っただけなのよ」

そう言って頭を下げる。

「兄さん…」

ロックの背後にいたメーテルがそっとロックの袖を引く。懇願するような眼差しにロックの怒りが僅かだが柔らいだ。

ほうっと息を吐く。自分の中の怒りを、そうして静めているのだろう。

「…悪かった。あんたはメーテルを助けてくれたそうだな。その礼はする。話も聞こう」

「ありがとう!」

私は、ロック少年の怒りが解れたことに安堵し、ニッコリと微笑み返す。

「ま、まあ。汚いところだけど、上がれよ」

途端にギクシャクしだす少年に私は戸惑う。

あれ?顔が真っ赤なんだけど?どうしたんだろう?

「ちょっと!ぼさっとしていないで入ったらどうなの?」

反対にメーテルのあたりがきつくなった。

どうして?何故に?

うーん。見かけはこの通り、少女だけど、すっかり年をとって少女らしい心を忘れてしまったオバサンには少年少女の機微を読み取くのは難しい。

後でラベルにでも教えてもらおうと、彼らに続いてバラックの中へと入る。


と、ここでさらなる驚愕の事態に直面する。

え?何故、部屋のなかに羊が?

そいつは金色の角を生やし、丸々と太った羊でモシャモシャと枯れ草を食んでいる。

「アルバさん。お客さんだよー!」

アルバさんと呼ばれた羊が返事をする。

《あーん?なんだ、この娘っ子はよお》

メエエと言う鳴き声の副音声のようにそんな声が聞こえてきた。

「珍しいですね。聖獣ですよ」

ラベルが後ろでそう呟く。


は?はあああああ?聖獣?聖獣って、こんなに簡単に会えるものなの?

《うるせえなあ。当代の巫女ってなあ、ガキくせえし、うるせえし。おまけに不細工だわ。最悪だな》

おい。今、何て言った?不細工?

ブクブクと肥え太った羊であるお前に言われる筋合いはない!

《太ってんじゃねえ!これは筋肉だ!》

羊がそう吠えた。


えー。筋骨隆々の羊って誰得なの?














お久しぶりです。最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。

もしよかったら、評価等いただければ幸いです。

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