北領の子供達
ここは本当に領都なのだろうか?聖領は別としても、私がこれまで見てきた領都とは違い過ぎる。
ヨーロッパ調の町並みが美しい東領の領都、まるで砂漠の中の宝石のようなアラビア風の南領の領都。
二つは全く違う個性を放っていたが、それぞれに素晴らしかった。
しかし、北領の領都はまるで…。
「まるで貧民街みたいだわ」
そう、発展途上の国でよく見られる簡易なバラックは、家と言うにはあまりにも脆くてみすぼらしい。
「前の領都はこんなんのじゃなかったらしい。冬にはたくさんの雪が積もる、この地でも耐えられるような頑丈な家が建ち並んでいたって話だよ。
まあ、あたしも実際に見た訳じゃないけどね。年寄りのじいさん、ばあさん連中が昔を懐かしんでそう言っていたのを聞きかじっただけで」
私の呟きにミグがそう答えを返した。
「ああ…。例の事件が起こる前の話ね?」
道々、語られた前の領主家のお家騒動と、その惨劇は領主一族だけでなく、大勢の民を巻き込んだ。
「家は残っていても、領主館の跡地は人の近寄ることが出来ない状態でね。先祖代々の家から、泣く泣く立ち退かざるを得なかったのさ」
「その…、本当なの?亡くなった人達の怨念が残っているって言うのは?」
「実際に行って確かめてみれば、いいさ。道案内だけなら、してあげるよ」
う、一緒に付いて来てはくれないのね?
「大丈夫ですよ!俺が一緒に行きますから!」
張り切って、そう言うのはラベルだ。ブンブンとしっぽが左右に振れている。
え?何でそんなに乗り気なの?
「俺、そう言うのは得意なんです!」
聞けば、お化け屋敷とか曰く付きの物件とか、肝試し的なことに興味があるらしい。
小学生がお化け屋敷を怖がりつつも探検するってノリだね。子供だ。
「まあ、それは置いといて。街の中を見てまわりましょうよ」
北領も基本的に聖領と似たような街作りがなされている。山の上に領主館があって、その回りを裕福な階層が暮らす赤い屋根が特徴的な建物が建っている。自分の持ち家を持っている、一般の領民達が暮らす住まいはさらに個性的だ。
「地面よりも上には玄関と居間があるだけで、暮らしに必要な台所や寝室なんかは地面の下にあるのさ」
ほほう。だから、どれも小さな感じなのね。
聞けば、地面の下には隣家が血縁関係であれば、行き来出来る通路すらあるそうだ。
「そんなのは、よほど金に困っていない連中だけだけど」
北領での貧富の差は天と地ほど離れているらしい。
赤い屋根のある家に暮らすのは領主の家臣筋や貴族階級。そして、大富豪ばかりで赤い屋根は、一種のステータス。お金持ち階級のシンボルなのだそうだ。
「領民でも商売人や地主なんかの金持ち階級とその他じゃ、持っている土地の大きさ自体比べ物にならないからね」
そう言われて見ると、小さな家と家の間が離れている所とひしめき合っている所とがある。
「家と家との距離が離れていると、その分、地面の下に大きな家があるってことね?」
「金持ち連中の中には使わない地面の上を人に貸したりしてるから、一概には言えないけどね」
「ふうん?アリーサの住んでいた所もそうだったの?」
「私がいた所は農村でしたから、こんな風に地下に家を作ったりする余裕はありません。粗末な木の家でした」
「冬の間、それで大丈夫だったの?」
「冬の間は地主の家に集まります。ドーム型の、大きな岩で出来たお屋敷で、沢山の人が入れるのですよ」
領都にあると言う洞窟のようなものか。
「だから、地方では地主が絶対的な権力を持っているのですよ」
ああ、そう言えば、アリーサのお母さんは地主に気に入られて後妻に入ったと言っていたっけ。
所謂、地方における領主と言った存在なのだろう。
「その土地ごとにそれぞれの事情があるのね―」
私は北領の生活仕様について、また一つ知ることとなった。
バラックがひしめく界隈は、思っていたほど暗い雰囲気ではなかった。
人や荷車が通れる、ギリギリの道幅の両脇に露店が立ち並び、威勢のいい掛け声がひっきりなしに飛び交っている。
「ちょっと寄って見てごらん!今日、畑で採れたばかりの新鮮な野菜だよ!」
「三日前に俺が山で仕留めて、じっくり熟成させた鹿の魔獣の肉さ。どこでも欲しいだけ、切ってやるから早い者勝ちだよ!」
「鉄の修繕なら任せとけ。鍋でも道具でも何でもござれだ!」
道行く人々はそれぞれ、興味を持った店の前で立ち止まり、店主の口上を聞く。値切ったり値切られたり、活気がある。
「はあ〜。凄く混雑しているのね」
「まあね。庶民の店はこんなもんさ。聖領みたいにお綺麗な店舗を構えて、やって来る客を待っているなんてのは、赤い屋根に住む連中が利用するだけだよ」
「随分と子供達がいるのね?」
店を手伝っている子や使いっ走りをしている子、様々だ。
「ああ…。あの子らはね」
ミグが珍しく言い澱んだ。
「あの子供達は孤児ですよ」
エリーが事も無げにそう言った。
「ちょっと!」
「隠しても仕方ないでしょう?」
「そりゃそうだけど…」
孤児?養護院の子供達ってこと?
「そんなお綺麗な場所は聖領にしかないわよ。浮浪児って言ったら、分かるかしら?」
浮浪?ストリートチルドレンってこと?
「そうね」
「え?だって、あんなに小さいのに…」
見れば、十歳かそこいらの子もいれば、五、六歳にしか見えない幼い子供もいる。
「自分の食い扶持は自分で稼ぐしかないのよ。ここには貧しい者に施しを与えてくれるような聖女様なんていないのだから」
「そんな…」
私は子供達を注意深く観察した。子供達の身なりはみすぼらしく、多くが継ぎ当てを当てていた。粗末な布の靴を履いている子はまだいい方で、裸足の子もいた。そして、皆一応に痩せていた。それでも懸命に働いている。
「っあ…」
私は、苦しくなって、心臓の上辺りを手で掴む。全く環境は違えど、両親のいない孤児だったのは私も一緒だ。子供の頃の哀しみや苦しみが脳裏に甦ってきた。
「ナツキ様?具合が悪いようなら、宿に帰りますか?」
そう言いながら、心配そうに私の顔を覗き込んできたのはヴァンだった。
「ここは少し、空気が悪いようですね」
すんっと狼の鼻を鳴らした。確かに雑多な空気に溢れているが、高地故か空気が澄んでいるので、それほど嫌な臭いは感じない。
私の心なんて、お見通しのくせに、あえて触れないでいてくれるのは彼なりの優しさだろう。
「どうしますか?」
強制したりしない。私の判断に任せてくれる。
私はほうっと大きな息を吐き出した。
この間、私の背中には彼の大きな手のひらが添えられ、その温もりはたいそう心地良く、私の心を優しく満たしてくれた。
よし!もう、大丈夫!
「ううん!せっかく来たのだもの。きちんと自分の目で確かめたいわ」
「…そうですか」
琥珀色した優しい瞳が私を見つめ、満足そうに頷いた。
「あーあ。ま、止めはしないけどね。あまり、気持ちのいいもんじゃないよ?」
「ミグ姉さんはこの辺りには詳しいの?」
「あたしはここで育ったからね。あの子らと一緒さ」
「孤児だったの?」
私は驚いて、目を見開いた。
「言ったよね?前にも、ここいらの貧しい家の子供は、冒険者になるか娼館に行くか、鉱山に行くしかないって」
そう言えば、そんなことを聞いた気がする。
「親はいたけど、いないも同然さ。貧乏人の子沢山になると全員を養うなんて無理な話でね。
似たような境遇の幼馴染み達と一緒に生活していたのさ」
「そうなの…」
「ま、あんたが気にするようなことじゃないさ。こうして独り立ち出来たことだしね」
「子供ってのは、存外、したたかなもんだよ。どんな境遇であっても、自分達で切り抜けられる。仲間がいるからね」
仲間…。そうだよね。私みたいに信頼出来る仲間達がいるなら、心強いはずだ。
「うん!子供達の暮らしぶりを確かめに行こう!」
私は決意を新たにする。
けれど、それはなかなかに大変なことだった。と言うのも、働いている間は子供達に近寄ることが出来ないし(「仕事の邪魔すんな!」と怒られるので)、そうかと言って、仕事を終えた子供達は蜘蛛の子を散らすようにぱあっといなくなるのだ。
「…子供達が捕まらない」
昨日に続いて今日もまた、私は子供達に逃げられてしまった。市場の様相を呈していた露店はあっという間に端へと片付けられ、人もまばらとなる。
これからは大人達の時間だ。子供達はお呼びじゃない。
「うう。私ってそんなに怪しく見えるのかなあ?」
隣のアリーサにそう愚痴る。
「怪しい怪しくないはともかく、大人を信用していないように見えますね」
片手を頬にあてながら、そう答えを返してきた。
「信用してない?けど、大人から仕事をもらって働いているんだよね?」
「仕事は仕事なのでしょう。私が拝見したところ、子供達は雇い主に対しても気を許しているようには見えませんでしたし」
「え?そうだった?」
私も子供達の仕事ぶりを思い返してみる。
「あ!そう言われてみれば…」
雇い主の言い付けを忠実に守り、働いているけれど、甘えたりはしていない。はっきりと一線を画している。
「子供達にとって、大人は敵なのでしょうね」
「ま、そりゃそうだ。気を許したら、娼館に売り飛ばされちまうかも知れないからね。特に綺麗な子供はね」
横からミグが言い添えた。
子供達はそれなりに清潔さを保ってはいるようだが、綺麗に見せたり可愛く見せようとはしていない。
「うーん。大人は信用ならない、か。それじゃあ…」
私は閃いた。
うん!明日はこの作戦で行こう!
「え?何をするつもりなんだ?」
ヴァンが心から嫌そうに鼻の頭を寄せた。
ちょっと!失礼でしょ!話を聞きもせずに。何よ、その嫌そうな顔は!
私はこの場にいた面々に思いついた作戦を説明する。話を聞いた面々がそれぞれに違うリアクションをとった。
半数は呆れ返り、後の半数は無言で天を仰いだ。唯一の例外がセーランだ。彼は無表情のままだった。
けれど、それはセーランの平常運転なのであまり関係ない。
翌日、領都に来て三日目の朝。私は意気揚々とバラックの立つ界隈へと向かう。
昨日までは旅行者の格好だったのが、今日は北領の領民達と同じ格好だ。あえて付け加えるならば、私の格好は北領の民、それも子供の格好だった。
「うーん。まあ、いける、かも?」
「アッハッハッハ!似合ってるわよ」
お腹を抱えて、爆笑しているのはミグ姐さんだ。
それ本心で言ってる?
「いやはや、聖領の巫女様のスモック姿を目にするなんて思いもよらなかったよ」
えー?自分のお店においてあるゴス○リファッションに比べれば、かわいいものだと思うけど。
北領では小さな子供達はスモックが主流のようだ。いわゆる、幼稚園や保育園の園児達が着ているアレだ。
女の子はスモックワンピースで男の子はスモックの下に短パンをはいている。寒い冬になるとその上に魔獣や獣からとった毛皮を羽織るらしい。魔獣やら森の獣やらは、罠を使えば誰にでも狩れるのでそれほど高くはないようだ。
畑の作物はさほど収穫量がなくとも、森の恵みは豊かなようだ。それも春から秋にかけてのことなので冬支度が肝要らしい。
私は自分の着ているスモックワンピース姿(あえて空色を選んだ。決して園児のコスプレがしたかった訳ではない)を改めて鏡に映してみた。
うん、完璧だね!
ヴァンが痛いモノを目にしたような顔をしているが無視した。
「あんた、一体幾つだい?」
パン屋のおばさんが疑わしそうな顔で見た。
「十三歳になりました!よろしくお願いします!」
「十三〜?うーん。見えなくはないけど」
バラックの店先でパンを売る売り子として私は私自身を売り込む真っ最中だ。
パンは未明からおばさんの旦那さんが自宅で拵えて、それを売るのは奥さんの役目だ。
「そりゃ、あたしは別に身元やら、見た目やらは重視しないけどさ。働く意欲がある子なら、誰だって構わないさ」
うーんと、しばし、丸太のような太い腕を組んで私ともう一人の女の子を凝視する。
売り子は二人必要とのこと。パンを売る店は清潔さがことさらに必要とされる。他にも候補の子供達がいたが、身形の悪さで早々に落とされた。
私の服は中古とは言え小綺麗な品物で、もう一人の女の子が着ているのは紺色の生地なので汚れは目立たないし、綺麗に継ぎがあたっている。
「ふん。まあ、いいさ。あんたら二人を雇うよ。しっかりと働きな!」
やったー!採用されたよー!小躍りしたい気持ちを抑え、もう一人の女の子に挨拶する。
「よろしくね。私、ナツキって言うの」
あえて、子供っぽくしゃべるのも忘れない。
「…メーテル」
んん?何か、懐かしの名作アニメのヒロインの名前が聞こえたよ。あれって絶世の美女と冴えない少年の宇宙を巡る旅物語だったよねー。
「メーテルって言うの?綺麗な名前だね!」
「…別に」
随分と素っ気ない。クリクリと巻いた赤茶色の前髪で目元が隠れているが、可愛らしい子だ。
それこそ、人買いから目をつけられそうな。
よし!お姉さんが守ってあげるからね!頑張るぞ!
ハ、ハードだった。パン屋がこれほどの重労働だとは思いもよらなかった。ただパンを売ればいいと思っていたのに。
客の要求が半端ない。
「ちょっと!これを三つ、それぞれ十等分にカットしてよ」
「あたしはこれとこれを五つずつ。これだけ買うんだから、少しはオマケしなさいよ!」
「急いでいるんだから!さっさと袋詰めしてくれる?」
店で扱っている両手で抱えるほどもある大きなパンを買うのは、裕福な家の使用人か、大勢の労働者を抱える商家や工場の買い出し担当が大半だ。そうした所は大抵賄いがついていて、汁物や副菜なんかはお抱えの料理人が作るのだけれど、パンまで手がまわらないのでこうして買い出しに来るのだそうだ。
一人が買っていく量が多くて、いちいち大変だった。
ひー!忙しいよお!
慣れないながらも必死で働く私の横で、メーテルはクルクルと立ち働いている。
まだ十歳くらいだろうに、慣れたものだ。
お昼前の喧騒はあっという間に過ぎて、パンはほぼ完売した。
「ほら、あんたはパンがいいんだろう?」
そう言って、おばさんは売れ残った大きなパンをメーテルに与えた。
「ありがとうございます」
メーテルは、嬉しそうに大きなパンを受け取る。そうすると、子供らしい表情が見られた。
「あんたはどうするの?」
おばさんが私に聞いてきたので、
「私もパンがいいです」
と答えた。
「ほら。これでいいかい?」
メーテルが受け取ったものよりもやや小ぶりのパンが手渡される。
あ、うん。そうだよね。メーテルほど、私、働けてなかったもんね。少々、落ちこんだ。六歳以上(レーヴェンハルト感覚で)年下の子よりも駄目だった私って…。
「明日はもっとマシだろう。次はもっと大きなパンをあげるよ。頑張りな」
「は、はい!」
地球にいた頃、アルバイト先で誉められたことのなかった私は感激した。
学生バイトとして入ったアルバイト先では、暗いだの、接客が出来ていないだのと叱られることの方が多かったからだ。私の黒歴史である。
パン屋を後にした私は、任務?も忘れて紙に包まれたパンを両手にルンルンと歩いた。
はっ、しまった!メーテルはどこ?
「いた!」
メーテルは私の前方を小走りで歩いていた。とそこへ、ガラの悪そうなオッサンが二人立ちはだかる。
んん?何?
「メーテルちゃあん。そんなに急いで走ったりしたら転んじゃうよ。せっかくの綺麗な顔にキズでもついたら、大変だ」
「そうだぜ?娼館じゃ、小さなキズ一つでも、売値が下がっちまう。気をつけねえと」
メーテルが男達からジリジリと距離をとる。
すると、一人が背後を塞ぐ。
「そんなもの大事に抱えてどうすんだぁ?店じゃ、もっと旨いものがたらふく食べれるっていうのによぉ」
前方にいた男がメーテルから袋ごとパンを奪う。
「返して!返してよ!」
メーテルが男へと手を伸ばし、奪われたパンを取りかえそうと躍起になる。
「コラコラ、オイタはダメだよー?」
後ろの男がメーテルの両脇から体を抱えた。メーテルの足が宙に浮く。
「嫌っ!放してっ!放してよ!」
体を捻って逃れようとするも、相手は大人だ。何一つ、効果はない。
「あれえ?今日はお兄ちゃんはいないのかなあ?いつもだったら、妹を離せって遮二無二やって来るのによお?」
「なー!するってえと、このまま店にいけるんじゃん?」
男達が顔を見合せ、下卑た笑みを浮かべる。
「それじゃあ、行こっか?楽に稼げるよ〜?」
「い、いや。嫌ああああ!」
メーテルの悲痛な叫び声が響いた。
通りに人の姿はあれど、誰一人助けようとはしない。
「痛え!」
背を向けていた男に向かって私は大きめの石をぶつけた。
「あぁ?何だよ、テメエは」
ごろつき、チンピラの類いの男がこちらを振り返る。
「メーテルちゃんを離せ!この屑ども!」
「はあぁ?誰が屑だってえ!」
メーテルをもう一人に押しつけ、男がこちらへと歩み寄ってくる。
「ナツキ、逃げて!」
もう一人の男に腕を掴まれたメーテルが必死になって叫んだ。
あー、やっぱりいい子だな。自分もピンチなのに、私の心配なんかしてさ。
「メーテルちゃん。私達もう、友達だよね?」
「え?」
私はニカリとメーテルへと微笑む。
「な、何言っているの?早く逃げて!」
困惑したような顔をしたメーテルがそれでも逃げろと私に言う。
「逃げようったってそうはいかねえ。お前も一緒に店に売ってやろうか?ま、メーテルに比べると器量が一段も二段も落ちるがな」
「…誰のことを言ってるんだ?」
低い声音とともに男の背後に突如現れた影が言う。
「なっ!」
手刀を急所へとまともに食らった男が白目を向いて昏倒する。倒れた男の向こうにはヴァンの姿があった。
「おい!どうした?」
メーテルの腕を掴んでいた男が突然倒れた相棒に向かって声を掛ける。
「ナツキ様は不細工なんかじゃないぞ!」
「はへ?」
男が振り返る。
「死ね」
ラベルが渾身の一撃を男の頬へ食らわせる。
もちろん、殺してなんかいない。ただ、歯の一本や二本は折れているかも知れない。
「全く!二度と不細工なんて言うな!」
言ってない!不細工なんて一言も言ってないよ!
「ね!ナツキ様!」
いい笑顔でこっちを見る。
「あ、そうだね。でも、ラベル。あんた、あとで説教」
「えー!どうしてですか!」
キャンキャンとわめくのを私は無視する。
「大丈夫?どこも痛いところはない?」
私はメーテルへと手を伸ばす。
メーテルは恐怖からなのか、はたまた安堵からなのか、地面へと座り込んでいた。
「あ、あなたは一体…?」
「私?うーん、そうだな…」
私はちょっと考える。
「私はね、気まぐれに世界を旅する、ただの旅人。あと、そうだ!たまに世直しもするね」
「は?世直しって?」
メーテルがポカンと口を開く。
「よかったら、この都にいる孤児となった子供達のことを聞かせてくれる?」
「え?」
「北領の子供達も私の大事な子供達だから」
ヒルダさんがそう思っているように、私もそう感じている。
「…子供って、あなたも子供じゃない!」
「ごめん。私はもう、子供じゃないの。成人してるのよ」
「成人してるのに、そんな格好をしているの?馬鹿なの?」
えー。これはただ単に警戒されないようにって言う配慮からなのに。メーテルってば、何気に口が悪いよね?
随分と間が空いてしまいました。自分で書くより、他の作家さんの小説を読んでましたね。私も一人でもいいから、作品を読んで面白いと思ってもらえるといいんですが。