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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第四章 北領編
141/210

寄り道禁止です

荒れ地に一番近い町で結局、一週間も滞在してしまった。様々なことがあったが、概ね、良い方向へと向かっているようでほっと胸を撫で下ろす。

町の人達にはこれからも頑張っていって欲しいと思う。


私達が町を出立する日、沢山の人達が見送りに来てくれた。そして、沢山の感謝とお礼の言葉をもらう。

「私なんて、何にもしていないのに、わざわざありがとう」

「何もしてないって?そんな訳ないだろう。な、皆!」

鍛冶屋のビルさんが同意を求めると、周囲の皆が頷いた。集まってくれているのは、署名集めに奔走してくれた人達だ。

「あんたには感謝しているんだ。帰りにもまた寄っておくれよ。ちゃんとしたお礼をしたいんだ」

宿屋のリッピさんが笑顔でそう言ってくれた。

「お礼はともかく、必ず寄らせてもらうわ」

後始末を一切合切丸投げにしてしまう形で出て行くのだから、本当にお礼なんていらないけれど、町の様子は知りたいと思う。

「じゃあ、また!」

そう言って、それぞれの騎獣を飛び立たせる。

背後にまたなとか、ありがとうの声を聞きながら、私達は町を後にした。


「そう言えば、ホップさんは来てなかったね」

私がそう言うと、

「あの男は商人と言っても裏家業の男ですよ。堂々と町の皆の前に出て来ないでしょう」

と、ヴァンが答えた。

「そうなんだけどさ、何か寂しいじゃない?」

「あなたは…」

絶句してから、

「少しばかり、気が多すぎませんか?」

「はあっ?」

「行く先々でお気に入りの男を作るなと言ってるんです」

なにそれ?まるで私が男好きみたいじゃないの!

「変に勘ぐらないでよね。あの人はあの人なりに町のことを考えてくれてるんだから、町の皆とも仲良くして欲しいって思っただけよ」

「…そうですか?」

疑わしそうに私を横目に見る。

「それにホップさんにはお似合いの人がいるんだから!私なんかお呼びじゃないよ」

「へえ、誰だい?」

おうっ。ミグ姉さん、そんな近くにいたの?

「え、えーと。まだ、確信をもっている訳じゃないから、ちょっと保留」

まさか、あなたとくっつかないかなーと思ってるなんて言えないよ。

「ふうん?」

あれ?もしかして、自分のことだって分かってる?

「とやかく言う気はないけど、いらないお節介ってこともあるからね?そこは弁えとかないと」

あう、釘をさされてしまった。

久々の恋話だったのにさー。

ミグ姉さんに釘を刺され、この話はお終いとする。

「まあ、それならいいですが…」

不承不承という体でヴァンが矛先をおさめた。

「それで、この先は真っ直ぐ領都を目指すのでしょうね?宿泊する度にこれでは一体いつになったら領都に着くのか分かりません」

「そのつもりよ」

そう答えたのに、私は行く先々で悉く裏切ることとなった。


だって!北領ってば、酷すぎるんだもの。政治、ううん、領地運営に関して、北領は駄目過ぎる!

土地が痩せていて不作なのは仕方ないにしても、他の領に比べて町や村の在り方が杜撰すぎる。

まるで一昔前のやり方だと言わざるを得ない。日本で言う、江戸時代だね。一部の特権階級だけが利益を得て、平民はかつかつ。そんな社会構図を目の当たりにするとは。

これなら、ホップさん達の町の方がなんぼかマシだよ。

だから、私は行動を起こすことにした。手っ取り早く、聖領に直接支援を申し出たのだ。

長い冬を越え、ただでさえ短い暖かな季節に耕したくても農具はボロボロ、作物の種すらない。それでこの先、どう生活していくのだって言う話だ。

寒くて長い冬のために備蓄を蓄える前にどれだけの死者が出るのか、想像に難くない。

領主が仕事をしないなら、私が手を出すだけだ。何も政治に介入しようと言うのではない。人道的支援に文句は言わせない。

超特急で送った支援要請に答え、やって来たのは案の定と言うか、冒険者ギルドの面々だった。


「よお。来たぜ〜」

片手を上げ、気楽そうに挨拶してきたのはクレイさんだ。

あの、あなたギルドマスターだよね?そんなに頻繁にギルドを留守にしていいの?

「いいっていいって!ギルド長なんて、単なる肩書で、実際の実務はタルボがやってるんだからよ」

タルボさん、気の毒に。

「んで?運んできた物資を村や町で配ってまわれば、いいのか?」

「ええ。お願いします」

大量の物資を乗せ、騎獣が引く馬車が何台も連なっている。あの荒れ地を難なく渡って来れたのは、騎獣の存在と冒険者達の護衛があってこそだ。

「あの…、本当に聖領の巫女様だったのですね」

この時の逗留先であった村の村長がおずおずと私に話し掛けてきた。

彼は、私の申し出を聞いてもなかなか信じてはくれず、半ば疑っていた。

「本当に支援してくださるなんて…。お話を信じず、申し訳ありません」

丁寧に謝罪する。村長の後ろには村民も揃っていて、全員が頭を下げた。

「そんなのいいから。あのね、村や町に物資を配分したいのだけど、何かいい方法はあるかな?」

よそ者、しかもギルドの冒険者が突然やって来て、支援してやるから支援物資を受け取れと言っても、到底素直には受け取れないだろう。

「それなら、地区ごとに区長と言って、村を取りまとめる者がおりますから、それらに通達すれば…」

「区長さん?」

言ってみれば、江戸時代の庄屋さんさんみたいなものだろうか。地域ごとに村々を取りまとめる代表がいるらしい。

「私の弟が婿入りした家系が、その区長をしている家でして話を持っていきやすいので」

「それじゃあ、お願いしてもいいかしら?配分とか村の規模や人数で話し合って欲しいし」

「はい。すぐに人を遣ります」

直ちに若者が伝令役を申し付けられ、馬で出るところを、

「そんな悠長なことやってられるか。騎獣に乗っていけ!」

と、クレイさんが騎獣と騎乗者を貸してくれて、若者がおっかなびっくり乗せられて飛んで行った。

大丈夫かな?初めて乗ると、結構、キツいんだけど。


待つこと数時間、若者を乗せた騎獣が帰って来た。村長の弟さんのいる村はさほど遠くないので、何かあったのだろうかと気を揉んでいた村人達がほっとした顔で出迎えた。

「あれから、数件の区長宅をまわってきたもので…」

ゼイゼイと半死半生の若者がそう報告する。

「いやあ。手っ取り早く済ませたほうがいいだろうと思いまして」

若者と騎獣に乗って行った青年が、にかっといい笑顔でそう言った。

うん。気を使ってくれたのは有難いけど、初心者だから。もっと、労ってあげてね。


ただ、この行動は結果として吉と出た。翌日には近隣の区長達が馬車や荷台を転がして、次から次へとやって来たのだ。

「これは!こんな上等な農具を無償で譲っていただけるのですか?」

「こっちの種も上物だ。しかも、こんなに沢山!」

集まった区長達が救援物資を改めていく。

「なんと有難い!巫女様のお陰です」

地べたに這いつくばるようにして、お礼を言う区長さん達に私は困り果てた。

「これらは聖領からの支援ですから!私一人の力ではないので、そこのところは勘違いしないで下さい!」

「いえ、しかし、あなた様が我々の窮状を見るに見かねて支援を願い出て下さったのでしょう?」

「本来なら、届いていたはずの聖領の物資が届いていなかったのに気付かなかった私達の責任ですから、当然のことをしたまでです。

それに救援物資は聖領だけではありません。これから、他領の領主を通じて、運び込まれる予定です。今回の分が十分に行き渡らなくても、すぐに次が運ばれて来ますから。

皆さんで仲良く、分けあって下さいね」

「おお。有難い」

「我々は神から見捨てられてなど、いなかった」

区長を務めているという、集まったおじさん達がぼうだと涙を流す。


そんな大人達に関係なく、はしゃいでいるのが子供達だ。

「うわあ!パンだ!こんなにたっくさん!」

日持ちのする、大量のライ麦パンを前にキラキラとした笑顔だ。

「あなた達も泣いてないで。子供達に振る舞ってあげてよ」

「そ、そうですな」

グスグスと鼻を鳴らしながら、村長さんが女性陣に声を掛ける。

「巫女様と御一同方、そして、はるばるとやって来られた区長さん方と物資を運んで来た皆さんも、お腹を空かせてらっしゃるはずだ。

粗末なものしかないが、心を込めてもてなすのだぞ」

「はい!」

そうして、村人総出で調理や接待にあたる。


元々、小さな村に全員が集まれる家などなく、外で饗応を受けることになったが、それほど寒さは感じない。時々吹く風が少しヒヤリとする程度だ。

それと言うのも、村人が皆、笑顔で心からもてなそうとしてくれているのが分かるからだ。

配分の取り決めのない、救援物資を使うことに文句を言う者もいない。

誰もが笑顔だった。


「北領の民の、こんな嬉しそうな顔を、私がいた頃、見たことございませんでしたわ」

アリーサの瞳が潤んだようになって、集まった人々を見つめていた。

「同感だね。大人になって稼げるようになってからはともかく、ガキの頃は四六時中、腹を空かせてたっけね」

ミグが酒杯を手に同意する。

二人の胸のうちは窺い知ることしか出来ないが、故郷の人々が救われることを喜んでいることだけは分かった。

しみじみとそんなことを思っていると、場違いな大声に感傷を台無しにされる。

「わははははは!宴だ!」

クレイさんがキャンプファイヤーのように高く積まれた火の側で木製の大ジョッキを振り上げている。

周囲にはこれまた、ギルドの面々が…。

「こらあ!救援物資に手をつけたら承知しないわよ!」

酒類も多少は積んで来ていたので、釘をさす。

「流石にそんなこたあ、しねえよ!これは俺達が別に持ってきたヤツだ」

わざわざ別に持ってきたようだ。どれだけ、酒好きなの?

酒が入ると陽気になるのは、どこの世界でも同じようだ。酒量が進むにつれ、服を脱ぎ出す輩が続出する。

下を脱ぐのは遠慮?したらしい。筋骨粒々の冒険者達の半裸姿に奥様方から黄色い絶叫が上がる。

何をやっているんだか…。あ、ヴァンがクレイさんに捕まった。脱がされようとするのを必死に抵抗している。

が、頑張れ!あ、でも、ちょっと見てみたいかも?

セーランは翼を使って屋根の上に待避している。賢いね?

ラベルはとうに剥かれて放置だ。これはまあ、いつものことなので特に問題はないだろう。


その日は夜っぴいて、宴会が続けられた。翌朝、二日酔いで痛む頭を抱えて、区長さん達がそれぞれに配分された分を自分の受け持ち区に持って帰っていく。護衛に冒険者の面々が付いていったので安心だ。

救援物資の配分は続けて、この村で行われることとなった。遠い地区からやって来る区長達が到着していないので残務処理を任せる。

それには村長の弟が、この地区を任されている区長である義父に代わって執り行う。区長宅から人手も借り受けて、ついでに冒険者数人を残してある。北領では食いつめた離村農民による野盗の被害が多いらしいので、救援物資を持ち帰った町や村から、沢山の物資があることは追々広まるだろうから、その対応を任せた。


「それじゃあ、俺は先に戻るわ」

クレイさんが来た時同様、飄々と去っていく。戻ると言っても聖領にではない。荒れ地の側にある、リッピ達の町だ。救援物資が届けられる道筋を確保するのに、あの町はうってつけだった。

私は次期町長候補のリッピさん宛に、この先到着する予定の救援物資の確認と輸送に関するお願いのお手紙を書いて渡した。何と言っても、北領南部最大の町である。町を良くするのは一番の急務だが、周辺の町や村への援助も大切な役割の一つであるだろう。

勝手に役割を振ってしまって申し訳ないのだけど、肝心の領主が頼れないのだから仕方ない。私が領主へと直談判し、改善されるよう頼むつもりだが、その間、しばらくは頑張ってもらいたい。


「ホップって奴はいいよな〜。俺達と同じニオイする」

聖領から物資を運ぶ者が来ると知らせたら、ホップさんは何と出迎えに荒れ地まで来てくれたらしい。

魔獣を狩って、ちゃんと農村まで救援物資が届けられるようにするためだ。

町の暮らしは農村に比べるとマシで餓える者はそういない。何かしら、働き口があるからだ。

けれど、農村は違う。一定量収穫出来なければ、人は途端に餓え、女子供が売られたりする。

「あいつとなら、いい商売が出来そうだ」

仲良くなるのはいいことだけど、昨夜のノリで来られるとホップさんは困るだろうな。

「ま、暫くはあそこにいるからな。困ったことが起きたら、報せを寄越すといい」

言いながら、ポンポンと私の頭を叩く。

ちょっ、止めて。ヴァンの殺気が怖いから。クレイさんも知っててやってるよね?

けど、彼なりに私達のことを心配してくれているのだから、押さえてね?


こうして 私達は再び、領都を目指す。ヴァンが立ち寄り(寄り道?)を制限する目的でその先はかなりの強行軍だった。領都に着いた私はすぐさま宿屋でダウンした。

だから、都の様子をろくに目にしていない。

翌日、しかもお昼近くにようやく起きれた私は遅い朝食(昼食)を終えた後、外に出てみた。そして、都の様子を目の当たりにし、絶句する。

そこは都と呼ぶにはあまりにも不釣り合いな場所だった。山肌に堅固な領主館がそびえ立ち、周辺を立派な建物が囲む。だが、それ以外の場所はみすぼらしく、寒々としていた。急作りの粗末な煉瓦の家はまだ良い方で沢山のバラックがひしめき合っていた。

今の季節ならいいけど、極冬の間、そこで暮らす人達はどうするのだろうか?

「冬場をしのぐための洞窟があるのさ。けど、毎年のことだけど全員はとてもじゃないけど入りきれない」

ミグが私の疑問に答えてくれた。

「え?それならどうするの?」

「あぶれちまったものは仕方がない。甘んじて運命を受け入れるまでさ」

は?あんなバラックじゃ寒さは到底凌げないだろう。

「…まさか」

「ああ。待つのは死、あるのみさ」

それが北領で生まれた者の定めなのさ。


私は全身が総毛だった。

そんな定めなんて、いらない!私は大声で叫んでやりたかった。

















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