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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第三章 聖領編
133/210

出発準備完了です

アリーサは、一緒に行ってくれることになった。過去の自分から、そして、辛い思い出から、今の自分を決別するにはいい機会だと言ってくれた。

過去は変えられないけれど、未来は変えられる。何故なら、自分自身で作っていくものだからだ。

私はアリーサの決意を応援しようと思う。もし、彼女が辛くてどうにも耐えられないようなら、側にいてあげたい。

一人では乗り越えられないことも、誰かの支えがあれば、乗り越えられる。

私の北領への旅に冒険者ギルドからも参加希望があった。ミグ姉さんとエリーである。

「北領はあたしの生まれ故郷なのよ。あっちの地理にも詳しいから、役に立つわよ」

先代領主夫人には貸しがあることだし。と、何やら物騒なことを言いつつ、参加を表明してきた。

これはセルマさん経由で、私の北領行きが伝わったせいだ。クレイさんを始めとする養護教諭院出身者が、かつての恩師というか、育ての親にクレイさん達は何事か言い訳を拵えては会いに行っているらしい。

職業訓練所は、ほぼボランティアで運営されていると言っても過言ではない。講師陣は雀の涙ほどの報酬で講師をかって出てくれている有志の方々で、セルマさんは神殿からの出向だ。

言わば、始まったばかりで元々利益なんて度外視の施設にそれほど費用はかけられない。

運営に必要な事務的な職員は雇用が出来ても、体力を使う人員は人手不足でそこをクレイさん達、冒険者が補ってくれている。

「セルマ様から同行して欲しいと言われたんじゃないよ?話を聞いた、あたしが勝手に申し出たんだからね?」

ミグ姉さんは、たまに衣装作りの講師をしてくれている。そんな関係から話を聞いたのだろう。

「エリーはさ。あたしだけだと物騒だからって、ギルドマスターから押し付けられたんだけどね」

「押し付けられたとは何ですか!私だって、いい迷惑です!」

まあまあと二人を宥めつつ、ミグ姉さんの言った言葉の意味を考えた。

はて?物騒って何でだろう。ミグ姉さんは気のいいマッチョ…もとい筋肉女子なだけだよね?意外に思慮深いし。

「あたしにも因縁があるんだよ。あの地にはね。そして、領主の母親って立場でふんぞり返っている、あの女にもね」

あの女とは、先代の領主の奥方だった人で、ヒルダさんのお姉さんでもある。

実の娘を搭に幽閉していると言う、とんでもない親だ。一度も会ったことなどないが、私にとって敵認定の相手である。

向こうは、私がそう思っているなど、知るよしもないが。

「私もです!一緒に退治しに行きましょうね!」

「は?退治って、あんた。領主の奥方をどうこう出来るはずないだろう」

「ええ!そんなあ」

がっかりだ。せっかく同志を見つけたと思ったのに。

「心配しなくても、ちゃんと手助けはしてあげるわよ。神殿からの正式な依頼なんだから」

そう。このほど、神殿は冒険者ギルドの存在を正式に認可した。だから、治療院開設の日、クレイさん達が大っぴらに参加出来たのだ。ただし、完全な放置ではなく、神殿から数ヵ月に一度、査察が入るのが条件だそうだ。

「あ~。冒険者ギルドが認められて、良かったですよねえ」

「まあね。ただ、やっぱり変人が多いから、大手を振って街の中を歩くのは厳禁なんだけどさ」

ですよね。確かに変な人が多い。見た目だけでなく、中身も相当変わっている。あの人とか、あの人とか。

「ま!神殿の巫女姫だって、相当の変わり者なんだから、おあいこさ」

な、なんですと!私が変わって見えるのは異世界から転移してきたからだよ!

不満である。すっごく、不満である。

私がそう主張すると、その場にいた全員が、

「「「えぇ?」」」」

と、声を揃えた。アリーサや護衛騎士達、ついでに冒険者の面々も。

え?皆から見て、私って、そんな評価なの?ショックだ。


北領への旅の準備と平行して、私は仕事を頑張った。休む暇もなく、バリバリ働いたよ!

もちろん、アウルムの訓練も怠らない。生まれてから半年もたつと段々と成獣に近づいてくるようで、体つきが随分としっかりしてきた。

小さい頃からぶっとい足をしていたから、こいつは大きくなるぞ〜と言われていたけど、ホントだね。

マニャに比べても、なんと言うか、でっかい。

どっちがお兄ちゃんか分からないね。でも、精神年齢は大分…、いや、ずっと低いかも知れない。

あと、体力が有り余っているのか加減が出来ていない。

「痛っ!」

アウルムに乗る訓練中、ハイスピードからの急停止で私は地面へと落下した。

落っこちた私をアウルムが覗きこむ。

なにその、おや、何で落っこったの?みたいな顔。あんたのせいなんだけど?

「ギニャ?」

小首を傾げられても。

「ああ!ナツキ様、お怪我はありませんか?」

アウルムのお世話係であるセスが慌てて駆け寄ってきた。

「たいしたことないわよ。ちょっとお尻をうったくらいで」

まだ、飛行するまでには至っていない。地面の上で騎獣に乗る訓練を続けている。

「こら!駄目だろ!人を乗せているという自覚をもて!」

「ギニャア…」

セスから怒られて、肩を竦めている。

悪気はないのだ。多分。

言うなれば、メチャクチャ下手くそな運転をする人の車に乗り合わせた気分。

いるよねー。急発進、急停止する人。それが騎獣だと言うだけ。

「どう指導すれば、いいのかなあ?もう一度、訓練士さんに相談してみよっか?」

「そうですね。訓練士との訓練は一通り行っていますが、ナツキ様は騎獣の訓練に関しては初心者ですし。勝手が違うのかも知れませんね」

二人して額を寄せ合い、相談していたら、思わぬ人が通りかかった。

「あらあら。楽しそうですわね!」

ふらりとその場に現れたのは、後ろに騎士団長を従えたヒルダさんだ。

「あれ?どうしたんですか?」

政務に追われているはずが、どうして、こんなところに?と聞いてみたところ、

「騎士団の査察に行ってきたところですの。たまには顔を出して、騎士団の規律を正さねばなりませんからね」

と言って、ニッコリと微笑む。

う、まぶしい。そんな女神様スマイルで来られたら、規律が正されるどころか別の意味で暴走する人が出そうだ。

「随分と苦戦なさっておいでのようですね。完璧に訓練士によって訓練された成獣と違い、幼獣をしつけるのは骨が折れるのでしょう?」

ねえと、ヒルダさんが背後にいる騎士団長を振り返る。騎士団長がまるで彫像のような表情のない顔で頷く。

相変わらずの鉄仮面ぶりだ。美丈夫が台無しだ。

「ヒルダさんも騎獣を育てた経験があるんですか?」

「わたくしが騎獣に乗って出掛けることは、まずないので最初から最後まで面倒を見た訳ではございませんが、ございます」

ね、とまたもや、騎士団長に同意を求める。

なんかさー。知らなかった時にはどうとも思わなかったんだけど、ヒルダさんと騎士団長って仲が良すぎない?

まあ、夫婦ではないけど、一男をもうけた間柄だし?恋人?それとも内縁の関係か?

「セルゲイの騎獣がそうなのですわ」

あー、あの獅子型騎獣ですかー。あの子の幼獣時代って思い浮かばないんだけど。主従揃って鉄面皮だもん。

そもそも、オスライオンって百獣の王って言うよね?

騎士団長の獅子型騎獣はまさにそれ。騎獣の王様!って感じ。

たまに騎獣の暮らす獣舎で見かけるど、いつ見てもキチンとお座りしている。周りの奴らは適度にだらけているのにね。

たまにブラッシングしてあげると、すまんなって感じで頭を下げられる。

「わたくしも乗ってみても、よろしくて?」

え?その格好で?まあ、乗れなくもないだろうけど。

ヒルダさんが着ているのは、簡素な神官長服だ。スカートのように見えて実はパンツタイプ。火急の用に対応出来る。

ドレスタイプもあるが、騎士団への訪問なので動きやすい方を選んだのだろう。

他に祭礼や畏まった席で身に付ける、きらびやかで豪奢な装飾がされたドレスタイプがある。

私は、それを女神様スタイルと呼んでいる。

「ジーグは大きくなりすぎてしまって、可愛さがなくなりましたもの。その点、この子はまだ小さくて可愛らしいですわ」

嬉しそうに頬に手を当てる。

あれ?ヒルダさんもモフモフ好き仲間?かと思ったら、違った。

「騎獣の調教が面白いのですわ。馬鹿な子ほど、かわいいって言いますでしょ?」

それって人間の子供の子育てで使う言葉ですよね?なんか違うんじゃ…。

「騎獣の子供も人の子供も一緒ですわ」

どちらも、子育てに違いないと断言された。

それならと、私はアウルムの背中をヒルダさんへと明け渡した。まだ幼獣だから、主以外が乗ることに拘りがないらしい。

ヒルダさんが合図を送るとアウルムが歩きだす。始めはてとてとと、次第に速度を増していく。

ほほう。お嬢様ならぬ、女神様然としていても、しっかりと手綱を捌いている。私より上手なくらいだ。

とっとっと、と軽快な足取りでアウルム専用の庭(訓練場)を走る。庭の角に差し掛かったので、ヒルダさんが曲がるようにと指示を出した。

けど、アウルムはうまく速度を落として曲がれないようだ。このままでは振り落とされてしまうかも?

どうする!と、固唾を呑んで見守っていると、ヒルダさんがぐいっと力任せに手綱を引き絞った。

前のめりだったアウルムの首がぐえっとなって、たたらを踏んだ。

「ダメですよ?」

ちゃんと指示に従わないとと言って、ヒルダさんがにこっと笑う。女神の如く、神々しい。

が、何故か背筋が凍りつきそうになった。

「ギ、ギニャア…」

自分の背に乗った綺麗な人を怯えたように見上げるアウルムがかわいそうだった。

でも、ごめん!お母さん(?)は見守ってあげることしか出来ないわ。頑張れ!

そっと、心のなかで手を合わせる。

それから何度か教育的指導が入り、アウルムはようやくコツを覚えたようだった。

訓練士は大柄で体格がよい人が多くて、私は彼らに比べると軽すぎて勝手が違ったのだろうとは、セルゲイの談。

ほわっ!急に話しかけないで!こわいから。

目はヒルダさんの姿をずっと追いかけていて、私を見ようともしない。ある意味、護衛の鏡だ。

私は、セルゲイの言葉に大きく頷いた。

あー。うん、そうかもね。私は隠れ肥満、もとい、幼児体型だ!なので見た目より重いけど、鍛えた成人男性よりは軽い。

むろん、ヒルダさんも。どうかすると、私よりも軽いかも知れない。身長はたいして変わらないんだけどね。

並足でとてとてとしていたのが、すっすっと姿勢よく歩けるまでになった。

こんな短時間で成長したね!お母さんは嬉しい!

「まあ、こんなところでしょう。乗り手に合わせることが大事ですからね。あとは繰り返し、練習させて下さいね」

ありがとうございます〜。

感謝しつつ、ヒルダさんと騎士団長を見送った。

「…ギニャ」

私の隣でアウルムがお座りして、項垂れていた。

「あーちゃん、よく頑張ったね!あとでおやつあげるから、元気だして」

私は、アウルムの首の辺りをわしわしと撫でる。

おやつと聞いて、ちょっとだけ気分が高揚したらしい。長いしっぽがゆーらゆーら左右に揺れる。

ホント、まだまだ子供だねえ。

それから私は何度も騎乗し、アウルムは人を乗せているのだと言う意識をはっきりとした形で掴んだようだ。

いやあ。女神の指導はハンパないね!


雪も解け、ポカポカとした日差しが差す陽気となった。私は、新たな旅へと出発する。

アリーサ、ヴァン、セーランにラベルと言う、いつものメンバーとそれぞれの騎獣に加え、冒険者ギルドからミグ姉さんとエリー、ついでにマニャと白馬の騎獣ウルフム。

アウルムは初参加だ。けど、先輩の猫型騎獣のマニャが一緒だから心強いだろう。

ふんふんとお互いの匂いを嗅ぎあう。

「ニア!」

「ギニャ!」

と、ご挨拶。

なんなの、このかわいい生き物達は。癒される。

「くだらないこと言ってないで出発しますよ」

全くもう。アリーサってば、モフモフに一切興味を示さないって、情緒面に欠如でもあるのかと心配だよ?

ねー。アウルム〜。

って、あんた口臭っ!朝御飯に何を食べたの?

え?スタミナをつけるために蛇の魔獣のぶつ切りをもらったって?

(これはセイラによる通訳だ)

猫って蛇とかキュウリとか、にょろにょろとした長いものが苦手じゃなかったっけ?

え?大好物なの?そう…。こっちにいる蛇の魔獣って、地球の蛇とは違って表面に毛があって、しかもネチャネチャしてるんだよね。

別に蛇が大嫌いって訳ではないが、少なくともあれには触りたくない。

いや、ちょっと待って。舐めないで!

ぎゃーーーー!!








聖領編完結です。色々あったような、なかったような。

次回は北領が舞台です。でも、お届けは不定期になるかも?

充電してから、取り組む予定ですのでこれからもよろしくお願いします。


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