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異世界でもふっと婚活  作者: NAGI
第三章 聖領編
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衝撃の新事実

ああした行いすら、求婚の一環だなんて…。ただの開業祝いじゃなかったの?

リヒトさんとのご縁は繋がることはなかったけれど、お互いにはっきりとした想いのようなものが確かに存在した。

つい先日、改めて求婚の申し出を受けた。なので、そう言われても、まあ分かる。

けど、レキは?私に求婚だなんて、一体、何を考えているのか?

「どちらも独身ですから、問題ないでしょう。先日、お話しした通り、あなたにお任せしますわ」

「うーん、そう言われても。今はそんな気、ないんですよねえ」

リヒトさんの申し出にときめかなかったなんて言ったら、嘘になる。普通に嬉しいよ?

ただ、私のなかでは彼への想いは、すでに終わったものと処理されていた。

「あら?何か気がかりなことでもありますの?」

北領の、血の繋がりなどないが、私にとっては姪っ子同然の子供を助けに行きたい、なんて言えない。

私は、それらしいことを言って誤魔化すことにした。

「ほら!治療院も開業したばかりで試行錯誤しているし。婚活だの何だの、言っている場合じゃないってゆーか!」

うん。間違ってはいない。

「そうですわねえ。わたくしも聞いた限りでは軌道に乗せるには、まだ時間がかかりそうですわね。

永珠の実の研究も始まったばかりですし」

「そうそう!」

よし!うまく、ごまかせた!

「あなたの気持ちが変わったら、お二方にお返事して差し上げて下さいな。

わたくしから、どうこう言うつもりはありませんから」

「ええ。そうします」

私は、色々と考えさせられたヒルダさんとの対話に少々お疲れ気味であった。

癒しを求め、神殿からさほど離れていないアウルムの獣舎を覗いてみることにした。

世話係のセスによって獣舎はもちろん、当の騎獣も清潔に保たれているのだが、私も主としてブラッシングなどのスキンシップをはかっているのだ。

ザシュザシュと毛を鋤いていると気持ち良さそうにアウルムが、

「クルルルル」

と、喉を鳴らした。私の膝に頭だけ乗せた格好で寛いでいる。

もう、子猫だなんて呼べないくらい大きくなった。大人のラブラドールレトリーバーくらいか。

猫形なのに例えが犬?とは思うが、同じく猫科に分類されているライオンやチーターの大きさなんて、私には分からない。

日本にいた頃、最後に動物園に行ったのは、確か、十年くらい前だったろうか。地方の小さな動物園でライオンやチーターなんていなかった。象はいたけど。

そもそも騎獣は普通の動物とは一線を画している。見た目は同じようでも全く違う生き物だ。魔法だって使える。

聞いた話では、猫形騎獣は獅子形よりも、大分、小さいらしい。

実は、私は獅子形騎獣を見たことがない。もの凄く稀少で、滅多に生まれないのだそうだ。領主クラスの権力と財力がない限り、手に入れることは出来ない。

まあ、私は猫形で十分満足しているんだけどね〜。

そうした考えに耽っていたら、ブラッシングする手がおざなりになっていたようだ。

「ギニャ!」

そう言って、猫パンチ?がブラシを持つ、私の手に炸裂した。

もっと真面目にしろって?あんた、いい性格してるわね。誰が主か分からせてあげようか?

《まったく、アウルムはなっちゃいないわねー!》

偉そうに上から目線で言うのはセイラだ。先日、妖精の森から戻って来て以来、ずっと居座っている。

私の肩に乗って、足をパタパタさせながら、弟分?であるアウルムにダメ出しを行う。

「グウウウゥ」

すいませんって感じかな。私には強気なのに、何故かセイラには弱いアウルムである。

どうやら、平時であれば、妖精と騎獣は同じ森の仲間として対等であるが、有事において妖精は騎獣を従えて森を外敵から守る存在らしく、妖精の女王であるセイラに頭が上がらない。

《これはお仕置きかな―?》

「ギニャン!」

アウルムが慌てて起き上がった。しっぽを振って、僕、いい子だよ!アピールが凄い。犬みたいだね。

最近、二人?の掛け合いが楽しくて、私は、ついつい長居してしまうようだ。

アリーサが捜しに来て、仕事場へと連行されて行く。

ああ、もうすぐ春だなあ。空があんなに高いよ。

現実逃避を試みる。あれ、おかしいな?地球じゃ、職場で酷使され、過労死寸前だったから、こちらに転移させられたのに同じ様に働かされているよ?

「それはあなたが、次から次へと、ご自身で仕事を増やしていったからですわ」

そうだったかな?うん、そうかも。

けどさ、休息も必要だよ?

「ですから、先程、アウルムとセイラと一緒に遊んでおられたではありませんか」

え?あれって遊びだったの?私は、二人の世話を焼いていただけなんだけど…。

「癒されたでしょう?」

うーん。癒しと言うより、面白いって感じなんだけど。それより、養護院にいる獣人の子供達をモフモフしたい。

「駄目ですよ?触り過ぎだと、院長から禁止されましたよね?」

だってー!トールが触らせてくれないから、モフモフに飢えているんだよ!

「知りません。そんなこと」

そうやって、今日も今日とて、仕事へと追いやられるのであった。


さて、雪解けの開業から、さらに一ヶ月。当初の懸念であった

治療院内における連携もここの所、うまくいっているようだ。

と言うのも、ヤンさんを治療院における看護部門の責任者に抜擢したことが功を奏したようだ。

元々の気質が穏和で、人当たりも良いヤンさんが間に立って、医者と薬師、双方をうまくとり纏めてくれている。

また、ヤンさんは、それぞれが持つ不平不満をじっくりと聞いて助言をくれるそうだ。そうした人の存在は大きい。

責任者は私なのだから、それをするのは本来、私の役目なのだが、それは私には無理だ。そこまで人が出来ていない。

実際に治療するお医者さんと、看護師を含む薬師達との連携は見違える程、うまくいっているようだ。

うんうん。いい人が来てくれて良かった。

研究所ではソールが頑張ってくれている。湖水竜からもらった、永珠の実は各領から派遣されて来た、生え抜きの研究者達によって実用化を目指す努力が続けられている。

元々、スーシア様じゃないと扱えない訳ではない。もちろん、取り扱いには注意が必要だし、簡単にはいかないが。

調合には魔力を均等に流し続ける必要があるとのこと。そんな繊細な作業、私には無理だ。

知識も意欲もある専門家に任せるのが一番だね。

永珠の実は無尽蔵ではない。だからこそ、効果を残しつつ、薬として広めていくのが目的だ。

もちろん、まるごと実を使う方が治癒力も、即効性もともに高いのはヴァンの足の怪我が完治したことからも明白なのだが、あまり良くないのだそうだ。

《スーシアが言っていたのだが、永珠の実を使い続けると人の持つ、本来の治癒力が失われ、些細な怪我でさえ、命取りになるのだそうだ》

私達に採集を許可してくれた湖水竜が、永珠の実の持つ危険性についてそう教えてくれた。

私もうろ覚えだが、地球にいた頃、そんなことを聞いたことがある。何事も過ぎたるは及ばざるがごとし、だね。

なので、市販薬として誰にでも扱えるよう、研究を重ねている所だ。是非とも、成功して欲しい。

そうすれば、医者のいない地域でも助かる人が増えるもの。

私の新事業は概ね順調だ。ならば、かねてから懸念していた北領への旅を実現させてもいい頃合いではないかな?

アウルムは成長途上である。私がずっと騎乗するのは無理でも、人を乗せるのに慣れさせるのにちょうど良い機会だ。

旅の仲間に迎えてもいいかな?と思う。

問題はアリーサだ。彼女には(ヒルダさんにしか話せないこと以外は)何でも相談しているので、私の計画を事前に伝えてあった。

すると、思いもかけず猛反対されてしまった。

「私は反対です。あちらから助けを求められた訳でも、ヒルダ様から要請された訳でもないのに、北領に行くだなんで」

「それはまあ、そうなんだけど。小さな子が虐待されているかもなんて知って、見て見ぬふりは出来ないよ」

「こちらでは目にすることはないでしょうが、北領では子供への虐待など珍しくも何ともないのですよ?

あちらを聖領と同じだと考えているのでしたら、痛い目にあうのは他でもないナツキ様自身です。

聞けば、塔に閉じ込められ、行動を制限されているだけで身体に影響はないのでしょう?放っておくべきです」

「体を傷つけられなくても心が傷付いていたら、同じことだよ。私は、出来るなら助けてあげたい」

「あなたは本当にお幸せな人生を送ってこられたのですね。心が傷付けられるのも許さないだなんて。

世の中には体だけじゃない。心までズタズタにされて、それでも生きていくしかない人間だっていると言うのに」

「アリーサ?それってどう言う…」

「いいえ。忘れてください。でも、これだけは言わせてもらいます。私は、北領に行くのは反対だと。

もちろん、最終的に決めるのはナツキ様ですので、私ごときの意見など、何の意味もないのでしょうが」

そう言って、退出の許しも得ずに部屋から出て行った。

ここは私の私室であるが、何だか取り残されたような気分だ。信じていた仲間から見放されたような…。

「そんなに嫌なのかな…」

私はアリーサが北領の出身だと知っている。けれど、知っているだけだ。彼女は自身の過去を話そうとはしなかったから。

聖領に来てからのことは、時折、話してくれるようになった。

幼い彼女の面倒を見てくれた、お姉さん代わりのような神官見習い達との幼い日の思い出。

初めて、神官見習いとして、神殿に足を踏み入れた時に、改めて神官として生きていくことを決意したと言うこと。

神殿長であるヒルダさんを間近に見て、まるで生ける女神のようだと思ったことなど、それこそ多岐に渡るが、どれもこの場所での思い出だ。

決して、生まれた場所や家族について触れようとはしなかった。

おそらく思い出したくもないような過去なのだろう。

「そもそも、アリーサってどういう理由で聖領の養護院に預けられたのかな?」

養護院に預けらた子供達の多くは、聖領で親を亡くした孤児や流れ者である親から捨てられた子供達だ。

そんな子供達の中でアリーサは遠い北領出身である。わざわざ北領から、旅芸人やら傭兵の親やらが子連れで流れてきて、アリーサを置いていったのだろうか。

普段の私なら、人が隠したいと思っていることを暴きたてようとは決して思わない。

けれど、アリーサの頑なさが出自に関係しているのなら、私は知りたい。いや、アリーサの主人として知っておかなければならない。

そこで、私は職業訓練所を行くことにした。アリーサには適当に誤魔化して一人で訪れた。

目的は訓練所所長であるセルマさんに会うこと。彼女は長い間、神殿に仕えていた神官でリタイア前に引き抜き、今は職業訓練所所長をしてもらっている。

「おや。突然、どうされました?」

事前に予約なしで訪れることは滅多にないので、少しだけ驚かれた。

「やあ、こちらでお会いするとは思いませんでした」

セルマさんと一緒にいたのは、南領の玄鳥の一族出身であるヤンさんだ。

相変わらずの美老人ぶりである。

「こんにちは。休憩ですか?」

「ええ。この年になりますと適度に休憩をとらないでいると、すぐに使い物にならなくなりますから。

老い先短い老人に治療院の統括などと言う重責を任されるのですからな」

「お世話になってます。けど、あまり根を詰めないで下さいね。ヤンさんに倒れられると、治療院が回らなくなってしまいますから」

「ほう。これまた、嬉しいことをおっしゃる。ナツキ様は人を上手に使われます」

「本当に。私だとて、この年で新しい役目を賜るとは思いもよりませんでしたもの」

二人の熟練者から、チクチクと責められる。いいや、遊ばれると言う方が正しいかもしれない。

「もう!あまり苛めないで下さい。お二人は適材適所ですよ。引退なんて早すぎるでしょうに」

「ほほほ。まあ、楽しみながら働かせてもらってはおりますけれど」

「そうですなあ。私も若い頃にやり残した仕事をさせてもらっているようで張り合いがあります」

二人とも、好きでやってるんじゃん!もー。

などと、しばらくじゃれ合ってから?私は訪れた理由、本題へと話をふった。

「実はセルマさんにお尋ねしたいことがあって」

「あら、何でしょうか?」

「アリーサのことなんです。彼女が神官となった経緯を知りたくて…」

「あの子はあなたの側近でしょうに。本人から直接聞く訳にはいきませんか?」

「無理強いすれば、話してはくれるでしょう。でも、私はそんな真似したくはないんです」

聡いヤンさんは話の内容が個人の秘密に触れることだと察したようで自分から暇を告げてきた。

「それでは私はそろそろ仕事へと戻ることにしましょう。セルマ殿。美味しいお茶をどうもありがとう。また、お伺いします。

ナツキ様も治療院でお会いしましょう」

「おそれいります。いつでもお待ちしております」

「ええ。近いうちにまた」

ヤンさんをその場で見送った。

「さて、アリーサのことをお知りになりたいとか。理由をお聞かせ願えますか?」

そこで私は北領の情勢と前領主の娘について話した。

「私がその子を助けるために北領に行くと言ったら、アリーサに反対されたんです。彼女は北領で子供が虐待されるのは珍しいことではないと…」

「そんなことをアリーサ本人が言ったのですか?」

「はい」

「そうですか。そんな風に話していたのですか…」

セルマさんは視線を下げて、少しだけ考える風にした後、顔を上げた。

「よろしいでしょう。私の知る範囲で良ろしければ、お話しいたしましょう。以前から、隠しておくのもどうかと思っておりましたし」

「隠し事、ですか?」

「ええ。ヒルダ様もお話しになってはおられないと思います。言われなければ、分からなかったと思いますし。実際、そのようですしね?」

意味ありげに私の方を見る。

何だろう?隠し事なんて、あったの?ちょっと緊張する。

「そもそも神殿は、新しい世界における、人々の目に明確に見える信仰の対象を作るのが目的で創造されました」

うん。この世界の創造主であるレーヴェナータは、女神と呼んでも差し支えない存在だものね。

「そして、初代の神殿長であられるレーヴェナータ様を補佐する役割を持つ者が神官として召し上げられたのです。

それから数千の年月が流れるなかで、神官も二通りに分かれるようになりました。

魔力の豊富なレーヴェナータ様のお血筋から神官となる者と、そして、もう一つ。

魔力を全く持たない者が神官として上がる場合とに」

「は?魔力がないって…。レーヴェンハルトは魔力持ちだけの世界だったよね?」

「その通りです。この世界は魔力を持つ者だけで新しく創造された世界であったはずなのに、年月を重ねるにつれ、そこに魔力を持たない者が生まれてくるようになったのです。

そして、アリーサもまた、魔力を持たない人間として、生を受けたのです」

え?じゃあ、アリーサって…。

「言い方は悪いかもしれませんが、ただの人間なのです」

私の全身に衝撃が走った。

















北領編への導入部分なのですが、すでに暗い雰囲気となっています。春めいてきたことですし、これからますます重い雰囲気となっても許して下さいね!

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